ウチの【西連寺春菜】が一番カワイイ!!   作:充電中/放電中

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difficulty 1. 『舞い降りた少年』

1

 

「つまんね」

 

漫画をベッドへ放り投げる。

 

6畳しか無い部屋は漫画で溢れている。そろそろ売りに行かねーと。

最近の漫画は鈍感主人公ハーレムものばかりじゃねーか、まぁ好きだけどさ

 

『ToLOVEる-ダークネス-』なんて最高じゃねぇか!是非行ってみたい。あの世界に入ってみたい。現実世界は退屈だ。高校なんて勉強して何になる。つまんね、漫画読んでる方が時間の有効活用だ。だって死ぬまでの時間は限られてる。楽しんだもの勝ち。時間の有効活用だ。

 

「こうやってたら行けたりしてな」

 

漫画を枕の下に入れ、横になる、あ、そういえばもう午前2時過ぎだった。明日は7時起きか・・・・前の日徹夜だったし、もう寝るか。

ものぐさな俺はそのまま眠ることにする。

 

意識が途切れた瞬間が分からなかった。

 

 

2

 

 

「…ちゃん、○△✕★!」

 

うるさいな

 

「お・・・・にい・ちゃ・・」

 

はぁー・・朝かよ、めんどくせー学校だりぃー

 

「ふぁああ~起きるっての、あと五分…」

「後五分って・・・帰らないの?お兄ちゃん」

「はぁ?帰るってウチじゃねーか、どこにだ、土にかよ」

「土?何言ってるの?大丈夫?」

「………へあ?」

「?」

 

目を開けるとそこには【西連寺春菜】が。原画100%。混じりっけなしの

 

「おおおおおおおお!!!!!すげえ!本物だああ!」

「えっ!?っちょっととななななに!?」

【西蓮寺春菜】の両肩をがっしりと掴み揺さぶる。この顔、髪型、このスタイル!ということはここは!!!きょろきょろと周りを見回す、

 

「おおおおおおおおぅぅぅぅうううううううう!!!彩南高校じゃねーか!!!!ラッキースケベが頻繁に起こるトコ!しかも少年誌ギリギリのやーつ!てことはてことはてことは!!!

これから色んなキャラに会えるってことか!やっほい!今流行の異世界キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」

 

 

目の前の【西連寺春菜】が困惑しきった顔して、え、なに、どうしたの、何かあったの?と同じように周りを見回している。ハハハ!!!!ならばこの際言ってやろう!

 

「可哀想だよな、お前は」

左肩に手をのせ、ぽんぽん、と右手で叩く。

「へ?」

「主人公【結城リト】の初恋だかなんだかの相手だってのに。キャラは薄いし、かといって清純キャラで売ろうとしてもパンチ弱いしな、うんうん」

「え?結城くんの?何?え?何の相手?」

頭の上に「?」マークを浮かべる【西連寺春菜】

「わかる、わかるよ、うんうん。あとから増えたキャラが食っちまったよな、ドンマイドンマイ」

ぽんぽんともう一度肩を叩く。困惑が混乱に変わった【西連寺春菜】は、凄いな。アニメより原画に近い。カラー版だな、コレ

「もう、さっきから何言ってるの?帰らないの?お兄ちゃん」

 

うん??"お兄ちゃん"?【西連寺春菜】には姉じゃなかったっけ?どことなく似てる感じの。

 

「お姉ちゃんじゃないのか?キャラの相関図大丈夫?アーユーオーケー?」

 

目の前の春菜がおずおず、と俺の額に手を伸ばす。自分の額にも手を当てている。あ、『熱でもあるのか?頭大丈夫?』の表現だな

 

「…熱はないよね、どこかで頭をぶつけた・・・・とか?」

 

今度はペタペタを頭を触ってくる。これは『頭を打ってきっとマトモじゃない、大丈夫?』の表現だ。漫画では頭をぶつけると入れ替わったり、記憶喪失になることだって展開的にあるヤツだ。

 

「いやいや、大丈夫だ【西連寺春菜】」

 

頭をぺたぺた触る手をぱっぱ(・・・)と煩わしげに振り払う。

 

