ウチの【西連寺春菜】が一番カワイイ!!   作:充電中/放電中

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difficulty 10. 『色のない、閉じた世界で【前】』

48

 

赤い世界。

 

――――悲鳴。絶叫。飛び散るポリゴンの破片。閃光。爆音。立ち上る火柱。

 

次々破壊されていく街を〘花屋〙と〘武闘家〙の二人は一言も発せず呆然とその様を見ていた。抜けるような青空の下で展開される赤い殺戮の世界はゲームの世界をより非現実なのものにした。

 

――――地獄って、きっと、こんなだ

〘花屋〙は目の前の光景にそう独りごちた。知らず〘じょうろ〙を握りしめる。

 

「なに、これ…」

ようやく喉から声を出せた〘武闘家〙は本来破壊できない筈の街やNPCを見渡す。そこには半壊となったNPC達が顔を歪ませ散り散りと横たわっていた。〘武闘家〙の後ずさった足に転がっているカウボーイハットを被った男の頭が「へへっ、ここはヘボンの街だぜ」と場違いな明るい声を〘武闘家〙と〘花屋〙に届かせた。

 

――――轟音。崩壊。燃え上がる火柱。

 

二人は顔を見合わせ殺戮の中心地へ歩を進める。手は知らずに結び繋がっていた。

 

赤の世界。

 

二人の冒険者は使命感にも似たものを抱き一歩、また一歩と踏み出す、その顔は炎の赤と恐怖に彩られていたが、それだけではなさそうだった。

 

"勇者不在パーティー"が二人の〘大魔王〙に出会うまであと数刻。

 

 

49

 

 

ジジ……

白い光がやがて晴れていき視界が正常に戻る。戻ったはずがまたもや白い。白の世界。

「お、んーっ、ついたついたー」

まるで旅してきたようにぐっと両手を伸ばし、わざとらしく伸びをする。広がるもやは暖かく湿っていて、粘りつくように四肢に纏わりつく

「いらっしゃーい♡」

目の前には投げキスをする裸の美女。黒髪に瞳の紫。…春菜に似ている。安心を思い起こさせるはずのそれは逆に激しく不快な気分にさせた。

「なんだ風呂かよ」

「えー…キョーコのカラダ見といてその反応ってヒドーイ♪でも余裕たっぷりでイイ感じカモ♡」

どっちだよ。

「春菜とララは?」

裸の大魔王、マジカルキョーコの躰を見つめて尋ねる。スレンダーなその躰は男の欲望をやけに刺激した。躰の震えを拳を握りしめて誤魔化す。

「フフッ、気になるぅ?奥の謁見の間でその時(・・・)を待ってるよ?…逢いたい?」

キョーコはゆっくり近づき細い腕を俺の首へまわして身を寄せ問うてくる。目線を離すことも、躰を動かすこともせずただ突っ立っている俺。案山子のような俺に寄りかかり、柔らかく抱きしめ服の下から撫で上げるキョーコ、冷たく白く滑らかな指の感触、オンナの甘い誘う匂いが、掠めた髪と共に鼻先に広がる。快感のはずのそれはますます俺を苛立たせる、チリチリと頭の奥が痛む。

「…丁度いい、そのままにしておこうか」

フッとキョーコの額に息を吹きかける。自分のものとは思えないような冷たい声だった。

「あん♪…じゃあお風呂入って待ってよーか♪敵が来るまで暇だしさぁ」

嬌声を上げて見上げる紫の双眸が色を放つ。何処までも続くような黒い欲望と甘い香り

「…混浴ッスか、望むところッス」

わざと軽口を叩くも高まり続ける苛立ちは拭えない。既に限界値まで近づいていた。

「もっちろん♪大魔王どーし、くんずほぐれつ裸のお付き合い♡」

既にキョーコは服を脱がしにかかっている。シャツのボタンが上から5つ外されていた

「…こんなところを見られたらかなり情けない、な……」

冷たい指を掴み上げる、するりと抜けだした指は胸をツツツと冷たくなぞった。

「ん?キョーコに秋人君が?やーだ♡大魔王さまのカ・ラ・ダ、美味しそー♪」

「…ちげーよ、ってか纏わりつくないい加減鬱陶しい」

体の中を暴れる奔流に堪えられず突き飛ばそうと勝手に動き、肩に手を伸ばす、眼下で揺れる魅惑の膨らみも、時折触れる硬さも、艶肌も何もかもが気に入らず既に爆発しそうだった。たぶんそれはキョーコ自身のせいではなく…

