ダンジョンでスタイリッシュさを求めるのは間違っているだろうか   作:宇佐木時麻

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最近DMCにハマりだしてバージルのカッコよさに惚れてつい衝動書きしてしまった。
反省はしているが後悔はしていない。


第一章
剣姫と剣鬼 -devil sword and princess sword-


 激しい剣戟と己を鼓舞する咆哮が大気を轟かす。

 武器を振るい魔法を駆使して戦うのは人型の種族。ヒューマンと亜人で構成されたその集団は戦気を体躯から漲らせて戦闘を繰り広げる。

 対峙するのは、正しく異形と呼ぶに相応しい怪物達。山羊のような角を持つその顔は馬そのもので朱い眼を蠢かせながら巨躯に相応しい巨大な鈍器を振るう。

 人型が受けようものならば一撃で体躯を粉砕されるだろうその一撃を、前衛である筋骨隆々な体格の戦士達が歯を食い縛り何十もの盾で受け止め前衛を維持する。

 その隙間を潜るように現れたのはアマゾネスの姉妹。彼女等は疾走し目前の怪物共を一太刀で斬り裂き蹴散らす。

 その姿はまさしく嵐そのもの。決して止まること無く目に写る全ての怪物を斬り捨てながら突進する。

 だが、それでも怪物達の猛攻は収まらない。一を殺せば三生まれ、十殺しても三十生まれている。いくらアマゾネスの少女達が敵を蹴散らしているとはいえ、それでは時間が掛かり過ぎていずれ前衛は崩壊し後衛陣まで怪物達が押し寄せてくるだろう。

 だからこそ、一発逆転の詠唱が響き渡る。

 

「【――間もなく、焔は放たれる】」

 

 聞こえてくるのは凛とした美声。戦場で有りながらその声音は場にいた全員の耳に入っていた。紡ぐのは絶世の美貌を持つエルフ。足元に展開された魔法陣は彼女の詠唱に反応し眩い翡翠の輝きを放ち流明する。

 

「【忍び寄る戦火、免れぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 そしてその詠唱が聞こえていたのは冒険者だけではない。

 魂に刻まれた過去の記憶か、本能がそれを悟ったのか。怪物達は眼の色を変えて前衛を粉砕し後衛に流れ込もうと猛攻する。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

『――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!』

 

 怪物――『フォモール』は一際大きく咆哮を轟かせ前衛に下段振りの鈍器を振り回す。

 その膂力から放たれた一撃は盾越しに衝撃を伝え前衛を維持していた戦士を周囲ごと巻き込みながら吹き飛ばした。

 

「――ベート!」

「解ってるっての!」

 

 前衛が崩れればモンスター等は後衛に流れ込み戦線は一気に崩壊する。

 それを食い止めんと団長である小人族のフィンが指揮し、フォローに回らんと狼人のベートが防衛戦に急行するが距離が在り過ぎた為、数匹に侵入を許してしまう。

 後衛の冒険者は魔法を駆使して援護するのが基本だ。ゆえに接近戦には長けておらず、尚且つそこに居たのはまだこの階層では一人では戦えない未熟な魔法使いだった。

 怪物の咆哮と共に鈍器が上段から振るわれ、しかし僅かに狙いがそれたのかそこにいたエルフの少女ではなく地面を粉砕するに留まる。だが、それに伴い発生した風圧は目前にいた小柄な少女の身体を吹き飛ばしてしまうには十分なもので――瞬間、全身を殴りつけるような衝撃が彼女を襲い、呼吸という行為を奪われる。

 地面に叩きつけられ喉に固まっていた酸素を吐き出すが、急な衝撃のためまともに受け身が取れず現時点自分がどこにいるのか把握できていない為、白に点滅する視界を頭を抑えながら観察する。

 

「――レフィーヤ!?」

「えっ?」

 

 自分の名前を慌ただしく呼ぶ声に顔を上げ、同時に視界を遮るように影が差した。そして戦慄する。先ほど前衛を突破して後衛に流れ込んできたモンスターの一体がレフィーヤの目前で鈍器を振りかぶっていたからだ。

 もう間に合わない。それが本能的に理解できてしまい、どこか遠い出来事のように振り下ろされる鈍器を眺め――直後、モンスターの首が宙を舞った。

 

「――――」

 

