やはり捻くれボッチの青春は大学生活でも続いていく。 作:武田ひんげん
サマーホリデーと言う名の長期休暇が翌日に控えたある日、休暇中に実家に帰って来いだとか、地元の友達に会いにいくだとかそういう類の事が一切ない俺は予定に苦しんでいた。サークル仲間は地元のジェームズを除いて国に帰るようだしどうしたものか。とりあえず日本から持ってきた本を毎日読むか。それかプレステでも毎日するか。そういえば陽乃はどうするのだろうか。俺はまったく陽乃の休暇中のスケジュールはどうなってるんだろうか。もし実家に帰るなら俺もついていった方がいいのか。とりあえず今夜聞いてみようかな。
――――――――――――
「え?うん、実家から呼ばれてるよー」
これからの予定を陽乃に聞くとあっさりと答えてくれた。
「あー、でも八幡は来なくていいよ。私だけ来なさいって言われてるから」
「そ、そうか…」
まじか、それじゃ俺もう予定ホントにないじゃん。
「どうしたのー?私と会えなくて寂しい??」
すごく意地悪に聞いてくる陽乃…可愛い。なんか俺そういうのに完全にめざめているようだ。これはあれだな、Mっ奴か?いや、気持ちいい!なんて感じないから大丈夫だよねうん。
「でもほんとに寂しいかもねー…。帰ってくるの大学再開の前日だからね」
「え?てことは丸々いないのか?」
「うん。まあ、色々顔出さないといけないところとかあるから…。でも大丈夫よ、毎日電話するから!」
そう入ってくれるけど電話と実際に会って話すのとではやっぱり違うんじゃないか?それが顔に出たのか陽乃は、
「大丈夫よ、毎日電話口で愛してるとか、ラインで写真とかいっぱいおくるから。毎日送ってあげるわ!欲しいのならエッチな写真とかも送ってあげるわよ♪」
「おう。だがエッチな写真は自重してくれ」
でも陽乃がそう言ってくれるのは嬉しかった。まあ、エッチな写真はできればやめて欲しいけどな。…決してフリとかじゃないからね?そういいながらホントは送って欲しいとかじゃないからね?勘違いしないでよね?…おええーきもーいわ!俺キモいわ。口に出さなくてよかったー。口に出してたら死んでたわ。
「今フリとかじゃないからね、とか思ってたでしょ?大丈夫よ、節度は守るから♪」
…あなたはエスパーですか?
――――――――――――
久しぶりにやってきた空港。目的は陽乃を見送りに来たことだ。
「それじゃ八幡、またね!」
「おう」
といいながら内心すこし寂しさがあった。その寂しさを感じ取ったのか陽乃は、
「大丈夫、また会えるよ…」
俺たちはいつの間にか互いに顔を近づけて―――。
「ん、八幡、満足した?」
「…いんや、もうちょっと…」
「もー八幡がデレたー♪」
「うっせ…」
人目もはばからずキスする俺達はさぞ目立ったことだろう。でも俺達は全く気にならないほど二人の世界に入っていた。
――――――――――――
あー…なんしようかな…なんもしたくねーな…。
陽乃が日本に帰国した翌日、俺は倦怠感に襲われていた。原因はもちろん陽乃が帰って行ったことなんだが。今の俺の状況を見ているだけでここ一年近くで陽乃が俺の心の大部分を支配しているんだということが分かる。ほんと色々あったよなー。誰が大学イギリス留学するなんて思ったことか。
ちょうどその時、ぐぅーと、腹の音がなった。そういえばもう3時なのに昼飯はおろか、朝飯すら食ってねーな。やべー、なんか食わねーと。
ガチャっと冷蔵庫を開けるが…、ほとんど何も入ってなかった。ましてや今の気分は食材を買ってキッチンで作るなんて気分ではないので、なにか外食をすることにした。そうだ、この前行った日本食レストランにしよう。
――――――――――――
レストランに着いて、この前来た時に食べたカレイの煮魚を頼んだ俺は、ここでの思い出を思い出していた。といってもつい最近の記憶でかつ、一回だけだけど。
ここでは2人で食べさせ合いとかしたなー。あーんとかいって。あー、思い出したらなんか会いたくなる。だめだ、思い出したらキリがない。
「お待たせしました」
店員さんに運ばれてきたカレイを一人で食べる俺。…あー、なんかあんまり味わかんねーな。
そんな時、俺以外客がいなかった店に一人客が入ってきた。
その女性の客は、金髪のロングの日本でいう渋谷系というのか?そういう女性だった。もちろんここはイギリスなので金髪は地毛だろうが。
その女性は俺の向かいの席に座った。なんか表情が俺と同じようにどんよりして見えたのは俺だけだろうか。
その女性は注文を頼むと、さらにどんより度がましたように腐った目をしながらこっちを見てきた。
女性はこっちを見た途端、表情が暗く陰鬱な表情から正気の顔になって来た。そして…なんかこっちの方に近づいてきたー??
