ダンジョンでスタイリッシュさを求めるのは間違っているだろうか   作:宇佐木時麻

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続いちゃったぜシリーズ。
何か前半あらすじみたいな書き方になってしまった(笑)


悪魔の引鉄 -devil trigger-

 50階層に降り立った【ロキ・ファミリア】の各々は短い休憩を行っていた。そんな中、団長であるフィンが【ディアンケト・ファミリア】の51階層にある『カドモスの泉』より要求量の泉水を採取する冒険者依頼を引き受けた事からそれを採取するために小数精鋭の隊員を送る事となった。

 少数精鋭に選ばれたアイズ達だが、その階層には強竜(カドモス)――特定の階層にしか現れない『迷宮の孤王(モンスターレックス)』を警戒していた。

 Lv.6相応級のモンスターとの敵対に緊張が奔る彼女達だったが、強竜(カドモス)の住処に訪れればそこには討伐対象であった強竜(カドモス)が無残な屍となって朽ち果てていた。

 冒険者ではない、何かの仕業――直感的に悟ったアイズ達が直ぐに『カドモスの泉』を回収するともう一つの精鋭である団長達のグループと合流しようとするが、そこで新種のモンスターと遭遇する。

 形状は芋虫の形。全長が四Mものある天井と激突するほどの巨体であり、そして何よりも恐ろしいのが第一級冒険者達が使用する一級品装備すらも触れれば一瞬で溶解する腐食液を体内に保持しているということ。

 その異形の集団に襲われ、何とかレフィーヤとアイズの魔法でその場を乗り越えるが、その未知の怪物達は【ロキ・ファミリア】の休憩所まで進軍していたのだった。

 本陣と合流し各々が決死の覚悟でモンスター達の殲滅に取り掛かる。ある者は魔法で、ある者は武器を溶解させてでも、ある者は赫怒に身を任せ素手で怪物を鏖殺する者もいた。

 多くの武器と資源を失い、それでも全滅させ難を逃れたかのように思えたが、その喜びを嘲笑うようにその絶望は樹々を粉砕しながら彼らの前に顕現した。

 芋虫を連想させる下半身、扇のような厚みのない二対四枚の腕、人型の形をしているがその姿は醜悪で、六Mをも超える巨体にはその身に相応しい夥しい量の腐食液が貯めこまれているのが一目で理解出来た。

 誰もがその姿に呆然としている中、女性型のモンスターが一人動く。

 四枚の腕に付着していた鱗粉が虹色の光沢を放たれ周囲に展開し、刹那、大地をも抉る光爆が連続する。

 その威力、その相性。それらを一言で表すならば、絶望。

 圧倒的不利な状況を前に団長であるフィンはある決断をする―――

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「総員、撤退だ」

 

 粉塵が視界を覆う中、フィンは冷静にその場にいる団員に告げる。

 

「速やかにキャンプを破棄、最小限の物資を持ってこの場から離脱する。リヴェリア達にも伝えろ」

「待てよ、フィン。それじゃああいつはどうすんだよ!?」

「あんなの放って置いたらとんでもない事になるかもしれないんだよ!?」

 

 いち早くベートとティオナが噛み付くが、それはその場に居た皆の代弁でもあった。

 彼らは迷宮都市最大派閥(ロキ・ファミリア)としての誇りと責任がある。そのゆえに目前のモンスターを放置すればやがて階層を昇り多くの被害を齎すことを黙って見過ごせるはずがなかった。

 そしてそれは、発言した【ロキ・ファミリア】団長とて同じ。

 

「僕も大いに不本意だ。でもあのモンスターを必要最低限の被害で始末するにはこれしかない。月並みの言葉で悪いけどね」

 

 そう告げて、フィンは一度周りの団員を見渡した。

 誰もが50階層に来る前とは違い消耗している。武器を失い、魔力を消費し、そして何より気力が削がれてしまっている。

 だが。その中で唯一全く様子の変わらない者がいる。一目見れば何も変わっていないように見えるアイズでさえ良く見れば腐食液が身体に飛び散っているというのに、そいつだけは全く変化していない。

