デート・ア・ライブ〜破壊の精霊〜   作:瑠夏

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第6話 初めの接触

五河士道は死の危機に晒されていた。今、士道の命を握っているのは間違いなく自分の前にいる“精霊”だろう。もし、これ以上精霊の機嫌を損ねたならば、風前の灯である士道の命は、一瞬のうちに消されるだろう。この全ては士道をこの精霊に会いに行けと言った妹の五河琴里のせいだ。

 

 

 

 

 

時は一日前まで遡る。

 

「ちょっといいかしら?士道」

夕食が終わり、食べ終えた食器を洗っていた士道に、ソファーに腰掛けている妹の琴里から声をかけられる。

 

「なんだ?」

食器を洗う手を止めずにそう聞き返す。

 

「あんたが会ったあの男の精霊、居場所がわかったから明日会いに行ってもらうわよ」

「………うおっと……、はい?」

突然のことに、士道は手に持っているお皿を割りかける。士道は洗っている手を止め、琴里を見た。

 

 

「先日〈フラクシナス〉で言ったでしょ?あなたは精霊に恋をさせて暴れなくさせるって」

琴里は普段通り、棒付き飴を口に含みながら淡々と告げた。

「いやいや!相手は男だぞ!?」

「それが何なのよ。男だけどその前に彼も精霊よ?精霊である限り、男も女も関係ないわーーそれに」

「それに?」

「男が相手の時のための対策はあるし、今回はただあって欲しいだけなのよ」

「会って欲しいだけ……?」

士道は、意味がわからなかったため、もう一度聞き返した。

 

「そう。あの精霊、出現したのは結構前なんだけど、情報が全くないのよ。わかるのは、男ということと、黒い雷を使うことだけ……、あとは何にもわからないわ」

「ならどうすれば……」

士道は当然のように困惑した。

 

「ここまで言って気づかないの?士道の脳みそはカニレベル?」

「……えっ!?」

まさかの罵倒に、士道は面食らってしまう。

本来琴里はただ無邪気な可愛い妹だった。しかし、琴里は髪の毛をくくるリボンの色で性格が変わるのだ。白いリボンをつけているときは、いつものように、無邪気な妹だが、黒いリボンをつけているときは司令官モードと言って今のような、強い性格に変わる。

 

「会って少しでも情報を集めて来いって言ってんの。ま、頑張りなさい。私たちは〈フラクシナス〉も全力でサポートするから」

それだけを言い残し、ソファーから立ち上がって、琴里は自分の部屋へリビングから出て行った。

 

「……………」

 

バタン!

 

と、ドアを閉める音がリビングに響く。ドアが閉まると、あとは台所の水道の水が流れる音だけ。士道は完全に固まっていた。

 

「なんじゃそりゃーーーーーーー!!!」

夜の街に士道の叫びが響き渡った。

 

 

そして、今日。士道は例の男の精霊と会うために、出かける準備をしていた。どうやら男の精霊は必要最小限の外出しかしない。その時間は大体人が少ない時間らしい。

 

『士道!聞こえる!?今、精霊に動きがあったわ。いつもと時間が違うけど、今すぐ商店街へ向かって!』

士道の耳に琴里の焦った声が伝わる。

 

士道は耳にイヤホンをつけている。これは琴里が〈フラクシナス〉との通信用のために士道にもたせたものだ。

 

〈フラクシナス〉からの指示を受け、士道は急いで商店街へ駆け出した。商店街は夕方のためか、買い物をする人で賑わっていた。

 

そんな中、明らかに他の人と雰囲気が違う人を士道は見つけた。だが、商店街にいる人たちは誰もその人のことを気にしない。もしかしたら、“その人”が常識外の力を使っていたのをまじかで見た士道だから感じるのか……。

 

『士道、そこからわかるでしょ?』

渡されたイヤホンから琴里の声が耳に入る。

『ああ、すぐに分かった。明らかに雰囲気が違うからな』

士道は目的の人物へ接近していく。

『士道、少し待ちなさい』

すると、妙に慎重な声の琴里が士道の歩みをストップさせた。

『あの精霊のあらゆるパラメーターが急激に下がったわ!』

琴里の焦った声を聞いた士道は、目を目的へと向ける。

 

