東方想龍伝   作:蒼夜 颯人

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漸く、シリアスが終わる!?
ではでは、ゆっくりしていって下さいね!


第四話~偽りの夜明け~

 

 

 

夜…それは妖怪など俗にいう化物が力を増す時間帯でもある。そして邪龍もその例に漏れず、力を増す。…一匹が力を増すとその一匹は昼間の約二倍の力を持つ。つまり、群れとなって行動する邪龍は昼間と比べ、全体的に見て一つ一つの群れがそれぞれ約二倍の戦力となる。この事実は戦う方からすれば厄介極まりない。

 

…それでも、戦う味方の数が多ければ戦闘は比較的楽になる。…現状では恐らく戦っているのは凜姉さん一人の筈だ。

 

「…私達だけで大丈夫なのかしら?」

 

俺が連れてこれた助っ人は先程の二人(幽香と魔理沙)を除くと後二人。今俺の後ろの方で心配そうに呟いているのはその内の一人で、七色の人形遣いこと、アリス・マーガトロイドだ。

 

「その点は心配ないと思うわ。これはお嬢様が仰っていたのだけれど、今邪龍と戦っているのは"初代龍神"よ。…それで合っているわよね?」

 

そしてアリスの呟きに答えたのが、最後の一人、完全で瀟洒な従者である十六夜 咲夜。彼女は答えると同時に自身の答えが真実であるかどうかを改めて俺に確認する。

 

「…ああ、それで合ってるよ。」

 

俺は彼女の確認に対してそう言いながら肯定した。

 

「……"初代龍神"ってぶっちゃけ強いのか?」

 

そこに魔理沙が会話に割り込み、かなり突っ込んだ疑問をぶつけてきた。…非常に対応に困るな。俺はそう思いながらその疑問に答えた。

 

「…紫を抵抗させずに消せるって言えば分かる?」

 

…最後を若干疑問系にしながら。

 

「……よーーく分かったぜ……」

 

どうやら、言葉の意味が十分に伝わった様だ。魔理沙は顔色を青ざめさせながらそう呟き、幽香は面白そうに微笑みを浮かべ、アリスは呆然とした様子で「私がいる意味あるのかしら…?」と何故かブツブツ言い始め、咲夜は少し首を傾げて顎に軽く手を当てながら「消すってどう消すのかしら…」と真顔で悩み始めていた。(…咲夜だけ疑問に思う所が違うように思えるのは俺だけだろうか…?)

 

「…まあ、分かれば良いよ。それより、着くぞ…」

 

俺は咲夜についての小さな疑問を頭の片隅に投げ込んでから四人に言外に気を引き締めろと伝えた…筈なのだが…。

 

「……弾幕はパワーだぜ! 奴等に私の弾幕を、戦いを見せてやる!」

 

魔理沙はそれに対して、何か吹っ切れたようにして叫びスピードを速くし始めた。というか、突っ込んでいき…

 

「……数の暴力には、少数の一騎当千…それ以上の質で対抗かしら? フフッ、面白くなってきたわね…♪」

 

幽香は魔理沙が突っ込んでいった事を完全にスルーしながらそう言った。…大妖怪の名に恥じぬ膨大な妖気をその身に纏い、戦いに楽しみを見いだしたかのような少し狂喜が混じった微笑みを浮かべて…

 

「……ねぇ、この戦いに私がいる必要あるの…? あるの…?」

 

幽香の微笑みを見なかった事にしてアリス達残りの二人の方を向いて見ると、アリスが若干鬱?に近い状態になっていて…そんなアリスを

 

「…大丈夫ですよ、アリス様がいる意味は十分にあります!!」

 

最後の一人、咲夜がやや必死に慰めていた。…勿論、咲夜だけに任せず俺も慰める。ここまでくれば最早警告なんて無意味に等しいだろうと思いながら…。

 

「…咲夜の言う通りだ。アリスがいる意味はちゃんとある。むしろ、意味があるから連れて来たんだ」

 

「本当に……?」

 

「ああ。後で分かるから、しっかりしてくれ。もう着くまで時間がないから気を……魔理沙!!?」

 

アリスを安心させることが出来た…と思うから締めに気を引き締めてくれと言おうとしたら、既に先行しつつあった魔理沙が凜姉さんが戦っている筈の邪龍の群れに単身、かなりの速さで突撃していったのだ。無謀にも程があるぞ…!!