 それはその者が何もしていなかったからではない。むしろその逆、ここに居る皆が誰よりも敵を葬っていたところを目撃している。

 それはつまり―――

 

「バージル、やれるか」

「誰にものを言っている」

 

 鯉口から未だ鈍らぬ銀光を煌めかせる刀を手に、バージルはさも当然のように団員達の前に立っていた。

 

「待って。私も残る。私の『魔法』なら腐食液(あれ)にも対抗できる」

 

 それにいち早く反論したのはアイズだった。確かにアイズの魔法【エアリエル】ならば風を刀身に纏わせることで刀身に腐食液が付き溶解するのを防ぐことが出来る。

 だがその提案をバージルは振り返る事もなく切り捨てた。

 

「いらん。足手纏いになるだけだ」

「――――」

 

 それは拒絶。意に物を言わさぬ完全な拒絶にアイズは思わず硬直してしまう。そして直ぐ俯いて固まってしまった。

 ―――Lv.5(アイズ)ではLv.6(バージル)の足手纏いになる。それが彼らの関係の全てを物語っているようで、アイズは何もいえなくなってしまった。

 そんなアイズの様子にベートがカッと目を開き犬歯を剥き出しにバージルに胸蔵を掴みに掛かるが、

 

「バージル、テメェ―――ッ!」

「ベートォ!!」

 

 だがそれはフィンの怒号によって止められてしまう。

 

「時間がないんだ。急げ」

「ッ……クソッ!」

 

 振りかざした拳を抑え、怒りを発散するように地面を蹴りつける。歯を食いしばり唸るようにバージルを睨みつければ、彼は何の反応も返さずただ目前のモンスターと対峙していた。

 その在り方が。弱者(ベート)に構わずただ己であり続ける強者(バージル)に見えて―――己が目指す強者の在り方そのもので、更に苛立った。

 苛立ちを隠さず舌打ちをしながらベートは撤退の準備を行うために離れ、アマゾネス姉妹とレフィーヤも心配しながらそれに続く。一瞬、フィンはバージルに後悔を宿した眼で見て、

 

「すまない、バージル」

「何度も言わせるな、要らん世話だ」

「ああ、そうだったね。行くよ、アイズ」

「…………」

 

 フィンに連れられ、アイズは最後にもう一度振り返った。

 蒼い外套に包まれたその背中。それがどこまでも―――遠くに感じた。

 

 そして、撤退する団員達を見ていた女体型のモンスターはそれを追撃するように爆粉が大量に付着している四枚の腕を振りかざし、

 

「何処を見ている」

 

 刹那、飛来した四本の蒼き魔力の剣がそれらの腕を一瞬で貫いた。

 

『――――!』

 

 声にもならない悲鳴を上げるモンスター。それを無視するように、コツコツと地面を叩く具足の音が響く。

 背中にはまるで装填されたように複数の蒼き剣―――幻影剣を携え、バージルは冷酷に告げる。

 

「貴様の相手は、俺だ」

 

 同時に跳躍、地面を蹴り上げ疾走する。その速度は微かな残像が写るほどに。

 接近に感づいたのか、モンスターは甲高い絶叫を鳴らすと無貌だった顔面部が縦に裂け、一直線上に鉄砲水の如き速度で人間一人を丸々飲み込む量の腐食液が放出される。

 大量に地面に撒き散った腐食液は、バージルが立っていた場所が跡形もなく溶解するほどの威力。だがそれは、

 

「―――遅い」

 

 鯉口と鍔が重なる音がモンスターの背後より響く。

 瞬間、無数の斬撃がモンスターの体躯に切り刻まれる―――その時ようやく、モンスターは自身が斬られていた事を理解した。

 疾走からの居合。斬られた事すらも気づかせぬほどの神速こそがバージルが腐食液に触れても刀が溶けぬ理由だった。

 アイズが風を纏って刀身を保護しているというならば、バージルは神速の抜刀によって真空を生み出し、”剣圧”で腐食液から刀身を守っていた。

 

