ウチの【西連寺春菜】が一番カワイイ!!   作:充電中/放電中

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difficulty 7. 『繋いだ絆』

34

 

 

見上げれば、そこには満天の星空。黒い夜空に散らばる無数の宝石たちは様々な模様、星座を作り上げている。真冬の凍てつく寒さの中、星たちはその存在を主張するようにキラキラと瞬く、星の煌きは人の命、占星術はその名の通り星の動きで人の命運を占う。秋人の見上げるその中で一つ流星が静かに流れ、――――やがて消えた。

 

 

秋人は結城家の縁側に座り、ぼうっと星空を眺めていた。反らされた西連寺春菜と同じ黒い前髪が重力に従い流れ落ちる。瞳の紫は確かに星空を映していた。自動車の通る音が遠くに聞こえる静かな情景のなか星空を眺める一人の少年は物思いに沈み、黄昏れているようにみえたことだろう、だが実際は・・・・・

 

「つ、つかれ、た・・・・・」

 

俺は今まで言えなかった本音を零す。

 

「もう何、なんなの?、この世界だれが管理してんの?俺?いい加減にしてよ…俺。ラコスポだったっけ?金色の闇に金払ってさっさと地球から出て行って貰ってくれよ、チクショウ…」

 

俺は今宵の悪夢を思い出した。思い出したくないが整理して対処法を考えなければならない。

 

 

トラブル1.「危険なバスタイム」

 

「ふわぁ~いい湯だなー」

結城家の湯船に身を沈める。数多くのヒロインがこのバスルームで身を清めていたお色気シーンがあったが今は俺ただ一人。

 

スキヤキと"スイーツ大食いチャレンジ失敗記念、金色の闇さんによる産地直送、冷凍本・結城リト(まぐろ)解体ショー"を皆で楽しんだ(?)後、春菜達は風呂へと向かった。ボロボロの屍と化した結城リトが俺の春…じゃなかったウチの春菜の裸身をうっかり(・・・・)目撃しないように見張った後、女性陣と交代で俺、結城リトの順で入る事になっていた。俺は最後で良かったのだが結城兄妹が譲らなかったのだ。

 

「お兄さん、着替えここに置いておきますね、」

 

脱衣所から美柑の声がドア越しに届く

 

「ああ、サンキュー、美柑」

 

湯気が広がる風呂場に声が反響した

 

「お湯、ぬるくないですか?」

「大丈夫だ、ちょうどいいぞー」

「そうですか、良かったです。今度は私が見張っておきます(・・・・・・・・・・)から安心して下さいね、それでは」

 

去っていく足音。

 

やっぱり賢い。俺が結城リトを見張っていたのを気づいてたのか、まぁココで風呂に侵入してくる美柑じゃないし、ゆっくり身体を癒せるなー良かった良かった。

 

ガラッ

 

「ではお背中を流しますね」

 

キミたち(・・・・)ってやっぱり似てるよね。

 

開け放たれるドア、固まる俺。下ろした湿った髪が頬に張り付き、バスタオルで躰を隠し、しっとりと扇情的な仕草の美柑。そりゃそうだ、さっきまで風呂入ってたんだからまだちゃんと髪乾いてなくて、タオルから伸びる白い御御足(おみあし)がなんとも艶め(なま)かしい・・・イヤイヤそうじゃなくて、去っていったはずでは・・・

 

美柑の背後に金色の塊も見えた。二人一役。足音担当はヤミの方だったのか、そんなに恥ずかしいならこんな真似に手を貸すなよ、友達なら間違った時止めてやれ。あと間違ってもその刃で俺の命を止めるんじゃないぞ、いいな?ぜったい刺すんじゃないぞ?フリじゃないからな、違うからな?

 

その後はよく覚えていない。

ただ美柑もヤミも最後の方はバスタオルが意味を為していなかった事だけ記しておく。

 

 

トラブル2.「特撮大好き」

 

「天然系!発明アイテムで即座に解決!ララピーーンク!!」

「あ、あなたに、ち、力を…癒やしの光、は、春菜ホワイト…」

「小悪魔系、家族にしたいナンバーワン、美柑結婚しよう、いいですよお兄さん…ううん、これからは秋人、だね。子どもはたくさんほしいです、美柑イエロー」

「…暴力系破壊大好き金色ブラック…」

「ま、巻き込まれ系、ぱぱぱぱぱぱパンツに突っ込むり、リトピンクっ!」

 

