ダンジョンでスタイリッシュさを求めるのは間違っているだろうか   作:宇佐木時麻

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邂逅 -meeting-

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 西のメインストリートの中で最も大きな酒場である『豊穣の女主人』、その店内で遠征の打ち上げに集まったロキ・ファミリア御一行が主神であるロキの音頭と同時に皆盛大に騒ぎ出した。

 

「団長、つぎます。どうぞ」

「ああ、ありがとうティオネ。ところで僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけど、酔い潰した僕をどうするつもりなんだい?」

「ふふ、他意なんてありませんよ団長。ささっ、もう一杯」

「本当にぶれねえなこの女……」

「うおーっ、ガレスー!? うちと飲み比べで勝負やー!」

「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい!」

「ちなみに勝った方がリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやあああァッ!」

『な、なにいいいいいいいいい―――ッ!?』

「じっ、自分もやるっす!」「俺もやるぜ!」「私もっ!」「ヒック。あ、じゃあ僕も」「団長ォー! そ、それなら私のを揉んで下さい!」「ティオネも参戦やとォ―――!?」「あ゛ァ? 私の身体は団長だけのものに決まってんだろぶっ殺すぞ!?」「ですよねー」「リ、リヴェリア様……ッ?」「言わせておけ」

 

 いやー、皆さん元気ですねー。皆酒を飲んだせいでタガが外れているのか好き放題言って非常に混沌となっております。やはりそれぞれ仲の良いグループで固まっており、アイズとティオナとレフィーヤ達、ベートとラウル達、フィンとティオネとリヴェリア達、ロキとガレス達といった様に意気揚々と騒いでいる。

 え、俺は誰と一緒に居るかだって? それは勿論―――

 

「…………」

 

 独りですけど何か!? 皆肩を組み合ったり酒を注ぎ合ったりしている最中、俺の周辺だけ席が一つずつ空いてますけどそれが何か!?

 あれ、俺ロキ・ファミリアの団員だよね? 実は仲間だと思っているの俺だけとかいう悲しいオチじゃないよね? いやまあ確かにバージルが酒飲んでたら隣に座りたいとは思わないけど。だけどこの疎外感は流石にないんじゃない?

 べ、別に悲しくなんかないけど。静かに酒飲めて満足だし? バージルロールプレイとしては騒がしいバージルなんて想像出来ないから大助かりですけど? 独りでいるのは慣れてるしぃ? ……あれ、なんか目から液体が垂れてきた。涙じゃないよな、だって悪魔は泣かないもん……!

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

 内面で涙を流しつつ外面では一切様子が変わらないまま仏頂面で酒を飲んでいると、早いペースで酒を飲みまくったせいか完全に出来上がっていると一目で解るほど顔を赤くしたベートが唐突に口を開いた。

 話を振られたアイズには解らなかったのか首を傾げる中、ベートは機嫌よさげに語る。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末した時の、トマト野郎の事だよ!」

 

 あ、それベルの事だわ。

 しかしベルの奴、村に居た時はナチュラル年上キラーだったのにも関わらず、まさかアイズを一目見ただけで一目惚れするとは……しかも確か逃げ出した理由が恥ずかしさのあまりだったっけ。いつからそんなヘタレになってしまったんだベルェ……。

 というか助けられて惚れるって完全にヒーローとヒロインの関係逆転してないか? ハッ! まさかベルがヒロインだったのか!?

 そういえば、この話ってベル聞いていたんだっけ。周りを見渡して見ると―――居た。カウンターの向こう側、店員達が奇妙な目で見る視線の先に白い髪がピクピク震えている。あのクセ毛は間違いなくベルだ。というか自分の話をされていると気づいたのか見えている髪の部分が物凄くピクピク反応している。本当に兎かお前。

 

「じゃあ質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 ―――なんて事思っているうちに何か凄い発言がベートの口から飛び出してきた。

 

 えっ、これって要するにプロポーズですよね? 狼人風だけど、告白より先にプロポーズするとか酒の力って本当に恐ろしいな。

 酔った勢いというのは残念だが、告白内容はベートらしくていいと思う。何というか、『俺の女になれ』的な。果たして結果は!?

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

 一切躊躇無く振られたァ―――!! しかもあの顔、ガチで嫌がっている時の顔だ。どんまいベート。恐らく明日になったら綺麗さっぱり忘れてロキとかに吹きこまれてショックを受けると思うけど、俺はきみを応援してるよ。あとで骨付き肉とか持っていってやるからな?

