モモンガ様は自称美少女天才魔導師と出会ったようです   作:shinano

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第五話 依頼

「このような場所、御身が座するにはあまりにもふさわしくありません! そろそろ場所を、御移りになりませんか?」

「そう言うな。まずは先立つものを稼がないことには、どうしようもない」

 

 人間の住む街へと辿り付いたモモンとナーベ。

 二人は町はずれの酒場で、仕事を求めて延々と席に座り続けていた。

 この世界に生きる流れの剣士や魔導師は、基本的に酒場や宿で仕事を受ける。

 町の住民たちもそれを心得ていて、何か困りごとがあった時は酒場や宿屋に行くのが定石となっていた。

 それをセバスから得た情報で知っていたモモンは、こうして何かしらの仕事の依頼主が現れるのを待っているというわけである。

 

 ――冒険者ギルドでもあればな。

 

 RPGに慣れたモモンは思わずそう考えてしまうが、現実にはなかなか難しいのだろう。

 彼は飲めない酒を見つめながら、本日数度目かになるため息をつく。

 かれこれ二時間は粘っているが、依頼主になるような人物はまだやって来ていない。

 そろそろ、安酒だけで居座る二人を見る店主の目も厳しくなってきていた。

 

 ナザリックには現在、莫大な金がある。

 その量はいま彼らが座っている酒場を、すべて金貨の海に埋められるほどだ。

 この世界でも金は価値があるようなので、それらを使ってしまえばまったく金には困らない。

 しかし、ユグドラシルの通貨を安易に用いれば、そこから怪しまれる恐れがある。

 もしも他にプレイヤーが居たら、たちどころに自分たちの存在がばれてしまうだろう。

 少々手間はかかっても、現地の金を稼ぐしかなかった。

 

「誰か手の空いてるやつはいない!?」

 

 酒場の扉が不意に押し開けられ、少女のものと思しき声が響いた。

 モモンが振り向けば、たちまちオレンジに近い色彩の赤髪が目に飛び込んでくる。

 彼の動きがにわかに止まった。

 間違いなく、先日目にした魔導師の少女リナ=インバースであった。

 

「おいおいリナ、いきなりそれはないだろ?」

「別にいいじゃない。お、ちょうど強そうなのが居る!」

「むッ!?」

 

 一目散に自分たちの方へと近づいてくるリナに、モモンは思わずむせてしまった。

 間違いなく、何か厄介事がもたらされるような気がしたのだ。

 それも、超特大のものが。

 そう思って彼が額に手を当てると、ナーベが何か勘違いをしたのか、吠える。

 

「無礼者! 至高の御方に向かって、何と言う口の利き方をするのですッ!」

「至高の御方? なにそれ?」

「こら、ナーベ! すまない、この者は私の家に代々仕えて来た従者の家の者でしてな。今では我が家も落ちぶれて、ただの旅仲間なのですが……まだ、私を主人だと思っているようで」

 

 とっさにもっともらしい誤魔化し方をするモモン。

 ナーベの頭を押さえながら謝罪する彼の嘘に、リナもガウリイも「へえ」と軽い調子でうなずいた。

 モモンとナーベの真の関係など、そうそう悟れるわけもないのだが、上手く騙されたようである。

 

「家が没落して、旅の剣士ってわけか。おたくもなかなか大変だなあ」

「え、ええまあ。装備だけは、代々受け継がれてきたそれなりのものを使っていますが」

「立派だもんねー、その鎧! それだけデカいフルプレートなんて、なかなかないわよ!」

 

 興味深そうな顔で、鎧を観察するリナ。

 隙間から骸骨の体が見えやしないかと、モモンは内心ひやひやした。

 一応、それを防ぐための幻術もしっかりとかけては居るが――相手は実力の知れない魔導師だ。

 見破られてしまうことも大いにあり得る。

 

「こら、あんまり人の体をじろじろ見るもんじゃないぞ!」

「へへへ、ごめんごめん。こういう鎧って、ちょっと珍しいからね」

「そうなのですか?」

「ええ。王宮の兵士とかならともかく、旅の戦士でこういう装備をしてるのはほとんどいないわ。重いから」

 

 言われてみて初めて、モモンは鎧の重さのことを考えた。

 魔法職とはいえ、レベル100である。

 鎧がまったく苦にならない程度の力は持ち合わせていた。

 おかげで特に意識しなかったが、フルプレートで旅をする人間というのはいささか不自然である。

 旅をするならば、もっと軽装で持ち運びに便利な鎧が好まれるはずだ。

 そのことに気づいたナーベが、とっさにモモンをフォローする。

 

「モモンさまはこのような鎧ぐらい、難なく着こなせる力をお持ちなのです」

「そ、そうです。昔から力自慢でしてな!」

「そうなの。じゃあ、腕の方にも自信ある? それだけのパワーがあるなら、トロルぐらいは軽く倒せるんでしょうね?」

「失礼な! トロルの十や二十、私でも倒せます! モモンさまならばそのさらに百倍は――」

「ホントか!? 思ったより凄腕なんだな」

 

 ナーベの言葉を遮り、驚きの声を上げるガウリイ。

 ナーベやモモンの体つきや動きから感じた彼の予想を、遥かに上回る強さであった。

 あくまで自己申告であるが、これならば立派に戦力となってくれるだろう。

 彼とアイコンタクトを取ったリナは、早速本題に移る。

 

「ねえ、あなたたち。私たちに護衛として雇われるつもりはない?」

「護衛ですか?」

「ああ。俺たち、ちょっとばかしヤバい奴らに狙われててな」

「ちょーっとね……」

 