「「「「五人そろってトラブル戦隊!無印原作をもう一度読むんジャー!!!!」」」」

「…暴力系とはどういうことですか?」

 

ババンとポーズを決める五人の戦士達。待て。イロイロおかしい。

 

「カアット!!きちんとポーズを決めろ!ララはイイ感じだ!グッド!春菜ッ!結城リトッ!お前らナメてんのか!?ヒーローが台詞どもってんじゃねえ!あと美柑は台詞が違う!『小悪魔系、アイス大好き美柑イエロー』だったろーが!黄色はいつも何か食ってるもんなんだよ!ヤミは声が小さい!ポーズをとれ!つったってんじゃねえ!」

 

監督兼、司令官たる俺がメガホンで怒鳴る

 

「そうだよー!みんなしっかりやろーよ!たのし~!!」

 

ぴょんぴょんはね飛びはしゃぐララピンク

 

「…だって、なんか春菜さんだけちゃんと名乗りがヒーローっぽくありませんか?不公平ですよ、お兄さん」

 

ジト目で睨むどこか肌ツヤの良い美柑イエロー

 

「は、恥ずかしい…癒やしの光って…お兄ちゃんのばか…みんなの前でこんな恥ずかしい台詞…」

 

赤くなって両手で顔を隠し俯く春菜ホワイト

 

「ぱぱぱぱぱぱパンツって!好きで転んでるわけじゃ!それにピンク二人居ますよ!?もうちょっとやるなら西連寺みたいな良い台詞かんがえてください!」

 

いつも好きで転んでるリトピンクは春菜のフォローにまわる、流石だな

 

「……破壊大好きとはどういうことですか?、アキト…」

 

背後に広がる漆黒の(ヤミ)は見てはいけない。後ろを振り返ったら負けだ。そう、信じた己の正義を愚直に突き進む姿にこそ少年少女たちは憧れてヒーロー達を応援するのだ。

 

「やり直しッ!キメポーズと名乗りがしっかりできないヒーローはヒーローじゃねえ!お前たちはヒーローだ!ヒーローになるのだ!」

黄色いメガホン片手にバシバシとテーブルを叩きながら戦士たちに檄を送る。そもそも何故こんなことをしているのか、それはララの"マジカルキョーコ"好きから「俺も戦隊ものとかみてたなーカッコイイよなアレ」「じゃあやろ!お兄ちゃん!」「やるか!俺監督やりたい!」

「うんうん!あたしはキョーコちゃんやりたい!」と盛り上がりその場の全員が巻き込まれた。湯上がりなのに軽い運動をして皆うっすら汗をかいている。(ヤミ以外)

 

春菜たちはララが作った"簡易ペケバッジ"でそれぞれの色の魔法少女風の衣装になっていた。(ヤミ以外)スカートが短くて胸元が強調されてるのは俺とララの趣味だ。全身タイツの戦隊ものでも良かったのだが折角だからララはともかく春菜が絶対着ないような衣装を見たかったのだ。けっしてセクハラじゃない。「せっセクハラじゃないんだかねっ!勘違いしないでよねっ!」ホラ、内なる【古手川唯】もそう叫んでいるようだ。

 

「…確かに私は暗殺者ですが、暴力や破壊が大好き…というワケでは無いのですよ、アキト…まぁ時とバアイによりますが…ちなみに今はそういう時とバアイのようですね…」

 

その後はよく覚えていない。

ただ起きたら春菜に膝枕をされながらララがせっせと包帯を巻いてくれていた。見上げた春菜は顔を青くして怯えていたことだけは記しておく。

 

 

トラブル3.「しりとり」

 

「『も』燃やして解決!マジカルキョーコ!『こ』だよ美柑!」

「ララさんマジカルキョーコホント好きだね、『こ』子ども、たくさんつくろうな、美柑。朝から…するの?もう…ダメ、夜までお預けだよ?『よ』だね、ヤミさんお願い」

「…美柑、それはモノの名前なのですか…?『よ』よっちゃんたい焼き。アキト、『き』です。」

「『き』だな、キス、『す』だぞ春菜」

「…っ!」

 

ほら言え春菜!今だ!結城リトに合法的に告白できるチャンス!