俺は呆然とその様子を見ていると、気がつけば俺の席の横で立っていた。そして早口で、
「あなたってジャパニーズ??ホンモノ??」
「え、ええ…」
「ワーオ!ジャパニーズだわ。始めてみたわ!ねえねえ、サムライの国ってどんな感じ?ちょんまげいる?」
「い、いや…いないけど」
俺は勢いに蹴をとされかけたけど一つ言えることがある。こいつ、アホだなと。
「ねえねえ、日本ってすごいよね!だってサムライだよ、セップクってかっこいい!」
こいつ、ほんと誰かどうにかしてくれ。俺はとにかく早くどこかへ行って欲しいと願っている限りだった。
「なんでそんなにどっかいってほしそうな雰囲気だしてんのー?そんなに…いや?」
「…おれは静かに過ごしたいんで…」
「ふーん、クールボーイなんだー。ジャパニーズは噂通りだね。ま、いいや、そっちの方が都合いいしね」
何故かウインクをしながら行ってくる金髪女は俺の隣に座ってきた。…え、なに?
「あたしはジェシカよ。あなたは?」
「…なんで言わなきゃいけないんだよ」
「いいじゃーん、折角会った仲なんだからさー。それにジャパニーズに興味もあるし。で、君の名前は?」
「…比企谷だ」
「ファーストネームは?」
「…日本じゃ普通あって早々のやつにファーストネームで呼び合うなかなんてねーよ」
多分、と心の中で注訳を入れておいた。だって詳しくないからね!
「ふーん、でもここはイギリスだからファーストネームでも問題なーし。で、名前は?」
「…八幡だ」
「オッケーハチマン、よろしくね!」
と、金髪のジェシカはニカっと笑った。その笑顔はまるで少女の様な軽やかな笑顔だった。軽やかなってなんだよ。
「そういえば、なんでさっきあんな死んだ目してたんだ?」
「…え?」
言ったあとに気づいた、失敗したなと。そうだ、まだその時は赤の他人だったので見ていたとなるとすごい不自然じゃん、うわー、相手にペース狂わされてたからって墓穴掘ったわー。
当のジェシカは少し驚いた表情を見せた後、
「あのねー、突然暗い話になるけど、聞いてくれる?」
「…おう」
「あたし、さっきボーイフレンドに振られたのよ」
俺はどんな暗い話が来るかと心構えをしていたけど、やはりあまり深刻な話ではなかった。しかしジェシカの表情が曇り始めた。
「その、すごく優しくて、イケメンで皆の憧れみたいな男だった。私はそんな奴と付き合えててすごく嬉しかったし楽しかった。幸せだったしね」
ジェシカは、セリフの割には表情は真逆でどんよりしていた。
「ほんとに完璧で、人気者で誰にでも優しいあいつがあんなことするなんてね…」
なんかすごい嫌な予感がする。聞きたくないような。でも、ジェシカの表情を見たらそうは行かなかった。
すると、ジェシカはすこし涙目になりながら、
「あいつ…私に…暴力を振るうようになったの…」
「っ!」
それって…いわゆるDVだよな。ジェシカはついに泣き出してしまった。そりゃそうだよ、誰にでも優しい王子様が実はDVをするなんて。
「最初はね、ストレスが溜まってるんだとか思ったの…だから耐えてたんだけど…どんどんね、エスカレートして行くの…。でも、私はなんとか受け入れてたの。でもね…今日、あいつから別れようって言ってきたの。多分あいつなりの優しさだったんだと思う。暴力を振るったあとにもすごい優しくなってたんだけど、やっぱりあいつもきっとね…うん」
