喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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あけましておめでとうございます。本年も拙作ともどもよろしくお願い致します。




野営地へ

ーーー風の音が聞こえる。

 

 

ふと、目が覚めた鏡夜は鈍い身体を叩き起こした。辺りには新緑美しい草原が、見上げれば流れる雲と青空。はて、ここはどこだろうか。

 

昨日の出来事を整理する。

あれは昨晩、ネロの客将歓迎と言う名目の宴の中、鏡夜は折角だからと普段はあまり飲まない酒をかなりの量を胃に入れた。ある程度で止めようと思っていた所へ、ネロ皇帝とモードレッドが襲来。そのまま飲まされ飲まされの繰り返し。そうだ、許容量を超えた酒を飲んだ。

 

それを思い出すと同時、頭に打ち付けられた様な鈍痛が広がる。二日酔いと言う奴だ。おまけに多少の吐き気。これはしばらくまともに動けないな、と観念した。

はて、ここはどこだろうか?

昨日の記憶はモードレッドにベッドに放り投げられた所で切れている。つまり本来自分はネロに与えられた自室のベッドの上で唸っていなければならないはずなのだ。しかし視界を開けてみれば草原に野山、花鳥風月。現代では極一部の地域でしか味わえぬであろうそのままの自然に、何故か彼は抱かれていた。

ゆらりと立ち上がる。この時点で鏡夜は「誰かが気を利かせて風に当てさせてくれたのだろう」と言った仮説を立てていた。しかし、周りには誰もいない。ネロの宮殿も見当たらない。かと言って誘拐された形跡も無い。

 

立ち止まっていては拉致があかぬ。鏡夜はそのまま直進方向へ、珍しく締まりのない表情を浮かべながら進んだ。なだらかな丘の様だ。標高が一番高い地点まで上がれば何か見えるだろう。

風の匂いがする。

優しい、どこか懐かしい匂いだ。その風に押されるかの様に、鏡夜の足取りが少し軽くなった。不思議と、二日酔いの症状を解れて行く。

2分程歩いただろうか。ある線を境に、足元の雑草がヤグルマギクへと姿を変えた。フランス国旗の青を示す花である。その天へ自身を示す様に勇敢に咲く姿は、鏡夜の深層にある「ナニカ」に触れた。狂気や暴走の類では無い。何か封じられている物を取り戻せそうな、それに似た感触。

心につっかえが出来てしまった鏡夜だが、どうにかそれを無視した。それに時間を割いてはいけない。一刻も早い状況の確認を。

 

 

いよいよ頂上に差し掛かる。

一歩一歩を踏みしめ、少しだけ息を切らしながら、鏡夜はその一点を踏んだ。眼下には畑が、牧場が、木組みの家が、彼をくすぐる全てが広がっている。

「嘘……、だろ…?」

 

いや待て。鏡夜の中を戦慄が駆けた。

家々の配置、牧場の形。そしてそこを歩く村人達の服装。ああ、覚えているとも。取り戻したとも。

しかしあり得ない。何故()()村がこの視界に映っているのか。

 

「ドンレミ村……?」

 

 

遠い遠い過去の話。その幼少を彼女と過ごしたあの村が、そこには在った。

 

 

 

ーーー

 

これは夢だ。そう呟いた鏡夜は堂々と村を行く。道行く人と挨拶を交わし、また前を向く。夢にしてはリアリティを感じた。

 

 

「お、お邪魔します……」

 

 

鏡夜は湧き上がる記憶を頼りに、かつて自分が()()()()()()()()()家屋の扉を開けた。まさか中から自分が出て来る事はあり得ないだろう。

返事は無い。どうやら脱け殻らしい。つまりそれはこの家が自分の物であると言う事。意を決した鏡夜は奥へ進む。

 

自室。当時耽っていた魔術の本を探した。個人的な興味に惹かれてしまった。最早彼の頭からは状況整理など抜け落ちていた。今あるのは、欠片を集める事だけ。まるで何かに取り憑かれたかの様に、鏡夜は魔導書に目を通す。

 

5分、10分、1時間ーーー。

時間の概念など眼中に無い。錬金術、黒魔術、召喚術。大好きだったそれらが再び頭に入って来る。その喜びに身体が、魂が、打ち震えた。

あっ。そうだ。突然抜けた声を上げる。夢かどうかを確認する方法はある。

 

 

「パス確認すれば早い話……繋がらねえ」

 

 

ジャンヌとのパスを手繰ってみたが、見事に念話が繋がらない。手当たり次第クロ、モードレッド、アサシンと同じ事を繰り返したが、結果は当然の如く惨敗。手に入った情報はパスの健在だけだった。

いや、これだけでも十分だ。夢の中でまでサーヴァントとのパスを感じる事は不可能。つまりこれは、現実世界。

 

また行き詰まった。果てして自分はどこに迷い込んだのか。何をすれば帰る事が出来るのか。溜息を吐いた鏡夜は手に取っている錬金術の魔導書を本棚に戻した。

ふと、自作の本棚の右端に、見覚えの無い黒表紙の本を見つけた。好奇心からそれを手に取る。

タイトルは無い。装飾も無い。表紙には一つの髑髏。目次も無い。およそ1667ページ全てに、ひたすら未知の活字で何かが記されているだけだ。

 