 

「…アリス、早速出番だ! こういっちゃ悪いがお前の人形を邪龍の群れにバラバラに特攻(自爆)させてくれ!」

 

「……分かったわ!―犠牲『スーサイドパイク』!」

 

俺が指示した通りにアリスの操る人形達が邪龍の群れにバラバラに特攻、自爆していく。

 

「…幽香、咲夜!」

 

「分かってるわよ、大きい一撃を奴等に放つんでしょう?―『マスタースパーク』!!」

 

「言われなくても…!―奇術『ミスディレクション』!!」

 

幽香は散らばった奴等の一点に向かって特大の砲撃を放ち、咲夜は幽香が放ってから直ぐに広範囲の大技で奴等の散らばった群れに幽香があけた一点をさらに大きく広げた。

 

「…流石だな! 後は任せてくれ―時空『指定転移』!!」

 

俺は幽香と咲夜があけた奴等の群れの一点の部分から僅かに見えた魔理沙の右隣の位置を指定して瞬時に転移。いきなり現れた俺を見て驚いている魔理沙の右腕を少々強引に掴み、スペルを発動した元の位置に再び転移。この間にかかった時間は約八秒。…少し危なかった。もし十秒以上かかっていたらこのスペルの副次効果〈任意でこのスペルを発動した元の位置に転移する〉が使えなくなっているところだったな。

 

…と、そういえば凜姉さんは何処に―

 

「――龍魔『ドラゴニック・フレア』!!」

 

―いるのかと思った瞬間、突然のスペル宣言が俺達と交戦中の邪龍の群れの背後から響き渡った。…そして宣言によってその場に特大の焔球が龍の姿をかたどって出現。その龍は出現して直ぐに動き始め、近くにいた邪龍から次々に呑み込んでいき、自身の熱で燃やし尽くしていく…。

 

また、燃やし尽くしている時もその場に留まらず、応戦しようとする邪龍や逃走を試みる邪龍共々見境無く呑み込んでいく行為を繰り返し、やがて俺達の見渡せる範囲から邪龍の姿は綺麗さっぱり見えなくなっていた…。

 

「……い、一体何が起きたんだぜ?」

 

俺に腕を掴まれたままの魔理沙は目の前で突然起こった予想外の出来事にポカーンと口を大きく開けて、目を瞬きさせながらの呆然とした様子で呟いた。…最早、自身が言っていた弾幕はパワーだぜ!を遥かに凌駕している光景に何も言えない様だ。

 

「……あのスペルは、多分凜姉さんだと思う。大方邪龍の司令官的存在を退ける事が出来たから、残った邪龍の残党の殲滅を試みた結果、…みたいなものじゃないか?」

 

そんな魔理沙に俺は自分が考えた大体の予想を言った。

 

「…という事は、私達は"初代龍神"が邪龍の司令官的存在を退けるまでの他の邪龍の陽動役、言わば時間稼ぎの囮かしら? 中々スリルがあったわね」

 

幽香は俺の大体の予想からさらに予想を立て(実際にはその予想の通りだと思うから予想と言うよりは事実)、最後に彼女らしい事をとても自然に言い切った。…ただ、命懸けの戦いをスリルだけで済ませてしまうのは大妖怪の幽香こそなのかよく分からないが…。

 

「…スリル云々の問題じゃないと思うのだけど」

 

アリスは俺と同じく幽香のスリル云々に対して多少疑問に思う所がある様だ。…というかどこか呆れており、額に手を当てて軽く首を左右に振っていた。

 

「…まあ、何はともあれ"初代龍神"は出来る限り敵に回したくない存在ですね」

 

最後に全員の意見を簡単にまとめた?咲夜の意見は最も適した形でここに居る者の共通見解だろう。…最も、幽香だけは例外で分からないが。幽香の場合試しに戦ってみたい等、普通に言いそうだから判断に困ってしまうな。

 

…何て考え事してる暇があったら近くにいる筈の凜姉さんを探さないとな。その為には…、未だに呆然としている魔理沙の腕から自分の手を離し、気付け薬代わりに魔理沙に猫だまし(目の前で手を強く叩いて大きい音を不意打ち気味に鳴らす事)を仕掛けた。

 

すると魔理沙は突然の大きい音に驚いて目をさました。そして暫く周りを見回して驚かせたのが俺だと分かるとぶつくさ文句を言ってきたが対応が少し面倒なのでさりげなくアリスに押し付けて、俺は未だ此方に来る気配の無い凜姉さんを探しに向かった。

 

「――凜姉さん。そこにいるのか?」

 

「……想真、か。…突然、しかも色々と押し付ける様で悪いがゆか達、今の幻想郷の住人を暫く頼むぞ。この異変はまだ…"終わっていない"」

 

