オーバーロードと豚の蛇   作:はくまい

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豚の蛇は慰める

モモンガさんからの伝言によると、やはりンフィーレア少年はモモンガさんに接触を図ってきたようだ。この泥棒猫! アルベドに密告してやるわ! いや、生まれながらの異能(タレント)が跡形もなく消し飛ぶのは困る。

少年から名指しの依頼を受けたモモンガさんたちは偶然だけれども先日の村…名前はカルネ村だっけ? に来訪しているところらしいので、おれはそれを気持ちで見送った。いってらっさぁい。

言うのが遅い気もするが、こういうのは気持ちが大事だってばっちゃが言ってた。

 

さてここから数十時間ほど場面は飛ぶ。

 

おれとマーレ…ポルコとメーアという新人冒険者はブリタ先輩()からの誘いがあり、三、四日ほど他の冒険者チームの一団と街道の警備をすることになった。

ちなみにおれたちのチームの名前は「三元」だ。理由は推して知るべし。

 

この世界ですらおれの仕事は夜勤かよぉと思ったけれども、さすがに文句は言わない。

稀少そうなアイテムを獲得できたことで、おれの機嫌はすこぶるいいのだ。

マーレに鑑定を頼んだところ、このアイテムは装備すると精神抑制が入って自我がなくなり、取り外せば発狂状態になるというとんでもないものらしい。

というか一番大事なアイテムの効果が「自分の使えない上位の魔法すら使用できるようになる」だなんて、豚君そもそも魔法職持ってないよぉ…。

しかし集めることに意味がある。このアイテムを所有していた女は「こそ泥が持っていい代物ではない」と言ったのだ。その一言におれが集める意味が集約している。

 

「あー…ポルコ、お前は盗賊だから相手の気配を察知するのに長けているだろう。お前のチームメンバーの魔法詠唱者(マジックキャスター)と、我らのチームの野伏(レンジャー)と組んで後衛をしてほしい」

「………………わかった」

 

めっちゃテンションあがるぅ、と浮遊していたおれの意識を引き戻したのは同じ仕事を行う人物の声だった。すみません目ぇ開けたまま寝てました。

 

街道警備も今日で二日目。

初日の警備は人通りのない街道をただ睨みつけているだけで終わったのだが、この辺りに野盗のねぐらがあるという情報が入ったらしい。

それを見つけて討伐できれば冒険者組合から支払われる報酬がアップするとのことで、本日のおれたちの仕事は森を捜索して野盗のねぐらを見つけること、そしてその中にいる野盗を討伐することになった。

 

することになったたた…のはいいのだけれども。

 

野盗のねぐらとやらはだいたいこの辺りにあるだろうなぁという場所は感知していたが、普通ということを学ぶ以上は、周囲の連中が見つけられないのならばそれに同調して行動するべきだと判断した。

付き合って捜索を行うこと二、三時間ほど森の中を歩き続けて、ようやく洞窟をそのまま活用して居住環境を整えたようなその場所を見つけたのだが、見張りの人間が一人もいない。

いや正確には見張りをしていただろう人間が潰れていたのだ。なにかを豪速球でぶつけられたように身体がぺしゃんこになって死んでいる。

そして周囲に人の気配がないと冒険者メンバーの一人である野伏(レンジャー)が訴えたので、これは異常事態だと、チームを二分して行動することになったのである。

 

片方が強行偵察を行い、片方がよそで罠を作る。おれとマーレはその前者のほうの後衛として組み込まれ、なにか問題が起きればおれがマーレと野伏(レンジャー)を援護しながらエ・ランテルまで救援を求めに行くという算段になった。

 

「この無礼、なんと、なんとお詫びしてよいか…!」

 

それがどうしてこうなった。

結論だけ言うと豚君の所属していたパーティは全滅しました。おおぼうけんしゃよ、しんでしまうとはなさけない。

 

その原因はおれの目の前で謝罪を繰り返しているシャルティアである。

野盗のねぐら…もとい洞窟から飛び出してきたのは、なんとまあシャルティアだったのだ。

洞窟から出てきたときの形相があまりにも筆舌に尽くし難いものだったので、最初はシャルティアだとは気づかずに「うわ」と言ってしまったことは秘密だ。だってあんな美少女がヤツメウナギに変身するなんて思わないもの。

