面白かったですね。
精霊のみんなが可愛かった!
折紙は相変わらずですねww
黒いローブが日の沈んだ闇の中でゆさゆさと揺れる。ローブに身を包んでいるため顔は見えない。しかし、ローブから覗く前髪は周囲の闇と同じくらい染まっている。
「うっ……!ば、化け物め!」
何処からか、女性の呻き声と共にそんな言葉が聞こえてくる。
その女性の周りには気を失ったのか、何人もの人が血を流し倒れていた。
「お前のような化け物は……、この世界から消えろ!」
女性は光のブレードを手に持ち正面から斬りかかる。それは鉄をも切り裂く、高熱のブレード。人が触れたなら何の抵抗もなく真っ二つに切ることが出来るだろう。
しかしーーー
「う、うそ……でしょ?」
目の前のローブの人物はそれを“手”で受け止めた。そして、手で止めたところから高熱のブレードが“破壊”された。
最後の武器を破壊された女性は戦意を完全に失ったように、地面に座り込む。
「本当に化け物ね…………。“精霊”っていうのわ」
弱々しく呟いた女性の前にはローブの人物は既にその場にいなかった。
♢
雨が地面を叩くように降り注ぐ。ローブの人物は歩いていた。先ほどの戦闘の余波で、ローブは既にボロボロになっていて、雨を凌ぐことはできなかった。フードを手で掴み、捨てる。ローブはひらひらと舞うように彼方へ飛んでいく。そして、ローブを捨てたことで顔がはっきりと顕になる。
髪の色は黒。前髪は目元にかかっていて、そこから覗く目は、全てを見透かしているようで、一目でわかるイケメン顏だ。
少年は雨を気にせず荒地を歩いていく。
『ねぇ、零夜。なんであの連中殺さなかったの?』
突如、透き通るような、キレイな声が頭に響く。
『俺は無駄な殺傷行為は好きじゃない。それぐらい知っているだろ?』
ローブを捨てた零夜は頭に響く声に頭の中で返す。
『でも、あなたのこと化け物って言ったのよ?許せないわ!』
不満たっぷりな声が、再度頭に響く。
『俺のことはいいよ。いつも俺のために怒ってくれてありがとな、百里』
『う、うん。き、気にしないで、わたしが好きで怒ってるんだから……」
恥じらいが混じったような口調になる。零夜はそれに気づいたが、指摘するとどうなるか、過去の経験から知っているためしない。
『こっちこそ、いつも俺ばっかり“表に出て”ごめんな。百合も出してあげたいんだが……』
『ううん。それこそ気にしないで。わたしは零夜と一緒に入れるだけで……その〜、し、幸せだから……』
『……ありがとう』
『…………うん』
零夜と百里はそれだけ言うとお互い話さなくなった。
暫く荒地を歩き続ける。するとぽつんと、少しボロい家が一つだけ建っていた。零夜はその中に躊躇なく入っていく。中には、古くなった木のテーブルに、ソファーが一つと、それだけしか家具が存在しなかった。零夜は濡れた服を脱ぎ、テーブルの上に置いてあるタオルで体を拭いた。体を拭き終わると、ソファーに置いてある携帯の電源をつけ、ダウンロードしている曲を流す。
流れる曲をソファーに寝転びながら聞いていると、頭に百里の声が響く。
『零夜って、その曲好きだよね?』
『ん?ああ、この曲な。大好きだぞ?』
『何でなの?この曲、そこまで上手いとは思えないんだけど?』
『新人アイドルだからなぁ。お世辞にも上手いとは言えないけど……、なんて言うのかな?この人の頑張りがすごく感じられるんだよ。ひたむきさってやつ、応援したくなる』
『ふ〜〜ん』
どこか拗ねたような口調になる。百里は、零夜が他の女の子に夢中なことが気にくわないようだ。
『それで?何て名前のアイドルなの?』
『確か……、宵待月乃って名前のアイドル』
『ふ〜ん。そっか』
『自分から聞いておいてなんだよそれ……』
そんな百里の態度に零夜は苦笑する。
「………………」
零夜は宵待月乃の音楽を聴いていると、
ギィィイ
と、古い木の扉が開く音がした。
「なんだ?」
ここは荒地。零夜が言えることではないが、人が来る場所ではない。そんな中、零夜のいるボロ家の扉が開かれたのだ。
「どちらさま?……………ッ!?」
零夜が開いた扉に視線を向け、入ってきた人物に仰天した。
何故なら、入ってきたのは…………
♢
最近売れ始めた新人アイドル、宵待月乃。彼女の人生は容易く崩壊した。それなりに人気も出てきた頃、事務所のマネージャーから、他のプロデューサーが月乃を気に入っているといわれ、仲良くすればテレビのレギュラーが取れるといわれた。明確に指示はされなかったものの、要は“そういうこと”なのだ。無論、月乃は丁重にお断りした。月乃はテレビに出たい訳ではなく、ただみんなに歌を聴いて欲しかっただけだからだ。しかし、それからしばらくして、捏造されたスキャンダルが、週刊誌に掲載された。そして、ファンのみんなが手のひらを返したように態度が変わった。ブログや、握手会などで心ない罵詈雑言の言葉をかけられ、精神を擦り減らしていき、遂には声まで出なくなった。
歌しかないと、子供の頃からわかっていた宵待月乃が、自殺を考えたのは至極当然だった。
そして月乃は、自殺するならこの町の外れにある荒地が死ぬにはいい場所だと思いついた。そこからは、部屋を出て荒地へと向かって歩き始めた。
「……………?」