 

正義の軍団がブラックの反乱で崩壊してしまった俺達は大人しくしりとりに興じていた。地球のモノの名前が学べる上、皆が普段どんな事を考えてモノを見ているか分かる。延々やり続けて一番罰ゲームの"ララ特製ダークマター入りプリン"に近いのはララと春菜の二人。ララは発明アイテムの名前を叫んで「ん」をつけたり、同じモノの名前を言ったり、辛いもの縛りで甘いものを言ったり・・・今は縛りがないフリーだけど。春菜は俺が語尾に「ぷ」とか「ず」とかあまり思い浮かばないものを投げかけるため時間切れになってしまう。故にララと春菜の名前が書かれた紙にはバツが多数つけられていた。ヤミは意外にモノの名前を知っているし、美柑も同じ。次いで俺、意外なことに結城リトは春菜の次の順番だからなのかバツが無かった。

 

「き・・・キス・・・」

「違う、『す』だ、『す』だぞ春菜」

 

顔を赤くして口をパクパクとさせる春菜。何をしてるんだお前は…早く言

えっての。大丈夫だフォローしてやるから、

 

「き、す・・・」

 

何こっち見てんだよ、隣の結城リトも顔を赤くしている。想像してしまったらしい。相変わらず純情なヤツだな、とにかく急げ春菜、ストレートにいけ!

 

「春菜ー!あと10秒だよー!」

「きす・・・」

「春菜さん、もうあとがありませんよ、あと7秒」

「西連寺春菜、諦めずに頑張ってください、5・・・4・・」

「ほら、『す』だ春菜、はやくしろっての!」

「えっ!?『す』?!す、す・・」

「3・・2・・」

 

正確なカウントダウンを告げるヤミ

 

「スクール水着でエプロンなんて無理だよお兄ちゃん!!!ヘンな事させないでッツ!!!」

 

止まるカウントダウン。…さ、次は『で』だな。濁音は難しいよな

 

「そんな事をさせているのですか、アキト…妹、"家族"について語ったあの時の優しげな顔はフェイクだったと云うワケですか…」

 

ゆらり、とヤミさん

 

「水着でエプロン?楽しそう!ペケ!」

[zzZ・・・]

「寝ちゃってるね、ララさんエプロンはあっちにあるからやってみよ、あたしも着てみるね」

「・・・はっ!?美柑!やめろ!ララもそんな格好しなくていい!なんで引っ張るんだよ!!」

「リトに感想聞きたいもん!さ!いこっリト!」

 

想像してしまった結城リトは赤くなって意識がなくなっていたが、ララ達がムリヤリ意識を覚醒させたようだ。さ、次は『で』だぞ、結城リト、なにをしてるんだ。ヤミさんがカウントするぞ?

 

「…少しは貴方への評価を見直していたのですが…やはり猫に邪な笑みを浮かべるようなヘンタイ…迂闊な約束をしてしまったせいで排除出来ないことが悔やまれますね…」

「…してないからな、させてないからな、誤解だからな、そういうのが好きなヤツも居るって話をしただけだからな!」

 

ウソ。

 

「まぁ私には関係ありませんが…美柑も恋には押しと引きが大切と言ってましたし、ココは引きとやらにしましょうか…」

 

その後はよく覚えていない。

ただ二度目の彩南町は夜景だった。

目が覚めたら美柑とヤミに腕を取られて布団に入っていた。俺、結城リトと同じ部屋のはずだが結城リトはどこに…部屋の隅に人のような塊があったが暗くてよく見えない。なんだかそれはホラーな様子だった。怖いからもう見ないことにする。この恐怖を忘れないよう記しておく。

 

・・・こんなのどう対策練ろってんだ・・・

 

「だーれだ!」

 

疲れた背中に押し付けられる豊かな双丘。

 

「…ララ、隠すなら目だぞ、首を締めてどうすんだよ」

「エヘヘ~」

 

後ろから首に抱きつくララ、頬に桃色の髪とともに白い頬がよせられる。柔らかく女のコ特有の匂いが鼻を擽った。・・・・春菜とはまた違う匂いだな

 

「寝たんじゃないのか?」

「んーーん、お兄ちゃんが起きてるような気がして」

「なんだそりゃ、春菜は?」

「寝ちゃった。さっきまでお話してたんだけどね」

「ふーん、ま、夜更かしは美容の天敵だしな」

 

ララは頬ずりをして甘えてくる。スキンシップ好きだよな、そういえば風呂あがりにきっちり衣服を纏っていて結城リトは驚いていた。

 

『ララが風呂あがりにバスタオルじゃない…』

『当たり前だよーリト!お兄ちゃんが居るんだからー!ハズカシイよー!』

『は!?オレには良いのかよ!?』

『リトはリトだからヘイキだよ?』

『は?!イミわかんねーぞ!』

『リトは美柑に裸みせたいの?』

『!!そんなコトあるか!見せるか!』

『でしょー?それと同じだよ!』

 