 現れたのは黄金の剣姫。金色の髪を靡かせて、白銀の剣に付いた血を振るい削ぎ落とす。その幻想的な光景にレフィーヤは戦場にも関わらずその光景に見惚れていた。

 そして金色の少女が背後のレフィーヤの安全を確認するため一瞬だけ意識を向けた瞬間。まるでそのタイミングを見計らったかのように、モンスターが投げた鈍器が少女の顔面目掛けて発射されていた。

 

「アイズ!?」

「――ッ!」

 

 モンスターの渾身の膂力が込められたその投擲に僅かに反応が遅れた為、アイズと呼ばれた少女は咄嗟に剣を構え盾となるしかなかった。もう少し時間が在れば魔法を発動させるか、あるいは背後に誰も居なければ躱す事も出来たが、現状レフィーヤがいるため己の身で防ぐ以外方法が無かったのだ。

 幾らアイズが第一級冒険者とはいえ彼女の戦い方は速度重視のアタッカーだ。だからこそ盾には不向きである。衝撃に耐えようとアイズは歯を食いしばり、

 

「――邪魔だ」

 

 背後から聴こえてきた重苦しい声と共に、魔力で形成された無数の蒼の剣が鈍器を弾き、投擲したモンスターの眼球、喉に深々と突き刺さる。

 誰が放ったかなど、この団体の中で疑問に思う者は誰もいない。それを証明するかのように、音も無く現れた蒼剣に貫かれ絶叫の雄叫びをあげるモンスターの前には、蒼い男が居合の構えで佇んでいた。

 

「死ね」

 

 振り抜かれるは神速の抜刀。音を置き去りに無拍子で放たれた斬撃は第一級冒険者であろうと白銀の軌道を辛うじて捉えることができるかどうか。まさしく神速と呼ぶに相応しい絶技、鯉口が鍔と重なる音が鳴ると同時に怪物の首が胴体を置き去りに地に落下し、残された胴体は断面から血飛沫を噴水のように周囲へ撒き散らす。

 降り注いだ血で濡れた白色の髪を掻き上げ蒼い外套を翻す。脚には獣の爪のように尖った具足を纏ったその姿、強い意志の宿る鋭い双眸は、まさしく戦鬼そのもの。

 その姿を見て、一部始終を見ていたアマゾネスの少女が歓呼した。

 

「ナイスフォロー、バージル!」

 

 バージルと呼ばれた青年は答えない。返答しなくても問題ないと思っているのか、彼は一瞬振り返ると直ぐに腰の刀を手に敵陣へと疾走する。

 そして、一瞬だけ視線が合ったアイズには何となく彼が何と言ったか理解出来た気がした。

 

 ――邪魔になるならば引っ込んでいろ、と。

 

「――ッ!」

 

 また借りが出来てしまった罪悪感とこのまま虚仮にされたくない敵愾心が混ざり合いアイズの胸に戦気を奮い立たせる。

 剣を構えると、アイズも眼前の敵陣に進撃するバージルに負けないよう同じく敵陣に突入する。

 

「ちょ、アイズ、それにバージルも、待って!?」

 

 制止の言葉を振り切り先に進軍していたバージルが大地を踏み砕く勢いで跳躍しフォモールの大軍の中心に頭上から落下する。地面に着地する寸前、彼は胸のうちで呟いた。

 

「……跪け」

 

 幻影剣二式―――円陣幻影剣。

 着地した直後、彼の周囲のフォモール達が一瞬で胴体を切り刻まれる。切り刻んだのは彼の周囲を円となって回転する八刀の蒼い幻影剣。バージルの魔力によって練成されたその剣は変幻自在。

 フォモール達が突如頭上から現れた乱入者に驚愕しているうちに、バージルは疾走を開始する。自身の周囲を展開する幻影剣は前後左右関係なく斬り裂き、眼前のモンスターを神速の居合で真空の刃を生み出し切り裂いていく。遠くへ逃げようものなら幻影剣を発射して捉えるまで。

 その姿はまさに無双。蒼と朱に彩られた剣舞は敵味方関係なく魅了するほど。

 そしてその剣舞に黄金の剣姫が参戦する。

 

「――これで、貸し借りなし」

 