「うん、やっぱりおかしい。とりあえず御門先生に診てもらおう?」

 

心配げに手を握ってくる【西連寺春菜】

 

「何言ってんだよ、こんなドカドカ殴られたり服だけなくなる素敵世界で保健室がなんの役に立つという。次のコマでボロボロ、その数コマ後で完治が普通だろ」

「コマ?ううん、やっぱり変!行こう!御門先生に診てもらおう!」

 

グイグイと右手を引っ張る【西連寺春菜】。お、結構力つえーな、テニス部だっけ、あんまり描写ないけど、、実際部活入ってたら土日放課後なんて無いよね

 

「あーあー、大丈夫だっていうに」

 

どんどん引っ張り先を急ぐ【西連寺春菜】これは説得できなさそうだ。色々キャラクター見て回りたかったのに。そういえばここ単行本何巻あたりなんだ?

 

 

3

 

 

「うーん、特におかしなところはないわよ」

「ほ、ホントですか!?」

「ええ、間違いなく健康そのもの」

「じゃ、じゃあの、この状態は…」

 

「ふがふがむがむがああ!」

 

手脚をグルグルにしばられ口には猿轡。

 

「さあ?私には分からないわ、ごめんなさいね」

「い、いえ・・・・」

 

「もがむがああああ!」

 

ジタバタと手脚を動かす。あのモブ担任じゃねえんだぞ!

 

「ど、どうしてこんな事に・・・」

「うーん、精神にも異常はないみたいだしねぇ・・・困ったことになったわね」

 

心配げな顔の【西連寺春菜】と【御門涼子】なぜこんな事になってるかって?あらすじはこうだ!

 

ToLOVEるの世界いる俺は当然キャラ達の細部を見ようとする、【西連寺春菜】は見た。無印のころの画だ。一桁くらいの単行本だな。ちょっとシュッした印象を受けた。

そしたら次に気になるのは感触じゃあないか。連れてこられるは保健室。おっぱ・・じゃなかった、【御門涼子】が目の前に。そしたら当然おっぱいを揉むだろう。あんだけ放り出してるお色気キャラだ。

 

「うひょー!マジやわらけー!」と叫んだら光の疾さで簀巻にされた。以上おわり。

 

「はぁ、とにかく家でゆっくり休ませてまた来なさい、何か薬を準備しておくから。」

「あ、ありがとうございます!」

 

眉間を抑え溜息をつきながらの【御門涼子】

お色気キャラのクセにおっぱい揉まれたくらいで何だよ!なんでじゃあ放り出してるんだよ!揉め揉め行進曲じゃねーのか!

 

 

4

 

 

あったけ、布団。ふかふかベッド最高。寝返りをうって薄目を開ける。

あの後、家まで連れてこられ(簀巻から開放してもらえた)

 

『どうしてもベッドで横になってて!ね!お願い!お願いだからお兄ちゃんお願い!』

と”お願い”を連呼されてしまった俺は渋々了承してベッドに入った。

 

俺の部屋とは違う広い部屋。10畳くらいか?デスクセット、コンポ、パソコン、姿見、そしてベッド。漫画の一冊もない。簡素でオシャレな部屋。

ベッドから起き上がり、姿見を見る。ToLOVEるの登場人物の一人に描かれている俺。現実世界の俺をそのまんま作者が書いてくれたようだ。ちょっとイケメンなのがムカつく。チクショウ。体格は175センチ程、体型は細身。これは一緒だ、それにしても、どこも【西連寺春菜】と似てねーな、そういえば【結城美柑】と【結城リト】も似てないか、どうせなら【猿山】みたいにわかりやすいエロキャラに書いてくれなかったのかよ、

 

ガチャリとドアが開く音がして、振り返る。

 

「お、お兄ちゃん寝てなきゃダメだよ!」

「おう、【西連寺春菜】、部屋着もいいな、いい感じだぞ」

「お、お兄ちゃん…はぁ、ホントにもう、どうしちゃったの…」

 

俺の体を押してベッドへ促す【西連寺春菜】。彩南高校の時とは違い心配だけでなく、かなりの不安もあるようだった。

ベッドへまた横にされる、探索にいきてぇ、ここまでヒロインは【西連寺春菜】しか会ってない。不遇ヒロインはもういい、飽きた。別なヒロインも見学したい。

 

「はぁ・・・お兄ちゃんがどうしてこんな・・・」

 

ムカ。さっきから聞いていれば俺をなんだと思ってんだ!ただの見学だぞ!別にヒロイン達にピーッなことしてないだろ!

