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「うむうむ。ネコはかわいいのぅ…」
皿のミルクに集まる子猫達を見ながら独りごちる。季節は完全な冬。凍てつく寒さが厚着の服の上からでも堪える。どんな服を着ようともオシャレさんに変わるこの"ToLOVEる"の世界では男キャラである俺もなかなかサマになっていてびっくりした。テキトーに選んだ服を身に纏っているはずなのに全然"脇役"キャラに見えない。なんだか見た目は【古手川唯】の兄、【古手川遊】に似ているような気がした。実は俺あっちの方だったんじゃね?
時刻は正午を少し回った頃、天気は快晴。雨の描写があまり無い原作だ。これは当然かもしれない。彩南町の繁華街は人で賑わい今日が休日であることを示している。もうすぐクリスマスだし仕方ないかもしれない。そんな賑わいから少し外れた路地裏で子猫にミルクを与える俺ってちょっと暗い?いいじゃん!動物好きなんだよ!
「おいおい。そんなに俺に群がるんじゃねぇぜ?子ネコちゃん達、俺の躰は一つだけなんだからよ…」
人差し指につけたミルクを舐める子猫達に目を細めて囁く
「なんだよ、今夜はいつもより積極的じゃねぇか…待ちきれなかったってのか?随分とおねだりが上手くなってきたな…うへへへ」
「…何を気持ちの悪いことを言っているんですか。気持ちの悪い。」
幸せにひたる俺の心情をぶち壊しにする冷たい声。
「んげ!【金色の闇】!」
ザコキャラのような情けない悲鳴を上げる
「…地球でも名が知られているとは、私も随分と有名になったものですね…」
やばい。この暴力キャラはヤバイ。刃物だすし。流血とかないけど、無機物は容赦なく破壊するし。俺には登場人物補正がないのだ。だって制服もどらねーし、5日とか言われたけどまだブレザーは得られず別の制服着た転校生スタイルだ。つまりは斬られる→血が出る→死。
――――死んだ場合って"俺"ってどうなるんだ?夢から醒めちゃう?強制ログアウト?それはダメだ。まだウチの春菜の恋が成就してない。今はまだこの"ToLOVEる"の世界から出て行くわけにはいかないのだ。これは下手な事は言えないな。
「ヘイ!キミ!俺のミルクを飲まないかい?」
「…お断りします」
ミルクのついた人差し指を【金色の闇】へ差し出す。……決して厭らしい意味で言ったんじゃないぞ
「それより貴方はこんなところで何をしているのですか?」
「ん?見ての通り子猫達とイチャコラしてるところだ」
「イチャコラ?よく分かりませんね…先ほどの不気味な笑いといい随分と地球は頭のおかしい人が居るようですね」
不快。って顔の【金色の闇】
ひでーな、お前だって猫好きだろーが、そんなシーンあったぞ確か。
「それより結城リトという名の男を知りませんか?」
「知ってるぞ」
「では居場所を教えて下さい。」
先程までの厭そうな表情を消し、無表情で問う【金色の闇】
「俺の事攻撃しない?」
「
淡々と答える【金色の闇】
「斬ったりしない?」
「しません」
「無数の手でボコボコにしたりとかしない?鉄球でぶん殴ったりしない?」
「随分と此方の手の内に詳しいですね…とにかく危害を加えない事を約束します。ですので結城リトの居場所を教えて下さい」
片眉を少しピクリとさせ此方を訝しんでいる
「…ホントだな?」
「約束します」
頷く【金色の闇】はどこまでもクールだ。
「ぜったい?」
「二言はありません」
もう一度頷く金髪の殺し屋。彼女の髪が澄んだ空気に跳ねて揺れる、
「ヨッシャ!安全マージンゲーット!!」
拳を空に掲げて叫ぶ。これでいきなり死ぬことはなくなっただろう、多分
【金色の闇】に【結城リト】の居場所を話す、"主人公"との出会いのシーンのあの場所を――――
「なるほど、その場所で待っていればいいんですね」
顎に手を当ててうん、と頷く殺し屋少女
「そうだ、あとコレをやる」
「?これは?」
バッグに入っていた本を【金色の闇】に手渡す。
「本…地球の文字は私は読めませんが…」
「そのうち読めるようなるっての。本好きだろ?」
「よく知ってますね……実は貴方は情報屋か何かですか?」
両手にしていた本から視線を外して、また先程のように俺を怪しむ視線をむける【金色の闇】
「ふふん。まあな」
「…危険人物かもしれませんね、下手な約束をしてしまったようですね…」
ニヤリと悪い微笑みを浮かべる俺とクールな表情を崩さない【金色の闇】
「まぁ、とにかくその本がいつか役に立つからよ、持ってろっての」
トントン、とハードカバーの本を人差し指で叩く、
「…いいでしょう。今はその命、預けておきます。では――――」
路地裏を去っていく【金色の闇】
「ヘイ!【ヤミちゃん】!結城美柑はイイコだぞ!是非友達になってやってくれ!」
「…結城美柑?
