俺はヴルタヴ=サターニア。
悪魔を殺す勇者をやっている悪魔だ。
悪魔の姿を拘束具で封印してまで、勇者をやっているのには、理由がある。
とある人間と恋に落ちてしまってな。
恋人と同じ種族を殺すのも嫌なので、人間語を勉強し、なんとか日常生活を送れるようになった。
しかし、とある問題がある。
封印した大きすぎる魔力のせいで、生命維持に必要な魔力が漏れ出てしまっている。
そのため、勇者として定期的に魔力の補給を行っている。
が、まだ問題がある。
世界に勇者は18人いて、それぞれに『聖剣』が渡されている。
でも、俺は言わば19人目の勇者だ。
当然19本目の聖剣なんかないし、悪魔なので聖剣は苦手だ。
そこで、俺は考えた。
人間一の鍛冶屋に、専用の剣を作ってもらった。
片刃の微妙に曲がっている奇妙な剣。
『刀』というらしい。
俺が触れ、振ることで、それは魔刀と成った。
大体の悪魔は、高度悪魔武術『ウハツエビウ』でなんとかなる。
が、たまにいるんだよなぁ。
『
「……
……クソ強い奴。
『
あいつ……俺が悪魔だって気づいてないな。
魔力も封印してるから当たり前だが。
「……『
途端、俺の親指は紫の爪を持つ悪魔……いや、魔神のそれへと変化した。
俺が封印している魔力は5つある。
左手の指それぞれに違う魔力が宿っているのだ。
エドロキアは、闇の火を司る魔神だ。
俺はその指で、東洋の刀に触れた。
その瞬間、刀身を紫の火が包んだ。
落ちている葉は次第に燃えていき、灰も残さずに消える。
『……!?
戸惑い、後ずさる悪魔に俺は一歩一歩近づき、刀を脇に抱えた。
「
脇に抱えたもはや火の塊を振り抜き、敵悪魔の右腰から左肩まで、炎を刻んだ。
断面は一瞬で焼け焦げ、血は出ない。
しかし、悪魔の胸の真ん中にある心臓は、確実に焼き切った。
「『
最後に技名を言うのは、俺のこだわりだ。
魔刀で斬られた悪魔は、自分の確かな死をその目に焼き付けながら、仰向けに倒れた。
残った肉片は、丁寧に墓を作り、埋めて手を合わせる。
これには、この悪魔に対する謝罪も兼ねている。
同族を殺してしまった悲しみ。
それをすぐに忘れてしまう悔しさと情けなさ。
燃えている刀を鞘に納め、火を消す。
俺は人前では戦わない。
本来勇者の魔力は、正義に基づき、天使から授かった力。
それがどうだ。
俺の魔力は悪に基づき、魔神の力を無理矢理封印したモノ。
悪魔だとバレた日には、確実に殺される。
だが、それはダメなんだ。
恋人に会わなければいけない。
「……行くか」
勇者といえば、旅だ。
街から街へ渡り歩き、民の頼みを聞いて報酬を貰い、旅の資金にする。
「……次の街は『サーマルヘンド』か、金足りるかな」
地図を開きながら、くすんだ灰色のような銀髪を掻き毟る。
どこかに馬車でも走ってないものか……。
が、こんな森の奥を走っている馬車などいないし、ましてや人など……。
ハァッ、ハァッ
「……ん?」
今、微かに聞こえた。
乱れた人間の呼吸音。
おそらく走っているのだろう。
森の奥で人間が走っている。
移動速度は速い。
微かに鎧のぶつかる音も聞こえる。
……勇者だ。
俺は、その呼吸音を頼りに走り出した。