 

「・・・・俺ってどんな奴なんだよ」

 

ほんの少し怒気を込めて尋ねる。ベッドに横になる俺に【西連寺春菜】はしゃがんで目を合わせて答えてくれた。

 

「お兄ちゃんはいつも明るくて、優しくて、面倒見がよくて・・・・」

「・・・。」

「それで、いつも大事な時に私に勇気をくれるの・・・・そんな自慢のお兄ちゃん、だよ、」

「・・・。」

 

春菜(・・)は涙を零して言葉を震わせた、言いながら不安と心配が余計膨らんでしまったらしい。

 

「・・・ご、ごめんね、お兄ちゃんが一番大変なのに、だ、大丈夫!きっと治るから!」

 

自分に言い聞かせているかのようなその声はやけに明るい。全く、この【西連寺春菜】ってキャラクターは。

 

「・・・・悪かった、さいれ・・春菜」

「・・え?」

「寝たら元に戻るからさ、寝かしてくれ」

「あ・・・う、うん。お兄ちゃんが眠るまでここにいてもいい?」

「・・・いいぞ」

「うん、ありがとうお兄ちゃん」

 

しゃがんで顔を覗き込む【西連寺春菜】。やはり健気なキャラだな。

 

「おやすみなさい、秋人お兄ちゃん・・・」

 

目を閉じて寝たふりをする俺に呟きかけると【西連寺春菜】は明かりを消して部屋を出て行った。まったく、どうして原作キャラに気を使わなければなんねーんだか、、、、

 

 

5

 

 

ジリリリリリ…

目覚ましの音が鳴り響く、なんだ、朝か。折角ToLOVEるの世界に居たんだけどなー

んーっと伸びをしてベッドから起き上がる。さあて今日の漫画は何を読もうか、もちろん学校で。

 

「あ、お兄ちゃんおはよう、起きた?」

「ん?」

 

開け放たれたドアの向こうに【西連寺春菜】が居る。はて、こういうのは寝たら元の世界にというのが定番じゃねーの?

じっとこっちを見つめる【西連寺春菜】ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてくるような気がした。

 

「ああ、おはよ春菜(・・)

「よ、よかった!元のお兄ちゃんだよね?!」

 

知らん、だいたい元は姉だろ姉。

 

「ああ、悪ぃな、心配かけた」

「ううん!いいの!はぁー・・・良かった、よかったよぅ・・・あ、ご飯できるから座って待ってて!」

 

昨日の心配がウソのような笑顔を見せて朝飯を作る【西連寺春菜】。まったく、面倒だが仕方がないか、この方がいろいろ立ちまわるのに都合がいいし。俺のキャラはどうしよう、まぁありのままの俺でいくか、優しくて思いやりなんかあった覚えねーけど

 

【西連寺春菜】が作った朝飯を二人で食べる。【西連寺春菜】はよくしゃべった。学校や部活のこと友達のこと、漫画に載っていないエピソードが聞けてよかった。聞けばまだ一年らしい。【モモ】や【メア】は出てきていないようだ。まぁダークネスに突入したら【西連寺春菜】は余計影が薄くなるし、いいんじゃね?近くで【メア】とか見たかったけど・・・・・ぺらぺらとよく喋る【西連寺春菜】。こんなにおしゃべりキャラじゃなかっただろ?キャラ改変?それとも原作姉にはこうだったのか?【西連寺春菜】の作った朝飯は意外と美味かった。漫画ででてくるのってスゲー美味いかスゲー不味いかのどっちかだよね

 

 

6

 

 

「あーあ、面倒だ面倒だ」

 