 

チッ

舌打ちを一つして黒の香りを纏うキョーコを乱暴に掻き抱く。縋り付かれたキョーコはそれを待ち望んでたかのようにされるがままに身を委ねる。抱きしめた細く、靭やかな躰は風呂場にいるというのに冷たい。甘い、冷たい毒が全身に広り蝕んでいく……

感じる感覚はますますゲージを上げ危険域へ。目の奥がチカチカと光る、この体が爆発しないのが不思議なほどだ。叫ぶ心と痛む体の動きが一致していない。なぜか、

 

それは先ほどからの"魅了(チャーム)複製(コピー)"に屈したのではなく――――

 

 

怖いからだ。

 

 

これから起こす、全ての事が。目の前の幻影に縋りつかなければ立っていられないほどに。

 

 

演者を揃えきった舞台へ【魔王】が現れるまで、あと幾ばくか。

 

 

50

 

 

不機嫌。不快。不愉快。

 

片手に本を持つあらゆる()の感情をはらんだ〘魔道士〙は自由な方を対象へかざす。紡ぐルーン。発動――――爆発。キラキラと破壊の破片が舞う。土埃が〘魔道士〙を包んで当たりの景色は見えなくなった。それでも構わず紡ぐルーン。発動。爆発。再び爆風が周りの景色を土色に染めていく、対象なんて目の前にいくらでも広がっている、むしろ全てを破壊するまでやめるつもりはないと言わんばかりの、圧倒的な破壊の衝動をそのままぶつける一人の〘魔道士〙

先ほどから淡々と同じ作業を繰り返す一人の少女はご機嫌ナナメどころか垂直だった。

 

――――秋人さんからの手紙(ラヴレター)かと思ったら偽物で知ったこっちゃない人からの体感ゲームの招待状でした。封を切るとそこはゲームの世界でした。ふざけないでよ

 

これまでのあらすじをたった二行で完結させた〘みかん:闇魔道士 危険度XX〙

「――ッ!!あたしの赤ちゃんを返してッッ!!!」

絶叫。発動――――爆発。

意識の向こう岸に広がる一面黄色のキャベツ畑でせっせとコウノトリのエサを栽培していた未婚の新妻魔道士、結城美柑は悲哀の表情で八つ当たり……街とNPCを破壊していた。

 

「…美柑、此方は破壊が可能のようです」

傍らに降り立つ羽を生やしたバニーガールは巨大なガーディアンを一閃。細切れに破壊していた。冷静と殺戮の間にいる殺し屋の眼に甘さはない。

 

「燃やしても壊しても直ぐに元通り…ストレス発散には丁度いいカモね」

「…私は悲鳴を上げて絶命するほうが好きですね」

「ヤミさんこわいなぁ」

「…美柑には負けます」

「ふふっ」「…。」

ニコリと微笑う美柑と口元だけでクールに微笑うヤミ。一心同体。かけがえのないパートナー同士であった。二人にはしっかと結ばれた友情の空気が流れているが、周りには[警告!警告!街、NPCは破壊できません!]とサイレンを鳴らしながら銀色の四角いブロックで作り上げたかのようなガーディアンが次から次へと無数に湧き、混沌と化している。巨大な体躯に頑丈なはずのそれは次にはあっさりと細切れになる。その発生源である本読まれ大好き、金色の闇は無表情でガーディアンを殲滅、生産していた。

 

――――この私に挑戦状。しかも懇意にしている情報屋の名を記しておき油断を誘うなど…

………………姑息な真似を………………抹消します。

 

美柑と同じく二行で完結させた〘ヤミ:遊び人(M&D)危険度XXX〙は浮かれていた過去と失望をガーディアンに叩きつける。※(M&D…ミート・アンド・デストロイ)