そうだよなあ、可愛らしくメイキングされても真祖の吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)だもんなあ、こうなるよなあ。

 

そしてシャルティアの耳はおれの「うわ」の呟きを拾い、窪地の陰に隠れていたおれたちに向かって襲いかかってきたのである。

まあその攻撃はおれに届く前に気がついたシャルティアの機転と、マーレの<魔法の壁>(マジックシールド)によって防がれたので、結局おれは無傷なのだけれど。

…えー緊急連絡用に待機してた野伏(レンジャー)? 永眠的な意味でおれの隣で寝てるよ。

 

ほんの一瞬の差で相手がおれたちだと気づいたシャルティアの一撃は、全て真横にいた野伏(レンジャー)のほうへ叩き込まれた。

その時点でなんの問題もないと思うのだが、シャルティアにとっては「おれが射程に入る範囲内で攻撃をした」という事実が許せないことのようだ。

がたがたぶるぶると震えながら謝罪を繰り返しているのだが、はたから見ればこの状況は不審者がゴスロリ美少女をいじめている図にしかならないのでそろそろおれも勘弁してほしい。

そしてその震えが伝播しているように一歩後ろに控えたマーレまでがたがたぶるぶるしているのはどうしてなのか。

 

「シャルティア、お前はお前の仕事を遂行しただけだ。おれはそれを責めるつもりはない」

「し、しかしッ…わた、わたしがもう少し気をつけて行動していれば、シュヴァイン様にお、おそいかかるなんて無礼なことを…っ!」

 

ぎょっ。

まさにそんな気持ちが正しいと思う。

シャルティアの真っ赤な目から、涙がぼろぼろとこぼれ始めたのだから。

 

助けてぇ、という気持ちを込めてマーレに視線を送ったのだけれど、すぐにそらした。

一言でも話しかければ泣き出すだろうと想像できる表情で、マーレもこちらをじっと見ていたからだ。思わず「これあかんやつや」と口の中で呟いたところで事態が好転するはずもなく、窪地にはシャルティアの嗚咽とマーレの鼻をすする音だけが響き渡る。

こんなときどんな顔をすればいいかわからないの。

 

「………………シャルティア、顔を上げろ」

「…っ、シュヴァインさ、きゃぁっ!」

 

考え抜いた末の行動である。けして事案発生ではない。

今回のことがどう問題になるのかはわからないが、地面に伏してべそべそと泣いている少女をそのまま放っておいていいはずもないだろう。ましてやシャルティアを追い詰めているのはおれへの罪悪感だ。いいよう、豚君気にしてないよう、と言っても気持ちを受け取ってもらえないのなら、あとはもう子供をあやすのみである。

これはどう見積もっても六歳くらいまでの子供に対してやる行動だが、おれはそれ以上の年齢の子供のあやしかたなんぞは現金を握らせることしかわからない。

ここで現金を渡すのは違う気がしたので、強硬手段に出るしか手札が残されていなかった。

 

だっこ。

 

抱くこともしくは抱かれること。以上とある国語辞典より抜粋。

おれたちの今の状態の場合はホールドよりもキャリーまたはテイクの意味を取る。

 

事案じゃない、事案じゃないですぞぉ、と自分に言い聞かせながら子供を寝かしつけるようにシャルティアの背中を軽く叩く。ほうら泣き止みなさい。いい子にはあとで豚おじさんがでんでん太鼓を買ってあげようねぇ。

 

「しゅ、しゅばいんさま…っ」

「大丈夫だ。お前の危惧していることは起こらないとも」

 

あとから思い出したように怒ったりしないよぉ。そんな気持ちを込めて背中を叩き続ける。気持ち身体もゆっくり揺らす。完全に赤ん坊を寝かしつける状態だこれ。

 

ここまでやらかすとシャルティアに「赤ん坊ではありんせん!」と怒られるかと思ったが、存外に彼女は大人しい。もしかして寝たかと思ったがそんなはずもなく、ぐすんと鼻をすする音が聞こえた。と思ったところでシャルティアのほうからものすごい音の暴力が響き渡った。

それに続いてマーレも泣き出す。号泣である。

 

「なんでや」

 

呟いた言葉はやはり泣き声に飲まれた。

 

 