『――――!』

 

 斬られた激痛にモンスターは赫怒を顕に雄叫びを上げ、四本の腕を振るい背後にいるバージルを吹き飛ばさんと振り向き際に爆粉を背後全体に撒き散らす。

 喰らえばその爆発はひとたまりもないだろう。だがその動作はあまりに無駄で、その隙を付かないほどバージルは愚か者ではなかった。

 

「やる気があるのか?」

『!』

 

 心底侮蔑するような呟きと共に、まるで流れ星の様な飛び膝蹴りが振り返ったモンスターの腹部に直撃しくの字に身体が曲がる。

 【ヘファイストス・ファミリア】製、特殊武装(スペリオルズ)《ベオウルフ》。

 光の力を宿す嘗て倒した階層主から創られたその魔具は持ち主に呼応するように更なる光を放ちモンスターを内側から滅ぼしていく。

 突き刺さる左脚を腹部に固定し、動きが停止したモンスターの頭上に自由な右脚を振り上げ、そのまま月輪の如き踵落としを背中に叩き込む。

 くの字は逆向きに変わりモンスターの身体は慣性によって前に吹き飛ばされ―――直後、爆粉は主であるモンスターを飲み込んで自身すらも燃料に尋常ではない爆撃音を轟かせた。

 

「ほう、存外丈夫のようだな」

 

 爆撃地。そこには未だ原型を保っていた女体型のモンスターの姿があった。疾風居合で断ち切ったはずの四本の腕にある切り傷も浅く、ベオウルフで蹴りつけた感触もまるで壁を蹴り付けたような重量感だった。

 

「ならば―――次で終わらせる」

 

 腰を僅かに下げ居合の構えを取る。左手の親指を鍔に掛け神速の居合を解き放つ。それは物質を斬るのではなく、次元を斬る技。喩え敵が如何に頑丈であろうとも関係ない。

 その首を断ってやろう―――バージルが鍔を親指で弾こうと力み、

 

 直後、背後から爆発が襲いかかってきた。

 

「――――チィ!」

 

 それは今まで経験してきた本能か、バージルは思考する間もなく無意識に背後から迫る熱を感じ真横に跳んだ。直後、鼓膜が破れるほどの爆音と共に爆発し無様に吹き飛ばされ、地面を転がるように着地する。

 突然の爆発に動揺してしまったが、確かにあの爆発は目前の女体型のモンスターが放ったものではなかった。それはつまり、

 

『――――』

『――――』

 

 同じ姿をした女体型のモンスターがもう一人、まるで影のようにそこに佇んでいた。

 新種のモンスターが二体。しかもそれは腐食液と爆粉の量が二倍になったということだ。ただでさえ一体でも厄介だというのにそれが二体。しかも下手をすれば片方を相手しているうちにもう片方が敵味方諸共腐食液や爆粉に巻き込んでくるかもしれない。

 その光景は並大抵ならば絶望に打ちひしがれるかもしれない。だが、

 

「手間を掛けさせる」

 

 それだけ告げると、背後に複数の幻影剣を作り出しモンスター達と対峙する。

 本来ならば戦意を失ってもおかしくない絶望差をバージルは手間だと言って切り捨てる。

 

『!』

『!』

 

 殲滅するつもりなのか、二体のモンスターは合計八本の腕を広げ見たことのない量の爆粉をバージルに向かって解放する。それを、爆発させるまえに仕留めようと爆粉を突き抜ける覚悟で居合の構えを取り、

 

 

 

「―――【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

 

