「しっかしまあ……!」
鏡夜が悪態を吐いた。
見渡す限りの荒野。倒しても倒しても、増えるスポンジかと突っ込みたくなる勢いで数を増す連合ローマの兵達。そして噂のレフ・ライノールなる者が用意したであろう、骸骨兵や竜牙兵。そして人やサーヴァントの体格の三倍程の巨体を誇るゴーレム生命体。ありとあらゆる魔の手が、彼らの行く先を阻み、体力を奪う。
彼らは連合に奪われたガリアを再び奪い返す為に、そこへ至る森と荒野を歩いていた。しかしどこへ行っても伏兵だらけ。戦闘は避けられない。
「ああもう!いい加減減りなさいよ‼︎」
凛が心底鬱陶しそうに叫んだ。左手にルビーを握り、銃の形に整えた右手の人差し指の先からフィンのガンド、それのガトリングを敵兵の腹部へ撃ちつける。
状況は変わらない。いや、前進こそしているのは確信出来るが、戦力非に変化が訪れないのだ。
ガンド弾は人間の兵士へ、
右足を軸に常に身体の角度を変える。刀身の太い大剣を持った骸骨兵は強化した拳で一斃し、弓を持つ竜牙兵は射った矢ごと炎で灰に還す。存外、魔物達が脆かった事に凛は安堵していた。これで鋼鉄の様な耐久力を両立していたら、洒落にもならない。
そうすると、今度は凛に僅かばかりの慢心が生じる。それは人である限り抗えない業。消せない一。そしてその慢心が、ゴーレムの一頭が骸骨兵達を踏み台にして、まるで跳躍航法の如く縮地をしながら詰めて来ていた事に、半径十メートルの半円の中にヤツが入るまで気がつかなかった。
ーーーマズイ。
アレ程の巨体に殴られれでもしたら、いくら最大限に強化していても腕は持って行かれる。最悪、貫通ダメージで胴体や首にまでそれが及ぶかも知れない。咄嗟の防衛本能で、凛はガンド弾の生成を中止し、なるべくヤツから距離を取らんと両足に全意識を注いだ。
しかし、周りは敵だらけ。一時退避すら許されない。まるで、彼女に「死ね」と言っているかのように。彼女に逃げるを許さない。
いや、同じくしてそれを許さない者が走る。彼は自らに覆い被さる魔物達を白黒の夫婦剣で捌き、捌き、捌き、その残骸を踏みつけ、凛に迫るゴーレムの背中へ飛び移った。そして、夫婦剣を背中に穿つ。
「
即座に、夫婦剣を引き抜く代わりに、替わりを創り出した。それが彼の強み。真に至らない無限の剣。別の夫婦剣の投影に成功した彼はその両刃を合わせ、ゴーレムの右腕を斬り落とした。
着地。ヤツの正面を切り、膝を破壊する。
「遠坂!」
破壊を終えた彼は、多少の焦りを見せ始めた凛の名を呼んだ。
「士郎!」
思わず優しい表現になった凛は、勢いに任せ魔物達を砕き、士郎の背中へ駆け寄る。そして互いが互いを預けた。
「士郎、魔力は大丈夫?」
そう、士郎の魔力は決して多くは無い。あの聖杯戦争から約1年が経過しようとしていても、その絶対量は劇的には変わらないのだ。特に投影を連発すれば、いくら消費量が少ない夫婦剣でもバテが来る。
「まだ大丈夫だ。ゼルレッチの爺さんから貰った小粒の宝石を連続で飲んでれば十分足りる」
士郎は夫婦剣干将・莫耶を構え直す。視線をどこにやっても映る魔物達に呆れすら覚えた。しかし、溜息を吐いても数は減らない。
ジリジリと魔物達が二人に距離を詰める。いくら魔力があっても、肝心の体力の方が無ければほぼ意味を成さない。その観点で見れば、士郎と凛には確実に限界が近づいていた。まだ、なのだ。すぐに疲労は訪れる。事実士郎と凛の呼吸も安定を失い始めていた。より多くの酸素を取り入れようと口が、肺が、余分に活動する。二人は奥歯を噛み締めた。
だが、そこへ一筋の星が流れた。
「こんのっ……、全員まとめてジャガイモの芽と一緒に生ゴミ袋で包んでやらぁ‼︎」
鏡夜が魔物の波を割いて現れた。彼は一直線に士郎と凛の下へ向かう。骨を蹴り、ゴーレムを殴り、竜牙兵から弓を分捕り。荒々しく、気品さの欠片も無く。