 リナとガウリイは、互いに顔を見合わせた。

 いま自分たちが抱えている、かなり複雑で大きな問題を二人に話していいものなのかどうか。

 そもそも、信じてもらえるのかすら疑わしいのだ。

 言うべきか言わざるべきか、珍しく真剣な顔で考える。

 

 こうして二人が考えあぐねていると、モモンがすかさず切り出した。

 

「訳ありなら、話していただけませんか? 何の事情も知らないのでは、こちらも守りようがありません」

「えーっと……。山賊のお宝をちょびっとだけ頂いたのはいいんだけど、その中にヤバいものが混じってたらしくてね。それを取り戻そうとしてるやつらが、私たちを狙ってるのよ」

「それなら、少しぐらい返してしまってもいいのでは? 護衛を頼む方がかえって高くつくような気がしますが」

「何というか、私の勘がダメだって言ってるの。渡したら恐ろしいことが起こりそうだってね」

「勘、ですか」

 

 やや呆れたようなモモンの口調。

 それに対して、リナは少しばかりムキになって答える。

 

「勘だって意外とばかにならないものよ? 昨日、奴らと接触する機会があったんだけどね。奴ら、相場の一万倍で買い取るなら売っても良いって言った私に、応じてきたのよ。普通じゃないわ、絶対に」

「相場の一万倍ですか。それは確かに、普通ではありえないでしょうね」

「でしょ! それをガウリイは、ただ私が金にがめついからだって……」

 

 恨めしげな眼でガウリイを見やるリナ。

 しかしガウリイの方はどこ吹く風、とぼけた顔で首をかしげる。

 呑気なその顔に、リナはいらだった様子で息を吐く。

 

「……敵の首領の名はゼルガディス。ざっと見た感じだけど、かなりの凄腕よ」

「首領ということは、他に仲間も?」

「ええ。魔物を引き連れたミイラみたいな男とかも居るわ。どいつもそこそこに腕は立つわね」

 

 リナの言葉に、少し考えるモモン。

 何と言っても、今の彼は弱体化している。

 いざというときはナーベが付いているとはいえ、危険そうな依頼を受けて大丈夫なのか。

 不安は尽きなかった。

 が、ここでリナが余計な一言を言う。

 

「不安に思うなら、無理に引き受けてくれなくてもいいわ。これでも私たち腕は立つ方だから、自分たちで切り抜けるわよ」

「愚かな! モモン様がその程度の相手に恐れをなすなど、ありえません」

「だったら、引き受けてくれる?」

「お、おい! ……報酬はいかほどいただけるのでしょうか?」

「そうね、金貨五十枚出すわ。依頼の期間とかもどれぐらいになるかまだわからないから。前金で二十枚、残りは後払いってことでどう」

 

 金貨五十枚――平民の家族ならば一年暮らせるぐらいの金額だ。

 すぐさまそのことを計算したモモンは、うんうんと頷く。

 いつまでの依頼になるかは分からないが、悪い仕事ではないだろう。

 活動資金が必要な時期でもあるし、この大金は逃しがたい。

 

「わかりました、受けさせていただきましょう」

「ホントか!? 助かったぜ!」

「ありがと! じゃあまずはこれね」

 

 そういうと、リナがモモンに手渡したのは――金貨二十枚相当の『貴重な植物』であった。

 

 

 

「やはり無理ですね」

 

 場所は変わり、いずことも知れぬ闇の底。

 赤マントの男は、今日も今日とて探索に励んでいた。

 しかし、相変わらず水晶玉が映すのは暗闇のみ。

 お目当ての品がどこにあるかは、ようとして知れない。

 探索を命じているゼルガディスは、その場所を把握しているようだが……この男は彼のことを、ほとんど信用してはいなかった。

 

「こうなったら、相手に気づかれる可能性がありますが……出力を上げてみますか」

 

 水晶玉から放たれる精神波。

 その出力を徐々に上げていく。

 水晶玉がにわかにオーラを帯び始め、ぼんやりと輝きだした。

 やがて出力がある一定の水準を超えたところで、何か妙なものが引っ掛かる。

 

「これは……むッ!?」

 

 不意に感じた、魔力の揺らぎ。

 こちらに向かってくるそれに、男はすぐさま防御態勢を取った。

 やがて起きた爆発。

 障壁で防いだものの、部屋を汚してしまったそれに彼はやれやれとため息をこぼす。

 

「小賢しい。ですがかえって……」

 

 男は再び水晶を手元に寄せると、精神を集中させ始めた。

 彼は己を攻撃してきた魔力の出所を、慎重に逆探知していく。

 まだはっきりと気づかれてはいないようだが、もう一度、罠に触れたら完全にばれてしまうだろう。

 そうならないように、丁寧に魔力の糸を手繰り寄せる。

 そして――

 

「なるほど、ここですか。移動していることからすると、ゼルガディスの言う少女たちのようですねえ。どれ、私も出るとしますか」

 

 そういうと、男は軽い調子で呪文を唱えた。

 たちまち、黒こげになっていた部屋が時を巻き戻すようにして元に戻っていく。

 やがてすっかり元通りになったところで、彼はその場を後にしたのだった――。

 




レゾ「最高位魔獣を召喚する!」
モモンガ様「あれは……石版!?」
レゾ「見よ、最高位魔獣の恐ろしき姿を! 超魔獣ザナッファー!!」

レゾがCV子安さんだということを思い出して、こんな展開にしようかとも思いましたが……割と洒落にならないのでやめましたw
そういえば、スレイヤーズ世界だと天使が居ないような……。

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