ガーディアンは[けいこ…グゴアアアア!!]と巨体に似合わない甲高い声がヤミの鼓膜を震わせる。クールな殺し屋の紅い瞳が怪しく光り、うさみみが快感にふるふる揺れる。

 

〘リト〙「美柑!ヤミ!お前ら何やってんだよ!??」

「ん?」「…。」

〘花屋〙が声をかけるが破壊の手は止めない二人。〘花屋〙の目には〘てきがあらわれた!〙と空に浮かんでいるのが見える。ふたりは仲間でなくモンスター設定のようだ。

「なーんだ、やっぱりリトも居たんだ。無事だった?」

続ける爆音、ヤミと美柑は黙々とシステムエラーを積み上げている。システム維持者のガーディアン達は残念ながら平穏なファンタジー世界を維持できそうにない。

〘リト〙「ああ、無事だったけど…」

〘花屋〙の耳には先ほどから、けたたましいビーッ!ビーッ!との警告音がやかましく鳴り響いている。

〘ボスモンスター:M〙「そう、良かったね。意外に敵ってセコい攻撃してくるし」

〘ボスモンスター:Y〙「まったくですね…どうせなら鮮血の演出も欲しいところです」

 

セコい攻撃ってなんなんだろ…美柑たちにはゼンゼン関係なさそうだけど…っていうか、美柑が心配だ。最近はそわそわと浮かれてニヤニヤしていることが多いし、学校で何かあったのかな…スーパーからの帰りも妙に遅いし…後を付けようとしたら………いやだ、思い出したくない…。思い出したくないといえば、ファッション雑誌に隠すように挟まれた妊婦向けの雑誌を見つけた時は目眩がしたんだった…遥か向こうの還るべき世界へ意識を飛ばす結城リト。

 

それもそのはず、[SYSTEM ERROR]と真っ赤な四角いウインドウが街を染め上げている。飛び交う[WARNING!]という警告色、黄色と黒の帯は大きく広がり青空の下で横断幕のよう、耳元で鳴り止まない警告音と広がる赤い世界にリトの意識は途切れる寸前だった。

いや、あの…二人とも…ドカッッ!!…ヒュッンッ!けいこ…グゴアアアア!!‥ビーッ!ビーッ!…もう止めてあげろ…よ…?…ピッ!けいこ…グゴアアアア!!ボカァァアァンッッ!!ビーッ!ビーッ!と混沌が広がっていく、既に〘花屋 リト〙は取り込まれてしまっていた。

 

〘ゆい〙「いい加減にしなさいよッッ!!!」

ピタリ。

破壊と殺戮の音が止み景色がみるみる元通りになる。青空のファンタジー世界がようやく平穏を取り戻した。システム維持者達の銀色ガーディアン達は武闘家の背後で綺麗に整列している。ツンデレ武闘家少女の頭上では〘ATTENTION!!YUI KOKEGAWA!〙と赤く巨大なウインドウが展開されていた。背後には気づいても頭上には気づいていない順序や整列が大好物の古手川唯は気分が高揚した。〘攻撃力がぐーんとあがった〙

〘ゆい〙「アナタ達が何に怒っているかは知らないけど、要するにこのゲームが気に入らないんでしょう!?だったら直接文句を言ったら良いのよッ!」

ビシッと指を向ける〘武闘家〙

「…確かにそうかも」「…一理ありますね」

こうしてクラスチェンジした〘武闘家兼魔物使い ゆい〙は二匹の凶悪モンスターを捕獲(テイム)した。

 

 

To Be Continued....

 

 

51

 

 

「ララさん、モモちゃんって…」

「うん!妹だよー!もう一人ナナってコがいるんだー、それより緊張してる?春菜」

「う、うん…ちょっとだけ…」

「ダイジョウブ!春菜も"自由"にやらなきゃ!お兄ちゃんならきっとダイジョウブだよっ!」

「"自由"に…か、うん。そうだね」

 

〘王女 ララ〙の傍らに立つ〘勇者 はるな〙

魔王の城の奥に設けられた謁見の間。赤い絨毯が敷かれた広々とした空間には四隅に天井まで届く大きな鏡が置かれ、壁には一定距離を保って蝋燭が仄かに灯されている。設定上は囚われているはずの王女は、中心部奥で用意された魔王の椅子に腰掛けている。それは場にふさわしく映え、これから知己の者と会談に臨んでいるかのようだった。