 聴こえてきたのは、風の妖精の音色。

 瞬間、迫り来る爆粉が風に流され押し返され中間地点で激しい大爆発が引き起こされる。あまりの衝撃に大地が削れ、地震の如く地が揺れる。

 粉塵に視界が覆われる中、一人の人影がバージルの前に立っていた。やがて煙が晴れていきその姿が露となる。それは黄金の髪を靡かせた剣士。

 アイズ・ヴァレンシュタインがそこに居た。

 

「なぜ貴様がここにいる、アイズ」

「……もう一体あのモンスターが見えたから」

「だから手助けに来ただと? 言ったはずだ、貴様が来た所で足手纏いにしかならんと。解ったならばとっとと失せろ」

 

 アイズの様子を一切見ずバージルは前方にいるアイズを追い越して怪物達と対峙しようとする。

 だがそれは、喉元に突き立てられたアイズの《デスペレート》によって防がれた。

 

「……何の真似だ」

「……ならない」

 

 一度目は小さく、だが熱を帯びてアイズはバージルの双眸を直視する。その目に宿るのは譲れない信念。アイズは一度小さく息を吸うと、今度こそはっきりと己の思いを口にした。

 

「足手纏いには、ならない」

 

 ―――アイズ・ヴァレンシュタインにとって、バージル・クラネルは特別な存在だ。

 

 初めて顔を合わせたのは彼女が冒険者となって数年後、二級冒険者となってしばらくたった頃だった。

 最初に思ったのは随分と無茶をする人だと思った。本来ダンジョンに潜るときはメンバーを組んで挑むのが基本だ。アイズとて始まりはそうだったが、バージルは初めから頑なにソロで挑んでいた。

 その上ダンジョンから帰還するたびに酷い怪我を負っていた。『冒険者は冒険してはならない』という教えを破り、貪欲に餓狼のように力に飢え、バージルは誰の手助けも受けず強さを求めていた。

 そして、守る存在は気が付けば背中を預ける存在にまで成長し、自分の半分も満たない四年の期間でバージルはいつの間にか背中を追い掛ける存在にまでなっていた。

 その姿に暗い嫉妬をしなかったといえば嘘になる。だがそれ以上にアイズはバージルに羨望し―――英雄だった。

 だからこそ、アイズは思うのだ。

 足手纏い(守られる存在)ではなく、肩を並べる(共に戦う)存在になりたいのだと―――

 

「……フン」

 

 その瞳から何かを感じ取ったのか、或いはただ呆れただけなのか。バージルはアイズから視線を外すと怪物達を見据えたまま、

 

「今回だけお前に付き合ってやる」

「――――」

 

 前に出るのではなく、肩を並べるようにアイズの隣に立ち静かに告げた。

 その言葉にアイズの口元が僅かに吊り上がる。それは気紛れなのかもしれない。それでもバージルが隣に立つことを許してくれた。それが何より嬉しくてニヤけそうになる頬の筋肉を必死に押さえつけていた。

 

「貴様は左をやれ。手助けは期待するな」

「助けてと言ったら、助けるよ?」

「それだけ軽口を叩けるならば重畳だ」

 

 バージルは普段通り仏頂面で《閻魔刀》を手に、アイズは《デスペレート》を手に少しだけ笑っていた。

 ああ、この二人で―――負ける気などするはずがない。

 

「行くぞ」

「うん」

 

 合図は一瞬、両者はまるで爆発したような勢いで跳躍し、己が戦う敵と激突した。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 バージルが向かったのは右のモンスター、四枚の腕には切り傷が奔り身体には自身の爆発によって深い火傷を負った先ほどから戦闘している女体型のモンスターだった。

 モンスターはバージルが接近してくるのを悟ったや否や、まるで怨敵の如く金切り声を上げながら対峙する。顔面部に口がないというのにどこから声を出しているのかは定かではないが、確実に個人に対して明確な敵意を示しているのは明白だった。

 背中にあった無数の蔦が変幻自在に動き、その先端に付いていた蕾から大量の腐食液が周囲に撒き散らされる。その量と予測困難な軌道は接近を困難にさせ、更に接近は赦さないとばかりに怪物は爆粉がこびり着いた四本の腕を振るい周囲を無差別に爆発させる。