 しかしツガイ……というかお嫁さんかー。俺にもいつか欲しいけど、正直バージルが家族団らんとしている姿なんか想像できないし。あっ、でも子供いるんだし大丈夫か?

 俺、結婚して子供が出来たらネロって名付けるんだ……!

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

「――――ッ!」

「ベルさん!?」

 

 何て考え事をしていると、誰かが席を立って駆け出す音と店員の悲鳴が。そちらに意識を向けると、白い髪の少年が店を飛び出していった。……というかベルうううううううううゥゥゥッ!!

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「あぁン? 何事だ?」

「おっ? 食い逃げかぁ? ミア母ちゃんのところでやらかすなんて怖いもん知らずやなぁ」

 

 突然の事態に困惑しながらざわめく客達とは裏腹に、バージルだけは飲んでいた酒を机に置くと立ち上がり、店員に近づくとお金を手渡した。

 

「先ほど出て行った客の支払いだ。釣りはいらん」

「え、あ、あの……」

 

 問答無益に金を手渡すと、それを見ていたロキ達が騒ぎ出す。

 

「何やバージル、何も自分が払わんくてもええやろ」

「そうそう! 何ならこの雰囲気をぶち壊しにしたベートに払わせればいいって!」

 

 ロキ・ファミリアの席を見れば、諸悪の根源とされたのかベートが「ぐぉおおおおおおおおおお!?」と口も縄で縛られまともな悲鳴すら上げられず全身を縛られ宙ぶらりんに吊り下げられている。その様は机に並べられている料理もあってか狼人の丸焼きにでもしそうな勢いだった。

 もはや先ほどの食い逃げ犯の事は忘れ、他の客もそれに便乗し活気が先ほどのどんちゃん騒ぎにも増しそうな雰囲気の中、バージルは静かにその爆弾を告げた。

 

 

 

「そういう訳にもいくまい。身内の後始末を付けるのは当然だろう」

 

 

 

 刹那―――空気が凍った。

 バージルの発言に活気づく酒場が嘘の様に静寂に包まれる。アイズは勿論、縛り上げられているベートや縛り上げていたティオナやティオネ、冷静沈着なリヴェリアやフィン、そして普段細目で笑うロキすらも目を見開いて驚愕していた。

 まるで時間が止まってしまったような静寂。それを恐る恐る神であるロキが破った。

 

「……身内って、あのファミリー?」

「それ以外に意味があるのか?」

 

 何を馬鹿げた問いをとバージルが嘆息し、店の外へと視線を向ける。そこから飛び出していった白髪の少年の事を思い描いているように、彼は告げた。

 

「奴はベル・クラネル―――俺の弟だ」

 

 その言葉が、静寂を突き破る爆弾の起爆スイッチだった。

 

『お、弟ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッッッ!?』

「嘘、全っ然似てない!? バージルがロキ・ファミリア(ここ)に来た時はもっと『世界全てを憎んでます』的な目だったよ!?」

「というかバージルだったら迷うこと無く喧嘩売ってるわね」

「入団試験でLv.3に恩恵無しで挑む様な人だしねぇ……」

「それってあの伝説の?」

「確か、リヴェリア様がいらっしゃらなければそのまま死んでいたかもしれない重傷を負ったと聞いていましたが……本当だったのですか?」

 

 バージルの爆弾発言にその場にいた一同が一気に騒ぎ立つ。僅か四年でLv.6に登り詰めたバージルに弟がいたなどという話は一切無く、そんな話が出れば騒ぎになるのは当然の結果だった。

 皆が騒ぎ立つ中、居心地の悪そうに後ろ頭を掻きながらロキはバージルに話しかける。

 

「あぁー、もしかしてさっきベートが言っとった”トマト野郎”っていうのは……」

「ベルの事だろう、俺もその現場に居合わせていた」

「うわぁ~、そりゃあ最悪やな。自分の事を笑い話にされたらショックで逃げ出したくもなるやろ。何処のファミリアかは知らへんけど、後で謝っとかんとな。ミノタウロスの件は完全にうちらの失態やし。バージルも不愉快な気分にさせて悪かったな?」

 

 身内を笑い者にされれば誰だって苛立つのは当然だろう。そう思い「今夜は狼人鍋じゃあー!」と完全に諸悪の根源と化したベートに更なる制裁を加えんとするロキに対し、バージルは顔色を変えず告げる。

