喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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こんばんはー。ここで凡夫からメッセージがあります。

「さぁ立ち上がれ非リア充(コモンズ)!今こそ俺達の力を一つにする時!リア充(トップス)の奴らを引き摺りおろし、俺達の味わった苦しみを味合わせてやるんだ!」


私からのクリスマスプレゼント(ファンサービス)だ!とくと味わってくれよ!


サンタオルタさんとトナカイ士郎くん

「……ろ、きろ……」

 

レム睡眠の海へ沈んだ士郎の意識に、凛とした透明な声が降り注ぐ。その声に後押され、士郎の意識ははっきりと覚醒に向かって行く。今、彼は蜘蛛の糸を手繰り寄せる様に、仰向けの姿勢から右手を天井へ向け伸ばした。

声の主はその手を固く握り、ぐいっと引き上げる。急激な運動。全身で衝撃を感じた士郎は段階をすっ飛ばして完全なる覚醒を迎えた。ぼやけから晴れた彼の視界に映ったのは、どこか纏う雰囲気の違う、セイバー・アルトリア。

 

 

「ようやく起きたかシロウ」

「む……、セイバー?」

 

 

消灯された部屋は非常に暗い。おそらく近くにあるアルトリアの顔も、今の士郎にははっきりとは見えていない。故に、彼は彼女の明確な変化をぼんやりとした掴めていなかった。

アルトリアは士郎の顔を数度叩く。ぺちぺち、地味だが少し痛い。

 

暗闇に慣れると、見えてくる物も次第に増える。彼女の頭には黒い帽子、よく見たら寝間着の面影も無い洋服。背に負った白い布袋。何かのコスプレだろうか。いや、彼女が滅多にその様な真似をするとは思えないし、仮にするとしてもこんな深夜には絶対に行わない。本来なら、彼女は今頃夢の中で美味しい物に囲まれているはずだ。

そんな士郎の困惑を他所に、アルトリアは彼の頬をつまみ、ぬいっと引っ張る。直後、手を離したアルトリアはその場で一度ターンし、今の自分の姿を見せた。

 

 

「シロウ、訂正がある。今の私はセイバーでは無くサンタオルタさんだ。その辺りをしっかりと区別しろ」

 

 

どうやら、サンタさんらしい。

士郎の困惑は複雑化を極めた。何故サンタの格好をしているのか、何故起こしてまでそれを見せる必要があるのか。

あっ、士郎が少し抜けた声を上げた。そう言えば、今日はあの日だ。

 

 

「十二月二十四日……クリスマスイヴか。セイバー……じゃなくてサンタオルタ、美味しい食べ物でもプレゼントして欲しいのか?」

 

 

ここで士郎は今のアルトリアの格好を、一種の意思表示だと仮定した。仕方無い、明日は鏡夜の喫茶店で小さなパーティをするのだが、彼に頼んで一品程追加して貰うとしよう。

するとアルトリアは首を横に振った。それも魅力的だが、と名残惜しさを満遍なく孕んだ呟きを零しながら。

 

 

「今日の私は配る側だシロウ。さあ準備しろトナカイ(マスター)!」

 

 

アルトリアは士郎の右腕を掴む左手に十分な力を込め、彼の骨身をベッドから引き摺り下ろした。もちろん、落下時の衝突のダメージは士郎に回る。

 

 

「ストップ!ストップサンタオルタ!どこ連れて行くんだよ⁉︎」

「ソリだ。行っただろう?今日のシロウはトナカイだと」

「俺は空飛べないぞ⁉︎」

「安心しろ、諸所の問題はマーリンの遺した術式を使えば解決する」

 

 

一体マーリンは何を遺したのだろうか。尋ねたかった士郎だが、彼の本能がそれ以上奥を触れてはいけない領域と断定した為、喉まで上がって来ていた疑問を飲み込んだ。

 

 

 

ーー

 

 

玄関前に立派なソリが鎮座している。その座席部へアルトリアは乗り込む。そして士郎は靴箱の上に置かれていた茶色の服ーーーつまりトナカイのコスプレを着込んだ。このコスプレ衣装、何やら術式が施されているらしく、アルトリア曰く聖夜と認定されている日のみに装備者に飛行能力を与えるのだとか。いよいよ突っ込みが追いつかなくなってきた士郎は半ば諦めた顔付きで、しかしどこかワクワクしながらそれを纏う。空を飛ぶのは全人類の夢だ。

さて、とアルトリアはポケットから一枚の紙を取り出した。片手でそれを開き読み上げる。どうやらサンタさんに渡す手紙らしい。一通目の差出人は誰だろうか。士郎は尋ねた。

 

 

「無名だ。しかし欲しい物で分かるぞ。『ダークx30』とな」

「ああ、鏡夜の所のアサシンだなそれ…」

「間違い無い。さあ行くぞシロウ!イヴの星空を思う存分駆けるが良い!」

 

 