朝のSHRをサボり屋上へ。風が体をかけ抜ける。心地いい青空が広がり眼下には誰一人居ない校庭が広がる。結構リアルだ。こうして細部までToLOVEるの世界を堪能できるなんてやっぱ幸運だ。家では邪魔されたが・・・・・俺は今だけは(・・・・)春菜の兄だ。多少は気を使ってやるが、ソレはソレ。だいたいこうして原作の世界に居るというのになんでキャラクターの心情を考慮してやらないかんのだ、そういうことは作者の仕事だろ、俺はタダの”傍観者”なんだぞ、見てるだけだ。

 

 

『お兄ちゃんはいつも明るくて、優しくて、面倒見がよくて・・・・』

『・・・。』

『それで、いつも大事な時に私に勇気をくれるの・・・・そんな自慢のお兄ちゃん、だよ、』

『・・・。』

 

 

昨日の会話が青空に浮かぶ。

まったく、しらねっての、俺じゃねーっての

 

知らぬと断じて【西連寺春菜】を見捨てて自由になれるほどに無責任になれるわけでもなく、かと言って面倒を見てやる程に義理もない。

 

「はぁー・・・・めんどくせぇー・・・こういうのってお気楽なもんじゃねぇのか?そもそもいつまでこの原作の世界に居られるんだ?」

 

チャイムが鳴り響き一限目の始まりを告げる。俺の居た世界とも同じ響きのその音は"ToLOVEるの世界"にいることを少しだけ忘れさせてくれた。そういえば今日はテストがあったな、あ、まだ読んでない漫画もあった。

 

「・・・・ったく、」

ワケもなくモヤモヤする。

 

"俺"の知らない【西連寺秋人】

 

"俺"を知らない原作キャラ達。

 

名前が同じなだけあって余計に困惑する。秋人・・・・・・現実の俺と同じ名前。コレは夢か?!明晰夢を見てるのか?!”夢”ならば・・・・

 

「ぁぁああああああああぁああ!!!!!めんどくせええええええええ!もっと楽な夢をみろっての!おれええええええええええええええ!!!!」

 

誰もいないグラウンドに向かい叫ぶ。フェンスに手をかけ身を乗り出して叫ぶ姿は、誰かに助けを求めているかのように見えたことだろう。

 

「西連寺くん!また(・・)君はここに居たのか」

「え?」

 

振り向くとそこには初登場台詞が「カバンをお持ちします」のあのキャラクターが居た。

 

【九条凛】所謂【天条院沙姫】の付き人。ToLOVEるではイマイチなキャラクターだったがToLOVEるダークネスで花開いた武士娘キャラクターだ。

 

「まったく、懲りないやつだ、君は。」

「は?」

 

勝手に心得た顔をする【九条凛】

 

「今日は何が見える?君は本当にここが好きだな、だがSHRをサボるのは良くない」

 

【九条凛】のポニーテルを揺らしながら俺の隣へと歩み寄る。俺の横に立ち並び、グラウンドへと視線を向けた。そこには一限目から体育に着替えを終えた生徒たちがわらわらと出て、友達と談笑しながら準備体操をしている。初秋を感じさせる緩やかな暑さを日差しが伝えるが屋上は冷たい風が吹くため丁度いい。

 

「…。」

「…。」

 

二人、並んでグラウンドを走る生徒達を見る。一周200メートルをぐるぐる走り、足の早い奴、遅い奴と様々だがどこか秩序だっていて屋上から見るとまるで水槽を覗き込んでいるように感じた。

 

「…何しに来たんだよ、【九条凛】」

 

【九条凛】は武士娘キャラクター、礼儀正しく義理堅い。【結城リト】達にとっては先輩といったキャラクターだ。一限目が始まっているこの時間に屋上にいるようなタイプじゃない。

 

「…また君にそう呼ばれるとは…少しは仲良くなったと思ったんだが」

「また?」

「一年の頃までそう私を呼んでいただろう?」

 

その頃を懐かしむような苦笑いを浮かべる【九条凛】

 

「…しらねっての」

「覚えていないと?」

「"識らない"んだよ、」

「…どういうことだ?」

 