くるりと振り向く小柄な殺し屋、この宇宙で独りきりだと思い込んでいる少女。異邦人。――――…家族、か。
「―――そうだ!妹だ!」
「必要ありませんね、」
よく言うぜ。
「まぁまぁ、そう言わないでくださいなお嬢さん。友達とは良いものですよ?」
友達…
「…。」
目を細めて此方を見る【金色の闇】と見つめ合う。ウチの春菜の為には【結城リト】に近づけるべきでは無いダークネス編のメインヒロイン。だけど美柑には彼女が必要だ。それにこの
「…考えておきます。」
「おう、頼んだ!」
「…貴方の名は?」
「秋人…【西連寺秋人】だ」
「アキト、なるほど、覚えました。また情報が必要になったら利用します。」
今度こそ去っていく【金色の闇】。おっと、俺もそろそろ待ち合わせ場所に行かないと――――
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待ち合わせ15分前。時計塔の下で私、結城美柑は春菜さんのお兄さん…
いつもよりばっちり身なりを整え短めのひらひらした大人めスカートを履いている。少し迷ったけど雑誌で男の人はこういうスカートを好むとあった。合わせたニーソはコドモっぽいかな?
――――もうすぐクリスマス。リトへのプレゼントを悩んでいる
待ち合わせ13分前。まださっきから2分しか経ってない。時間の流れがどうにもおかしい。気持ちだけが早って時間がちっとも追いついて来ない。だれか私の心のコーディネーターになってくれないかな、
いそいそと手鏡で身なりをチェック、さっきから声をかけてくる男の人が多いけど声はすべてサイレント。はっきり言って邪魔でしかない。今日の私は忙しい。
待ち合わせ10分前。脳内で出会いのシーンをシミュレート。声をかける秋人さん。応じる笑顔のあたし。秋人さんも笑顔を返す。そしてふたりは手を……。今朝も繰り返した出会い頭のワンシーン、何度繰り返しても飽きることはない。むしろリテイクを繰り返して精度を増している
「よ!美柑!はえーな!おまたせ!」
――――そして待ち望んでたあのひとがやってくる。
「待たせすぎです。お兄さん」
「ん?そうか?悪ぃな」
「では埋め合わせをして下さい。」
すっ…と右手を差し出すあたし。頬が熱い、自分でも顔が紅いのが分かる。さっきのシミュレートでは余裕の微笑みを浮かべていた"オトナ"なあたしがいたのに。
「手だな、ほら」
しっかり手を繋いでくれる笑顔の秋人さん。リトなら呆れて「なんだよ美柑、手繋ぎたいのか?コドモだなー」って文句を言ってから手を繋いでくれるだろう。そういう余計な一言が女子のテンションを下げることをリトは知らない。…って今はリトはどうでもいいってば。
