モモンガ様は自称美少女天才魔導師と出会ったようです   作:shinano

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第三話 大宣言

 玉座の間。

 壇上に座すモモンガに、守護者と使用人たちが膝をついて頭を垂れていた。

 それぞれ守護者統括アルベドと家令セバスを先頭に、主だった面々が奥の壁際まで居並んでいる。

 身体の大きさの都合で来られなかった者も居るが、ナザリックの勢力の過半がこの場所に集結していた。

 当初は守護者たちだけを集めるつもりであったが、どうせならばとセバスに命じて使用人たちにも招集をかけたのだ。

 

「集まったようであるな。皆、面を上げよ」

 

 モモンガの言葉に、部下たちは見事に揃った動きで頭を上げる。

 そのマスゲーム染みた動きに、モモンガは大変な満足感を覚えた。

 部下たちの統率は今のところ完璧なようだ。

 自分さえしっかりしていれば、彼らは必ずや仕事を達成してくれる。

 確信を強めると同時に強い責任感を覚えつつも、モモンガは口を開く。

 

「まずは、私が独断で行動し心配をかけたことを詫びよう」

 

 ほぼ前置きに近い、形式的な謝罪の言葉。

 その意味が分かっているのか、部下たちはあえて反応を返さない。

 モモンガは一拍の間を置くと、さらに言葉を続ける。

 

「人里に出た結果、私はとある人間の魔導師と出会った。まずはこれを見よ」

 

 モモンガは遠隔視の鏡<リモート・ビューイング>を取り出すと、先ほど訪れた町の「跡地」を映し出す。

 森を抉るクレーターの姿に、歴戦の守護者たちまでもが訝しげに眼を細めた。

 

「先ほど、大地の揺れを感じた者も多々居るだろう。その原因がこれだ。私の見た魔導師が放った、破壊魔法の結果である」

 

 身体こそ動かさないものの、目を見開いて強い動揺を見せる部下たち。

 冷静なことこの上ないデミウルゴスですらも、ややひきつった表情をしている。

 

「ナザリックが異世界に転移した時、私は一つの懸念を述べた。それはこの世界が、強大な存在ばかりが住む世界ではないかと言うことだ。そしてその懸念は、残念ながら当たっているかもしれない。……アルベドよ、竜破斬という魔法は知っているか?」

「恐れながら、存じておりませぬ」

「デミウルゴスはどうだ?」

「……まったく。わが身の無知を恥じる次第」

「良い。そなたたちが知らぬと申すのであれば、まったく未知の魔法なのであろう。恐らくだが、この世界と我々が元居た世界では、根本的に魔法体系そのものが違っているように思われる」

 

 後方に控える守護者の下僕たちを中心に、微かにだが戸惑った声が聞こえる。

 いざと言うときに、最前線に立たされるのは彼らなのだ。

 自分たちの主の力を疑うわけではないが――未知の魔法と聞いて、不安を抱かないはずがない。

 

「現状では、いかなる判断を下すにも情報が足りない。この度の外出で、私が知り得たことは井の中の蛙よりも少ないであろう。この世界という大海を制するためには、より多くを知らねばならない。そのためには、ナザリックより外に出る開拓者のような存在が必要だ」

 

 そういうと、モモンガはセバスの方を見やった。

 セバスは彼の視線に応じて、深々と頭を下げる。

 

「セバスよ、この任に当たってはお前の統括するメイドたちが最適だと私は考えた。人間に近い外見を持ち、さらに戦闘にも長ける者を数名選抜せよ」

「は、畏まりました」

「うむ。このメイドたちには、この世界の上流階層の元に使用人として潜入してもらおうかと思う。セバス自身も、どこかしらの重要人物のところに潜入してもらうつもりであるから、そのつもりで居るように」

「心得ました。ですが、いかなる人物の元に赴こうとも私の心は御元にございます」

「わかっている。お前の忠誠が揺るがぬことに、疑いはない」

 

 胸元に手を当て、再度深々と頭を下げるセバス。

 それは心臓を捧げるという趣旨のポーズであった。

 命すら捨てると態度で示した彼に、モモンガは満足げに笑う。

 

「次はアウラとマーレだ。お前たちには新しい拠点の建設を命ずる」

「新しい拠点ですか?」

「そうだ、何が起こるかわからない以上は万が一の場合にも備えねばならない。この地を奪われたときに、取り返すための仮住まいが必要だ」

「わかりました、御身が座するにふさわしい拠点を、必ずや作り上げて見せます!」

「うむ。場所の選抜はお前たちに任せるが、物資の輸送に支障が出ない場所にするように。また、アウラには合わせてこの地に住まう魔物の調査も命ずる」

「はい! 了解しました!」

 

 二人揃って、頭を下げるアウラとマーレ。

 続いて、モモンガはデミウルゴスの顔を見やる。

 

「デミウルゴスよ、お前にも任務を与える。人以外の勢力、例えば魔族などが居た場合の調査を任せよう。もっとも、まだ居るとは分からぬが」

「畏まりました。いかなる勢力が居ようとも、そのすべてをさらけ出してご覧に入れます」

「頼もしい。お前に与えた任務は、おそらくだが危険性が最も高いだろう。我らもそうであるが、人以外の種族は力が強い場合が多いからな。いざと言うときは、コキュートスとシャルティアもデミウルゴスをサポートせよ」