俺はポツポツと【九条凛】に話しをした。この世界以外から来たこと、【西蓮寺春菜】の兄にいきなりなったこと。周りには知っているヤツがいるが、昔の自分がどのように振舞っていたか知らないこと・・・・・・・さすがに此処が【結城リト】を中心としたハーレム漫画の世界だってことは言わなかったが。

 

「…なるほど、つまり君は私が知る"西蓮寺秋人”ではない、と」

「そう言う事。」

「ふむ、」

【九条凛】がしげしげと俺を覗き込む。何かを探るような瞳。

「では、まずは試してみるのはどうだろう?」

「試す?」

「ああ、()が元の世界に帰れるのかどうか私には分からないが、此方にこれたのだから帰ることだってできるはずだ。」

「あ、ああ、そうだな」

 

別に俺は帰りたい!って強く思ってるわけじゃないぞ。もっとお気楽で、ウハウハな世界を望んでいるだけだ。

 

「だから()が行動を起こして色々と試すんだ、とにかく動いてみる、周りの人物たちに働き掛けるんだ。そうすれば何かが見えてくるかもしれない。」

「…そうかな?」

「ああ、思案するばかりではいけない、じたばたと藻掻けばきっと糸口が見つかるさ」

 

()が優しく微笑む。

 

彼女がただの【九条凛】というキャラクターではないように一瞬感じた。、一人の人間に見えた。そう、自分で考えて行動している生きている人間。・・・・・錯覚だな。

 

「ま、やってみるか、」

「ああ、その意気だ」

 

()がぽん、と俺の肩に手を置く。やけに気安い、【九条凛】は男性キャラには、と言うよりは【天条院沙姫】と【藤崎綾】くらいにしか心を開いていなかったはずだが、

 

もしかしたら【西連寺秋人】には心を開いていたのかも。・・・・・識らないけど。

原作に載ってない事は識らないのだ。

 

今度のチャイムは一限の終わりを告げる。退屈な授業からの開放の音。

 

「しまった!君を呼びに来たのに…これではミイラ取りがミイラだな、沙姫様にも心配をかけてしまう!」

凛が焦りの表情を浮かべる、そういえば【九条凛】は【天条院沙姫】命だったな、木に登って【ララ・サタリン・デビルーク】を監視してたっけ

 

「急いで戻ろう!西蓮寺君!」

「あ、おっおおおおっぁああお!!!!」

 

返事をする前に手を引き走る凛、は、早い。【西蓮寺春菜】より力強く手を引く凛の一つ結びが左右に激しく揺れる。階段を三段飛ばしで駆け下りる。自分の識ってるキャラクターに手を引かれ、転がり落ちるように教室へと急ぐ躰に少しだけこの"ToLOVEるの世界"に心もつられて引き込まれるような気がした。

 

 

7

 

 

「"昆虫喫茶"、やっぱこうなったか、」

 

俺のクラス-2-A-は【天条院沙姫】の強引な意見で昆虫喫茶に。そんなもん流行るか。【西蓮寺春菜】の居る1-Aはアニマル喫茶。喫茶店多いよな。学園祭って

 

ちなみに俺はコスプレ喫茶を推した。多数の衣装を身に纏えるし、【天条院沙姫】には巻き髪と高飛車な性格から派手な姫様の衣装が似合うだろうし、凛は純和風メイドとして活躍できるだろう、普段【天条院沙姫】に仕えているし。

クラスのほとんどが納得しかけた意見だったが、【天条院沙姫】の「貴方ごときが私の意見に楯突くのは許しませんわ!」の一言で却下され、【天条院沙姫】の意見が通った。結局原作と同じ展開。【ララ・サタリン・デビルーク】に無謀なお色気勝負を挑み、あえなく玉砕。ヘンタイ校長に追いかけられる事になるだろう。

 

だいたい【天条院沙姫】というキャラクターを作者はどうしたかったのか分からない。【ララ・サタリン・デビルーク】【結城リト】【西連寺春菜】の三角関係がドロドロしないように河岸を変えのような存在?そのわりには【ザスティン】に惚れたよな。

 

「ま、中心は【結城リト】のいるアニマル喫茶だし、いいけど。クラスが暇になれば色々見に行けるだろうしな、」

 

