喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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イスカ様は……ッ!まだ諦めがつく…。でもッ!黒ジャンヌだけは負けたくなかった!なかったのに!

負けました。




古き神の謎

どうしても困った時はこれを使いなさい。

 

ただし一度開けたら最後。君はある契約に縛られる。

 

大丈夫、かなり重たいけど魂を喰われる訳じゃあない。

 

良いかい?この鏡は前に渡したのとはまるっきり別物だ。開封すれば君は全知に至る。

 

この鏡の名前は───

 

 

 

───何だか無性にイライラする。

 

別にこれと言った事は起きていない。カエサルはセイバーと陛下が倒したし、ほかのみんなも上手く回収出来たし、ローマ軍に被害こそあれどガリアの奪還にもかかわら成功出来た。好い事尽くしで特異点修正も順調だ。順調なはずなのに。何故かどうもハラワタが煮えて落ち着かない。

現在地は何処かの森の中。ローマへの帰路の途中だ。イライラの原因は長旅で二日程風呂に入れてないからだろうか。いや、そんなことは無いだろう。

 

試しにジャンヌの頭を撫でたり、クロの頬を突いてみたり、アサシンにいい子いい子したが全くもって……苛立ちは消えなかった。

 

「おや?何だか難しい顔をしてるね、青年」

「ブーディカさん…。いえ、何かイライラして止まらないんですよね。悪い事なんて無かったのに」

 

例えるならそう、嫌いな奴と同じ閉鎖空間に閉じ込められた的な感情だ。ぶつける先も解決策も無いからタチが悪い。

 

「うーん……どうしたんだろうね?何かしら原因があるはずなんだけど…」

「それがぜんぜん思い付かないんですよねぇ。ジャンヌ達を弄ってもどうにもなら───」

「我が同胞達よ!先程薔薇の皇帝が新たなる旅立ちの可能性を発見したぞ!」

 

そこへやって来たスパルタクスことスパさん。この発言を要約すれば「何やら陛下が興味深い話を聞いてきたそうだ」になるはず。

相も変わらず難しい言い回しだが、慣れるとこれがすんなり理解出来たりするから不思議だ。とりあえず、その興味深い話の概要を聞いてみよう。

 

「それは?」

「古き神の話だ。妨げられし民衆達がその眼に捉えたそうだ。神を」

「神…!」

 

そのワードが頭の中できちんと処理された瞬間、俺は何だかその「神」がこの感情の原因だと理解した。

身体を反対の方角に返し、近くの畔で休んでいる陛下の下を目指す。その古き神とやらは、放って置いてはいけない感じがするんだ。

 

 

ーーー

 

 

神。それはこの人間界よりも高次の世界に住む、人知を超え世界そのものを創り上げた存在。一部は星座となり今も我々を見守っている。

神、神霊。それは人間世界に在ってはならないモノ。いついかなる時も、神代が終焉を迎えたこの時代になって神は現れてはいけない。神は神話を記した活字の中でのみ、我々にその姿を示さなければならない。それはある種宇宙の法則。高次ならではの枷。

 

もし古き神が本当に神霊に属する存在ならば、我々は然るべき手段を持ってお帰り願う必要がある。元より人理定礎の焼却で不安定と化したこの世界に神霊は毒だ。それは生物濃縮に近い。いずれ更にこの混乱を増長させるだろう。今はまだ薄い毒でも。

 

だからこそ俺達は今すぐその神が実在するのかを確かに行く必要がある。そう、これも定礎修復の一つ。一つなんだ。俺達がクリアすべき課題の一つ……。

 

「あー、ダメ。いくら取り繕っても私情が湧くなあ。好奇心の強い陛下を上手く扇動した罪悪感が…」

 

ネロ・クラウディウスは非常に好奇心が強い人物だ。先程も「神霊に会える機会なんて五回生まれ変わっても無いだろう」と言ってみたら直ぐに帰還を取り止めてくれた。そうして今は近くの海より周辺の島の捜索を行っている。船はその辺りにいた漁師の人達から借りた。

 

本当にごめんなさい。

 

「難しい顔をしているな、鏡夜」

「眉間に皺を寄せたくもなる。陛下を唆したんだぜ。それに…」

「神霊、か」

 

頭を抱えたくなる異常事態だ。神霊の召喚。あるいは自力での降臨。前者なら誰が何の為に、後者ならその神霊は如何なる意図を持って。検討もつかない。

捜索開始から既に数時間が経過した。しかし証言が増えた意外には進歩は無い。つまりそれだけ存在する確率が上昇したと言う事だ。そして俺の苛立ちの増幅。居る、と断言しても良いだろう。

 

ならばそれを如何にして見つけるか、だ。不幸にもこの一帯の海は広い。モーターボートでもあれば話は別だが、ここは一世紀ローマ。そもそもファミコンすら無い世界だ。モーターボートは夢のまた夢どころか世界の果て。