「頑張ってね、春菜!応援してるよ!」

傍らの〘勇者〙へ微笑み、見上げる〘王女〙。奇しくもそれは春菜がララに告白した時とよく似た状況だった。その言葉はあの時の告白への答えだったのか、それとも………

 

「うん。ララさんも、私も応援してる」

微笑みを交わす〘勇者〙と〘王女〙いや、ララ・サタリン・デビルークと西連寺春菜の二人はとても穏やかな気持ちだった。これから迎えるであろう未来が信じたものになると、一つも疑ってなどいなかったのだから。

 

旅立つ〘勇者〙を見送る〘王女〙。普通のファンタジーであればそうなるはずが、旅立つのは〘王女〙も同じ。共に(・・)旅立つのだ。ただし行き先は別々の場所へ。それでも辿り着く場所、終着地は同じ――――…そのはずだった。

 

それは一人の〘大魔王〙と冒険者達が対峙している場面の舞台裏。

 

 

52

 

 

仲間が増えた"勇者不在パーティー"はヘボンの街の宿で休んでいた。外には暗闇が広がり月が一つ空に浮かんでいる。

「ハロー!燃やして解決!マジカルキョーコさんじょー!」

「は!?」「え!?」「「Zzz…」」

窓からひょこっと顔だけをだす一人の女、リトはその女の顔をTVでよく知っていた。どことなく自身の想い人にも似ているが、その少女にはない這うような色気を感じ背筋を震わせた。声に驚き飛び起きたのは〘武闘家兼魔物使い〙と〘花屋〙だけ、モンスターズは〘武闘家兼魔物使い〙の誤って使ったトラップアイテムにより深く眠らされていた。どんな凶悪なボスモンスターもステータス異常は有効な手段である。

「えー、リアクションうす~い!キョーコは大魔王なのにぃ~」

「は!?マジか!?」

「ホントなの!?」

二人はずいとキョーコに顔を近づけるが凶悪そうでない無邪気な笑顔が広がるだけだった。

「そーだよー♪ララちゃんと春菜ちゃんは囚われているの♪誰にだろーねェ~♪」

ニイッと嗤うキョーコ、もう一度リトは背筋を震わせた

「あなたがでしょ?大魔王って今自分で言ったじゃない」

「キョーコはゲームのキャラクターだもん、設定上はそうだけどぉー・・・・・うーん?こっちもチャームきかないなぁ」

ふわりと宙に浮かび上がり、リトへと躰ごと向ける。

「なっ!!…なんだよっ!?」

下着のような姿のキョーコはリトにだけ紫の瞳を合わせる。驚き怪訝な顔のリトは感じる恐怖に目をそらした

「…リトくんはララちゃんと春菜ちゃんをどう思ってるの?」

「は?!お前には関係ないだろ!」

「ふーん、そっかぁ・・・・・そんなんじゃ二人とも可哀想な事になるかもねぇー」

クスリと微笑むキョーコにリトは鼓動がビクリと撥ねた

「助けてあげられるのは・・・・・本当に大切にしてあげられるリトくんだけなのにねェー」

助ける?誰から?目の前の〘大魔王〙からだろ、何言ってるんだと〘花屋〙は戦闘態勢へと移る

「貴方を倒せばいいんでしょ!?ハァっ!!」

すでに態勢を整えていた〘ゆい〙の攻撃は〘大魔王 キョーコ〙の胸に深々とに突き刺さる・・・・・があっさり突き抜けてしまう。ジジ…とノイズ音が鳴り、二人の目が見開かれる、確かに〘大魔王 キョーコ〙は作られたキャラクターのようだった。

「じゃ・ま♡」

「キャァアッッ!」

「古手川!」

〘大魔王〙は指を一つ鳴らすと〘ゆい〙は炎に包まれ転移させられる。行き先はスタート地点、それを知るのは〘大魔王 キョーコ〙しかいなかったが

「んじゃ、早く助けてあげてねェー、リトくん♡」

「お前!古手川をどこへやったんだよ!」

「中ボス置いていくから楽しんでね♡じゃ♪」

「おい!答えろッ!助けるってなんだよ!お前からじゃないのかよ!」

〘花屋〙が叫んでも既に転移した〘大魔王〙はもう居ない。代わりに巨大なオニのようなモンスター〘ゴーリキ〙が残されていた。

 

〘てきがあらわれた!〙

 

〘リト〙「!」

花屋の、結城リト(・・・・)の戰いが幕を開けた。

 

Next Final Stage.....