気持ちが悪い。鏡夜はそっと本を閉じ、元あった場所へ返そうと手を伸ばした。そして、ストンと音を立て本が収まった瞬間。鏡夜の意識が薄れた。

 

 

「ーーーキハッ、これで下ごしらえは完了だね」

 

 

いや、まだ彼の意識は続いている。朦朧としたその中で、彼は男とも女とも取れる誰かの声を聞いた。下ごしらえとは、何だ。お前は、誰だ。

それを尋ねようとしても声が出ない。視界が霞み顔も捉えられない。

そして彼は意識の手綱を手放す。深い闇へと彼は沈む。その光景を、彼は穏やかな、母性すら感じさせながら、見つめていた。

 

「それじゃあ頑張ってね、キョウちゃん。次の応援は近い内に来るからさ」

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

ーーー声が聞こえる。

今度は誰とも知らぬ者のそれでは無い。聞き覚えのある、耳にしっかりと残っている、頼り甲斐のある声だ。その声に意識を揺らされ、鏡夜は目を覚ました。

 

 

「お、起きたか。ようキョーヤ、スッキリしたか?」

「モード……?」

「ヘヘッ、悪ィな。昨日はちとふざけ過ぎちまったらしい」

 

 

ゆらりと上半身を起こす。横顔のすぐそばには彼女の顔があった。状況から判断するに、自分はモードレッドに膝枕をされていたのだろう。風に乗った馬の匂いが鏡夜の鼻腔をくすぐった。懐かしい匂いだ。

首を回して辺りを見る。白い布の様な物で、今自分達がいる空間は形成されていた。馬、木の椅子、白布、そして感じる振動。これは馬車だ。馬車に乗っている。

鏡夜はモードレッドに一言詫びを入れ、状況説明を求めた。あくまで独断からの仮説でしかないそれを真なる現実として認識するのは道理が通らぬ話。

 

 

「あー、なんつーかなあ。昨日お前に飲ませ過ぎた所為で朝からぐったりだった訳よ。そしたら皇帝サマがいきなり「野営地に行く」とか言い出してな。んで馬車に乗ってそこへ向かってる訳だ」

「ああなるほど、大体理解した。一発モードをぶん殴りたいけど我慢する」

 

急性アルコール中毒にでもなったらどうするのだ。まったく、この猪突猛進系サーヴァントには手を焼かせられる。

 

 

「悪かったって。ヘソ曲げるなよキョーヤ」

「そうだモード、昨日の俺は何か粗相とか、してないよな?」

 

 

不安だ。この手の場合は大抵酔っ払いは悪ノリをする。まさか皇帝に無礼を働いたとかーーーいや、それは無いと信じたい。

 

 

「うん?特にない……ああ、ジャンヌとクロにセクハラ紛いの事をしでかしてたの以外はな」

「はぁ⁉︎ちょっと待てモード、説明を要求する」

「とは言っても軽く抱きついてた程度だぞ?あいつらも満更じゃ無かった……っておーい、キョーヤ?」

 

モードレッドが座っている側と、その向かい側。二つのシートの境に出来るスペースに鏡夜は両手両膝をついてうな垂れた。

 

 

 

 

 

さて、この絶望はいかにして表現すれば良いだろうか?世界の滅亡?人類史の焼却?いや、それすら生温い。強いて言うならばどうしようも無い闇だろう。正直な所、世界の滅亡も人類史の焼却もどうにか出来そうな範囲の体制が整っているからそこまで怖くは無い。

では、それよりも怖い物とは何なのだろうか。解は一つ。

 

 

「…………え?」

「貴様も圧制者に立ち向かう勇敢なる反逆者の鱗片か」

 

 

想像して欲しい。親しい女友達への謝罪の言葉を考えながら馬車を降りた先に立っていたのがその友人では無くーーー

 

 

「さあ、高らかにその名を謳う時だ。我と共に圧制者を討ち破り、真なる世界を取り戻そうぞ」

 

 

見知らぬ灰色の筋肉ダルマだった絶望を。

 

 

いや、悪徳は絶えない。一瞬にして思考回路が凍結した鏡夜は、こいつは誰だと問う為に仲間を探した。先行しているジャンヌ、クロ、アサシン、あるいは士郎、凛、アルトリア、アーチャー。誰かを見つけんと眼球を回す。そして、その果てに見つけた物がーーー

 

 

「ああもう!可愛い可愛いかーわーいーい‼︎」

「ストップ!ストップですブーディカさん!」

「このっ…!離しなさいよアホ!」

「この態勢じゃ……っ、ザバーニーヤのどれも使えない……」

 

 

何だか百合でも生えてきそうな空間だった絶望を。




おう楽しそうだな店長さんよぉ(アルコール中毒手前+変な夢+二日酔い+筋肉ダルマ)

膝枕役のモーさんについてですが、「オレなら非常事態でもマスター背負って戦える」と言う理由から抜擢されました。決して書けば出るとかそんな類の都市伝説は信じてませんから。

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