刹那ーーー

 

「走り出したっ!」

『追いなさい!士道!』

言葉が重なったが、士道は琴里が言った通り、後を追うように走った。しかし、人間と精霊。身体能力に天と地ほどの差が存在する。

 

故に、

 

「早っ!……見失った……」

走って追っていた士道の視界からその姿は目視できなかった。

 

『士道!そのまま走って商店街を抜けて住宅街に向かいなさい。そこに精霊がいるわ』

士道が完全に見失ったとき、イヤホンからそう指示が入る。

 

だがしかしーーー

 

『ーーッ!? 士道、止まりなさい!』

そんな琴里の悲鳴に似た叫び声に、士道は慌てて足を止めた。

「何かあったのか?」

士道は眉をひそめ、訝しんだ。

『もう一体、精霊が現れたわ…………しかも、最悪の精霊』

「最悪の……精霊……?」

『ええ、自分の意思で約一万人もの人を殺している精霊……』

「いちッーー!?」

桁違いの数に、士道はゾッとした。

 

『だから今行くのは危険よ』

「……わかった」

しっかりと頷く。この作戦は士道が死ねば全てが終わる。そのため慎重にならなくてはならない。

 

それからすぐの事だった。先ほどの通信以来何も指示がなかった〈フラクシナス〉のーー琴里からの指示が士道に届く。

 

『今一人なったわ。早く行って接触しなさい』

「ああ」

指示を聞いた士道はもう一度走り出した。

そして、住宅街に出たとき、一人の男が歩いているのが視界に入る。

 

「あ、あの!」

士道はその背中に声をかける。

「あ?…………お前は、確か…」

振り返った少年ーー今回の目的である精霊は琴里から聞いた通り、機嫌がよろしくなかった。しかし、士道の顔を見ると今度は何かを思い出すように眉をひそめた。どうやらこの精霊は自分の事を少しは覚えていたようだ。

 

「お、俺の……」

『ちょっと待ちなさい』

名乗ろうとした士道は、琴里の通信によって止められる。

 

「なんだよ!いまーー」

『士道、いい?私が言ったことをそのまま言うのよ?』

「あ、ああ……」

『人に名前を尋ねるときは自分から名乗れ』

「ひ、人に名前を尋ねるときは自分から名乗れーーヒッ!」

一字一句間違えずに言った士道のすぐ隣を、あの時見た黒い雷が目にも留まらぬ速さで抜ける。

 

ビービービー

と、イヤホンの向こうから警報のようなものが鳴り響く。嫌な予感しかしない。

 

「こ、琴里……ヤバい………」

『どうやらそのようね。今ので機嫌がもうマイナスいくんじゃないかってくらいに下がったから』

「おい!」

 

士道は今日死ぬことを覚悟した。

 

 

 

 

 

『零夜……あの精霊には注意しなさいよ』

不意に百里から声がかかる。

『ああ、わかってる。……それにしてもあの精霊……』

『ええ、私たちのこと知っている口ぶりだったわ』

二人の過去を知っているのはこの世界には存在しないはずだ。二人の過去を知っている人、全員は確実に死んでいる。のに、知っているということは………。

 

『天使……か』

『それが一番可能性高いわね』

二人は“天使”の可能性だと推測した。天使は“形を持った奇跡”だ。過去を覗くことができるような能力があっても不思議ではないだろう。現時点では相手の精霊の能力がわからないため、零夜と百里は今後、警戒する。ということで話をつけた。

 

そのときーーー

 

「あ、あの!」

零夜の背中に声がかけられる。

「あ?…………お前は、確か…」

機嫌が悪い零夜は少し尖ったような言い方になる。しかし、声の主は零夜が知っている顔だった。それもそのはず、話しかけてきた人は、二日前、精霊の攻撃から守った少年だったからだ。学校帰りなのか、制服を着ていた。

 