俺はここで一つ思った。ジェシカは実はすごい優しいやつじゃないかって。そしてそのジェシカの元カレは…優しくない、クズ男ではないかと。所詮は大学のエセイケメンというところなのだろう。一見、みんなから人気があって、誰にでも優しくて人望があるように見える王子様タイプだが、中身はそんな大きな器を持ってなかったというところだろう。辛かったんだろうなジェシカは。恐らくジェシカもそいつに他の奴と同じような理想を描いていたんだろう。でも、付き合い出して本性が見えてきたところで段々と気づいたんだろう。だけどジェシカはそこでそいつを見捨てずに優しく包み込もうとした。暴力にも耐え、恐らく誰にも本性のことを言っていないんだろう。だがジェシカに俺は同情というのはしたくない。決して理解できないということではなく、これは俺も同じような経験をしたからわかるが、そういう痛みというのを他人に勝手に同情されると逆に腹が立つんだ。何わかった気になってるんだって。お前俺のこと知らないだろって。だから俺はジェシカに対して何も言わないことにした。
するとジェシカはこっちを向いて、
「ごめんね、なんか辛気臭い話して」
ニカっと笑うジェシカ。
「お前笑ったほうがいいな…」
「え?」
あ、しまった。つい心の声が口に出てしまった。ジェシカは一瞬固まったあと、
「ふふっ、あっはっはー、なにそれ! 」
「う、うっせ…」
やばいわ、これ帰ったら布団の中であー!って叫ぶパターンのやつやわ。
何を言われるのかビクビクしながらジェシカの方を向くと、
「それはあんたなりの気遣いなのかね、私の話もずっと聞いてくれたし、その後もずっと考えてくれてたみたいだしね。日本人はほんとに義理人情に堅いのね。でも、ありがと、あんたのおかげでスッキリしたよ!」
再びニカっと笑うジェシカ。やべ、こいつやっぱ可愛いな。って、いかんいかん、陽乃がいるってのに何考えてんだ俺。ばかじゃないの?ばっかじゃないの?…おえ、気持ち悪い。
「ねえ、あんたの携帯番号教えてよ」
「え?」
な、何言ってんだコイツ。だけど、こいつなんか目ウルウルさせてるし。な、なんだ?
「ねえ、こういうこと話せるの今のとこあんただけだからさー、ねえー」
そ、そんな餌をほしがる子犬のような顔されちゃ…。
「…わかったよ、ほれ」
携帯渡すしかなかった。
「え、そんな無防備でいいの?」
「いいんだよ」
「日本って警戒心薄いのね…」
「いや、俺だけだと思うぞ 」
「ふーん」
ジェシカは素早いタッチさばきでアドレスを打っているようだ。と、ジェシカの手が止まった。
「…ねえ、この人あんたのガールフレンド?」
ジェシカは陽乃のアドレスを指さしながら聞いてきた。え、なに、お前エスパー?
まあ、隠しても意味ないしな、正直に答えよう。
「そうだけど、なんでわかったの?」
「まあ、カンってやつ?それにしても彼女いたのねー。…へえー」
なんか表情がすこし曇ったように見えたのは気のせいだろう。
「よし、じゃまたいつか呼ぶからね。それじゃ!」
「お、おい、そんなこと許可した覚えは…」
俺の話なんか聞かずにさっさと会計を済ませて出ていってしまった。はあー、なんかめんどくさいことになったなー。
続く
ここに来てのオリキャラ。陽乃ファンの方々、前半のみで終わってしまいすいません。
まあ、外国ですから一人くらいはそういう存在も必要ってことで許してください。
さて、続編はまあ近いうちに書きたいと思います。お楽しみに。
ではこれからも応援よろしくおねがいします。ではまた。