鞄を肩に担ぎながら家へと歩く。街は日暮れを迎え商店街へと買い物に向かう主婦たちで賑わっていた。【西連寺春菜】は部活。俺一人での帰り道。

 

「ん、あれは…」

 

遠目に特徴的なパイナップル頭が見えた。

 

 

8

 

 

「んー・・・ちょっと買いすぎたかも」

 

私は両手のスーパーの袋をガサガサと鳴らす。濃い口醤油が安かった。それに牛乳も。つい買いすぎてしまった。卵も一緒に買ったため割らないように、気をつけて運ばないといけない。重さも相まって神経を使う。家事を一手に担う私はやることが多い。リトも手伝ってくれるけどリトはリトでララさんに振り回されて家事まで手がまわらないみたいだし。

 

――――それでも少しくらいは気にかけて欲しい。妹を蔑ろにしすぎ。あたしはハウスキーパーさんか、

 

皿洗いさえしてくれなかったリトは臨海学校から帰ってきてから何やら悩んでる様子。・・・・まぁララさんの事だろうケドね、

重い袋2つを落とさないように歩く。道行く人達の「大丈夫?」に「大丈夫です」と笑顔を返す。しっかり者で通っている私。まぁ小学生にしてはしっかりしていると自負がある。

 

「持つよ」

「え、?」

 

私から強引に2つの袋を奪う腕。

 

「あ、あのだいじょ…」

「良いって、家はあっち?」

「は、はい…」

「じゃ、行こうか」

 

見るとリトやララさんと同じ彩南高校の制服。最近冬用に衣替えをしてブレザーを羽織るようになった。小学生の私と違い制服のある高校生、制服に憧れのある私もいつか着てみたいと密かに思っていた彩南高校の制服・・・・の男子生徒用。

 

「あの、本当に大丈夫ですから、」「いいっての。こっちの事情だ」「事情?」「あー・・・いや、何でもない」と会話を交わす。怪しい人じゃないのは直感でわかるけど、初対面の人に重い荷物をもたせるのは忍びない。なんとかしなくちゃ

 

・・・・結局家まで運んでもらってしまった。

 

「んじゃ、俺はここで」

「あの、有難う御座いました。うちでお礼にお茶でも・・・」

「いいよ、俺も家に帰らなきゃいけないし」

「では、何か別なお礼を…」

「いいって、じゃね、」

 

用は済んだとばかりに去っていく高校生。ここまでの会話でリトより年上ということは分かった。やたらとリトの事を聞きたがってたけど、理由はうまくはぐらかされて応えてもらえなかった。

 

「待ってください!…あの、名前を…」

「秋人…【西連寺秋人】だ、あんまり頑張りすぎるなよ!【結城美柑】!」

 

走り去っていく西連寺秋人さん。西連寺・・・・・あ、前にランジェリーショップであった春菜さんと同じ名字・・・・お兄さんか、お兄さんだ

一人納得する。春菜さんは優しい人だった、お兄さんも同じ、

春菜さんをリトは想ってる、たぶんソレに気づいたお兄さんであるところの秋人さんは気になったんだろう、だからやたらとリトの事を聞いてきたんだ。

情報収集に利用された形の私だったけど悪い気はしない。気にして欲しい私を見つけてくれたから。

 

「ま、今度会った時に何かお礼しよ」

 

既に見えない背中の方角を見る。なぜだか再会の予感があった。

 

 

9

 

 

「うーん・・・どうすっかなー・・・」

 

椅子に背を預け、机に足をのせる。自宅に帰った俺は早速情報を整理していた。【結城美柑】に聞いた限りでは大筋で原作通りに進んでいる。これはいい、

 

「【結城リト】と誰をくっつけるかねー・・・・」

 

凛と屋上で話をしてから出した結論。それは【結城リト】とヒロインの誰かとくっつけること。そうすれば原作崩壊→異物排除→俺、元の世界へ・・・・の流れ。よくある展開だ。んで戻ったら今度はもっとお気楽な世界へ行けばいい。

 

「ま、【西連寺春菜】か【ララ・サタリン・デビルーク】のどっちかだ

な、早めにくっつけないと他のヒロインが参戦してカオスになるし、できれば早めの決着がいいな」

ぎし・・・っと椅子が音をたてる。脳内でシミュレート開始。

 