 バージルの背後、恐らく味方の屍を盾にして接近していたのであろうフォモールが鈍器を上段に構えたまま頭部と胴体が別れを告げる。それを行ったのはアイズだった。

 これでさっき助けられた借りは返した、そう目で告げるアイズにバージルは冷たい双眸を一度向けると、

 

「フン、ならば――次は精々周囲を警戒しておけ」

 

 無拍子で幻影剣がアイズの顔を擦れ擦れで横切った。続く悲鳴音。振り返ればそこには他の死体に紛れてフォモールが横になったまま鈍器を振り抜こうとして頭部に幻影剣が突き刺さって絶命している姿があった。

 得意気な顔をしている所への失態にアイズの頬が僅かに紅潮するが、バージルは意にも介さず更に敵を殲滅に掛かる。負けじとアイズも剣を振るう。

 蒼い外套と金色の長髪が翻り鮮血に染める。斬撃と剣戟が重なり合い前衛に襲い掛かる怪物を物言わぬ屍へと変えていく。

 

「【汝は業火の化身なり】」

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 剣舞が続く中、後衛より膨大な魔力が膨れ上がる。それは即ち詠唱の完成に他ならない。

 

「アイズ、バージルも、戻りなさい!」

 

 己の名を呼ぶ声にアイズが後退し、バージルもバックステップで跳躍する。味方が誰もいなくなり収縮していた敵陣に空中で反転しながら彼は右手を前へ突き出しつつ振り下ろす。

 

「沈め……!」

 

 幻影剣三式―――五月雨幻影剣。

 バージルの呟きに反応するようにフォモール達の頭上に展開した無数の幻影剣、それらが雨の如く降り注いだ。怒り狂っているモンスター達がそれに反応できるはずもなく、容赦なく突き刺さる。

 バージルの幻影剣のお陰で数瞬時間を稼いだが、少々アイズ達を巻き込まないように戻らせるのが早すぎた。設定された魔法陣から出てしまう勢いでフォモール達が突進してくる。

 

 ――故に。

 だからこそ、彼は剣を抜いた。

 

 それは魔法ではなく剣戟の極致。彼が長年の鍛錬の末に辿り着いた居合の絶技。

 距離など関係ない。その斬撃は次元さえも斬り裂き空間を歪ませる神速の抜刀術。

 

「――消えろ」

 

 魔剣技、次元斬―――

 前衛のフォモール達が跡形もなく斬り裂かれ、同時に魔法が完成する。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」

 

 瞬間魔法陣は広がり全てのフォモール達を包み込む。その魔法は範囲殲滅魔法。白銀の杖を翳し、エルフの魔道士であるリヴェリアは高らかに魔法の名を口にした。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 それは正しく天へと昇る業火だった。阿鼻叫喚するモンスター達の悲鳴すらも飲み込んで炎の蛇は螺旋を描きながら魔法陣の内側に存在する全てを燃やし尽くす。五十ものモンスターの大軍は、僅か一瞬で塵も残さず灰と化した。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 戦闘が終わり、他の皆が休憩(レスト)に向けて武器の整備やテントの張り、肉果実や木の実の食料を調達している中、アイズは一人落ち着ける場所を探していた。

 人気のない方へ進めば進むほど後方から騒ぐ声も遠くなり静寂が包んでいく。

 別に騒がしいのが嫌いなのではない。仲間と一緒にいるのは楽しい。だがあまり話すのが得意ではない彼女はこうして静かな場所で一息吐きたかった。

 そして、そんな自分と同じように一人が好ましい人物を彼女は知っている。

 

「……いた」

 

 案の定、予想通りの人物がいた。灰色の樹林に囲まれた景色が見える最端、作成された野営地のある広大な一枚岩の端に蒼い外套がぽつりと見える。ふと近づくと声も掛けていないのにも関わらず十五Mもの距離越しに男は肩越しに一瞥してきた。

 

「何のようだ、アイズ」

 

 逆立てている白髪は崖から吹き上げてくる上昇気流に揺れ、鋭い双眸を覗かせる。

 背後のランプの灯りで揺れる瞳は宝石のようだった。 

 

「少し、風に当たりに来ただけ」

「……そうか」

 