 

 

53

 

 

「初めまして、ご機嫌よう美柑さん」

ふわりとモモが微笑う

「……初めまして、あなたはどちら様でしょうか?ララさんの妹のように見えますけど……」

訝しむ美柑は胸を抑えて落ち着きが無い。ふぅ、と乱れた息を整える

「ええ、そうですよ?流石はリトさんの妹さんですね♡」

「…リトを知ってるんですか?」

「ええ、とても良く知ってますよ?お優しくて植物にまで気を配れる紳士な方だと」

「…。」

ジロリと美柑は睨みつけた

「あら、庭のセリーヌちゃんにお聞きしたのですが…私には植物と会話できる力があるんですよ?…ですから…」

「それで私をリトから引き離した理由は何ですか?」

 

リトが〘ゴーリキ〙と戦闘を開始した時、ヤミと美柑は目が覚めた。外ではリトが懸命に〘ゴーリキ〙の足元を〘棍棒〙で殴りつけている。〘1ダメージ〙との表記が空には浮かんでいた。

「「…あんなザコに何をやってるんだか(でしょうか)」」

と同時につぶやいたモンスターズは早速殲滅しようとする、が、美柑の視界には〘淑女が誘う年上のカレ、7つの夜の作法〙ヤミの視界には〘世界の名作絵本大朗読会!読むのはアノ人!先着一名様たい焼き付き〙が飛び込んでくる。

ふたりは顔を見合わせ頷くとそれぞれ旅立った。光の射す方へと。後ろで独り懸命に攻撃を避け、夜闇で〘棍棒〙を振るう〘花屋〙はそれを知らなかった。知ってもどうにもできやしなかったが……

 

そうして、現在、夜の作法の先生の正体は、目の前に居るモモ…、モモ・ベリア・デビルークだったのだ。無論、最初からモモが姿を現すはずもなく……小柄なマントを着ているキャラクターが講義を終えるとノイズ音がなり、正体を現す。その結果として太腿を擦り合わせもじもじしながら睨みつける美柑と、瞳に星を散りばめ頬を朱に染めた夢魔が対峙している謎の現場が出来上がっていた。夢魔の口元に涎の跡が残っている。

 

「あら、リトさんをあっさり裏切り、あの男側に居る美柑さんに言う必要がありますか?」

「あの男?誰の事ですか?」

涎を手の甲で拭い、自身の尻尾を掴んで揺らすモモ。まるで美柑を夢の世界へ誘う合図のようだ。

「…いえいえ、何でもありませんよ?」

「…そんなワケ無いでしょう、」

ふふっと嗤うモモは揺らしていた尻尾を手放した。美柑は知らずに尻尾を目で追ってしまう

「私はお姉様方だけでなく、みなさんの幸せ(・・・・・・)を望んでいるんです」

「お姉様方…ララさんと春菜さんの事ですか…皆?」

「ええ、その為の楽園(ハーレム)計画です♡リトさんとお姉様方だけでなく、私も………リトさんだけが皆を幸せにできるんです!」

まるで舞台に立っているかのように両手を広げ美柑へ満面の笑み

「何を言っているのかわかりませんよ、じゃあ私はリトのところへ戻りますから、回避能力高くても長引けば危ないだろうし」

リトへの攻撃は当たっていなかった。まるで敵は当てるつもりもないように……だから美柑もヤミも後回しにしたのだ。夜の作法と絵本に魅了されたのではない…………たぶん。

くるりと踵を返す美柑にモモは問いかける

「…あの男が誰を選ぶのか、知りたくはありませんか?」

「…。」

ピタリと足を止める。既にあの男(・・・)に思い当たっていた美柑が振り返るとそこには花の匂いを散らす王女(・・)が立っていた。小さな二つ結びと揺れる尻尾は何だか禁断の場へと誘う悪魔のようで……美柑は誘われるように楽園の赤い果実を手に取った。