 

「構わん。ベートが言った事は間違いではない」

 

 ピタリと、再び騒音が止んだ。肯定されるとは思っていなかったのかベートすらも息を飲んでバージルを見る。誰もがバージルの放つ独特の雰囲気に呑まれて押し黙る中、大声を出してもいないのにも関わらず良く響くバージルの言葉が大気に木霊する。

 

「力こそが全てを制する。弱き冒険者に存在価値などない。力がなければ、自分の身さえ守れはしない。そんな弱者を救うなど、ナンセンスだ。力なき者は滅びるのみ……それが真理だ」

 

 その言葉に、誰も否定することが出来なかった。それがバージル以外の誰かが言ったならば否定する事が出来ただろう。その場にいた皆が知っていた。それを告げたこの男こそが誰よりも力を求め、力を手に入れてきたことを。

 静まり返る酒場。それを見回すとバージルは蒼い外套を翻しながら店の外へと身体を向ける。

 

「……どうやら少し酔ったらしい。夜風を浴びてくる」

 

 自分がこれ以上ここに残るのは賢明な判断ではないと悟ったのか、バージルは足音を立てながら『豊穣の女主人』を後にする。

 残ったのはまるでお通夜のような静寂。一人去って行ったバージルを追いかけようとアイズが席を立とうとするが、それはやんわりと肩に置かれたロキの手が制していた。

 

「ストップやアイズたん。ここはうちに任してくれへんか?」

「…………」

 

 主神にそう謂れ、アイズは葛藤するように眉を潜めた。このままロキに任せていいのか、仮に自分が行ったとして何を言えばいいのか、胸の中でわだかまる思いを抑えるように胸前に手を置くアイズに、ロキはまるで何もかも見通しているように肩を撫でて安心させる。

 

「まあアイズは少し落ち着いて冷静になってから来ればええで? ……少し、厄介な奴の気配もするしなぁ」

 

 後半の呟きは誰にも聞かれること無く虚空に消える。微笑むロキの目、その僅かに開かれた瞳は彼女にしか解らない何かを感じとっていた。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 薄暗い夜の大通りをバージルは一人歩いていた。深夜に近い遅い時間帯であるためか、人の姿はなく街灯の明かりだけが夜道を覚束ない光で照らしている。本拠(ホーム)である『黄昏の館』に向かっていた脚がふと止まると、その視線がオラリオ建造物の中で最も高いバベルに向けられる。

 きっと今頃、彼は―――

 

「―――その気色悪い視線をやめろ、フレイヤ」

 

 その思考を遮るように、バージルの殺気が一箇所に向けられる。誰もいないはずの路地裏、しかしバージルが殺気を向けた瞬間、誰もいなかったはずの路地裏の暗闇に二人の影が浮かんでいた。

 

「ふふっ、随分な挨拶ね、バージル」

「…………」

 

 オラリオ内最強のファミリアと呼ばれている【フレイヤ・ファミリア】のその主神であるフレイヤと、オラリオ最強の冒険者と謂れるただ一人のLv.7、【猛者(おうじゃ)】オッタルがそこに居た。

 コツコツとフレイヤの足音が響きバージルに近づいていく。その眼は近づくにつれ熱を帯び、まるで火に誘われる夏の虫のように手が伸びる。

 フレイヤは美の化身。その『魅了』は喩え神さえも魅了する。その彼女の手を拒む者など存在するまい。

 

「その眼をやめろ、三度は言わん」

 

 ―――ただ一人、バージルを除けば。

 近づくのを拒むように、いつの間に抜かれていた【フォースエッジ】がフレイヤの喉元に警告として置かれていた。その瞳はフレイヤを前にしても何ら変わりはなく魅了に掛かってなどいない。

 ただ一人、フレイヤの魅了が効かない存在。言わばフレイヤにとって天敵とも呼べる存在を前にして彼女は、

 

「………ああ、やっぱり貴方はいいわ。とても綺麗な色」

 

 フレイヤは笑っていた。頬を赤くし、まるで恋する乙女の様に。喉元に剣を突き付けられているのにも関わらず、そんなことは気にも止まらないと射抜く眼光を受け止める。

 彼女の眼は魂の色を見抜く。その純粋な輝きにフレイヤは見とれていた。

 

「…………」

「いいのよオッタル。私なら大丈夫だから」

 