月乃は荒地へ足をいれ、少し歩いていたとき、一軒のボロい家を見つけた。周りは瓦礫や、折れた木などが沢山ある中、一つだけ建っているボロ家に、月乃は興味を持った。普通なら危ないため、近づくことすらしないだろうが、月乃のは「どうせ今から死のうとした命だ」と、思い、恐る恐る扉を開けた。
ギィィイと、木の扉が音をたてて開く。
そして、中を見ようと顔を覗かせた瞬間。
「どちらさま?」
と、男の声が聞こえてきた。その後に男は息を呑んだように驚いた。月乃はすぐに出て行こうとしたが、不思議なことに体が動かなかった。
「よ、宵待月乃!?え?本物!?……まじで?」
前に立っている男は月乃を見ると興奮したように声を上げた。突然のことに月乃は頭が追いつかず、戸惑っていると、いつの間にか自分の手を握っているのに気がついた。月乃は“男”に触れられた瞬間、意識がなくなった。
♢
「おっと……」
零夜は突然意識を失い、倒れそうになった宵待月乃を抱きとめた。そのままにして置くわけにはいかないため、抱き上げ、ソファーに寝かせる。雨が降っている中、傘をささなかったのか、びしょびしょに濡れていた。すぐにタオルで拭けばいいのだが、零夜が使った一枚しかないなかったため、この家には今、一枚もタオルがない。その事に気付いた零夜は財布をポケットに入れて、家を飛び出した。
取り敢えずタオルを何枚かと服だが、男の零夜が女物の服を買うことはできないため、無難なジャージを何着か、そして今日の夕食を買い、急ぎ家へ戻った。
『珍しいわね。あなたが“人間”のためにそこまでするなんて……もしかして、宵待月乃だから?』
不意に、頭に百里の声が届く。
『そうだな……。俺は人間が大嫌いだけど……宵待月乃だからだろうな。他の人なら俺は何もしないままほっていただろう』
家の前まで戻り、古い木の扉を開け、部屋の中に入る。ソファーを見ると、月乃が座っているのが見えた。零夜が買い物に行ってる間に起きたのだろう。
「宵待月乃さん。はい、これで濡れた体を拭いて、あとこれに着替えて。じゃないと風邪ひくぞ?」
零夜はタオルとジャージをソファーに置き、家から出る。
数分が経過し、そろそろ大丈夫か?と判断した零夜は家へ入る。しかし、ソファーには先ほどから何も動かず濡れたまま座っている月乃が見えた。
「おいおい、拭いてないじゃん。本当に風邪ひくぞ?」
零夜はタオルを取り、頭だけでも拭いてあげようと髪の毛へ触れようとした瞬間ーー。
ガタン!
と、物音を立てて零夜から距離をとる。零夜は突然のことに驚いたが、月乃の目を見ると納得した。彼女の目には、恐怖の色が占めていた。何があったのかわからない。わからないが、何か酷い目にでもあったのだろう。零夜は持っていたタオルをソファーに置き、テーブルの椅子に腰かけた。そんな零夜を月乃は不思議そうな目で見ていた。
零夜は携帯から音楽を流す。
「ッ………!?」
それを聞いた瞬間、
ソファーに座っていた月乃の息を呑むのが聞こえた。零夜は音楽を聴き終わると、月乃に視線を向ける。
「俺、あんたの大ファンなんだ。あんたの曲全部聞いてるし」
月乃は音楽を流したとき以上に目を見開く。
「あんたの曲は全て好き。あんたが必死に努力しているのが伝わってきて、応援したくなる」
「だから、本物に会えてついテンションが上がっちゃって……、ごめんな」
零夜は苦笑しながらそう謝罪した。
それを聞いた月乃はただ涙を流していた。月乃はファンから裏切られ、声すら出せなくなるほどまでに追い詰められ、自殺を考えていたのだ。そんな月乃の心に、零夜がかけた言葉は、今一番欲しい言葉だった。ファンの全員に裏切られた月乃に、一人でも自分を応援してくれる人がいるのはとても救われる思いだった。
「ちょっ!ちょっと!?どうして泣いてるんだ!?」
突然泣き出してしまった月乃の様子に零夜は慌てたが、今の自分が近づくことが出来ないことを思い出すと、ゆっくりと落ち着いた。
「あ……、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は黒神零夜。一応、ここに住んでる。あと、俺のことは零夜でいいぞ」
零夜は自己紹介していないことに気づき、自己紹介をする。ソファーに座る月乃の目には先ほどまでの強い警戒心はなかった。だが、まだ完全に信用されていないようで少しだが警戒心が存在した。
タオルで涙を拭きいた月乃は何か喋ろうとしたのか、口をパクパクしていたが、その口からこれが発せられることはなかった。
「ん……?もしかして、声が……でない?」
恐る恐るそう聞くと、月乃は顔を暗くし、コクリと頷いた。
「……………まじか」
零夜は小さくそう呟く。その様子を見た月乃は今日あった中で一番の恐怖の顔をしていた。多分、声が出ないことが、今の状態に繋がっているのだろう。と、零夜は思い、月乃の目を見てハッキリと言う。
「別に俺は声が出せなくなったからってファンをやめたりしないぞ?どんなことがあろうと、俺は宵待月乃のファンだからな」
それを聞いた途端。
月乃の体が動いた。ソファーから立ち上がり、零夜の胸へ飛び込んできたのだ。
「……………え?」
零夜は状況を飲み込めていなかったが、自分の胸の中で泣く月乃を見ると、何も言わず泣き止むまで頭を撫で続けた。