真・恋姫†無双~南北コンビの三国志~   作:クーロン

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ろくでなしの幼馴染

「呼ォォォォォ……」

「フー……ハー……」

 

 聖フランチェスカ学園の武道場で、二人の少年が向かいあっていた。

 既に他の人達は退出しており、武道場は二人のものになっている。

 一人は剣道着を身につけ、竹刀を握っていた。身体は軽くリズムをとっている。

 そして、呼吸も落ち着いている。

 その対面にいる少年は対照的だった。

 袴を履いているのと、体格は共通だが、それ以外はすべて異なっていた。

 その少年は素手であり、しかも防具はつけていなかった。

 顔は繊細な美形ではない。

 むしろ逆だ。

 鼻は潰れ、耳は分厚い。眼も大ぶりな造りだ。

 だが、醜男と言ってしまうのは可哀そうだろう。

 バランスはそれなりにとれている顔だった。

 

「一刀ォ……行くぜ」

「よし、こい」

 

 素手の少年は拳を固めた。

 固めた拳の指は太い。関節部分が太くなっているのだ。

 手の甲も丸くなっている。

 長年、素手での格闘(たたかい)を続けてきた打撃格闘家(ストライカー)の手だった。

 そして、潰れた耳と鼻はその少年が組技格闘家(グラップラー)である特徴でもあった。

 

「ふしゅッッ」

 

 少年が鋭く息を吐いた時がゴングであったかのように、二人は動いた。

 一刀と呼ばれた少年は後ろに下がり、竹刀を扱うのに最も良い距離をとった。

 拳と竹刀が触れ合うか、触れ合わないか、といった間合いだ。

 対して、素手の少年は、面の向こうの顔を睨みつけていた。

 二人の間に無言の時が続いた。

 開幕(はじ)まって10秒、15秒そこら経って一刀は動いた。

 引き絞るように声をあげ、面を打ち込んだ。

 

「イエァァァア!」

「カァッ!」

 

 同時に素手の少年も踏み込んだ。

 右手で竹刀を払い、同時に左足で一刀の右脇を狙うように蹴りを放った。

 

「ッ痛ゥ~~」

「イッポン」

 

 左足は見事に狙いを蹴りぬいていた。

 一刀はよろけ、尻もちをついた。

 

「仙刀! お前ちょっとは加減しろ! ホントに脇が痛いんだけど!」

「えーと……確かこれで3241戦して、1435勝目……」

「聞け! 少しぐらい聞け!」

「ヤダ。何でお前の恨み言を聞かなきゃあならねぇんだよ」

「お前はさぁ……!」

 

 一刀は軽く舌打ちをし、ヨロヨロと立ち上がった。

 仙刀と呼ばれた少年は一刀には目もくれず、ノートに試合の結果をメモしていた。

 

「これで、南郷仙刀(なんごうせんと)北郷一刀(ほんごうかずと)の試合結果が……チッ。まだお前が勝ってんのか……。ガキの頃の借金が痛いな」

「……まだノートに記録してたのか?」

「そりゃそうだ。忘れないためにな」

 

 仙刀はノートを閉じ、笑いながら振り向いた。

 

「知ってんだろ? 負けず嫌いなんだよ、オレ」

「そしてしつこい性格……っと」

「ウルセ。それはお前との勝ち負けに関しては、だ。で……これで8連勝。もう一戦やるか?」

 

 仙刀は薄く笑みを浮かべ、聞いた。

 だが、一刀は首を振った。

 

「悪いけど課題がある」

「課題ィ?」

「世界史の課題で、資料館にある物に関係したことを調べて……ってやつ。提出が近いんだよ。次の月曜には出さないと」

「諦めろ。て、わけでもう一戦!」

「ふざけんなよ! さっき聞いた意味ねえじゃん!」

「聞いて行動するか、ってのとは別よ。べ・つ」

「……殴ってもいいか?」

「壁か床なら。もしくは天井」

「お前をだよ! それに天井を殴れるかァ!」

「あーハイハイ」

 