「んじゃ行こう!まずは雑貨屋でも行こうぜ!美柑、ナビヨロシク!」
「まったく、仕方ないですね、こっちです」
はしゃぐ秋人さんは彩南町の地理に明るくない。まるでララさんみたい、あの時とは違って【登場人物】はあたし、結城美柑と秋人さんのふたりのみ。今日はふたりでいっぱい話をしてもっとキョリを縮めたい。
――――不満を漏らすあたしの心は浮ついてる。現実から2、30センチは浮き上がってる。地面に足がつかないからしっかりと手を繋いで、あたしを捕まえておいてくださいね、秋人さん
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「ふぃー…結構イロイロ周ったなー、」
「はい、イロイロ周りましたね」
美柑とふたり、公園のベンチで一息つく。甘いココアが身体を温めてくれるが片手で開けるのには苦労した。繋いでいる左手を離そうとしたらすぐ脇から殺気を感じたのだ。まさか美柑か?と思ったら案の定ジト目の美柑だった。流石は【金色の闇】の親友。将来良いヒットマンになれるかもしれない。
「しかし、そんなんでホントに良かったのか?」
「はい、お兄さんのおかげでイイモノが買えました」
「そ、そうか…」
美柑が買ったイイモノ。それは「根性」と書かれた棍棒。よく土産屋で売ってるアレだ。まさかこの世界でもあるとは思わず「おもしれー!【結城リト】にコレで殴れば雑念払えるかもな!」と言ったら即購入した美柑。クリスマスプレゼントにそれって…ある意味【結城美柑】らしい?初めのクリスマスで美柑と【結城リト】の描写なかったから案外恨んでたりして。
チラリと美柑へ視線を向ける。作中では小学生にしては色のある服装でランドセルを背負ってアンバランス感を主張していたけど、今日はそれとは違う、とても
珍しい。そんな描写なかったよな?まぁ美柑の出番が増えてくるのってダークネス編が始まってからだっけ。無印ではあんまり出番はなかったな、
「…どうかしました?」
視線に気づき、此方を見つめる美柑。どこか嬉しそうな顔をしている。
「いーや、案外キャラの魅力ってよく見ないとどこにあるのかわかんねーもんだって思ってな」
「キャラ…私のことですか?」
「そそ。」
「魅力…あるんですか?」
「おう!バッチシだ!人気投票の結果が楽しみだな!」
美柑へグッとサムズアップを送る。兄を誂う小悪魔妹キャラ、ちょっとブラコン入ってたりしたら最高だ。対してウチの春菜は兄を支える優等生妹キャラ、こっちはちょっとブラコン入らなくていい。俺が扱いにくくなるからな、ん?だいたい支えてやってるのは俺の方か、俺はシスコンじゃないし、"俺"は春菜にとってのどんなキャラクター?