あれから小一時間、窪地にはシャルティアとマーレの泣き声が木霊していた。

おれはそんな二人を両腕に抱えて「よぉしよしよし」と慰める。この短時間で二児の父親になった気分だ。嫁さんもいないのに勘弁してぇ。

 

そうしてしばらくすると泣き喚いたことですっきりしたのか、冷静になったのか、シャルティアはこの現状を把握したようで抱えたときとは違う類いの悲鳴を上げた。

「ももももうしわけありませんしゅばいんさま」という言葉でマーレも我に返ったらしい。同じような悲鳴を上げた。ほぼゼロ距離でその甲高い音の暴力は勘弁してください。

 

「…涙は止まったか?」

「お、お見苦しいところをお見せして大変申し訳ありません…」

 

二人を地面に下ろしてやりながら尋ねれば、シャルティアは心底後悔していますと言いたげな顔で謝罪してきた。マーレも似たような顔をしてそれに続く。

あれだけわんわん泣き喚いたらね、そりゃあ恥ずかしいですよね。

微笑ましい気持ちになっているおれの内心など知る由もなく、シャルティアは謝罪の言葉に続いてその場所へと膝をつく。内容は言うまでもなく先程の急襲事件のことについてだ。

 

「この無礼、いかなるものをもってしても償います…!」

 

いかなるものという文字に「いのち」というルビが振ってあるのが見えた。なんでナザリック地下大墳墓の守護者ってこんなに自殺志願者多いの? それとも豚君に無礼とやらを働いたら自殺しないとまずいって風潮でもあるの? これが至高の四十一人パワーなの?

やるせなさに脱力しつつシャルティアには「考えておくとも」と適当な返事をする。

守護者が真面目すぎるせいで管理職がつらい。

 

しかしそんなことをしている最中にも考えるべきなのは今後の方針だ。

とにもかくにも、シャルティアに一掃されたことで同行していた冒険者たちを全てなくした。壊滅である。つまり仕事がふりだしに戻ったということ。しかしそれについて、おれがシャルティアを責める気持ちはない。

今回のことは不幸な事故だ。

たとえおれがいなかったとしても冒険者たちは野盗を討伐するためにここへ足を運び、シャルティアの手で容易く屠られたことだろう。戦力差について考えれば想像に難くない。こんな言葉を使うのは恥ずかしいような気もするが「運命」だったのだ。

 

ただあの野伏(レンジャー)についてだけはおれのミスである。

知覚能力も捜索魔法も所有していないシャルティアが相手だったのだから、あのままうまくことが進んでいれば、野伏(かれ)は作戦の通りエ・ランテルまで助けを求めにいけたかもしれない。それを潰したのはおれの間抜けな呟きだったのだから申し訳ないと思う。ごめんねぇ!

 

そうして問題はおれたちの「よりどころ」をなくしたこと以外にもう一つある。

銅、鉄、そしてわずかに銀と金のプレートを交えた冒険者集団が壊滅した状況の中で、最もランクの低い銅プレートの冒険者であるおれたちが、どうやってエ・ランテルまで帰還するのか。

これが「普通」の事態ならば、冒険者は全員死亡して帰還者は一人として現れないという結末になるだろう。それでは困るのだから、解決策を考えなくてはならない。

 

「…んー」

 

どうするべきか。一度モモンガさんに連絡を取ろうとも思ったが、モモンガさんはモモンガさんでで自分の仕事の最中だろう。

前回の報告ではよその冒険者チームと一緒に行動していると言っていたし、そんな状況ではいもしもしと<伝言>(メッセージ)に対応できるとも思えない。そうなるとやはり今回のことはおれたちで解決するべきだ。こういうときこそ諸葛孔明の出番なのだけれどなあ、ない袖は振れない。

 

「とりあえずマーレ、お前は野伏(レンジャー)の代わりにエ・ランテルに帰還して救援を求めろ。これは最終手段だが『おれがお前をかばって逃がした』というていで話を進めて、あとから幻覚魔法かなにかで重症を負った状態で発見されれば、苦しい言い訳だとは思うが冒険者組合も納得するだろう」

「はいっ、かしこまりました!」

 

そのあとしゃきしゃき行動する点については「義足をつけたんですぅ」で誤魔化そう。

心の傷について? ふえぇ…豚君難しいことわかんないよぉ…。

 