 仙刀はマトモに取り合わず、適当に聞き流した。

 その態度を見て、一刀は溜息を吐いた。

 そして特に何を言うでもなく、するでもなく、防具を外し始めた。

 それを見て仙刀も制服を取り出し、道着を脱ぎ始めた。

 二人は幼馴染であったため、付き合いも長かった。

 そのため、お互いの考えも大体分かっていた。

 

「で、やっぱ資料館に行くのか?」

「まあな。で、お前はもう一戦やりたいのか?」

「そりゃあな」

「もう、地下闘技場行けよ……。東京ドーム地下6階に」

「いいなぁ……それ」

「いいのか!?」

「トーナメントとか出てえな。あと、死刑囚とやり合ったり……」

「したいの!?」

「楽しそうじゃん」

「いや! いやいやいや!」

「で、お前は何騒いでいるんだよ。資料館、閉まんぞ」

「誰のせいだと……!」

「誰だろうねぇ……」

「お前だよ!」

 

 一刀は、溜息を吐いた。

 いつもの事なのか、一刀は落ち着いていた。

 二人は着替え終わってから、資料館に向かった。

 

   1

 

「ったく……。なんでこんなカビ臭えとこに……」

「文句言うなら、帰ればいいだろうに」

「しゃあねぇだろ。一人で帰るって、なんか寂しいじゃん。それに誰かに襲われそうで……」

「お前を襲うやつはいないだろ」

「まぁ、襲われたら、正当防衛として色々と……」

「何をヤル気だ!? 一体、何をヤル気だ!?」

「ウチで習った古武術の関節技とか、投げ技とか……。とにかく、人の体をコキャコキャやりたい」

「“過剰防衛”って知ってる?」

「オーウ、ワタシニホンゴ、ワ~カリマスェ~ン」

 

 資料館はすでに薄暗く、人気も無かった。

 そのため、二人分の靴の音がよく響いていた。

 一刀は時々足を止め、展示品を見ていたが、仙刀は興味なさげに一刀の周りをブラブラとしていた。

 

「仙刀……少しはこういうの、興味ないのか? 中国の三国時代の壺とか、剣とか」

「無い。てか、大抵はそういうのは偽物だっての。なんで〇鑑定団とか見ると、分かるだろ。50万で買ったのが、5万くらいだったり……」

「いや、そうかもしれないけど。確かに偽物かもしれないけど」

「だから興味なんざねえの。あと、歴史系は嫌いなんだよ」

「それが本音だろ」

「うっせぇな」

 

 仙刀はチッ、と舌打ちをした。

 そして頭をポリポリと、太い人差し指で掻いた。

 ちょっとの間、お互いに無言だった。

 

「うーん……やっぱり、アレにするか」

 

 一刀は今まで見ていた展示品から目を離し、身体を伸ばした。

 

「アレ?」

 

 興味なさげに仙刀は聞いた。

 

「三国時代の鏡」

「鏡ィ? そんな物あんの?」

「あるし、日本の歴史にも……」

「黙れ歴オタ。決まったならさっさと帰ろうぜ」

 

 そう言って、さっさと家帰って、ウチの柔術の練習したいしな、と仙刀は付け加えた。

 

「いや、実物を見て写真を撮っておく」

「んなもん、ネットで探せ」

「すぐ終わるからいいだろ。ここで撮って、貼り付ける方がはやい」

「へーへー。なら、そこに行くか」

「ああ。確か、そこの角の向こうにあったはず」

 

 仙刀と一刀は二人で向かった。

 だが、ちょっと曲がった所で誰かいることに気が付いた。

 

「仙刀。あれ……誰だ?」

学園(ウチ)の制服じゃねえな。同じ白だけど」

「……何やってるか分かる?」

 

 一刀は声を潜めて聞いた。

 

「石……? いや、金属っぽい丸い板を持ってんな」

「多分……鏡だ」

「鏡ィ? あんなのが?」

「昔の鏡は」

 

 仙刀はふぅーんと、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 そして、二人はばれないように、ゆっくりと静かに近寄って行った。

 だが、その白服は感づいたのか鏡を持って走り出した。

 

