真・恋姫†無双~南北コンビの三国志~   作:クーロン

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乱世と修羅の国

   1

 

「一刀無事か!? マジで吸い込まれるなんてな……!」

「無事だけど……! 駄目だ! 戻れない!」

 

 仙刀は一刀の手首を掴み、引き釣りだそうとしたが抵抗むなしく、二人とも鏡に引きづり込まれてしまった。

 鏡の中はうねうねと空間が歪み、平衡感覚が失われそうな空間だった。

 その中で、浮いてるのか立っているのか、落ちているのか昇っているのか、よく分からない感覚を味わっていた。

 

「くっそ! こんなことになるなんなんてな……!」

「元はと言えばお前のせいだろ! 鏡割るわ、逃げようとするわ、俺を生贄にしようとするわ!」

「今は言い争う時間じゃねえ! 何とか逃げ出す方法を……!」

「確かにそうだけど……」

「分かってくれたか! じゃあ考えてくれ!」

「いや、お前も考えろォ!」

「いや無理。この感覚、ガチで酔いそう……」

「吐くな吐くな! 胸に顔をつけんなー!」

「やめて……ちょっと……マジで吐きそう……」

 

 仙刀は独特の感覚に酔ったのか、一刀にもたれかかった。

 一刀は本気で嫌がり、仙刀を突き放そうとした。

 

「頼むから吐くな!」

「オォォォオ……」

「ギャアアアア! って吐いてないのかよ! まぎらわしい!」

 

 まだ吐いてはいないが、仙刀は既にグロッキーだった。

 顔が青くなっている。

 仙刀は冷静に考える、など到底できない状態だった。

 そうしている内に、一刀は突き離すのは止め、仙刀から目をはなした。

 

「あ? どうした?」

「ゴメン……お前を見てたら……ちょっと……貰い……」

「止めろ! 頼む! 止めてくれ!」

 

 『一刀! お前もか!』と仙刀は言った。

 そうして今度は、仙刀が一刀を突き離した。

 

「ああもう! 離れろ!」

「うおッ!?」

「……あれ?」

 

 弱く押しただけだった。

 トンッ、と軽く押しただけだった。

 だが、一刀はよろけ、半歩下がったら真っ逆さまに落ちて行った。

 まるで、突然その場から足場が消えうせたようであった。

 

「嘘ォ!?」

「南郷貴様ァ! 末代まで呪ってやる!」

「ナンマンダブ……せめて成仏してくれよなぁ……」

「本当に呪ってやらぁ!」

 

 一刀は呪詛の言葉を残し、落ちていく。

 だが、突如光が一刀を包んだ。

 ――どうなっている!?

 仙刀がそう思うのと、彼が光に包まれるのは同時だった。

 

   2

 

 世は乱世になる。

 

「あれ? 何だろ……?」

「流星でしょうか? まだ昼間だというのに……」

「二人とも西に何が見えたのだ~?」

 

 乱世になり、天の御使いが現れる。

 

「へぇ……。昼間に、あんなハッキリと星が見えるのね」

「吉兆か……それとも凶兆か……」

 

 その者達白き衣を纏いて混乱の野に降り立つべし。

 

「どうしたのかしら? 報告を続けて」

「はっ。領内全域を探しましたが、未だ足取りは……」

「まったく……。一体、どこに行ったのだ……」

 

 ――管路の占いより一部抜粋。

 

「桔梗様、紫苑様! すぐ東の山に流星が!」

「むぅ……面倒な所におちたの」

「ええ……。桔梗、私はもう帰るわ。そうした方が良いでしょう」

「うむ。焔耶! 山を見張っておけ!」

「行かなくてもよろしいのですか!? 様子を見に……!」

「ならぬ。……山の向こうは修羅の国ぞ」

 

   3

 

「何だぁ……こりゃ」

 

 仙刀はそう呟き、溜息を吐いた。

 彼は光に包まれて、一度目を閉じた。

 そして再び目を開き飛び込んできたのは、暗い資料館ではなく、鏡の中の空間でもなく、見晴らしの良い山の頂上であった。

 空は雲一つない。心地いいそよ風は、かすかに草木の臭いがある。

 仙刀は酔いをさまそうと、深呼吸した。

 登山で感じる空気を感じた。

 

「そういえば……一刀はどこだ?」

 

 両肩のカバンを地面に下ろし、仙刀は周囲をぐるりと見渡したが、人影は見当たらなかった。

 ――はぐれたのか。

 仙刀はそう思った。

 ここから見下ろせる周囲の山の中に居るのかもしれないが、手がかり無しに歩き回って見つけられる、とは思わない。

 