 喉元に突き付けられている剣に対し、彼女の守護者であるオッタルが己の剣に手を伸ばすがそれをフレイヤが制止する。彼女はまるで愛撫のように自身に向けられた剣に触れる。

 

「無色ではなく、透明な色。無垢な魂じゃなくて何者にも染まらない色。不変であり絶対の輝きを放つ魂。………あの子も、貴方と同じ色をしていたわね」

「ベルに手を出すつもりか」

「……だとしたら?」

「―――好きにしろ」

 

 バージルの言葉が意外だったのか、フレイヤの目が僅かに見開いた。

 

「意外ね、てっきりやめさせると思ったのに」

貴様ら()風情の試練を乗り越えられぬようでは、奴もそれまでだったというだけの話だ」

()の試練では、不足かしら」

「当然だ。貴様らが望んでいるのは弱者が強者を打倒する英雄譚だ。だからこそ貴様らは必ず乗り越えられる試練しか与えん。それを手緩いと言わず何と言えばいい」

 

 譬えば、何の恩恵も与えていない子に龍を討伐しろという神はいないだろう。それは絶対に不可能だと神自身理解しているからだ。だからこそ必要な環境、必要な武器、必要な感情、それら全てが揃えば確実に打倒できる試練を神は与える。

 神は試練を乗り越えて欲しい。だからこそ絶対に乗り越えられぬ試練などは与えない。必ず正解が存在する試練。それを生温いと言って何がおかしい。

 

「……貴方にとってみれば、その通りなのかもしれないわね。神の試練ではなく、自らの試練を乗り越えてきた貴方なら」

 

 フレイヤは知っている。この男が乗り越えてきた試練は、誰が仕組んだものでもない事を。この男は自ら絶望的な試練に挑み、それを何度も乗り越えてきた冒険者だ。

 故に、だからこそ思ってしまう。その日に日に輝きが増していく魂を見るたびにその思いは増していく。

 

「ねえバージル。私のところに来ない?」

 ―――貴方が欲しい。貴方の全てを手に入れたい。

 

 フレイヤの言葉にバージルは眉を潜め、話は終わりだと言わんばかりに剣を背後に背負う。射抜く眼光はフレイヤに対し一切の熱を帯びていない事を明確に告げていた。

 

「前にも言ったはずだ。ロキ・ファミリア(奴等)には借りがある。その恩がある以上、俺は【ロキ・ファミリア】のバージル・クラネルだ。それになにより―――」

 

 続く言葉は、明確にフレイヤの胸を抉り抜いた。

 

「―――貴様には全くそそられん。それが全てだ」

 

 お前になど何の興味もない―――美の女神が聞けば憤怒する言葉を一切躊躇無く告げる。それに対し、フレイヤは身体を震わせていた。

 だがそれは決して怒りから来るものではなかった。身体を震わせる衝動。

 

「ああ、やっぱり私は、貴方が欲しい」

 

 それは、自分のものにならない未知の歓喜だった。

 

「―――そこまでにしときや、フレイヤ。振られた女が何度アプローチ仕掛けてもしつこいだけやで」

「……ロキね」

 

 今までの様子を見ていたのか、ロキは微笑を浮かべながらバージルの横に立っていた。

 まるでここが自分の場所だと言うように。

 

「まあこいつは諦めるんやな。なんせこいつは【ロキ・ファミリア】のバージル・クラネルやからな。なぁーバージルー?」

「……何の話だ?」

「そんな恥ずかしがらんくてもええんやでー! うちらに恩があるんやろ、うぅん?」

「―――神殺しか、それもまた一興だろう」

「うおぉっ!? ちょおま、今本気やったやろ!?」

 

 戯れ合う二人を見て、今日はもうここまでだろう。フレイヤはそう判断すると、オッタルに帰還の命を告げる。

 

「オッタル、今日はもう帰るわよ」

「ほらバージル、うちらも戻ろうや」

 

 二人の神は互いに反対方向へ歩き出す。しかしその二人の後に続く足音が響かない。バージルとオッタルは互いに向き合ったままその視線を交えていた。

 

「オッタル?」

「どうしたんバージル?」

 

 二人は動かない。オッタルは自身に向けられる殺気を感じていたため、バージルはオッタルに用があったのだから。

 

「何故貴様がここにいる、オッタル」

「フレイヤ様の護衛だ」

「ならば解りやすく言い換えてやろう。―――いつまでその無様な姿を晒す気だ」

「――――ッ!」

 