貧相な頭ではまともな解決策がまるで浮かんでこない。

そうしておれが眉間に手を当ててうんうん唸っているところに、ふとなにかを感じたのと、シャルティアの部下である吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)が声をかけてきたのはほぼ同時のことだった。

 

「報告いたしま、」

「お前! シュヴァイン様がご高察されているところを邪魔をするとはどういうつもりだッ!」

「も、申し訳ありません…!」

 

おれがぎりぎり目で追える速度で、シャルティアが吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)の胸ぐらを掴んだ。うわこわ。ゆさゆさと揺さぶられる彼女を放置しておいたらたぶん数分後には首からうえがなくなっているだろう。ご高察と言われましても「これからどうすっぺかなぁ」とか気軽に悩んでいた程度だからそんなふうにいじめるのはやめたげてよお!

 

「よせシャルティア、おれは問題ないとも。…何者かがこちらへ近づいている件だな?」

「はっ、はい! ご推察の通りでございます!」

 

まじありえないんですけどぉ、という言葉は口の中で飲み込んだ。完全にスケジュールが総崩れである。シャルティアとの接触で冒険者チームが壊滅した時点で計画なんぞあってないようなものだがそれにしたってこれはないだろう。ここでおれは「失敗した」と確信した。

 

おれが感知しているのは配置されているアイテム、もしくは範囲内に現れた人物が身につけている装備品のレア度である。

そうして先程おれの感知できる範囲に出現したアイテムの数が、あまりにも多いのだ。

この常時発動能力(パッシブスキル)はユグドラシルという広大なフィールドに隠匿されたアイテムを発見するためのものであって、その能力を精密に鑑定するものではない。そのため登場した連中がどれほどの装備を身につけているのかはわからないが、よくて最上級、悪くて神器級(ゴッズ)のものを持っているやつが十一人もいるということは事実だ。

 

いくら常時発動能力(パッシブスキル)に秒2%体力回復があると言っても、ヒットポイント以上の攻撃を食らえばおれは死ぬのだ。

 

おれの選択した石化の蛇(メドゥーサ)という種族は弱い。状態異常は言わずもがな、防御の基礎値がそこまで上がる種族ではない。それを超耐久型として成り立たせているのは、徹底的に厳選して作り抜いた装備があってこそなのだ。

しかし現在のおれは最もレアリティが高いものから二段も劣る装備を身につけている。

もしも相手が全身を神器級(ゴッズ)アイテムで固めていた場合、おれが勝てる見込みはだいぶ薄いだろう。特殊条件で発動するスキルを使用すれば勝てる可能性はぐっと大きくなるが、それでもスキル発動によるペナルティの部分を突かれて返り討ちに合うことを考えると、その選択は危険だ。

 

「…シュヴァイン様」

「わたしたちは、どうすればよいでありんすか…?」

 

不安気な声がしてはっと意識が戻る。

「守護者」という厳めしい名前で呼ぶには違和感のある子供たちがおれを見つめている。

ああそうか、モモンガさん仕事を頼まれている以上、そして子供を守らなければならない以上、ただ自分の趣味だけに走るわけにはいかないなぁ。

死んでいった冒険者たちよりもよほど強い人物を子供扱いするのはどうかと思ったが、おれの行動一つを気にして泣いてしまうような二人を強者と表現するには、おれにはどうしても無理だ。

 

ナザリックには子供たちがいて、この仕事はそれを守るために必要不可欠なものだ。

ならば多少無理をしてでも「大人」としての義理を通さなければいけない。

 

「…マーレ、計画通りエ・ランテルに迎え。そしてそのあとに<伝言>(メッセージ)でモモンガさんに一連のできごとを報告しろ。シャルティアはおれに同行して援護を、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)は非常時に備えて後方にて待機。万が一のことがあった場合は即座にナザリックへ帰還しろ。そのあとでモモンガさん、アルベドもしくはデミウルゴスの優先順で指示を乞え」

 

はッ、と揃った返事が聞こえて自分に似合わない立場だなあと肩を竦める。

おれは自分のことをもう少し淡白な人間だと思っていたんだけれど。

 

「絆されたかなぁ」

「なにかおっしゃられましたか? シュヴァイン様」

「なんでもないとも、シャルティア」

 

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