セイバー・アルトリアが理想的な名君だとするならば、サンタオルタ・アルトリアは理想的な暴君だろう。言動が波乱万丈、こちらの事を全く考えていない。

しかしそれでも、他ならぬ彼女の気まぐれなのだ。付きやってやるのがマスターの務めだろう。士郎は腰回りにロープを巻き付け、梶棒を強く握った。そして、跳躍ーーー。

 

 

「うおぁ⁉︎」

「ふむ、これは中々に気持ちが良いな。駆け上がる瞬間の震動がまた心地良い。シロウ、普段陸上を走る要領で空中を蹴ってみろ。思う様に進めるはずだ」

「ええと……!これだっ!」

 

 

左足で虚空を強く踏む。重心を右に傾け、空いている右足でブースト。欲した右方向へのターンが決まった。

思わす士郎の顔が綻ぶ。彼とてまだ少年なのだ。こうして一夜の夢を見にはしゃぎたくなる。

 

さて、鏡夜の家はどの方角か。上空数百メートルからネオンが眩しい街を見下ろす。時刻は夜の十時、独身サラリーマン達による飲み歩きでマウント深山商店街は賑わっている。滅多には訪れない、商店街を見下ろすと言う経験。あまりにも違って映るその景色を士郎は楽しんだ。ソリでどんと構えるアルトリアもどこか柔らかい表情だ。

 

 

「あそこだな」

 

 

見つけた。鏡夜の家はマウント深山商店街から少し離れた所にある高級住宅街の中の一角にある。彼曰く、「ばーちゃん」の遺産の内の一つを改修して使っているとか。

そしてどうやらこのソリ、高度な認識阻害の魔術式までもを内包しているらしい。士郎は着陸地点を鏡夜邸の裏庭に定めた。

 

着陸。その感覚的には階段を三段程ジャンプした物に非常に近しい。アルトリアはソリの静止を確認すると、軽快な身のこなしでソリから飛び降りた。

 

 

「なあサンタオルタ、どうやって家の中に入るんだ?」

「キョウヤの家には煙突が無いからな。正攻法で開錠の魔術で窓から入る。全く、煙突が無いとはどう言う了見だ」

「待てよ……、ひょってしてこれ犯罪じゃあ…」

 

 

ひょってしても何も犯罪以外の何物でも無い。しかし、その程度の事ではアルトリアを止める事は叶わない。気付けばアルトリアは既に窓の開錠を終えていた。

 

 

「入るぞシロウ」

「えぇ⁉︎ちょ、ちょっと待ってくれサンタオル……むぐぅ!」

 

 

袋の口を握っている左手とは反対の手、つまりフリーの右手を使いアルトリアは士郎の口を塞いだ。ここで騒いでしまっては彼らが目覚めてしまう。そうなればこのお遊びは破綻するのだ。

 

 

「静かにしろシロウ」

「ぶはぁ…!わ、悪いサンタオルタ。忘れてた」

「反省したのならばそれで良い。さて、早速プレゼントを配るぞ。私はアサシンとドラ娘の分を配る。シロウはキョウヤとダルクズの分を任せた」

 

 

アルトリアはポケットから何枚分かの手紙を取り出し、それを士郎に渡す。士郎が手紙を読んでいる内にアルトリアは白袋の中から小分けされた黒袋を取り出した。どうやら、その中身が士郎のノルマらしい。

 

 

「了解。そーっとそーっと……」

 

 

アルトリアと別れる。

抜き足、差し足、忍び足。アサシンの寝室のドアを開け、暗闇に包まれた廊下を手探りで歩く。見つけた、白い方のジャンヌの部屋だ。

 

 

「ええと、プレゼントは……特に無し?流石ジャンヌ・ダルクと言うべきか……」

 

 

書き直しの後は認められるが、本当は何か欲しい物でもあったのだろうか。だが、その先はトナカイ士郎には関係の無い話だし、首を突っ込む権利も無い。士郎は身体を百八十度回転させ、向かいの黒い方のジャンヌの部屋の扉の前に立つ。ぱさっ。手紙を開いた。

 

 

「『大人数で遊べるボードゲーム』?へえ、意外と俗っぽいんだな」

 

 

袋を床に置き、中から大きな箱を取り出した。所謂人生ゲームと言う奴だ。

さて、黒いジャンヌ改めてクロは気配に敏感である。ここからがトナカイ士郎の腕の見せ所だろう。自分を鼓舞し、士郎は無音と表現しても差し支え無い程の、僅かな木の擦れる音だけを響かせ、そっとドアを開けた。

抜き足、差し足、忍び足。大きさの都合上枕元にボードゲームは置けない。士郎は近くに設置されている木製のデスクにそれを置いた。床に置くのは何だか忍びなかった。

 

退室。士郎から緊張が一度に抜け落ちる。後一人分、空白鏡夜のプレゼントだけだ。十数歩分廊下を奥へと進み、彼の私室の前に立つ。

 

 

「鏡夜が欲しいのは……高級料理包丁か。ははっ、あいつらしいや」

 

 