「どうしようかねぇ……」

 

 仙刀はアゴに手をあてた。

 だが、すぐに手をおろした。

 

「……誰だ」

 

 抑揚もなく仙刀は言った。

 

「…………」

「答えないってことは、どういうことだ?」

 

 一刀じゃあない。

 間違いなく一刀じゃあない、と仙刀は確信していた。

 

「侵入者か」

「質問しているのは、こっちなんだけどな」

 

 仙刀の背後から声が聞こえた。

 ――どうにも完全に回り込まれているらしい。

 そう思い、仙刀はその場にしゃがんだ。

 その上を、元々頭の合った位置を、何かが唸りをあげて通る。

 ――蹴りだ。

 丸太のような足が通って行った。

 仙刀は両手を地面につき、左足で相手の軸足狙いの、後ろ回し蹴りを振った。

 手応えはない。

 だが、仙刀の狙いは、相手と向き合うことだ。

 蹴りの勢いごと上半身を半回転し、相手と向き合った。

 

「へぇ……そんなツラしてたんだ。ゴツイね」

「…………」

 

 仙刀の目に飛び込んできたのは、鼻の下に髭をはやした男だった。

 髪は短く、顔に刀傷がある。

 太い肉体だ。

 胸は分厚く、鉄板を幾つも重ね合わせたかのようだ。

 腕や足は女のウエスト程の太さ、という説明がしっくりくる。

 上半身には服を着ず、下半身は道着のようなズボンを履いている。

 

「怖い身体してんねぇ……」

 

 そう言って仙刀は笑みを浮かべた。

 右足を軽く前へ出す。

 

「…………」

 

 ヒゲ面の男は何も言わない。

 何も言わず、ファイティングポーズをとった。

 ――やりたいのか?

 やるのか? 俺と。

 仙刀は両手を軽くあげた。

 右手は肩の高さに、左手はそのちょっと下に。

 

「行くぞ」

 

 男がつぶやいたときには既に、肉が仙刀の目の前に迫っていた。

 

「キェアアアァァア!」

 

 男の雄たけびは、獣のようであった。

 ゾクリ、と黒い影が仙刀の背をなぞった。

 仙刀が動けないうちに、丸太のような足が、腹に放たれていた。

 

「ちぃっ」

 

 仙刀は蹴りが腹に刺さった瞬間に、両腕でその足を抱えた。

 胃液が逆流しそうだった。

 一瞬、頬が膨らんだが、すぐに飲みこんだ。

 そして、左手で腹に抱えた道着の裾を握った。

 右手は相手の膝の下へ、もぐりこませる。

 

「ぬうぅッ」

 

 仙刀は蹴り足を掴み、背負い投げた。

 ――蹴り足一本背負い。

 南郷仙刀が幼いころから習う、古武道の技だった。

 男の顔面は地面に(したた)かに打ち付けられた。

 

「ッきぇああア!」

 

 うつ伏せの男に向かって吠え、構える。

 その叫びは震えていた。

 ――立つな! 立たないでくれ!

 仙刀は震えていた。

 何度も練習はしたが、初めて実戦で使った技だった。

 最後までやりきったのは、初めての技だった。

 

「……流派はなんだ」

「ひィッ……」

 

 男は立ち上がった。

 鼻血で顔は血まみれになっている。

 男の鼻は折れたのか、歪んでいた。

 だが、男は意に介した様子はない。

 淡々としていた。

 

「流派は?」

 

 ――何だコイツは!?

 先手をとったハズだった。

 ――最初に貰ったがそれを利用し、先に大きい痛手を与えたのは俺で……

 しっかりときまった技だった。

 

「答えるぉお!!」

「ヒイィアアア!」

 

 仙刀は悲鳴をあげ、右の拳で殴りかかった。

 もう、相手が人間だなんて思えていなかった。

 顔面から地面に思い切り叩きつける。

 そうすれば人は止まる。もしくは死ぬ。そういう技だった。

 だが、目の前の男は生きている。まだ元気でいる。

 

「……弱いな」

 

 男は心底落胆した目をし、そう呟いた。

 

「遅く、軽い」

 

 迫る右手首を掴み、回す。

 力だけで相手を振り回す、技術のいらない技だった。

 男は仙刀を強引に引っこ抜き、背中から叩きつけた。

 だが、それはきまらなかった。

 仙刀は両足から地面につき、そして跳ねた。

 男の目の前に突如、膝が飛び込んできた。

 