CASE1.【西連寺春菜】の場合。

 

「結城くん!貴方のことが・・・好き!」

「さ、西蓮寺!俺も・・・!ずっとまえから!!」

 

・・・・無い。。【西連寺春菜】が言うはず無いな。巻き込まれ型ヒロインが自ら行動を起こすとは思えん。それに行動を起こしても碌な結果になるとは思えん。

 

CASE 2.【ララ・サタリン・デビルーク】の場合。

 

「リトー!結婚して!」

「ななななn、こんなとこで何言ってんだよ!」

 

・・・・駄目だ。押せ押せな【ララ・サタリン・デビルーク】にあの【結城リト】が押し切られるとは思えん。

 

CASE 3【結城リト】の場合

 

「好きだ!」

「「「「「え?」」」」」

 

ハーレムエンド。「いや、プールが・・・」に続く。これじゃ原作まんまじゃねーか!

 

シュミレート終了。

 

「あー・・・手詰まりだ・・・」

 

椅子の角度を急にして溜息をこぼす。

 

「わふッ!」

「んあ?」

 

背もたれに頭を預けながら逆さの視界で後ろを見る。目に入っては居ないが解る。これは犬の声。つまりは【マロン】の鳴き声だ。

さらに椅子の角度を急にする。二脚になった椅子のバランスをうまくとる。お、半分見えたぞ

【マロン】は何やら腹ペコのご様子。コイツが頭のなかで色々考えてるのを識ってる。主人思いのいい犬だ。小さいから見えなかったぞ

 

更に角度を増し、ほぼフローリングと椅子の接する部分がなくなってくる。おーおー今度はちゃんと【マロン】が視えるぞ、ほーう、なかなか可愛いじゃねーか、犬は好きだぞ

逆さまの【マロン】へ手を伸ばす、ぺろっと舐めてくる【マロン】犬にもキャラクターがあるから良いよな、出番あんまないけど。

 

「なー、【マロン】どうすっかなーやっぱ【ララ・サタリン・デビルーク】かねー・・・それとも【西連寺春菜】の方?」

「わふっ?」

 

逆さの【マロン】の頭を撫でる。おー、なんだかいいアイデア湧きそう、もうちょっともうちょっと・・・

 

「ただいまー、部活長引いちゃった。ごめんねお兄ちゃんご飯すぐ作るね」

 

逆さの【西連寺春菜】の太腿が俺に帰宅を告げる。ん、薄い青

 

「ソレ危ないよ?お兄ちゃん」

「へーきだっての」

 

まさか俺がお約束を守るわけがない。【結城リト】ならば倒れてズドーン→春菜の薄い青のパンツにダーイブ!&揉み揉み~って感じか。

 

「ホントにソレ好きだよね、子どもみたい」

 

クスリと微笑む【西連寺春菜】

 

「なかなか上手いもんだろ」

 

クイクイと椅子を揺らしてバランスをとる。机に乗せた足でうまく支えるのがミソだ。

 

「上手上手。それじゃ、私はご飯作るね」

「頼んだぞーおいしく作れよ~」

 

去っていくお尻に別れを告げる。もう、お兄ちゃんもたまには手伝ってよ、とお尻は不満を返すが無視することにした。

 

「よし!決めた!」

 

今の会話で閃きを得た俺は両腕を大きく伸ばす。途端にバランスを崩してガタッ!ズドーン!と床とキス。いてーし!おせーよ!