袋の中をまさぐる。奥の方に比較的小さな何かを掴んだ。取り出してみると、現れたのは味のある木製の箱。蓋には墨と草書で、おそらく銘柄が記されている。

ドアを開ける。二度目ともなると多少は慣れが発生する物だ。士郎の意識も心臓は先程よりも冷静だった。

包丁を枕元に置くのは常識と配慮に欠けるだろう。クロの時と同じく、士郎はそれを机の上に置いた。任務完了だ。

 

廊下を行く。アサシンの部屋に戻り、そこでアルトリアと合流した。アルトリアは士郎の顔を見ると一度頷き、手招きで窓の方に彼を呼んだ。

脱出。士郎は再びソリを引き、闇夜を翔ける。次の目的地は遠坂邸だ。

 

 

 

ーー

 

 

「さて、遠坂は何が欲しいんだ?」

 

 

ふと、気になった。心の奥深くでは予想はついているのだが、どこかそれを認めたく無い自分がいた。士郎は恐る恐る手紙を開く。折り紙サイズの正方形の中に丁寧な字で書かれていたのは「宝石」の二文字だった。

 

 

「あちゃー。やはりリンはリンだったなシロウ」

「うん、ある程度予想してた」

「だろうな。さて、早く仕事を終わらせて帰るぞ」

「あれ?プレゼントってこれだけか?」

 

 

てっきり冬木の子供達全員に配る物だと思っていたのだが。

 

 

「確かにそれを目指した事もあったがなシロウ、考えてみろ、朝起きると二人のサンタさんが来ていたのだぞ。一家に来るサンタの上限は一人だ」

「あー、なるほど。そうだったかぁ」

「それにこの術式の選択の都合もある。これは身内の深層心理にある願いを無理矢理引き摺り出して手紙に出力する物だ。つまり身内外には適応されん」

 

 

また一つ勉強になった。士郎はこのシステムを組み上げたマーリンに非常に敬服した。

いや待て、思い出す。間桐の二人の手紙が無い。士郎は問う。何故かと。

 

 

「ああ、それはだな。あの綺麗なワカメに欲しい物体が無いと言う事だ」

「ワカメって……確かに慎二の髪型はしょうじきワカメっぽいけどさ……。あれ?それじゃあ桜もなのか?」

「いや、サクラのは恐ろしくて見せられん。しかも物体の定義に当て嵌めて良いのか分からないシロモノを要求して来たからな。代替品を既に置いて来た」

 

 

このアルトリアが恐れる物とは一体。安らかに寝ているであろう後輩は何を願ったのか。いや、やめよう。士郎は思考を破棄する。ここから先は触れてはいけない地獄だろう。

 

 

「雑談の間にリンの寝室に着いたぞ。入ろう」

「お、お邪魔しまーす……」

「ーーーッハ!」

 

 

アルトリアの直感が作用する。彼女は本能の赴くままに歩き、凛のベッドの隣で立ち止まった。そしてそのまま、誰もいないはずの虚空へボディブロー。

 

 

「そこにいるのは分かっているぞアーチャー、いやエミヤシロウ。サンタさんからのクリスマスプレゼントだ。腹パンを受け取れ」

「ぐはぁ…⁉︎」

 

 

実体化したアーチャーが苦悶の声を漏らす。よく見ればアーチャー彼女の腕がアーチャーの腹部にめり込んでいるではないか。ある意味彼の同位体の士郎としてはその光景が複雑だった。そして同時に、 アルトリアの突然の凶行に士郎は困惑する。

 

 

「セ、セイバー……」

「フッ……違うぞアーチャー」

 

アルトリアがやれやれと言いたげに訂正する。そう、今の彼女はセイバーであってセイバーでは無い。その名もーーー

 

 

「私はサンタオルタだ」

 

 

その声を聞いたアーチャーは、力無く床に倒れ伏せた。心無しか、彼の顔は安らかだった。

 

 

「さて、アーチャーに騒がれても困るからな。黙らせた」

「ああなるほど、そんな感じ……」

 

 

アルトリアとアーチャーを交互に眺める士郎を背後に、アルトリアは小さな箱を凛の枕元に置く。その中身は彼女と起きた凛のみぞが、知るだろう。

全ての仕事をアルトリアは士郎へ振り向き、右手の親指をグッと立てた。

 

 

「ご苦労だったトナカイ(マスター)。私は楽しかったぞ」

「サンタオルタもお疲れ様。じゃあ帰ろうか」

「そうだな。ああシロウ、最後に一つだけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリー・クリスマスだ、諸君」




来いよリア充!彼女なんか置いてかかって来い!(アサルトライフルを構えながら)

改めましてメリー・クルシミマス。皆様は(画面の向こうの)嫁さんとどの様にお過ごしになったでしょうか。私は某パズルゲームの麒麟と(画面越しで)一緒に過ごしました。ケーキ美味しい。


最後になりましたが、平素は拙策をお読み頂き誠にありがとうございます。
頂いた感想への返信は明日になりそうです。申し訳ございません。
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