 バージルの問いにオッタルは応える事が出来なかった。それはもはや条件反射の領域。バージルは背中の長剣を抜くのと同時に前方へ強烈な突きを繰り出していた。それを紙一重で剣を抜いたオッタルが受け止める。

 音が遅れてくるほどの速度。金属がぶつかり火花が散り、衝撃は周囲の空気を吹き飛ばす。剣の腹でギチギチと揺れる剣を受け止めるオッタルに対し、先端を突き立てるバージルは冷淡に告げる。

 

「二年前、俺は貴様に剣を抜かせる事すら出来ず敗北した。だが今は剣を抜いた。つまり―――俺の剣は貴様の首に届くと思っていいのだな」

「――――!」

 

 その言葉の返答は斬撃。払われた剣によって両者の身体が僅かに後退し間合いを取る。

 その直後。

 

「そこまでやバージル」

「貴方もよ、オッタル」

 

 二人の主神であるロキとフレイヤによって制止が掛かる。元々これ以上争うつもりはなかったのか、二人は大人しく剣を仕舞う。

 

「貴様、いったいいつからダンジョンに潜っていない」

 

 バージルの懸念は剣を交えた事で確信に変わり、その視線が更に鋭くなる。二年前に敗れたあの日から、バージルは一日たりともその日の出来事を忘れた事はない。だからこそ確信する。確かに二年前よりバージル自身のLv.も上がったのも原因の一つだろう。だがそれ以上に、あの日のキレではない事をバージルは確信した。

 

「次相見える時は、嘗ての雪辱を果たさせて貰う。それまでにその錆を落としておけ。全盛期の貴様を倒さねば意味が無い。もし再び無様な姿を晒す様であれば―――貴様を殺す」

「……来るつもりか、頂上(ここ)に」

「違うな、Lv.7(そこ)は通過点に過ぎん」

 

 頂上だと思うオッタルと、通過点だと言い切るバージル。

 二人の放つ覇気に空気が痺れるような雰囲気に包まれるが、それを無視するようにバージルは振り返りロキの横を通り過ぎる。

 

「ちょ、全くすまんかったなうちのバージルが。こらー! 何いきなり喧嘩売ってんねーん!」

 

 慌ててその背後を追い掛けるロキの姿を、フレイヤとオッタルは黙ったまま見つめていた。ふと、オッタルの視線が自分の右腕に向けられる。

 先ほど剣を受け止めた腕は、僅かに痺れて震えていた。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 月明かりが照らす大通りをバージルとロキは沈黙のまま歩いていた。普段口が軽いロキにしては珍しいが、その表情は眉を寄せながら難しい顔で前を歩くバージルの横顔を見ている。

 正直に言おう。ロキにとってバージル・クラネルという存在は全くもって未知な存在だった。

 ロキは自分の子である【ロキ・ファミリア】の皆を大事にしている。誰一人死んで欲しくないと思っているし、危ないことをしてほしくないと思っている。

 だからこそ、ロキにとってバージルは彼女にとって初めて厄介な人物だった。

 はっきり言ってバージルの成長速度は異常だ。神会(デナトゥス)では『神の力(アルカナム)』を使ったのではないかと疑われた事もあり、何より彼はダンジョンを一人で攻略する傾向があった。

 確かにその成長は快挙だろう。だが思ってしまう。その閃光のような生き様はまるでいつか―――閃光のように一瞬で消えてしまうのではないのかと。

 どうすればいいのか天界きっての悪戯者(トリックスター)の自分でも解らない。

 

「……なあバージル。何で自分、そんなに強くなりたいんや?」

 

 弱音めいたロキの呟きに対し、バージルは振り返りもせず、しかし普段の冷静な声とは違いそれが真実だと熱の籠もった声で告げた。

 

「俺の魂が叫んでいる。―――I need more power.(もっと力を!)

 

 それがバージルの強さを求める理由。

 その答えを聞いたロキは思わず立ち止まった。背後など気にせず前へ進むバージルの背中を眺め、思わず額に手をあて天を仰ぐ。

 

「……ほんと、どうすればええねん」

 

 その呟きは、闇の中へと消えていった。

 




DMC4se買いました。ネロとダンテ編クリアしてバージルを操作して思ったこと……バージル早すぎて何やってんのか解かんねえ!?

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