 それは確かに厄介な戦法だった。特殊武装を一瞬で溶かすほどの強力な腐食液、一瞬で広範囲を爆発できる爆粉。並みの冒険者ならば束になっても全滅は防げないだろう。

 だが、それを凌駕してでこそ―――第一級冒険者。

 

 無差別に爆発させる、それは確かにバージルの接近を妨害するだろう。だがそれは、怪物が明確にバージルの接近を忌避しているという答えに他ならない。

 そしてそのような大技を連発すれば対処法など初見でも思いつく。

 

「フ―――!」

 

 爆粉が爆発するまでのラグはおよそ三秒。それこそが怪物自身を爆発に巻き込まないために爆粉が離れる距離。だがそれは逆に言えば、一度爆発すればそれだけのタイムロスが必要となること。

 バージルは爆粉によって罅が奔った地面に渾身の踵落としを叩き込み三Mもの岩石がめくれ上がる。それを目前に蹴り上げると、怪物目掛けて押し潰す勢いで渾身の回し蹴りで岩石を吹き飛ばした。

 飛来する岩石。それを感づいたのは何度も屈辱を舐め合わされて理解したモンスターの学習能力ゆえだった。腕を振るい自爆覚悟で直ぐ様爆発させて―――無貌の顔を引き裂いて腐食液の入り口を開いた。

 直後、岩石は跡形もなく粉砕する。粉塵が舞い視界を覆い―――蒼い外套が翻ったのが見えた。

 

『――――!』

 

 皮肉にもバージルの攻防のせいでモンスターの知性が上昇していた。恐らく岩石を盾に接近し斬りつけようとしていたのだろう。それを予測し、空中に跳躍していた蒼い外套に目掛けてモンスターはこれまで見せた事のない速度と量の腐食液を一気に放出し、それは直撃した。

 溶けていく蒼い外套。それを前にモンスターは勝利を確信し―――

 

「なるほど、どうやら少しは考える能があったらしい」

 

 それを否定する冷酷な呟きが怪物の背後から聞こえた。

 

『――――』

 

 その時モンスターが感じたのは驚愕か、或いは真実から目を逸らす為の現実逃避か。

 バージルはモンスターが学習しているのを理解していた。自身を近づかせない為の爆発と腐食液の連発。端から見れば駄々をこねるように暴走しているようにも見えるが、あれは己を接近させないための”術”なのだと予測できた。

 だからこそバージルは罠を張った。岩石を蹴りつけ視界を覆い蒼い外套を投げつけ自身は背後に回った。もしモンスターに知性があるならば乗ってくるだろうと予測して。

 皮肉にもモンスターが”理性”ではなく”本能”で、怪物の如く蹂躙し、勝利を確信して心に隙が出来るような真似をしなければ或いはこの結末は違っていたかもしれない。

 だが、それはもしもの話。ここの勝者はバージルだった。

 振り返る隙など与えない。構えられた必殺の居合は今度こそ怪物を一刀両断する。

 

「―――終わりだ」

「―――リル・ラファーガ」

 

 聴こえてきた声と告げる声が同時に響く。

 神速の居合がモンスターと重なるように球体を生み出し、それは空間を歪曲したかのように無数の斬撃が奔り怪物を肉片に分割する。体内に詰まった腐食液は空間の歪みに巻き込まれたように固定され、それは周囲に飛び散ることなく地面に落下した。

 同時に爆発。爆発した方向を見ればそこには跡形もなく、少し離れた場所にアイズが佇んでいた。先ほどの爆発はアイズがモンスターを倒した際に発生したものなのだろう。

 アイズは振り返るとバージルの元へ向かう。

 

「……私の方が早かった」

「ふん。そんな軽口を叩くならば―――」

 

 そう告げて、アイズの口にポーションを無理やりねじ込んだ。突然の事にアイズは反応できず素直にポーションを飲み干す。

 