 それだけ告げるとバージルは正面に向き直り振り返ることは無かった。

 アイズもそれ以上口を開くこと無くバージルの隣に膝を丸めた状態で座り込む。

 静寂が彼らを包み込む。その重苦しい雰囲気にほとんどの者ならば耐え切れなくなるが、アイズはこの雰囲気が好きだった。

 アイズは元々話すことが得意ではなく、バージルも自分から会話を切り出すような真似はしないため基本的に無言となる。

 しかしそれは決して拒絶の沈黙ではなく、自然体の沈黙だった。そしてその静寂とバージルの背中はどこか昔の出来事を思い出させる。

 そう、それは嘗て見ていた、父の背中を思い出して――

 

「…………」

 

 どこか安心する雰囲気にふと睡魔が訪れ、アイズはそれに抗うことなくゆっくりと意識を沈めていくのだった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ――気が付いたら俺は転生していた。

 

 元大人になる年齢だったのにも関わらず、気がつけば幼少時代に戻っており尚且つ名前と顔が別人になってた。

 しかも聞いたこと無い異国の土地だし、正直言葉が日本語変換されてなかったら詰んでた自信があるね俺は、悪い意味で。

 何故自分がここにいるとか、そもそも俺は本当に死んだのかとか色々悩んではみたが、幾ら考えたところで解るはずもなく結果としてとりあえずこの世界を生きてみることにした。

 幸い祖父と弟と俺の三人家族で不自由なく過ごせたし、祖父がよくこの世界について語ってくれたため知識はついた。

 

 ふむふむ、この世界にはダンジョンという地下迷宮があって、そこはオラリオと呼ばれていて、神様の恩恵を授かることで【神の眷属】となって力をもらいダンジョンを探求してハーレムを作れと。なるほどなるほど。

 

 ……それってダンまちじゃね?

 

 前世の記憶とも呼ぶべきか、あまりに聞き覚えのある単語の数々にふと冷や汗が流れる。いや、確かに弟の名前がベル・クラネルって聞いてどっかで聞いた事あるなーとは思ってたんだよ。でも普通自分のいる世界はフィクションとは思わないじゃん!?

 最初の頃は世界の真実に絶望していた俺だが、ふとある日脳裏を掠めた。

 目には目を、歯には歯を。つまりここがフィクションならば――同じくフィクションで対抗できるのではないかと。

 つまり感謝の素振り一万回とか十分間息をすいつづけて十分間はきつづけるようにするとか、そういう無茶な特訓も可能なんじゃないだろうか! 中二病がなんぼのもんじゃい! 最後まで貫けばそれは本物だって正義の味方が言ってたもの!

 やるからには一つを極める。そして俺が選んだのは悪魔の鬼兄ちゃんだった。だって名前がバージル・クラネルだし。もうこれは神様が俺にバージルロールプレイをしろと言っているのも当然! 次元斬とかまじブッパしたいですはい。

 

 そして。そんなかんやでベル君十歳、俺十四歳の時に「俺の魂が言っている……もっと力をと!」みたいなその場のノリに合わせて家を飛び出して一人でオラリオに到着。え? どうしてベルと一緒に行かなかっただと? そんなことしてみろ、あのヤンデレ美の女神様が邪魔な存在として絶対消しにくる。もしくは試練に巻き込まれる。それは勘弁して下さい割りとマジで。

 そしてなんやかんやあってロキ・ファミリアに入隊し四年の月日が流れて今に至ると。

 そして俺は現在、過去現在において最大のピンチに襲われていた。

 

「スゥ……スゥ……」

 

 勘弁して下さい死んでしまいます(俺が)。

 気が付いたらアイズが見事なフォームでそのまま俺の膝元に倒れこんできた。余りにも迷いなくそのまま膝枕の体勢になってしまったためどう反応すればいいか解らず硬直してしまった。

 寝顔はまさに天使――なんて言ってる場合じゃねえ。アカン、余りに想定外過ぎてこんな時どんな反応すればいいのか解かんねえ! バージル鬼兄ちゃんならどうする? 首斬りですね解りたくありません。

 

「……全く」

 

 外面では呆れたように嘆息、内面では滅茶パニクりながら救世主となる第三者の介入か、アイズが目覚めるのをひたすら願った。

 ロキ・ファミリア所属、Lv.6、二つ名【(スパーダ)】、バージル・クラネルは今日も元気です。

 




ベルと兄弟設定にしたのはぶっちゃけ白髪繋がり。それ以上の意味はない

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