「人気投票…ふふっお兄さんの話は面白いですね」
「そうか?」
「はい、女性キャラ1位は誰になるんでしょうか?春菜さん?」
小首を傾げる美柑
「んー、【ララ・サタリン・デビルーク】だな」
「ララさんですか・・・確かに、でも春菜さんも可愛いですよ?」
「春菜は2位だ」
「ふーん、お兄さんて春菜さんに冷たいですね、まさかララさんの方がスキとか?」
ジトッと見てくる美柑は何かを試すかのよう
「まさか、言ったろ?俺はヒロインみんな好きなの。」
「ふふっ欲張りですね、ちなみに私は何位ですか?」
「えっと、美柑は・・・」
たしか【結城美柑】は【金色の闇】についで第4位、毎回そんな位置にいるキャラクターだった気がする。安定の小悪魔妹クオリティが読者のハートを掴んでいるんだろうな
「えっと、美柑は……」
「…。」
4位です。言えない。言ったらマズイ。こんくらい【結城リト】でさえ気づける。左肩からチリチリと黒い暗黒のオーラが間違えたら許さんと放たれている。おかしいぞ、【金色の闇】だってこんな殺気出さないってのに。春菜、お兄ちゃんピンチだ
「審査員特別賞ーッ!!多数の投票ありがとうございましたー!」
美柑の手をとり、共にバンザイの格好をとる。向い合ってバンザイする俺たち、身長差が結構あるけど、今は座ってるから関係なく、顔がとても近くなる、黄土色の瞳が俺の顔を写している
「…皆さん応援ありがとうございました。受賞できて嬉しいです…」
顔を紅くして受賞者コメントをボソッと述べる美柑。ホッ、間違えなかったようだ。
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「それじゃあ行ってくるけど…、ホントに良いの?お兄ちゃんは…?」
「いいっての。しつこいぞ春菜、しつこい女は嫌われキャラだ」
「う、うん…ごめん、」
【天条院沙姫】主催のクリスマスパーティーへ向かう春菜を玄関で見送る。さっきから同じやり取りを繰り返してばかり。
「でも、やっぱり一緒に行かない?誘われてるんだよね?やっぱり失礼になると思うし…」
「【天条院沙姫】がそんな事気にするキャラかよ、怒ってたら春菜、お前が謝ってやってくれ、頼んだぞ」
いつもと違う清楚系ドレス姿の春菜の小振りな胸をトントンつつく、ん、いい感触だぞ
「もう…すぐそうやって私に押し付けるんだから…私も怒られるのイヤなんだよ?」
「大丈夫大丈夫。怒ったりしないって、アイツは。たぶん俺を誘ったのも覚えてないんじゃね?」
「そんな事は無いと思うけど…でも、やっぱり‥」
上目遣いでまたもや同じ事を言おうとする春菜。ええい、またリピートする気か
「あー!もう!しつこいっての!いい加減はよ行かんか!【結城リト】達が待ってるだろ!ララだって楽しみにしてたんだ!お前が遅れたら心配するぞ!分かったらほら行け!お土産よろしくな!」
「あ!ちょっとおにぃちゃ…」
バタン、と玄関からパーティー仕様の春菜を締め出す。分厚く冷たい鉄のドアが俺と春菜の空間に区切りをいれた。
――――クリスマスイヴの夜。【天条院沙姫】の別荘でパーティーが開かれる。俺と春菜は招待されていたが俺は行かない。行くのは春菜ひとりだけ。もちろん会場でもう一人のメインヒロイン【ララ・サタリン・デビルーク】や仲の良い【籾岡里紗】【沢田未央】、【天条院沙姫】の取り巻きの【九条凛】【藤崎綾】、それから盛り上げキャラの【猿山】にウチの春菜の想い人である【結城リト】が居る。きっと大いに盛り上がって楽しいイヴの夜になるだろう。【結城リト】や友達と良い思い出をつくってほしい。……アレ?なんかあと一人たりないような?