「あの程度の相手に怪我を負わないようにするんだな」

「……バージルだって、服やられた癖に」

 

 ポーションを口に加えたまま恨めしそうに僅かに眉を潜めながらアイズが無言の抗議をするが、バージルは意にも介さず他の団員達と合流すべく振り返る。

 直後。

 

「……え?」

 

 ポロリと、アイズの口から空のポーションが地面に落ちて割れる。だが、そんなものはアイズの視界には入っていなかった。それがどうでもいいと思えるほど、圧倒的絶望が訪れていた。

 

『――――!』

『――――!』

『――――!』

 

 目に見えるだけでも三十は超える芋虫のモンスターの大軍。それを引き連れるように先ほど倒した女体型のモンスターの同種族が四体も同時に天井の裂け目より降ってきた。

 『怪物の宴(モンスター・パーティー)』。

 それが最悪のタイミングで、最悪の相手を呼び出してしまった。

 

「…………!」

 

 心が折れそうになる光景を前にそれでもアイズは剣を構えた。されど先の激戦の影響か刀身は僅かにブレ、重心も普段より下がっている。一体でさえこの始末だというのにそれが四体、更に周囲に芋虫のモンスターがあれほど複数いれば死闘は免れないだろう。

 もしかすれば、これを乗り越えればより高みに到れるかもしれない。

 だが、そんなアイズの葛藤を無視するようにバージルは静かに呟いた。

 

「……仕方ない、か」

 

 その声音には諦めも失望もなく、在るのはただ確認するような機械的な声。それらを前にしてもバージルは変わること無く刀を手にアイズに告げる。

 

「伏せていろ、二度は言わん」

「え……?」

 

 バージルの言葉に驚きつつも素直に従うアイズ。彼は一歩踏み出すと自分達を囲っているモンスター達に向けて冷酷に宣言した。

 

「貴様らにこれを見せるのは億劫だが、一瞬で終わらせてやる」

 

 バージル・クラネルが使える魔法は一つしかない。

 幻影剣は正確に言うならばあれはただ魔力を剣の形に変えてそれを放出しているスキル【魔力放出(ダークスレイヤー)】の応用に過ぎない。次元斬もあれはバージルが極めた居合の技だ。

 ゆえにバージルの魔法はただ一つ。それは彼が思い描く最強の姿。深淵に眠る渇望の姿を顕現させる変身魔法。

 その詠唱は―――

 

「―――【悪魔の引鉄(デビルトリガー)】」

 

 刹那、バージルを中心に空間が悲鳴を上げた。

 その姿はまさに古き書物に載る悪魔そのもの。顔面部は異形の者となりて身体も人とはかけ離れている。直視できるほどの蒼いオーラを身に纏いそれはその場に顕現していた。

 その威圧、その雰囲気に背後から見ていたアイズも他のモンスター同様息を飲んだ。目前の存在がバージルだということは気配で判る。だがその質が普段とは桁外れに跳ね上がっている。

 バージルは刀の鍔に指を当て、

 

 直後―――空気が死んだ。

 

 この場にいる全員が球体型の空間の歪みに呑まれ、悪魔の姿が分身するように掻き消える。そこまでがアイズの見えた光景だった。まるで一瞬が永遠にでもなったような体感速度のあと、アイズの目前に立っていたのは普段見慣れた人の姿のバージル。

 彼は刀を前に、ゆっくりと刀身を鞘に収めていく。そして鯉口と鍔が重なった瞬間、別れを告げた。

 

「―――死の覚悟は出来たか?」

 

 魔剣技奥義―――次元斬・絶。

 カチンッと、鍔の鳴る音―――瞬間、周囲にいたモンスターの身体に無数の斬撃が切り刻まれて肉片と化した。

 

「――――」

 

 言葉が出ない。刀を納めるその姿、それにアイズはただ見惚れてしまっていた―――

 




誰か俺にスタイリッシュな書き方を教えて下さい……!

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