そう言えばFGOで新イベント、ぐだぐだ本能寺が告知されていましたね。とうとう桜セイバーとノッブが参戦するのか……?
さて、今代ローマ皇帝ことネロ・クラウディウスより報酬代わりとして所謂大金を貰った彼ら一行は班に分かれてローマの地を散策していた。主な目的は食べ歩きと工芸品発掘。ネロ曰く「これだけあれば一日何をしても足りる」ぐらいは工面してくれたらしい。つまり何の心配も無く、彼らは一時事の重大さを忘れて心労を癒す事が出来る。
「おい見ろよ士郎!アーチャー!このリンゴ凄え新鮮だぜ!」
「どれーーー。ほう、良い色をしている。重さもハッキリと分かる程に違うな」
「これでアップルパイを作ったら美味しくなりそうだ。すみません店主さん、これを五つ下さい」
「おっ!兄ちゃん達このリンゴの良さが分かるかい!まいどあり!」
代金を支払いリンゴを受け取る。それを持参したリュックサックに詰めた。後は夜間に宮廷内に設置した召喚サークルから転送術式に乗せて鏡夜の自宅に時空跳躍の転送を行えば問題無い。つくづく、カルデアとやらの技術は必要以上に役に立ってくれる。ゼルレッチ曰く復旧作業が進んでいるらしいので、ローマの修正が完了したら覗いてみようかと、鏡夜は思考した。
男三人の買い物風景を女性陣は生暖かい目で見つめる。鏡夜は本職、士郎は料理好きだからあの興奮ぶりが理解出来る。しかしその隣の白髪のあのアーチャーがまるで童心に帰った様に楽しそうにしている光景を見ると……普段の皮肉屋の彼をよく知っている凛からすれば違和感の塊だった。
「鏡夜、小僧。このキャベツを見ろ。大きさが現代の二倍程あるぞ」
「うわ、本当だ。お好み焼きに使えそうだな」
「よし買った。これも五個買った」
心眼(真)と千里眼が変な方向に働いているのでは無いかと思った凛を、誰が責められようか。
「お!父上、あそこあそこ!何か食いモン売ってるぜ!」
「よく見つけましたねモードレッド。買いに行きましょう」
「ローマに謎の食糧危機が訪れるとか……ありませんよね?」
異国異時代、眼に映る全てが新鮮な中で、至高の娯楽の一つである食文化に触れたアルトリアとモードレッドは食欲を最大限にまで発展させていた。特にブリテン時代の雑な調理がトラウマになりかけている二人にとっては、贅沢の追求から食にも拘っているローマの料理は見逃し難い魅力だろう。それこそ、どんな財宝よりも、英雄王の蔵よりもだ。
「パンだな、こりゃ」
「パンですね。はむ、もぐもぐ……。少々硬いですがしっかりと足がついています。美味しいです」
次々と軽食を屠りもっきゅもっきゅ、舌を唸らせながらまた次の売店に立ち寄るペンドラゴン親子。彼女達を止められる物は無い。
ウィンナー、チキン、豚肉の薫製、チーズケーキ。どこからか手に入れた木のボウルに山盛りされたサラダ。と思えばキウイを齧る。目まぐるしく変わる彼女達の"ご飯"に、ジャンヌ達は胸焼けした。よくあれだけの量を食べられると感服する。
「それじゃあ私達は何をしましょうか」
「そうね。何か軽い物を摘みましょう。折角の時間旅行なんですから」
「お腹が空いたから何か買ってくる…」
「危うく忘れる所だったわ。壺、彫刻、レア物ーーー!」
すっかり金の亡者に成り果てた凛に「神のご加護を」とジャンヌは祈りを捧げた。彼女に金銭面での平穏を。
アサシンは小柄な体格を活かして人の波の間を糸のようにすり抜けて行く。その光景を子供のお使いを見届ける様な、温かい視線を送るジャンヌ。アサシンを追う事に集中していた為、隣でクロが呟いた「子育てってこんな風なのね」と言う発言を聞き逃している事を彼女は知らない。
ふと、鏡夜が保有する魔力の減少を確認した。おかしい、戦闘行為は無いのにこれ程魔力を消費するはずは無い。奇妙に捉えた彼はパスを辿る。結果、彼はアサシンの宝具解放を認めた。
数分経過、アサシンが再び流れる動作で帰還した。その手には現代で言うハンバーガーに似た食べ物が収められている。
「はい、これ」
「もしかして私達に?」
「その方が効率が良いから」
「ありがとうアサシン。白いのとは違って気が利きますね」
「まだまだヒヨッコ以下のクロに言われたくはありませんね」
「また始まった……」
暇あらばしょうも無い諍いを始めるジャンヌ・ダルク達にアサシンは溜め息を吐いた。近親憎悪とはよく言うが、文字通り"一心同体"である彼女達にとっては、お互いが親の仇程に憎悪してしまう対象なのだろう。ある意味きちんと生物の本能に縛られている結果の産物。呆れこそあれど、それを叱る事は出来まい。即ち余計にタチが悪い。
「ほらアーチャー!ボサッとして無いで荷物持ち!あ、士郎もお願いね」
「凛……、サーヴァントではあるまいし持ち帰る事は……」
「アーチャー、黙っててやれ。遠坂は大変なんだ」
ここは特異点。もしこれが真なる時間旅行であるならばその弊害も無い可能性があるがーーー生憎とここから持ち去る物は全て世界の修正の対象となる。それこそ現地で契約したサーヴァントは除くが。
