何をしていたかと言うと、部屋の整理と積んでいたガンプラ処理していました。過去の私を殴りたい。
さて、どうにか敵と思わしき大軍を撃破し、敵将である皇帝カリギュラを打ち破った鏡夜率いる聖杯探索一行は今、先刻戦場で邂逅した赤い服の女性に連れられ、首都ローマの宮廷に案内されていた。やはり彼らの読み通り、女性が今回味方につく立場の人間で間違い無いらしい。
「旅の者達よ。先程はよくぞ余の為に剣を振るってくれた。其方らの活躍のおかげで、どうにか市民の平穏は守られた」
そして彼女ーーー今代ローマ帝国皇帝ネロ・クラウディウスから礼の言葉が伝えられる。史実ではネロは男性なのだが、どうやら真なる歴史では男装の麗人と言う事らしい。
とは言え一々驚愕し呆気に取られると言う事も無い。いや、驚いたのは事実だが、それよりも前例が二名程いてくれたおかげで驚愕はざっとその八割を殺された。
「して、其方らは何処から来たのだ?見ない服装だが……」
その実、この手の質問は予測はしていたが、実際尋ねられると中々にキツい。正直に「未来から来ました」何て言っても物証が無い以上は信憑性に乏しいし、かと言って適当に国をでっち上げるのもどうかと思う。それこそ魔術師お得意の「嘘を言わずに騙す」を地で行い、「極東から来ました」と伝えても、交通手段から何まで整合性が取れない。
すると凛が一歩前に出て、その問いに答えた。
「皇帝陛下、私達は遠い未来からこの時代にやって来た者達です。我々の目的は一つーーーこの時代の修復」
「う、うむ?遠い未来からとな?ふぅむ……、其方らの生きる時代では時間跳躍すら可能とするのか……」
ちゃっかり敬語を使っている辺りは、なるべく細かな印象を良くしようと言う彼女の優雅な努力の賜物だろう。
さてここからはある意味本職と化しつつある鏡夜達の出番だ。より詳細な事情説明は彼らの方が適任と言える。
「陛下、先刻の大軍。アレらは突如として姿を現した……。違いますか?」
「其方の言う通りだ。奴らはローマ連合なる物を自称し、余のローマの半分を奪って見せた。そればかりでは無い、日に日に奴らは残る半分を奪おうと兵を差し向けて来る。先程の大軍もその一角に過ぎぬ。そしてその中には……」
「皇帝共がいるってワケか」
モードレッドの言葉にネロは弱々しく頷く。彼女からすれば、愛したローマを守った皇帝達が何故ーーーと言う立場なのだろう。あるいは裏切られたーーーか。
ネロの感情は正しい。いかなる理由があり、彼らはそのローマ連合に寝返り、そしてこのローマ帝国に牙を剥いたのか。それが釈然とせぬ限りはネロの憂鬱は晴れぬだろう。しかし、こればかりはどうしようも無い現実。
その彼女へさらなる追い討ちをかける様で気も引けるが、カリギュラ打倒の事実を告白した方が良いだろう。あるいは、もしや彼女はそれを待っているのかも知れない。
するとアーチャーが一歩出る。まさか、彼も全く同じ事を思考していたのか。
「陛下。我々は先程敵将と思われる元皇帝、カリギュラを討ち取った。ついてはその事を報告させて貰う」
「……ッ!そうか、やはりあの黄金の影と咆哮は伯父上の……。いや、いい。カリギュラもまたローマ帝国を裏切った狂乱の将。赤外套の者よ、よくぞ報告してくれた」
無理をしているのがヒシヒシと伝わる。それもそうだろう、いくら敵に渡ったとは言えど肉親は肉親。ましてやカリギュラは先代のローマ皇帝。"個人ネロ・クラウディウス"としても、"皇帝ネロ・クラウディウス"としても、気に病んでしまうだろう。
するとアルトリアがネロへ歩み寄り、そっと彼女に語りかけたり
「ネロ、貴女の気持ちは分かります。私も肉親と、そして親友と剣を交えた。それはとても辛く、哀しい事だ。だから無理をする必要はありません」
ーーーとても、重みのある言葉だ。
アルトリアは第四次聖杯戦争で、狂っているとは言え盟友のランスロット・デュ・ラックと相見える。そして生前の近因の死因はモードレッドの叛逆とカムランの丘での死闘。アルトリアはあの過去を非常に哀しい物としていた。故に、肉親と殺し合う羽目になってしまったネロの心情を一番理解出来るのだろう。
理解者を得ると言うのは最上の救いの一つだ。理解されると言う単純、かつ最も手に入り難い物を得た時、人は至福に至る。哀しみは暖かな何かで解れ、掻き消され、無に帰す。それは傷心気味のネロにも適応される概念だ。心無しか、ネロの貌が緩んだ気がした。
「ーーーすまない旅の者。余は少し感傷的になり過ぎていた様だ。さて、其方達には報酬が必要だな。土地でも与えてやりたいのだが……生憎な。そこでだ、このローマで活動する為の資金を用意しよう。食文化に陶芸品、異其方達には目新しい物ばかりのはずだ。未来から来たのなら尚更だろう」
「ほ、本当ですか⁉︎」
「うむ。余は嘘はつかないぞ」
何と言う事だろうか。棚から牡丹餅的な幸運で凛があの計画を実行する為の最大の難関を、あっと言う間にクリアしてしまった。
ネロが手を叩くと、廊下の突き当たりから一人の女性が出て来た。市民や兵士よりも装飾の施された服装からおそらく侍女の役柄に就いている者だろう。ネロが今し方の旨を口伝すると、女性は再び角に消えた。
ふと士郎がアルトリアに視線をやれば、彼女のあからさまに興奮している貌が認められた。直感スキルの存在しない士郎だが、こればかりはすぐに分かる。
ーーーセイバー、食べる気だな。
アルトリアの血をあらゆる意味で濃く引いているモードレッドも、資金云々の辺りからそわそわし始めていた。見知らぬ地で
健啖家のジャンヌ達と、見事に餌付けされているアサシンも、態度に出さないだけで内心は同じなのだろうと鏡夜と士郎は推測する。そして問題はやはり凛だろう。
何やらブツブツ呟きながら指折りで計算をしている今の凛は、どこか百戦錬磨の鬼将と錯覚してしまいそうな威圧感を醸し出している。まるで「集中している私に触れるな」と身体全体で周囲に警告している様だ。確かに、万年経済的危機を迎えている凛にとっては、当時のローマの品を持ち帰るなど願ってもいないチャンスだろう。一攫千金とまではいかないが、転売すれば当面の安定は保障される。
その光景を隣で腕組みをしながら見ているアーチャーは、思わず主人の金の亡者っぷりに溜息をつくのだった。
と言う訳で、次回はちょいとオリジナル展開の買い物を挟みます。食って食って食う一行と、壺辺りを買い集めるとーさかさんにご期待下さい。