 

 

10

 

 

「春菜、お前は【結城リト】が好きだな?」

「へ?」

 

【西蓮寺春菜】は湯上がりに濡れた髪をタオルで撫でながら呆然としている。何故それを?と言わんばかりの顔だ。

 

「俺は識ってるぞ、中学のクラス対抗リレーでの走りで既に【西連寺春菜】は【結城リト】に惚れていたんだろ」

「ななななな何いって!ちちちちがうよ!?」

「惚けんなっての、で、どうなの?」

 

湯に浴びたせいだけでなく顔を朱にした【西連寺春菜】に顔を近づける。ふわりとシャンプーの良い香りが鼻をくすぐる。

 

「えっと・・・その・・結城くんは・・・」

「好きなんだろ?」

「ちが、結城は・・・」

「好きなんだって?」

「だ、だから、結城く・・」

「好きだって言ってみろって!熱くなれよ!」

「ちょっ・・・近いよ、お兄ちゃん!」

 

グイグイを顔を近づける俺に春菜は身体をそらして顔を遠ざける。

もうちょっと押しが必要か、

 

「いいか、【西連寺春菜】!俺たちは共犯者だ!」

「きょ、共犯者?」

「そうだ!俺は俺の勝手で【お前たち】に迷惑をかける!そしてお前はその他のヒロインを泣かす事になるのだ!」

「ひ、ヒロイン?」

【西連寺春菜】の鼻と鼻がくっつく程に近づく。

「俺は俺の為に!お前はお前の為に!アイフォアミー!ユーアーインフォアユー!」

「アイフォア・・・?ってそれは凄い自分勝手なんじゃ・・・?」

「いいんだよ!人間てのは自分勝手なもんだ!お前も好きに振る舞ってみろ!いつまでもイイコちゃんでいるんじゃねえ!そんなんじゃまた有耶無耶ハーレムエンドまっしぐらだぞ!気づいたらお色気シーンのローテーションに組み込まれて読者に"清純キャラ"ということさえ忘れ去られるぞ!」

「きゃ、キャラ?ま、また秋人お兄ちゃんがおかしくなっちゃったの?!」

「ま、とにかく、だ!お前が、【西連寺春菜】が【結城リト】に惚れてるなら兄であるところのこの俺が手を貸してやるっての!」

 

ぽすぽすと胸を突く。柔らかな感触が人差し指を押し返した。

 

「でも…結城くんにはララさんが…」

「【お前】はどうしたいんだよ」

「…わたし?」

「そうだ、【ララ・サタリン・デビルーク】は関係ない。お前、【西連寺春菜】は【結城リト】とどうしたい?どうなりたいのか聞かせろ」

 

目を伏せ、思考の海に沈み込む【西連寺春菜】。他人のことを第一に考える彼女は自分の気持ちを押し殺し勝ちだ。恋心さえそういうきらいがある。だとしたら引きずってでも積極的に【結城リト】へぶつけなければならない。だがキャラの【西連寺春菜】の意思を無視した格好は良くない。どんなヒロインもキャラも愛してやらねば、

 

「もっと・・・・・お話して・・・仲良くなりたい、な、、、」

「…。」

 

目を伏せたまま蚊の泣くような声で応える【西連寺春菜】

 

・・・・・・ま。充分か、今は(・・)

 

「・・・・ふぅ、じゃ、俺に任せとけ」

 

【西連寺春菜】の手にあるタオルを奪い、髪にかぶせてわしゃわしゃと乱暴に拭う。既に乾きかけた艶やかな髪は湿ったタオルのせいで再び水気を帯び始める。

 

「わ!あ!折角乾かしてたのに!」

「ははは、いつまでもタオル持って突っ立ってるお前が悪い!俺は悪く無い!」

「ひ、酷いよお兄ちゃん、髪痛むよ!」

 

動く俺の手を春菜(・・)の手が抑えようと藻掻く、そんな柔い手じゃ阻止できんぞ

 

 

――――笑いながら髪を拭いてくれる秋人お兄ちゃん、たまにヘンなコト言うけど、意気地なしな私の背中を強引にでも押してくれるのは昔とちっとも変わらない。秋人お兄ちゃんに気持ちを口にしただけで、「やろう」って勇気が湧いてくる。頭にかぶさるタオルの隙間から視える兄の笑顔にほんの少しドキリとしながら明日から始まる文化祭準備に思いを馳せた。

 




感想・評価をよろしくお願い致します。




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【 Subtitle 】

1 プロローグ

2 ふたりの出会い

3 ふたりの出会い②

4 俺は誰?

5 俺は誰?②

6 目的

7 君は美柑

8 ナマイキ果実

9 予測可能な未来

10 目指せ!ナンバーワンヒロイン!
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