 グジィッという軟骨が潰れる音がした。

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

 限界だった。仙刀の身体、精神ともにだ。

 今まで味わったことのなかった感覚が仙刀を追い詰めていた。

 相手の骨を壊す感覚。型の中だけで、実戦で使ったことのない技の感覚。それが相手を破壊している感覚。初めてで本物の闘争(たたか)いの感覚が追い詰めていた。

 

「……先の言葉、訂正しよう。お前は優秀な闘士だ」

 

 殺してやる。男は平坦にそう言った。

 その言葉は本気の言葉だった。

 仙刀にはその言葉が、初めて聞いた言葉のように聞こえた。

 ――恐い。

 仙刀はそう思った。

 

「キェアアアアッ!」

 

 だが、どこか精神(こころ)が背中を押す。

 ――逃げられない! もう逃げられない!

 それが、仙刀に獣の叫びをあげさせた。

 

   4

 

 怖ぇえ! 逃げるか? それはない! やるしかねえ! 

 何を? 柔術……。古武道……。

 

「キェアアアアッ!」

 

 俺は、喉が切れそうになるぐらいに叫んだ。

 同時に、丸太のように太い肉体が迫ってくる。

 来い! 来い! 真っ向からだ!

 顔面に迫る拳をさばく。一つ、二つ、三つ……。

 当たらないようにさばいたが、制服の襟を太い指に捕まれた。

 そのまま、万力のような力で、男の胸元に引きづり込まれた。

 抵抗しても……出れない……!

 そして男は膝蹴りを、俺の腹に向かって叩き込んでくる。

 両腕で腹を守って防いでも、重い。

 

「しぇああああっ!」

 

 男が吼えた。

 反射的に、腕の守りを固めた。

 腹に来るハズの衝撃を覚悟した。

 

 甘かった。

 

 男の狙いは金玉だった。

 すねでの一撃だった。

 完全に油断していたから、綺麗に入った。

 足の力が抜ける。腕が一瞬だけ落ちた。

 男は見逃さなかった。男の膝が、俺の腹に入った。

 うめき声すら出せない。

 一呼吸。

 

「げえええっ!」

 

 息を吐くと同時に、黄色い胃液が地面に落ちた。

 

「おええええっ!」

 

 酸っぱい臭いがする。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない!

 すぐに左に避けた。

 よける時、俺の頭があった場所に、男の(かかと)が落ちてきていたのが目に入った。

 俺は吐き気を必死で抑え、立った。

 

「……楽しいな」

 

 男が呟いた。

 ――何が楽しい。

 そう言いたかったけど、今の俺にそんな余裕はない。

 秘策を残しておくには、膝をつかずに立っているのが、精いっぱいだ。

 

「諦めたか」

 

 俺は腕をだらりと落とした。

 男は俺が諦めたものと思っているらしい。

 来い……! 切って落とす!

 男はまず、俺にローキックを蹴ってきた。

 両腕を下げたまま、受ける。

 男は前に出た。

 拳の間合いだ。

 

「ひゅっ」

 

 男の口から軽く呼気が漏れた。

 来た。右のストレートだ。真っ直ぐに来る。

 それをスウェーでかわす。

 このままなら倒れる程に、上半身を反らした。

 でも、倒れない。

 俺は目の前の、丸太のような右腕を両腕で掴んだ。

 両足を首に絡め、後は体重を利用し、首を締め上げる。

 ――三角絞め

 それも立ち姿勢での絞めだ。

 三角形に組んだ両足の中に、相手の首と腕を捕らえ足の力で締め付ける。

 相手の肩で右の頸動脈を絞め、自分の内腿で左の動脈を絞める。

 綺麗に入った!

 

「ヒェアアアア」

 

 恐怖を追い出し、気合をはき、絞めた。

 

「ぐぅぅう……」

 

 男の顔が赤くなった。

 全面が真っ赤だ。

 男は俺をはがそうと、左拳で滅多打ちにしてくる。

 誰が解放(はな)すかってんだ。

 降参するってなら、別だけどな。

 

「ごぁ……」

 

 男の口の端から、泡が出て来た。

 落ちるぞ! 降参しろ! じゃないと……!