「おい士郎!何か適当に日本刀造ってくれ!短刀じゃやりにくいったらありゃしない!」
怒鳴りにも近い大声で士郎へ叫んだ。その声に急かされた士郎は一度干将・莫耶を地面に突き立て、空いた手に設計図を浮かべた。形作ったのは、銘無しの日本刀。
「鏡夜!」
それを鏡夜へ投げる。日本刀は弧を描いて鏡夜の手に入れ落ち着いた。彼は口角を釣り上げる。
「サンキュ、士郎!ここは一つ俺に任せときな!」
鏡夜は愛用の短刀を腰のホルダーにしまう。そして右足を二歩分前に差し出し、重心を腰に据え、抜刀の構えを作った。
襲いかかるは数多の魔物達。それはまるで全てを飲み込む嵐の様。既にいくつかの魔物は簡素な骨の夢を射ていた。鋭い鏃のそれは鏡夜の真横を行く。髪の毛が何本か落ちた。
一度眼を閉じる。頼るのは聴覚と第六感だけ。余計な視覚情報は潰した。掴むのは足音だ。
「来る」。濃厚な殺気の僅かな移動を掴み取った鏡夜は左足を後ろへ引いた。そして、大剣を携えた骸骨兵が彼に襲いかかる刹那、無銘の銀色の刀身は日の光を浴びて輝き、虚空に白い残像を残して骸骨を一刀の下に斬り伏せ、血を啜る。
まず一体。身体を翻し、背後を取った奴を残。視線運動なしに垂直一文字斬り。そのまま一回転し一薙ぎで数体を殺した。
彼を起点にして次々と道が拓かれ始める。息一つ乱れずにその作業を継続出来るのは、彼の本来の在り方故だろうか。
鏡夜のアイコンタクトを受け取った士郎は凛の手を引き、鏡夜を追い抜いて骸骨の海を割る。駆け抜け、一度止まり、凛を立て直し、また走る。
「アーチャー行け!先にモードとセイバーを行かせてある!その先にあるサーヴァント反応を断ち切っといてくれ!その方が効率が良い!」
舞う鏡夜の頭上を赤い聖骸布の男が超えた。アーチャーは鏡夜に振り返らず、士郎と凛の後を追う。いや、それは彼なりの礼なのか借りの返しなのか。手持ち無沙汰の左手に造った金の剣を、アーチャーは鏡夜の足元に放り投げた。それを鏡夜は苦笑いしながら拾う。
「ヘッ、素直じゃねえヤツ」
それだけアーチャーに吐き棄てると、鏡夜はもう一度魔物の群れと向き合った。
ーー
時を同じくして、戦場の東でスパルタクスとブーディカもひたすら魔物を壊していた。ブーディカは盾と剣のコンビネーションで確実に、スパルタクスは被虐の誉れを活用し、彼らの周りの七割のその身に引き付け、カウンター。唸る拳が土塊を砕く。
ブーディカはその無謀極まりない戦法に些か頭痛を感じていた。スパルタクスのスキルである狂化EXと被虐の誉れの都合上仕方の無い事なのだが、それにしても「常に最も困難な道を征く」と言う固定思考回路はどうにかならないのか。おかげでこちらはいつ限界を迎えないか気が気でないのだ。
「ふはは、ふはははは。良いぞ、ここには圧制者の魔手と化した兵が集っている。そして我らには反逆の女王が味方についている。さあ、勝利と自由の凱旋は近いぞ」
意訳すれば「この調子でローマ連合の兵士達を倒して行こう。大丈夫だ、我らにはブーディカがいる」と言った所だろうか。
「今はそんな事良いから!スパルタクス!とっととやっちゃうよ!」
「反逆の女王の一声は我らを鼓舞する歌なり。さあ、魔手共よ!覚悟を決めよ!」
スパルタクスの拳が、脚が、より重く早くなる。鼻と口から蒸気の様な息を漏らし、暴走する機関車の如く。寄せ来る敵を圧倒する。そしてその隣を、馬に乗ったネロが走り抜けた。
「ブーディカ!スパルタクス!ここは任せたぞ!」
そう言われては火を付けざるを得ない。ブーディカは視線でネロを見送った後、一呼吸を吐いて、もう一度魔物の犇く海原の如き戦場へ身を投じた。
その向こうには男が待っている。
次回!赤セイバー集結!(全員可愛いとは言っていない)