凜姉さんは俺を見ると、やや疲れつつもかなり怒っている様子で突然そう告げた。

 

「…どういう事だ?」

 

「……邪龍を操る、または指揮している奴がいる。そいつを倒さない限り、何時まで経っても終わらない」

 

聞くと凜姉さんは俺達が着くまでの間、"邪龍王"の一匹と戦っていた。そして俺達が到着後、暴れ始めた頃から即座に自分たちの方が劣勢になりつつある、と悟り自身は撤退するため何かしらの方法で消え失せた。その消え失せる寸前に"邪龍王"はこう言ったという。

 

 

 

「――俺達"邪龍王"には"上"がいる。あの御方は俺達が唯一忠誠を誓うに値する方だ。あの御方を倒すか消さない限りは…終わらねぇよ」

 

「………何だと…?」

 

「それじゃあな、それなりに楽しかったぜ"初代"」

 

 

 

…最後まで名を明かさなかった"邪龍王"はそのまま意味深な発言だけ残して消え失せたという訳らしい。

 

「……私は、奴の言っていた"上"という存在を捜す。…それが私達の未来を取り戻す事にも繋がる筈だ」

 

「…そっか。まあ、そういう事なら凜姉さんに任せるよ。俺は事が終わるまで今の幻想郷を守るから」

 

「…すまないな、必ず全てを終わらせてから戻る。…それまでは私、"初代"に代わって頼むぞ、"零代"」

 

「……ああ、頼まれた。今の幻想郷には、凜姉さん以外だと俺しか龍神と言える様な存在はいないからな。…上手くやってみるよ」

 

俺がそう言うと凜姉さんは幾らか怒りが収まってきた様で、少し微笑んで見せた。

 

「…無茶は禁物だぞ」

 

「…凜姉さんがそれ言うのか!? お互い様だよそれは。―気を付けて」

 

「…私とした事が、弟に心配されるとは「早く行けっ!」…フフ、急かすな。―才片、想真を任せるぞ。『未来転位』!」

 

凜姉さんは俺との会話で漸く冗談を言える程度には落ち着いて冷静になると、才片にこう言い残してその場から姿を消した。

 

「(……相変わらずじゃなあ、沙凜の奴は。心配性なとこなんか、お主と奴はそっくりじゃ)」

 

才片はそんな凜姉さんに対して少しばかりしみじみとしているようだ。俺と凜姉さんの共通点的な部分に。

 

…なあ、そんなに心配性に見えるのか俺は。才片の言っている事はあまり素直に受け止められないんだが…。と、しみじみとしている才片に軽く反論してみる。

 

「(…何を今更、我の言っている事は全て客観的に見た事実じゃぞ)」

 

俺の反論に対しての才片の意見を聞き自分が心配性であるということ事は対して問題でもないかと改めて思いなおした。

 

「……こうなった以上、紫達の下へ行っておくべきか……」

 

「(じゃっ!? まるで最初からなかったかの様に会話を無視しないで欲しいのじゃ!)」

 

…自然に無視したせいで才片が騒ぎ始めたが俺は敢えて気にせず紫の近くを魔理沙の時と同じ要領でスペルの目標地点に指定し、宣言した。

 

「―時空『指定転移』!」

 

「(無視をしないで、返事をするのじゃああっーー!!!)」

 

「(…わざと騒いでいるのは分かっているんだが…?)」

 

「(…じゃ!?)」

 

…こんな会話を心の中でしながら俺は紫達の下へと転移し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―彼が…"存在してはいけない者"なのかい?」

 

「…そうみたい。でも、彼は既に解放されてるわ」

 

「……? どういう事だ?」

 

「…そのままの意味よ。"初代"も中々の慧眼ね」

 

想真が転移していく様子を上空から見届ける二人組がいた。彼等は初代にも想真にも気付かれずに上空に浮かんでおり、まるで気配なんか消していないかのような自然体で気軽に会話をしている。

 

「…ふうん、まあそんなものか」

 

「…本当に分かってるの?」

 

「失礼な、ちゃんと分かっているさ」

 

少年はそう言うと、あたかも最初からその場に居なかったかの様に消え去った。

 

「…逃げたわ、アイツ。この先こんな調子で大丈夫なのかしら…」

 

一人残った少女は呆れたとばかりにため息をつきながら呟き、先に消え去った少年と同じようにその場から姿を消した。

 

幻想郷の夜明けは綺麗にしかしまだ暗い…。




次回からほのぼの……の予定です?
それでは、次回もゆっくりしていって下さいね!

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