 

 

54

 

 

「やっぱウマいなーコレ!」

ラズベリーを次々口へ放り込むナナは満足気に笑う。左右に積み上げられている赤い丘は増えても減ってもいなかった。

「…まぁデータじゃホンモノには敵わないケドさ」

ぽいっと一口放り込む

「ふぁぁあー…オイ、まだできネーのかよ」

胡座をかいている大口を開けるナナは視線の先で流れるような金髪に問いかける

「…うるさいですね、今集中しているんです、黙っていて下さい」

金色の背中はハッキリと拒絶を示していた。

「オマエ、あたしと同じで食うの専門だろ?慣れないことはしない方がいいんじゃネーの…」

「…だから黙っていて下さい……あ、」

〘Failure〙

「ン?なんだよ、また焦げてんジャン…やっぱあたしらは食うの専門が…」

「…失敗は成功の元と本にありました。美柑も同じことを言っていました、幼い頃は料理でよく失敗していたと、ですから…」

手元を動かしながら語気を強めていくヤミ

「あー、ハイハイ、分かった分かったガンバレガンバレ」

見えないと知っていて、ひらひらと金色の闇へ手を振り視線は空へ、既に夜は明けて青の世界だ。一面広がる青空にはナナの好きな動物たちは居ない。というよりこの世界には生きているものなんて数名だけしか居なかった。その数名のうち、一人は今もこうして黙々とたい焼きを焼いている。〘型〙に〘たい焼きの元〙を流し込んで、好みの〘具〙を入れ、〘型〙で挟むと出来上がり。〘おいしくできました〙のはずが〘Failure(失敗)〙ばかり。尽きるはずのない具材が偶然(・・)付きてしまい、モモに連絡するとまるでそうなるのが分かっていたかのように追加された。ナナにはプログラムなど複雑怪奇なものはキョーミなかったが、双子ゆえモモの黒い部分を敏感に感じ取り偶然(・・)では無いと悟った。

 

ゴロリと寝そべり、もう一つ口へ放る。広がる酸味、甘酸っぱい味。地球で気に入った味

のはずが、なんだか今は気に入らない。こんな味じゃなかった、モモめ、なーにが「プログラムは完璧よ(CV.ナナ)」だよ、外面みたいにウソばーっか

天は高く澄み渡りやっぱり続く青い世界。時々浮かぶ雲は、何だか食べかけのケーキのように見える、さっさとこんなことを終わらせて地球見物に行きたい。兄上に案内させて食べ歩きがしたい。たぶん、いや、ゼッタイに二人で食べるその味は一人の時より数段上のはずだし・・・・・兄上も兄上だ、あたしのホントの兄上になりたくないのかよ、父上だって許してくれたのによ・・・・・母上にはまだ忙しくて相談できてないけど、あたしが居るし、姉上だって居るし、なんだったら別に兄上じゃなくっても…いや、むしろソッチのほうが………あ、兄上(仮)だった、

 

ゴロリと横になる。相変わらず電子音と共に〘Failure(失敗)〙ばかり表示されている、82個もあるのに何が気に入らないのだろ…

ふぁぁああーああ

もう一度欠伸が出る。向こうの世界でハシャギ過ぎて疲れたようだ。あんなに楽しく笑ったのは久しぶりだった、モモと通信で地球の様子を覗き込んでいたときよりもゼンゼン違う楽しさがあった。たぶん、いや、ゼッタイに二人で共に地球を周れば同じ楽しさが積み上がって……

兄上(仮)め、なにがイヤなんだよ、、、

 

バカヤロー

 