 男の目が揺れる。そして、白目になり動きが止まった。

 男はバランスを崩し、俺の上に覆いかぶさって倒れた。

 俺は何とか這い出して、男を見下ろした。

 もう、男はピクリとも動かない。

 俺の体は震えていた。

 初めて、本物の殺気を浴びた。

 初めて、実戦を味わった。

 

「はぁー……はぁー……」

 

 落ち着かせるため、深呼吸をした。

 二回。

 

「見せてもらったぞ、若人よ」

「!?」

 

 後ろから声が聞こえた。

 声を聴くと同時に、背中にうすら寒い何かが走った。

 黒い大蛇が背中を這うような感覚だった。

 

「ぬぅっ!?」

 

 反射的に裏拳で、自分の背後を殴った。

 だが、何もいない。

 裏拳の勢いで後方に振り返った。

 すぐ背後ではなかった。

 裏拳の1メートル先に、しわがれた老人の顔があった。

 

「天からの客人よ。ようこそ修羅の国へ。ワシは皆から界皇(かいおう)と呼ばれておる」

 

   5

 

 

 顔のシワが蛇の鱗のようになっている老人だった。

 背の高さは小中学生程度。腕は細く、垂れ下がっている。

 にこやかな笑みを浮かべた、好々爺だった。

 

「……天からの? どういう意味?」

 

 仙刀は頭を掻いて、聞いた。

 

「カッカッカ。流星がここに落ちたのじゃ。で、そこにお主がおった」

「はぁ……。すんません。いくつか質問いいですか?」

「なんなりと」

 

 界皇は笑って言った。

 

「ここはどこですか?」

「修羅の国」

「福岡か……」

「修羅の国、と言うとろうが」

「分かってます。あと、もう一人この制服を着た人、見ませんでした?」

「知らん」

 

 ――知らないか

 仙刀はアゴに手を当てた。

 

「あと……」

「待て。ここからはワシが質問する」

 

 界皇が掌で、仙刀を制した。

 仙刀は『あ、はい』と答えた。

 

「名は?」

「南郷仙刀といいます」

「珍しい名よの。お主の流派は?」

「流派? 柔術です。竹川流という柔術の一派」

「何を目的とした流派か?」

「素手で、いかに人を倒すかを目的にした流派です」

「ほぉ~」

 

 興味深そうに界皇はうなずいた。

 そして、矢継ぎ早に質問した。

 

「お主の師は」

「祖父です」

「竹川流とやらについて、師はなんと」

「対武器を想定した武術であり、1対多数も想定した武術……と」

「例えばどんなものを習った」

「絞め技、関節技、あとは打撃。眼や股間への危険技も」

「武術以外もあるのか」

「サバイバル技術もあります」

「さばいばる?」

「生き残り方……とでも言えば」

 

 仙刀は界皇の質問に答えた。

 答えてしまった。

 仙刀が最後の質問に答えたとき、老人は拳を仙刀の腹に叩き込んだ。

 

「がぁッ! ……このジジイ!」

「阿呆。自分の武術を、簡単に他人に教える奴があるかァッ!」

 

 界皇は吼えた。

 そして、仙刀の制服の胸元を掴んだ。

 

「テメェ……! 不意打ち……しやがるなんざ……!」

 

 仙刀は絶え絶えになりながら言った。

 だが、眼は界皇を必死に睨みつけていた。

 

「“卑怯”とでも言いたいか」

「当たりま」

 

 仙刀は言い切ることが出来なかった。

 仙刀のアゴに界皇のハイキックが当たったのだ。

 そして歯で舌を切ったのか、口からダラダラと血が流れ始めた。

 

「恥を知りなさい」

 

 界皇の言葉は優しく、子どもに言い聞かせるようであった。

 それが次の瞬間、一気に豹変した。

 

「武術の世界にはねぇ……卑怯や反則なんて言葉はねぇんだよォッッ」

「ッッ!?」

 

 界皇はそう言い、仙刀の腹に蹴りを叩きこみ、アゴを掌底で打ち抜いた。

 仙刀の目が揺れた。そして、何も言わずに、うつ伏せに倒れた。

 半開きの口からは、真っ赤な血が流れ出している。

 

「ワシが手塩にかけた修羅を、一人負かしたのじゃ。……この程度が妥当か」

 

 界皇はそう呟き、二回手を鳴らした。

 それを聞き、何人かの男が界皇の目の前に現れた。

 

「この二人を運べ。そして、この白い服の男には治療を」

『はっ!』

 

 界皇はそう言い、二人は山にある家に運ばれていった。

 運ばれる天から来た白い服の男を見ながら、界皇は毒蛇のような笑みを浮かべた。




二話目です。
とある小説では、主人公がヒロインと出逢いました。とある小説では、主人公がチート能力を貰いました。とある小説では、主人公が転生しました。
この小説では、主人公が金玉を蹴られ、胃液を吐き、舌を切りました。
……一体、どこで差が生じたのでしょうか
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