「は、了解でありんす」

「カシコマリマシタ」

 

 二人が頭を下げたところで、モモンガは最前列に控えるアルベドの顔を見た。

 ――今考えていることを言って、はたして彼女は納得してくれるだろうか。

 一瞬、不安が頭をよぎるがすぐさま振り払う。

 

「最後にアルベドよ。お前には私が居ない間、ナザリック最高責任者としての仕事を与える。この拠点を管理運用し、他の者たちの仕事の進行を補佐せよ」

「居ない間、でございますか?」

 

 恍惚としていた彼女の顔が、にわかに曇った。

 モモンガは言葉に詰まりそうになるものの、告げる。

 

「この事態に当たっては、私も自ら外に出ることにした。アルベドにはその留守を任せたい」

「そ、そのようなことを為される必要はございませぬ! 外のことを知りたいのであれば、我々がいくらでも情報を仕入れてまいりましょう! 御自ら外へ出ることなど、危険すぎます!」

 

 アルベドに引き続き、他の守護者たちまでもが動揺した顔でモモンガを見やる。

 だがそれを、あえてモモンガは強い口調で制した。

 

「お前たち、私の力を疑っているのか?」

「いえ、決してそのようなわけでは!」

「不安があるのも無理はない。だが、百聞は一見に如かずともいう。私はこのアインズ・ウール・ゴウンの支配者として、すべてを知っておく必要がある」

「……畏まりました。では、ナザリックのことにつきましてはわたくしにお任せを」

「統括としての働き、大いに期待している」

「はァいッ!! 命に代えましても、お役に立って見せます!!」

 

 頬を朱に染めながら、ときめいた様子で答えるアルベド。

 モモンガは彼女の様子に若干引き気味になりつつも、ごほんっと咳払いをする。

 

「では、今後の大方針を発表しようと思う。末席の者たちも、心して聞くように」

 

 引き締まった顔を見せる部下たち。

 その確かな忠誠心を感じながら、モモンガはゆっくりと口を開く。

 

「この世界には我々よりも強大な存在がいるかもしれない。だが、最も偉大なのは我らアインズ・ウール・ゴウンである! 世界を制し、このことを生きとし生けるもののすべてに知らしめよ!! 英雄が居るならば、その伝説を超えよ。神が居るならば、その神話を塗りつぶせ! 魔王が居るならば、それ以上の恐怖を与えよ! 全てを超越した存在として、アインズ・ウール・ゴウンの名を永遠に留めるのだッ!!!!」

 

 雷にも匹敵するような、覇気に満ち溢れた声。

 骨の身体から出ているとは思えぬそれに、玉座の間に集った者たちは皆、喜びで打ち震える。

 ――モモンガ様は、決して自信が無いわけなどではなかった!

 自分たちの主の勇ましい姿に、全員が決意を新たに奮起する。

 やがて、自然と頭を下げた彼らを見ながら、モモンガはさらに続けた。

 

「この大業を遂行するにあたり、私は名を改めようと思う。アインズ・ウール・ゴウン、それがこれからの私の名だ。ギルドの偉大なる名を背負い、それに恥じぬ働きをするとここに宣言する――!」

 

 

 

 所変わって、いずことも知れぬ深い闇の底。

 そこで紅いマントを羽織った男が、豪奢な椅子に腰かけていた。

 彼は何も映さなくなった水晶玉を見ながら、不機嫌そうにつぶやく。

 

「探知魔法が完全に無効化されていますか。これはやはり、何らかの術を掛けられたのでしょうね」

 

 男はおもむろに、水晶玉を手放した。

 水晶玉は床に落ちることなく宙を漂い、ふらふらと飛んでいく。

 

「早くあれを手に入れて、魔王シャブラニグドゥを復活させねば。最近はヘルマスターも動きつつある」

 

 男は手にした錫杖で、コツコツと床を叩いた。

 それに応じて、青黒いの岩石のような肌をした男が姿を現す。

 

「ゼルガディス、女神像を持つ少女の行方はだいたい見当が付いているのでしょう?」

「……ああ」

「そうですか、それは良かった」

「あまり口出しはしないでもらおう。その仕事は、俺に一任されていたはずだ」

「結構。下がっていいですよ」

 

 ゼルガディスはぶっきらぼうな態度で頭を下げると、その場を後にした。

 そして彼の姿が見えなくなったところで、小声でつぶやく。

 

「……あの女が像を持っているかどうかは、今は怪しいんだがな」

 

 町で起きたドラゴン騒動。

 それに伴って彼のターゲットが「大事なものを落した!」と騒いでいると、既に部下から情報が入っている。

 落とし物が何であるかまでは分からないが、騒ぎぶりからして女神像である可能性は高かった。

 オリハルコンで出来ているあの像は、「表面的な価値」もそれなりに高い。

 

「いずれにせよ、賢者の石は俺が頂く」

 

 ゼルガディスのつぶやきは、誰にも聞かれることなく闇に消えた――。

 




モモンガ様の大冒険が、いよいよ始まります!
……レベル30相当の強さになっちゃう装備は、ちょっと別のものを考えないとヤバいですね。

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