食べかけの肉のように見える雲に悪態をつく。すんと鼻を鳴らした涙の向こうの雫の世界は未だに失敗が積み重ねられているようだった。

「…そういえば貴方は誰なのですか」

話しかけるなと言っておきながら自分からは話しかけてくる金色の闇、まったく、勝手なヤツだなとナナは悪態を金色の闇へと向き変えた。

「あたしはナナ、ナナ・アスタ・デビルークだ」

「なるほど、プリンセスでしたか、見えませんね」

〘Failure〙

「失礼なヤツだな!あたしは第二王女だぞ!モモより偉いんだぞ!」

見てないことは分かっていても牙を向き咆えるナナ、視線の先の金色は小柄で、自身とよく似た背だった。

「…そんな第二王女がなぜここへ…これは貴方の仕組んだことですか?」

ペイっとラズベリーをヤミへ投げつけコツンと頭に当たる。ヤミは意にも介さない

「モモが姉上を兄上(仮)から取り戻して……あれ、えっと…なんて言ってたっけ……?」

長々とした説明だったのでロクに聞いてなかったナナ、聞いていたのは王室から抜けだして姉上のところに行く、というところだけだった。

視線の先の金色の闇は相も変わらず背筋を伸ばし、たい焼きを焼いていた。時折ピクッと揺れるバニーガールのうさ耳が、ナナには何だか金色の闇がホンモノのウサギのように見えた。

「人の話を聞かないことは良くありませんね…」

〘Failure〙

どのクチが、と秋人なら言ったであろう。

「だよナー!」

ププッと含み笑いながらテキトーに返事をするナナの頭には、ウサギが直立不動でたい焼き焼いてる………「植物食だけどたまには魚でもたべようかな、でも無理だからたい焼きにしよう(CV.ナナ)」って…プッ、だった。

「…誰がウサギですか、それなら貴方は犬でしょう…」

「ゲ!なんであたしの頭の中が分かったんだよ!」

「思った事は口に出さないほうが身のためですよ、プリンセス・ナナ」

金髪を腕に変身(トランス)させラズベリーを投げ返すウサギ、ギャン!…あ、痛くないんだった、と犬は鳴いた。

「…それに尻尾を咥えて遊ぶなど、貴方はどれだけ犬なんですか」

「ンなッ!やっぱ見えてたのかよ!」

「…ドアをロックしない貴方が悪いんですよ」

顔を真っ赤にしたナナはロックしてたぞ!お前が破ったんだろ!…そうでしたか?そうかもしれませんね、と続けた。ナナの言い分が正しかった。ヤミは前回の失望から反作用的に期待が膨らみ有頂天(トランス)状態だったのだ。むしろドアくらいですんで良かったのだ。ナナもヤミも知らなかったがこの電脳世界で一番厳重で強固であったそれはバックドアであった。

〘Success! おいしくできました〙

フッと口の端をゆがめて自慢気に笑い澄ますウサギ。その顔は背に隠れ犬には見えなかったが満足したのはよく分かった。

「ではたい焼きも出来上がりましたし…観劇へ向かいましょうか、」

振り向いてたい焼きを担ぎながら、わくわく、そわそわと浮かれるウサギ。その仕草、表情に犬はさっきまでの羞恥の気持ちが薄れ、計画が既に狂っていることに気づかない。

 

ヤミが偶然に投げた赤い果実(ラズベリー)GM(ゲームマスター)の一人であるナナに確かにダメージを与えた。もともとの計画ではナナは秋人に擬態する予定だったし、たい焼き83個も完成することはなかった。ヤミが秋人に死ぬような攻撃を加えることはない、ともう一人のGMは考えていた、ところがヤミはガーディアンを倒し続けた事でバグがおき本来、〘Level 1〙のままであったはずが〘Level 256〙となっていた。僅か一撃で瀕死となったGMは痛みがない世界故に気づかない。

 

そして全てに気づかない、気づいていないナナはヤミを案内してしまう。秋人を守護する楯となり、秋人を救う剣となる存在を――――…

 

それは世界の崩壊が始まる僅か、数刻前の出来事。

 




感想・評価をお願い致します。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【 Subtitle 】

48 終わりゆくセカイ

49 不遜な魔王の舞台裏

50 たった一つのシンプルな理由

51 特性「非常識よ」《アブノーマルキャンセラー》

52 力、知恵、そして勇気

53 サマエルの囁き

54 (秋)人恋シスターズ
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