「……逃げた。仙刀、追って」

「何でさ。いいじゃん別に。古くさいものの一つ百個盗られようが」

「よくないから。てか、多いから。あと、お前の方が足速いんだから早く行け」

「人使い粗いねぇ。まあ追うけど」

 

 タッ、と軽く足音を立て仙刀は走り出した。

 

   2

 

 なんだかんだ言って、仙刀は悪いヤツじゃない。

 面倒くさがり、マイペースといった短所はあるけど……。

 それでも、家が近くて親が仲良いいこともあり、物心つく前から付き合いがあるから、扱い方っていうのは大体分かる。

 

「テメェ! 何パクったのか見せてもらおうか!」

 

 仙刀はすぐに追いついた。

 そして、今までの走りを助走として……飛び蹴りを白服の背中に放った。

 ……確か、アイツって鏡を。……ってことは!

 

『パリーン!!』

 

 ……やっぱり。

 

「まだ逃げるかい?」

「仙刀! もう、そいつは元気いっぱいじゃない!」

 

 俺は慌てて仙刀の所に走り寄った。

 その間、白服の男はピクリとも動かなかった。

 

「……元気いっぱいじゃないどころか」

「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

「何でそんな余裕!? 殺ったのお前だぞ!?」

「冗談だ。生きてるよ。多分」

 

 仙刀は白服の手首に指を置き、脈はあるといった。

 それならいいけど、もう一つ問題がある。

 

「あとは……この鏡だ。どうすんだ、コレ。お前が弁償しないとダメだろ」

 

 カバンを置き、しゃがんで鏡の破片をかき集める。

 すでに、粉になっている部分もある。修理は無理だろうな……。

 

「はぁ? 折角、取り返したのにか?」

「とりかえしてねえよ! “取り返しのつかないことになっている”だけだろうが!」

「そうだな……アロン〇ルファでくっつけるか」

「くっつかないから、コレ! まったく、どうするんだよ……。これ、資料館で一番高価な物、とか言われていた物だし」

 

 呟きながら破片を集めていたら、カシャアッと無機質なシャッター音がした。

 気になり振り向くと……。

 

「おい、仙刀。そのスマホで何をした?」

「いや、これを証拠写真にして、俺が弁償しないようにと思って」

「最低だな、お前! 消せ! 今すぐに消せ!」

「ざけんな! 俺の小遣いがなくなっちまう! 買いたい武術書があるのに!」

「買うものおかしいだろ!」

「趣味だから仕方ないだろうが! てか、俺もう逃げるからな!」

「逃がすかぁ! 責任とれやボケ!」

「~~~ッッ! 足首掴むんじゃねえ! 転んで鼻を打ったじゃねえか!」

「うるさい! お前が逃げようとするからだ!」

 

 やっぱりコイツは最低だ!

 コイツの人間形成に、武道はあまり役立ってないらしい。

 足首を両手で掴み、逃げられなくしても、モゾモゾと逃げようとしている。

 

「離せぇ~。俺は逃げるんだ。お前の荷物もかっぱらってな……!」

「離すのはお前だ! 何で俺のカバン持っているんだよ!」

「え……? お前の財布を盗むためだけど?」

「それが何か? ってツラすんな!」

 

 ここまでクズだったのかコイツ!

 逃げようとする仙刀。逃がさないよう握りしめる俺。

 図らずとも、一進一退の攻防になっていた。

 そうこうしている内に、仙刀は抵抗をやめた。

 

「おい……一刀。後ろ見ろ……」

「後ろ?」

 

 真面目なトーン、真面目な表情で仙刀が言った。

 それで、後ろを見ると……。

 

「なんだ? 割れた鏡が光って……」

「今だ!」

「逃がすかぁ!」

「とっさの前受身! っとぉ……一刀! てめぇ、危ないだろうが! カバンの角って、教科書とか入っていると痛いんだよ!」

「うるさい! 罠にはめようとすんな!」

「事実だろう! 光ってるのは事実だ!」

「そうだけど、お前は信用ならないんだよ!」

 

 割れた鏡が勝手に光り始める、という摩訶不思議な現象が起こっているけど関係ない!

 コイツを逃がさない方が重要だ!