凛はその事をすっかりと忘れてしまっており、修正後の転売の益ばかりに目が奪われてしまっている。これもある意味"うっかり"忘れた、と言う事なのだろうか。
さて、ここで真実を告げるのは残酷だろう。結果こそ変わらぬものの、流石に士郎とアーチャーは女の子が街中で現実に泣かされる光景を見る高尚な趣味は無い。一種の慈悲だろうか、彼らは敢えて彼女に付き合う事を選択した。
「行くわよ士郎、アーチャー!まずは持ち運び出来る壺から買うわ!」
「凛、我々は壺は専門外なのだが」
「大丈夫大丈夫、家にそれっぽい物がいくつかあるから見分けられるわよ」
それだけで目利きになれるなら苦労しないだろうに。
理由が理由だけに酷似している苦笑いを見せている士郎とアーチャーを引き連れ、凛はローマの街道を威風堂々と踏み歩いた。
目にとまったそれらしい店を訪ね、店主に話を聞いてみる。例えこの時代では数ある"量産品"の一つだろうが凛の生きている平成では古代ローマの一品と言うだけで希少性が爆発的に上昇し、まさに目が飛び出す程の価格で売れてしまう。尤もらしい理由を付けるならば『持ち帰ったおかげで古代ローマ芸術の研究が進歩する』だろうか。つまり、凛には転売と言う行為に良心は痛まない。
「へえ、コロッセオを描いた絵画ね。うん、特徴をよく掴めている。これ下さい」
「へい!ありがとうございやす!布に包みますね」
「威勢が八百屋や魚屋のそれに見えたのだが」
満面の笑みで店主に礼を告げた凛を見ると、彼らは一層哀しいと感じた。アレは消えてしまうのだから。
「ただいま戻りましたー」
「おお!戻ったか!して、余のローマは……聞くまでも無いな。其方らの目が輝いておる。どうやら、満足がいったらしい」
ネロの指摘通りだ。古代ローマの地、全くの異文化を彼らは余す事なく満喫した。食文化や芸術、建築など、その全てが現代では失われてしまった物ばかり。これを貴重な経験と言うのだろう。
ネロは満足気にうんうん、と頷く。彼女が先代達から受け継ぎ、そして守っているローマは異国異時代の人間すら虜にするのだ。皇帝、その主がそれを喜ぶのは至極当然。形容するならば娘を褒められた親、だろうか。
ふと、ネロが手をポンと叩く。その動作は何かを思い出したと彼らに告げていた。裏付け、ネロの口が開く。
「そうだ、今夜は其方らの歓迎も兼ねて宴を予定しておる。何、大事な客将だからな。時間としては少し早めとなる。それまでに歩くなりして腹を空かせると良い」
突然の事実に一同はぽかんと口を開ける。瞬間、心の中で強く突っ込んだ。「そう言う事は先に連絡下さい」と。
「余は少々立て込んでいてな。これにて失礼する。部屋を用意しているので休む者はそこを自由に使うと良い」
「あ、はい。ありがとうございます」
ネロが廊下の奥に消えたのを認めると、アルトリアとモードレッドは外に駆け出した。
「シロウ、私達は外で剣戟の打ち合いをして来ます」
「んじゃキョーヤ、何かあったら呼べよな」
おそらくは腹空かしを兼ねた模擬戦を行うのだろう。急激な魔力消費に備える為に士郎は大分前にゼルレッチから受け取った魔力タンクの宝石を飲み込んだ。慣れない感覚。喉が痛い。
「鏡夜君、私達はこの時代のサーヴァントの探索をします。ルーラーの能力を使えば数と位置を確認出来ますので」
「それじゃあまた後でね鏡夜」
「あ、私も手伝う」
ジャンヌとクロの背をアサシンが追う。本当、暗殺者らしかぬ暗殺者だ。しかしありがたい。
「俺は……そうだな、投影の練習するか」
「では私が扱いてやろう衛宮士郎」
「うへぇ……、嫌な予感」
「さあて士郎、特訓の時間ね」
アーチャーのひたすらイイ笑顔が士郎の背中に悪寒を走らせた。あの男がタダで協力してくれるはずが無い。二人に引き摺られて部屋に連れ込まれた士郎はただ、時流の経過がより速くなる事を祈るばかりだった。
「俺、何しよう」
一人ホールに残された鏡夜の声が虚しく木霊する。
ーー
「はいもしもし……大師父?」
「ええ、ええ。ネロ・クラウディウスと協力関係を築けました。正確には"連合ローマ"なる特異存在への対抗策として迎え入れられた次第です。はい、その連合ローマに聖杯があると見て間違い無いかと」
「レフ・ライノール?全身緑の胡散臭い男……。成る程、そいつが裏切り者と言う訳ですか。分かりました、見つけ次第討伐と言う事で」
「あ、そちらに野菜が詰まったリュックサック転送したので、冷蔵庫に突っ込んで頂きたい。ありがとうございます」
宝石剣の通信を閉じる。一息吐いた鏡夜はポケットから金色に染まった小さな鏡を取り出し、それを凝視した。
「もしかすると……、こいつの出番かも知れないな」
あって欲しく無い未来を夢想しながら、鏡夜は彼のみぞ知る最後の鏡の手入れを始めた。
次回、お風呂回(自分からハードルを上げていくスタイル)