ま、いっか。
「さて、俺の方も準備にかかるとしますかね、」
あくまでおまけだ。原作で言えば外伝、いや、それにもならないな。春菜がどう思うか分からないが"俺"がそうしたいと思ったからそうすることにしただけだ。
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「春菜ー!待ってたよー!こっちこっちー!」
羽の生えた可愛いドレスに身を包むララさんが私を迎えてくれる。パーティーはもう少ししたら始まる。ギリギリに飛び込んだ私だったけど、なんとかパーティー開演には間に合ったみたい
「あれ?お兄ちゃんは?」
「…うん、来れないって」
「えー!そんなー!なんでなんでー!?」
やっぱりララさんもお兄ちゃんとイヴを過ごしたかったみたい。とても驚いて悲しそうな顔をしてる
「分からないの、なんだか大事な用事があるって言ってて…」
「むー、何か前にもそういうのあったよね?」
「うん…」
二人して暗くなる、会場はパーティ開演の合図を待つばかりで私達の他にも沢山の見知らぬ人たちが談笑していた。
「ナニナニ、なーに二人して暗い顔してんのさ、」
「わーお!春菜もかわいーね!気合入ってるぅー!」
開演を待たずにジュースの入ったグラスを片手に里紗と未央が肩を組んでくる。
「あ、里紗、未央…」
「ンー?どしたんね、春菜もララちぃも今夜はイヴよ?楽しまなきゃソンだよ?」
「そーそー!」
「あ、リサミオーお兄ちゃん来ないって!」
慌てたような声をだすララさんがゆさゆさと里紗の肩を揺らす
「オニイチャン?ララちぃお兄ちゃんいた?」
「ララさんのじゃなくて私の…」
私は事情を里紗と未央の二人に話す、確か里紗は前に一度兄に会ったことがある。
「あー、あのカッコイイ先輩か、そりゃーたぶん…」
「たぶん?」
首を傾げる私、私でも分からない秋人お兄ちゃんの用事が里紗には分かるんだろうか
「デートっしょ!」
「「デート!?」」
驚いて大声を出してしまう私とララさん。私はともかくララさんまで…
「そそ。妹には言えないのよ、今頃はしっぽり部屋に連れ込んでるころっしょ!」
――――イヤだ。そんなのはイヤ、ダメ。顔が真っ青になっていく、心臓が冷たくなっていく。私の知らない女の人に微笑みを向ける秋人お兄ちゃん。髪を撫でて女の人を抱きしめる秋人お兄ちゃん。イケナイ妄想がどんどん膨らむ。なぜだかやけにリアルだ。思えば最近の秋人お兄ちゃんはなんだかとても人気がある。昔からそうだったけど最近はやけにイロイロな噂話を聞く、九条凛先輩と屋上へ行く話だって聞いた。もちろんお兄ちゃん自身から聞いたわけじゃない、そんなこと聞けないよ
九条先輩もララさんもこのパーティー会場にいるからどこか安心してた。でも私の知らない可愛い女の人なんていっぱい居る。お兄ちゃん的に言えば"まだ投下されてないヒロインキャラ"
「あ、西連寺!メリークリスマス!あ、あのさ、その服、凄い、に似合って…」
――――結城くん。結城くんが顔を赤くして声をかけてくれる、彼との恋を応援してくれる秋人お兄ちゃん。私達の邪魔をしないよう気を遣ってくれてるんだと思ってたけど…ホントは私が邪魔だっただけなのかな…
哀しい。秋人お兄ちゃんは秋人お兄ちゃんで恋をして何も悪いことじゃないのに――――私だって結城くんに恋をしている。お互いそれぞれ恋人を見つけて悪いことなんかどこにもないのに。
悲しい。私以外の女の人に優しくする秋人お兄ちゃんが悲しい。
視界がどんどん滲んでいく、手にある想い人へのプレゼントがクシャ‥と握りしめられて苦痛の悲鳴の音を上げる
「でもサー、ララちぃのお兄ちゃんにもなったワケ?春菜のオニイチャンは?」
「そーだよ!とっても頼りになる
「へー、そりゃブラコンの春菜はヤキモチ焼いてたまらんねー」
「…そんなのじゃないよ」
抑揚のない声。
「そか?最近はお兄ちゃんお兄ちゃんと話題の大半がお兄ちゃん祭りだったよ?早く部活終わって家に帰りたいって愚痴ってばっかりだったジャン、練習熱心な春菜らしくないな~と」