 

「チッ」

「舌打ちしやがった! 舌打ちしやがったよコイツ!」

「せっかく逃げれるところだったのに……」

「クソ野郎だなお前は!」

 

 俺は今度は離さないよう、仙刀の足首をしっかりと掴んだ。

 仙刀はうつ伏せ状態だから、抵抗らしい抵抗は出来ていない。

 また一進一退の攻防になるかと思ったけど……。

 

「ぬおッ!? 一刀お前の引く力、こんなに強いのか!?」

 

 そう。何故かズルズルと仙刀が一方的に引きずられているからだ。

 だけど、俺が引いているんじゃあない。

 

「違う! 鏡に……引っ張られる……!」

「え? 何? あれ、吸引力の変わらないただ一つの鏡!?」

「うるせえよ! とにかく分からないけど引っ張られる……!」

 

 何でこんなことになっているのか、訳が分からなかった。

 這って鏡から離れようとしても、ピクリとも前に進まない。

 力を抜いたら、一気に吸われてしまいそうだ。

 

「おい! そこの白服! 事情を説明しろ! どういうことだ!?」

「…………」

「チクショウ! まだ気絶してやがる!」

 

 このビチグソがぁ~! と仙刀が吼えた。

 だけど、吼えたところで事態は好転しない。

 何かいい方法を考えないと……。

 そう思った矢先だった。

 

「仕方ねえ! 一刀! お前だけ引きづりこまれろ!」

 

 そう言って仙刀は、腰ごと足を力ずくで回して、俺から逃げた。

 コイツ……!

 

「逃がすかァ!」

「ああもうしつこい! って何でお前、俺の腰に手を伸ばすんだ!」

 

 もう手段を選んじゃいられない! コイツの力を利用して抜け出す! もしくは道連れだ!

 

「いやァァァァ! この痴漢!」

「気持ち悪いこと言うな!」

「チクショォォ……何度も憑りつきやがって……ボンビーかお前は!」

 

 必死で逃げようとする仙刀。俺も必死で逃げようと、腰にしがみ付きながらも足は踏ん張って、吸い込まれないようにしている。

 それでも、じわじわと吸われていく。

 

「仙刀! もうちょっと何とかならないか!?」

「なるならなんとかしている! いや……」

「何かあるのか!?」

「ああ」

 

 仙刀の背中しか目に入らない状況だけど、奴が一瞬だけ笑みを浮かべた気がした。

 直後、身体に電撃よりおぞましい何かが走った。

 

「必殺! 内股!」

「お前……俺の股間を……!」

「そして離脱!」

 

 仙刀がしたのは相手の太もも、股間辺りを足ですくい投げる柔道技の内股だった。

 狙いは股間に絞っていたのだろう。

 油断していたこともあり、綺麗にやられた。

 力が緩み、鏡に引っ張られる……。

 

「ハァ……冷静になれば分かることだよな、一刀。ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから、鏡の中なんてあるわけねえだろ。気のせい……!?」

 

 仙刀が何か言ってるけど、よく聞こえない。

 どんどん鏡に引っ張られていく。

 

「ああもう! どっかの暗殺チームのスタンドみてえじゃねえか! 仕方ねえ!」

 

 何でか分からないけど、その一言はよく聞こえ、直後に誰かの手が伸びてきた。

 

   3

 

「まさか二人とも引きづり込まれるとは……予想外でした」

 

 騒いでいた二人が消え、静かになった資料館に眼鏡をかけた理知的な印象の男が現れた。

 

「左慈。大丈夫ですか?」

「…………」

 

 そう言って眼鏡の男は白服の男を起こした。

 白服の男は目を覚ましたが、ボーっとしている。

 

「左慈?」

「あれ~? お兄ちゃん、ここどこ~?」

 

 左慈と呼ばれた男は、何かが吹っ飛んだのか、目がクリックリになり幼児化していた。

 

「クハッ!」

 

 瞬間、資料館が謎の赤い液体に染まった。




これは元々、なろうで掲載していた小説のリメイクになります。そのためなろうの時の小説と比べ、色々と変わっています。
誤字脱字、批判等ありましたらご報告お願いいたします。
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