「ひ、人の名前を尋ねるときは自分から名乗れーーーヒッ!」

零夜はそれを聞いた瞬間、黒い雷を少年のギリギリ隣に走らせた。

 

「そっちから話しかけておいてえらい態度だな、人間?」

零夜はゴミを見るような目で目の前の少年を見た。

 

「い、いや……、あのー…………、ごめんなさい!」

少年は深々と頭を下げる。頭を下げる少年を見る零夜の目は依然として変わらない。

 

「……それで?俺に何の用だ?さっさと帰りたいから手短にしろ」

それを聞いた少年は慌てて顔を上げた。

 

「お、俺は五河士道。今日はあなたに話があって来た」

「話?」

「ああ、その前にまず、あの時助けてくれてありがとう」

士道はもう一度丁寧に頭を下げた。

「……別にお前を助けたわじゃない。あの精霊のためだ」

「……精霊のため……あなたは精霊を守るために」

「ああ、人間の欲のために、またその都合のために命を狙われる。俺はそれからから精霊を守る」

零夜の言葉を聞いた士道は何か決心をつけたような顔をする。

 

「……俺は、精霊を救いたい!あんな……、殺して解決なんて……!」

それを聞いた零夜は目を見開く。今までそんなことを言った人間は存在しない。全員が精霊を害悪とし、何度も命を狙ってきた。そんな人間から救いたいなどと、言葉が出てくるとは零夜は微塵も思っていなかった。

 

「士道と言ったか?お前は何故そう思う?精霊がいるから空間震が起こる。精霊がいるから街は壊れる。そんな奴なんていない方がいいだろう?」

零夜は士道を、試すような目で見る。

 

「聞いたんだ。空間震は精霊の意思とは関係なくて起きるって。それに、被害だってASTって奴らが攻撃さえしなければ空間震だけで済むのに」

「聞いた……か、誰からかは知らんが、でもそれはあくまで推測。ASTが何もしなくとも大喜びで破壊するかもしれないぞ?」

「それは……ねえだろ」

「ほう、根拠は?」

零夜は目を細める。

 

「好き好んで街をぶっ壊す奴は、あんな顔、するわけがない」

「……どっちにしろ精霊が空間震を起こすことには変わりはない。この世界だっていつ爆発するかもわからない核弾頭なんて放置しておくことはできないだろう」

「だからって……殺すなんて」

しつこく追いすがる士道を見て、零夜は肩をすくめた。

 

「その前に、AST程度じゃあ精霊は殺せない。それにお前は精霊とあったのはあの一瞬だけだ。なのに何故そこまで精霊にこだわる?」

零夜の言う通りだろう。あったと言っても本当に短い時間。そして、彼はその短い時間で殺されかけたのに何故か?

 

「いや、俺はただ、自分の意思でもないのに空間震を起こしただけで殺すなんて考えがどうかと思って……」

「なら、他に方法があるのか?」

零夜の質問を聞いた士道は、零夜の予想とは逆に大きく頷く。

 

「ほう、方法があるのか……どうやって?」

零夜も精霊を救いたいと思う一人だ。武力以外の解決方法があると聞くと興味が湧く。

 

「それは…………俺たちに協力してくれたら言う」

「協力……?」

「ああ。俺たちは精霊を救いたい。あなたも精霊を救いたい。お互い目的が同じなら協力してーーー」

「断る」

士道の言葉を遮るように、キッパリと言う。

 

「なッ……!?」

士道はまさか断られるとは思ってもみなかったのか、唖然とした。

 

「確かに、俺とお前の目的は一緒だ」

「なら……!」

「だからと言ってお前と協力するかは別問題だ。俺は、人間を絶対に信じない」

零夜の目には力強く、拒絶の意思が感じ取れた。

「……………」

士道は、零夜の意思を感じ取ったのか、何も言わなかった。否、言えなかった。

 

「五河士道。武力以外に解決の方法があるのなら、それを証明してみせろ。お前があの精霊を救うことが出来たなら、“お前たち”の話くらいは聞いてやる」

零夜はそれだけ言い残し、その場から離れた。

 

 

 

士道は、その背中を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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