ところでコラボの続報はいつ来るんでしょうか?また余裕の無い告知とかはやめてよね。
世はまさにバレンタイン。女達は意中の相手の気を惹く為に、または友達との交流の一環でチョコを作る。男達は内心浮かれながら一日を過ごす。義理と分かっていても貰えたら嬉しいものだ。
その点で見れば、この喫茶店の男連中もそうだ。鏡夜、士郎、そしてアーチャー。突然家から放逐された彼らだが、六時になり帰宅すると、いつも一緒にいる彼女達からチョコを渡された。感無量だった。男とはそう言う生き物だ。
テキパキと夕食を済ませ、男達は鏡夜の部屋に集った。若干心臓をバクバクさせながら、包装を開けていく。
ジャンヌから渡された物。どこか懐かしさを感じさせる包装に、中には綺麗に形作られた数粒のチョコ。彼女はこれを今までの集大成と表していた。成る程、確かに叩き込んだ技術を惜しみ無く使っている。一粒口に放り込んだ。ほろ苦さと甘さのバランスが絶妙なだ。気が付けば全部食べていた。夢中になる美味しさだ。
更にガトーショコラも作ってくれているらしい。後でみんなで食べようと言う約束だ。
次にアサシンの物を開ける。生チョコの様だ。どこか幼さが残るが、同時一生懸命さも伝わって来る。たった数週間しか教えられる時間が無かったのによくここまで成長してくれたものだ。
アサシンも別にパフェを用意してくれているらしい。それは夜食として食べよう。
そしてモードレッドの物。何故か食べかけのブラックサンダーチョコだった。非常に彼女らしかった。間接キスっぽくなるが、残したら悪いので一思いに食べた。
最後にクロの物。少ししわの付いた包装は慣れないながらも頑張ってくれた事を鏡夜に教える。思わず微笑みが浮かんだ鏡夜は外箱を外す。中から現れたのはチョコマフィンだった。謎のオーラを添えて。
「……⁉︎」
鏡夜の身体が震えた。何故か、このチョコからクロの全てを感じる。憎悪とかその辺りを。隣を見れば士郎とアーチャーも戦慄していた。どうやら彼らもこのマフィンの特異性を感じた様だ。
おそらく毒は盛られていないだろう。いやそうであって欲しい。それでも仲は良好だと思っているのだ。盛られていたらショックで寝込むだろう。
「な、なあ鏡夜……それって……」
見た目はチョコマフィン。中身もチョコマフィン。纏うオーラはこの時代に存在していい物では無い。
焦げてはいない。形も普通。されど何かが違う。例えばチョコマフィンと書いてジャンヌ・ダルクと読ませる様な、出処の分からない恐怖があった。
「……どれ、貸してみろ。
マフィンに解析をかけたアーチャーが驚愕の声を漏らした。彼がたじろぐと言う事は、やはりこのマフィンには何かがある。二人はゆっくりと聞いた。
「このマフィンには彼女が詰まっていると言っても差支えが無い。簡単に言えば鏡夜以外の人間が食べたら死ぬ」
「いやいやいや、ちょっと待てアーチャー。何?あの子このマフィンに何か仕掛けたの?」
「いや……。全ては彼女の愛情と憎悪が成しているトラップだ。まさしく空白鏡夜専用マフィンだな。オーパーツだ、これは」
顎に手を当てながらアーチャーはそう語る。感情だけでよく分からないトラップをマフィンに張るあの子は何者なのだ、と鏡夜は思った。そうまでして自分以外に食べさせたく無いのは何故なのだ。
相も変わらずダークなオーラを発するマフィンを持ち、それを口に近付ける。異臭がする訳でも無いのだが、後一歩、口に入るまで時間がかかった。
「どうだ……?」
「あ、美味いよこれ」
特に変わりは無かったらしい。鏡夜は嬉しそうにマフィンを頬張った。
変な緊張が解ける。アーチャーはセイバーから貰った箱を開放した。中には一枚の板チョコ、形は王冠。ある意味彼女らしい物だ。
士郎、アーチャー、鏡夜に渡された中身は全部一緒だったが、それぞれの箱には彼ら一人一人に当てられた手紙が入っていた。特にアーチャーの目頭が熱くなった。「オレ、頑張るよ……」と一瞬だけ素が出たのは本人も知らぬ所。王冠チョコは普通に美味しかった。
間を空け、士郎は凛から貰った包装を開封。今でも頭の中には……
「別に衛宮君が喜ぶかなとか思ってないんだからね!これはその場の雰囲気に合わせた結果なんだから!」
との有難いツンデレ台詞が再生されている。
渡された物は殆ど同じだった。彼女の事だ、うっかり包装容姿を同じ物を買ってしまったのだろう。容易に想像がつく。
違いはリボンの色だった。士郎のは赤、アーチャーのは白。これが何を意味するのかは分からない。
開けてみると、ほんのりブランデーの香りが漂った。相当気合が入っている事が伺える。
「そう言えば俺が遠坂から貰った物のリボンは灰色だったな。これってそれぞれの髪色だと思う」
「あー……なるほど」
「混ざらない様に髪色と同じリボンを使って区別していたのか」
食べ終わると士郎が身体が熱いと言い出したのだが、原因は分からなかった。
若干士郎の身体が熱を帯びたままなのは置いて、最後に桜が士郎に渡した箱を開ける。何故かやたら箱が大きい。
開けると、視界に映ったのは一つの像。
「なっ……⁉︎これは⁉︎」
まず、士郎が困惑した。
「いや確かに凄いが……」
続いて鏡夜が唸る。形は本人をよく再現している。
「サーヴァント・ライダーだと…⁉︎」
流石のアーチャーも困惑を隠せなかった。当然だろう。桜が士郎の為に作ったチョコは、確かにライダー、真名メドゥーサの顔をしていたのだから。
ハッキリ言ってそれは芸術だった。胴体は何故か蛇。取り出してみると偶然か計算か、安定してその姿を机の上で晒す。このクネクネした胴体がどうやって重たい頭を支えているのか。それよりも何をどう思い至ったらメドゥーサの顔をしたチョコが完成するのか。桜への作ってくれた感謝と同時に深海よりも深い疑問が湧いた。そして食べ方に困った。どこから噛めば良いのか分からない。更に言えば芸術的過ぎて噛んで壊すのが恐れ多い。鏡夜は携帯で写真を撮った。
男達は悩む。アーチャーもこればかりは士郎に全面的に協力する事にした。
頭から食べるか、尻尾から食べるか。どちらにせよ罪悪感が募る。しかしそもそも、食べないと言う選択肢は無い。
「これは……どうするべきか…」
「よぅし行け士郎。尻尾からかぶりつけ」
「行くしかないのか……!」
前後左右から押し寄せる罪悪感。すまないライダー、と謝りながら、士郎は尻尾を噛み砕いた。何と言うか、とても変な絵面だったと後にアーチャーは語る。
妙な緊張で味は分からなかったのだが、士郎の記憶に焼き付いたのは確かだ。
蛇足感しかなくて本当にすまない。
クロが作ったのはチョコマフィン……見た目普通。しかし中身は店長以外が食ったら死ぬと言うトラップ付き。本人に仕掛けた覚えは無い。その漂うダークなオーラから、桜にはオーパーツと評された。
それではまた次回お会いしましょう。
(家族以外の女性からチョコ貰ったことが無い男がバレンタインネタに挑戦すべきではなかったと海よりも深く反省しております)