首を捻る困惑の結城リト。俺は春菜の髪をタオル片手にドライヤーで乾かしてやっていた。最近の日課なのだ。なんとなくやってみたのだが、コレには俺がハマった。一度気まぐれに乾かしてやった後、毎度毎度風呂あがりにタオルで髪の水気を取り、チラチラと期待したように視線を投げる春菜がカワイ…いや、庇護欲を誘うというのか、まぁ兄だし、今日の夕飯も美味かったし、髪はシャンプーのいい匂いがするし、うなじとかも色っぽくて眼福だし、髪くらいはいいんじゃねーか?「か、勘違いしないでよねっ!べ、別にアンタの為じゃないんだからねっ!」っと内なる【古手川唯】もプリプリ怒りながら賛同しているし。

俺のされるがままに柔らかな黒髪がドライヤーの熱風に揺れる。春菜は結城リトとララのやり取りに薄く微笑み、苦笑いをしていた。分かるような気がする、と零していたがそうなのか?俺にはさっぱり分からないが…

 

「ね、お兄ちゃん何か悩んでる?」

「ん?なんだよいきなり」

「なんとなく、春菜も気にしてたよ?なんかヘンだって、」

「俺はよく春菜に変だ、おかしいって言われるぞ?」

「んー、そうじゃなくって」

 

首を傾げ頭がコツンとぶつかる

 

「…別にお前たちが気にすることじゃねーよ」

「そう?なんでも言ってね?」

 

ララは頬ずりを止め、唇を耳に近づけて囁く。

 

「今度は私がお兄ちゃんの力になるから」

 

愛くるしい唇が耳朶に触れる。俺は擽ったさに身を震わせた。

 

「…じゃあさ、ララ、他人の記憶を消すアイテムって作れないのか?」

「え?作れるよー?でもどうするの?」

 

ララは首にまわした腕を緩め横から顔を覗き込む。

 

「いや、なんか恥ずかしい失敗とかしたときにあると便利だろ?」

「あー、ナルホド!それが欲しいの?」

「ああ」

「うん!分かった!作ってあげるね!うーんと、アレがいるなー・・・材料をデビルークから取り寄せないといけないから、時間かかるケド・・・いい?」

「いーよ、それで、それよかいつまでくっついてんだよ」

「えへへ~もうチョット」

 

――――幸せそうに抱きしめ直したララには気づかなかった、この時が最愛の兄との最期の邂逅であったことを

 

 

35

 

 

日曜日。補習が終わり屋上へと向かう俺。補習、ホシュウである。日曜の休みに。金色(こんじき)さんの毎度の強襲のせいで小テストを受けられず、こうして休日だというのに彩南高校へやってきた。

 

「私はやはり君を識らないな」

「…なんだよいきなり」

 

休日だから天条院沙姫に付きまとわなくて良いのか凛も学校に顔を出していた。それで「話したいことがある」と言われウチへ帰らずに屋上へ向かっていたのだ。

 

「これを」

 

手渡される『私と沙姫様思い出アルバム№43』ペラペラとページを捲る。

次々と展開される【天条院沙姫】と【藤崎綾】と九条凛の三人で写っている写真。よくもまあ飽きないものだ。春の写真だろう、桜が背景に写っている。彩南高校に入学した時のものから旅行に行った様子の写真。寺社仏閣の前で和服姿の三人、青い空の下ビーチでの水着三人。巨大な肉を成敗した様子(焼き肉?)の三人。そして最後にはやや不機嫌な様子の【天条院沙姫】とおどろおどろしている【藤崎綾】、どこか照れている様子の九条凛が写っていた。春、夏、秋の写真ときて、最後にまた春。几帳面な凛らしくない写真の並べ方に違和感があった。

 

「その最後の写真には君と一緒に写っていた」

「は?映ってないけど?」

「・・消えてしまったんだ」

「?」

「君がこの世界の人間でないと理解した途端、全ての写真から君が消えた。尤も持っていたのは二枚しかなかったが…」

「…。」

「どうにも理解できなかった部分があったんだ。君の事はよく識っているんだ、性格や言葉遣い、態度・・・でもなぜだかそれを識る切っ掛けとなった出来事が思い浮かばない。でも君に関わると自分の持っている知識が間違いないと、そう判断させる。知識の裏付けとなるような行動を君が取る。だから錯覚してしまう、君は私が識っている"西連寺秋人"に間違いないと。」