アーチャーも士郎も流石に小型艇の投影は不可能。ガワだけならどうにかなるらしいが……いっその事セイバーの魔力放出を応用して魔力ジェット艇でも作るかべきか。

 

何その起動後三秒で転覆しそうなブツ。と自分に突っ込んでどうでも良い思考を閉じた。

 

「千里眼の範囲にはそれらしい影は無いな」

「魔力反応も無し。上手い事隠してるな。何企んでやがる…」

 

見つけるのは至難の技か。やれやれ、また風呂が遠のきそうだ。

 

 

『どうしても困った時はこれを使いなさい』

 

……待て。何故思い出した。

 

『開ければ全知。開ければ契約。ただし既に効果の一部は適用済みっと』

 

どくん、と心臓が強く跳ね、体温が急激に低下した様な感覚に襲われる。甘ったるいあの声が、脳細胞の中で反復される。

祖母は昔、俺が一族に嫌気が差して家出をする時。俺に知識のあらゆるを授けてくれた。その時に証として与えられたのが、この「鏡」夜と言う名前。

誰かによって磨かれ、その誰かの為に能力を振るい、そしてまた誰かの為になる。常にその中に曇りは赦されず、割れる事も認められない。それが鏡。光を吸収し、あるいは反射し、そこに在り続ける。

だが鏡にはもう一つ仕事がある。神秘の薄れた近代では忘却の彼方に葬られた、最後の仕事が。

女王卑弥呼が鏡を大事にした事実。それとは別に閻魔大王が裁きに鏡を使う理由。

 

『鏡は真実を映し出す物』

 

おそらく俺の名前には前者の「ヒトを照らす道具」では無く後者、「真実を観る者」の意味が込められている。だからあの時祖母は、ばーちゃんはあの鏡を俺に託したんだ。空白鏡夜三番目の鏡。封印していた真実の装置。

正直、こいつの封印を解くのは嫌だ。これは真実を観るとは名ばかりのプライバシー侵害マシーン。真実どころかヒトの心の中さえも観てしまう礼装だ。厄介な事に解読と記録はこちら俺の意思を無視する。俺がこの鏡に下せる命令は読み取り対処の指定と真実の伝達の是非。覗き見は止まらない。

 

「すまんアーチャー、赦してくれ」

「何をだ?」

 

だけど、思い出してしまった。その誘惑は払えない。俺の理性の八割を占める拒絶の意思とは裏腹に、この右手は既にあの鏡を開いていた。

 

 

「全部」

 

 

 

 

「それにしても凄いですね!お手柄ですよ鏡夜君!」

 

彼等が探し当てたのは浜辺より約四十キロメートル程にある、中規模の無人島。数多のローマ兵やサーヴァントと共に、一行は神の居所を掴んだ。

 

「ウチのマスターがどんどん人間離れして行く件……」

「それは言わねえ約束だぜアサシン。つーか、こいつがただの人間だったら今頃世界はどうなってやがるんだ」

 

その発見には一人の男の覚悟が基なのだが。

 

(あれ……、鏡夜の左眼が金色に…?私とお揃いだ)

 

「平和なんじゃない?俺、戦争好きじゃないし」

 

その顔に喜びは無く。むしろ陰が落とされていた。

 

 

ーーー

 

 

 

「───キハッ、キハハ!キハハハハ!はーい私の勝ちー!いつだってキョウちゃんは私の期待を裏切らないんだよー」

「ふむ……。ところでで鏡の坊主は知っているのか?」

「何をさ?」

「あの鏡の代償。坊主を縛る永遠の呪いの内容を」

 

翁が問う。女は笑う。

 

「知らないと思うよ」

「……何?」

「でもあの子は賢いからね。きっと本能的には理解しているはずさ。あの鏡がどんな伝承骨子で組み上がってるのか。そしてその対価は何なのか。ホーント、良く出来た子だよ」

 

女はクルクルと自分の前髪を弄る。手入れにはそれなりの気を遣っていた。自分で触っても違和感が無い。

 

「だから選んだんだけどさ。何よりも悪徳に敏感で、それでいて最終的には許容し、熱くて冷めてる矛盾の塊みたいな存在。五百年経っても変わらない眼光で私を見て───ってゴメンゴメン。語り過ぎたね」

 

翁の硬い表情を視界に収めながら、女は嬉々として孫の事を語る。

 

「ま、そんな所。それじゃあ私は帰るね。色々調整溜まってるからさ。次はキョウちゃん達がローマから帰って来た辺りに来るとするよ」

「把握した。気に入る茶請けを用意しておこう」

 

身軽い動作で椅子から降りた女は、最後に翁に向かって頭を下げた。

 




(一ヶ月経ってないからセーフ)

ところで話は540度ぐらい変わりますが、劇場遊☆戯☆王見てきました。最高でした。もう二回ぐらい観に行くつもりです。

店長変異フラグ登場。実はさっさと覚醒させた方が展開速く出来そうだったりするので、するか否かで葛藤中。

それではまた次回にお会いしましょう。

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