「……ここが大通りか。賑やかだな」
「明るい町でしょう?」
8時間かけて来た町は、悪魔の存在なんて無いのかと疑問に思う程に、活気に満ちていた。
先が見えないほどに長い大通りには無数の屋台が展開されており、肉のいい匂いや香水臭い匂い。
フルーツやスイーツの甘い香りが入り混じっている。
このどこか落ち着く懐かしい香りが、この町を表していると言ってもいいだろう。
「さ、早く報酬を貰いに行きましょう」
「へーい」
しかし不思議だ。
さっきから道行く人に、1人の人がいない。
みんなカップルか家族連れ。
屋台も、全て夫婦が営んでいる。
そして、そんな町に疑問を抱いたのが、顔に出ていたのだろう。
アリアはそんな俺に気づいて、そのことについて説明してくれた。
「ここは通称『結ばれ町』。ここの人たちには、独り身っていうのが信じられないのよ」
へー、と相槌を打っていると、とある事に気が付いた。
こいつ、俺を連れてきたのは1人が恥ずかしかったからじゃないのか?
「お前まさか……」
「さ、さぁ! 着いたわよ! 幾らぐらいするんだろう!?」
冷や汗をかいて取り乱しながら話を逸らされた。
そんなに恥ずかしいか。
◇◆◇◆
大通りから枝分かれしている、建物が並ぶ側道。
その建物の一つの前で、アリアは立ち止まった。
町に溶け込んでいる、暖かみのある木造りの一軒家だ。
「お邪魔します」
その扉を押し開けて、アリアは中に入っていった。
続けて俺も中に入る。
「おぉ、勇者様! ……そちらのお方は?」
椅子に座っていた初老の男性は、俺のことを指し、問いかけてきた。
「彼は私のパートナーよ。さっき助けてもらったの」
「ヴルタヴ=サターニアだ。よろしく」
「それはそれは……! どうぞ、お掛け下さい」
自己紹介を終えると、椅子に座るように言われた。
椅子と言うよりソファといったほうが正しいか。
ずむっと体が沈み、なんとも言えない座り心地を感じさせる。
勇者は基本家を持たないため、家具などは全くの無駄なのだが、これは欲しいと思ってしまう。
「それでは勇者様。悪魔石を」
「はい」
悪魔石とは、悪魔が体のどこかに持っている、黒い石のことだ。
脳だったり、心臓だったり。
局部だったりもする。
大体は万能薬として使われ、稀に貴族が装飾品として使う程度。
勇者はこのように、持ってきた悪魔石の数と質を見せることで、それに見合った報酬を得ることができる。
「……ふむ。では、1つ11万程で買わせていただきます」
「はい、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするアリアを見て、俺も慌てて体を前に倒す。
「では、また今度」
「またお越しくださいませ!」
アリアに着いて行き、一緒に部屋を出る。
するとアリアは、無言で歩き始めた。
大通りに戻ると、とある大きな建物に入っていった。
どうやら宿屋のようだ。
入る時に何も言われなかったので、もうチェックは済ませているのだろう。
二階に上がると、一番奥の部屋の前で待てと言われた。
ここが彼女の部屋なのだろう。
「ごめんなさい。待たせちゃったわね」
「いや、全然」
俺が中に入って扉を閉めると、アリアは髪をポニーテールに束ねていた青い髪留めを外していた。
腰まである金髪はふわっと舞い、柑橘系の香りを振りまいている。
豊満な胸に被さっていたアーマーと、腰に下がっていた細い剣は、壁に掛けられている。
服装は、肩を出した白いフリル付きのワンピース。
スタイルもいいし、普通の男ならイチコロだろう。
「……? 何、そのいやらしい目つき……」
「大丈夫、俺は人間に興奮しない」
そう言うと、まだ疑うような目のまま俺に話を振ってきた。
「1つ、聞いてもいい?」
「どうぞ」
刀を布巾で拭きながら、アリエス戦で砕けた右腕の骨が治るまで待つ。
そして、アリアが口を開いた。
「あなたって、悪魔よね?」