「…そんなこと、ない」
私の声。
「春菜?」
ララさんが顔を覗き込んでくるけど、ぼやけてよく見えない。
「でもそんなアニキが他の女とラブってたら春菜はタイヘンだねーニシシ」
――――重なる秋人お兄ちゃんと知らない女の人ふたりが…
「――ッ!!」
「あ!春菜!」
青いリボンのプレゼントを投げ出し駆け出す、ここへはもう居られない。走りだして動き出した心は、暴れる気持ちはもう止まれない。首にかけたロザリオが左右に激しく揺れ動く、テニス部で鍛えた足腰が私の心と激しくシンクロして私の躰ごと目的地へと強く引張り、早く疾くと導いていく
――――
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雪も降りそうな程に寒い空の街頭で営業販売をする2つの影。
「いらっしゃいませー!素敵な夜に美味しいクリスマスケーキはいかがですかー?甘くて美味しいケーキで甘ぁ~い夜にしませんかー?」
一人はミニスカサンタの女、その隣に佇むネコサンタ(きぐるみ)
「彼女も甘ぁーいケーキにほだされて甘ぁーい空気を纏わせて甘ぁーくてトロトロした表情で甘ぁーーーーいひとときを過ごせますよ~」
微動だにしないネコサンタ(きぐるみ)
・・・どんなだけ甘いんだよ。もう"甘い"がゲシュタルト崩壊したぞ
ミニスカサンタは春菜のクラスにいる髪にトーン使われてる妙に気合の入ったモブキャラ。
ネコサンタ(きぐるみ)の方は…
「一つくれ」
「はい!毎度!5600円になります!」
強きな値段だなおい。ほとんど山積みになって売れてないのが丸わかりのクセに。
「オイ。【古手川唯】わざわざ来てやったんだから、これ終わったら今度はこっちの頼みも聞いてもらおうか」
ビクリと震えるネコサンタ(きぐるみ)バタバタと猫頭を激しく横振って"違う、知らない"をアピールしている。
「ハァー、メールでこの場所送りつけて「ケーキ買いに来て下さい助けて byネコサンタ」ってどう考えてもお前しかいねーじゃん。【古手川唯】、メール開いたら送ったヤツの名前わかんだぞ?」
固まるネコサンタ(きぐるみ)おまえ本当に常識ある委員長ツンデレキャラなんだよな?
「?さっき助っ人を呼んだってこの人の事だったの?古手川さん」
ミニスカサンタがネコサンタ(きぐるみ)の中の人の事を早速バラす。もうバレてるけど
「ほれ、助けてやるからさっさと脱げって」
「え?私ですか?キャーッ」
ちげーよ、お前が脱いだらおいしいけど、問題アリアリなネコサンタ(きぐるみ)の方だ
「さっさと貸せっての【古手川唯】もう一着ミニスカサンタの衣装あるんだろ?」
「はい、ありますよ?え?まさか着るんですか?キャーッ」
ちげーよ、さっきからお前はなんかおかしい。
「よっしゃ、んじゃツンデレミニスカサンタと司会のおねーさん、ハレンチネコサンタの三人のショーでケーキ売りさばくといこうぜ!」
ニヤリと笑う俺に困惑している様子のネコサンタ(きぐるみ)、興奮気味のミニスカサンタ
……大体、棒立ちのきぐるみは不気味でしか無いだろっての
――――秋人の願いと春菜の気持ちがすれ違うクリスマスイヴの夜。街は色とりどりのイルミネーションの光に満ち溢れカップルや家族連れが笑顔を振りまき幸せそうにしている。"向こう"の世界の事をあまり考えられなくなった秋人は自分自身の存在意義が曖昧になっていた。自身もクリスマスを演出する背景キャラクターの一つになれば解るかもしれない、そう独りごち周りを一瞥した秋人は【古手川唯】からネコサンタの頭を引っこ抜くのであった。乾いた悲鳴が冬の夜空に木霊した。
感想・評価をよろしくお願い致します。
2015/11/09 改訂。一部情景描写、台詞変更
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【 Subtitle 】
22 ヤミ、襲来。
23 Re:美柑と買い物デート
24 審査員特別賞(ばんざーい)
25 秋人の思惑
26 秋人の不在、春菜の想い
27 きぐるみ唯たん