 

俺は息を呑んで凛が続ける言葉を聞いた。凛の薄い唇が告げる、私達が識っていた"西連寺秋人"など、本当はこの世界のどこにも存在しない、と。

 

深く一つ息を吐く。激しい鼓動は少しも黙らなかった。

 

「じゃあ俺は…」

()は誰かにこちらへ呼ばれたのかもしれないな」

「誰かって誰だよ?」

 

苛つく不安定な気持ちをそのまま彼女にぶつける。

 

「…解っているのだろう?」

「!俺は…!俺の方がニセモノでホンモノが消えちまったのかもしれねえじゃねえか!!」

「それでも君は確かに此処に居て、西連寺春菜の兄なのだろう?」

「…。」

 

拳を握りしめ俯く。屋上の冷たい風が春菜と同じ黒髪を揺らす。

 

「春菜にとっては君が…君こそが本物の兄のはずだ。秋人(・・)

「…。」

「君には黙っていたが、春菜とは時々会っていたんだ。君を慕っているのがよく分かったよ、その絆は君が、秋人(・・)が繋いだものだ。他の誰かが作ったものではない。その絆がある限り君と春菜は確かに兄妹だ。西連寺秋人(・・・・・)

 

――――春菜にとっての兄が本当に"俺"だったら良い、といつしか思うようになっていた。ただのどこにでも居そうな清純ヒロインだし、活発なヒロインの対比だし、地味だし、なかなか自分から動かないし、世話がかかるし、料理の腕も上がってきたし、気の使い方がうまいし、照れるところがカワイイし、でも泣き虫なところが心配だし、、本当ならポケットに入れて持ち運びたいほど面倒なくらい気にかかる春菜だ。・・・・春菜はこう思っている俺がどう映るのだろうか、変わらず世話を焼いてくれるのだろうか、それとも出会った時のように別人をみてしまったような哀しい瞳を向けるのだろうか、・・・それともこれまで以上に絆を深めてくれるのだろうか――――。

 

「悩むことなんてありませんわよ!」

 

物思いに耽る俺を現実に引き戻す高飛車な声。顔をあげると天条院沙姫がいた。

 

「ホンモノだとかニセモノだとか下らないことですわ!それを判断するのは貴方ではありません!(わたくし)達自身ですわ!」

「流石は沙姫様!」

 

胸を反らす天条院沙姫と紙吹雪を撒く藤崎綾。

 

「まぁ、貴方のような小さい男では気持ちの切り替えなど出来無い事かもしれませんけど!」

「なんだと!」

「ですから(わたくし)達で手伝って差し上げますわ!ではそのままそこにバカ面で突っ立ってなさい」

 

ふん、と鼻を鳴らす天条院沙姫。

 

「誰がバカ面だ!」

 

不安定な心と怒りを天条院にぶつけてやろうとする俺

 

「こらこら、落ち着け」「沙姫様の好意を無にしてはいけませんよ」

 

凛と藤崎綾に両腕を取られ捕獲された宇宙人のように押さえつけられ膝立ちにされる。

 

「ではセバスチャン。お願い」

「かしこまりました。お嬢様」

 

俺のすぐ横に立ち頬に片手を当てもう片方で俺を指差す天条院。なんだよその勝ち誇った顔は

 

「写真の題は[異世界人の捕獲!天条院沙姫の華麗なる活躍の一ページ]ですわ!」

 

カシャ、とシャッターの落ちる音が響く。

 

緊張した様子だが笑顔の藤崎綾。勝利の笑みを浮かべる天条院沙姫、柔らかく、どこかはにかんだ笑みを浮かべる九条凛。間抜けな顔の俺。

でも、間抜けな顔のわりにはなんだか春菜と同じ優しい顔をしている・・・そう見えるような写真。いい写真だと思った、写真なんてわからないけど。この世界に来て初めて"俺"が認められた瞬間だった。

 

 

36

 

 

彩南町繁華街を歩く。時刻はお昼時でどこも混雑している、そして俺の腹も減っている。春菜はまだ部活だ、帰ったらメシはないし(たぶん)この辺りで何か食べようと思って歩いて出てきたのだ。

 

「あら?オニイサン、こんにちはおひさしぶりはじめまして」

「おや、籾岡さんちの里紗クンではないですか、こんにちはお久しぶり初めまして」

 

着崩した制服姿の籾岡里紗とばったり出会う。自分と同じく緑のネクタイ

(リボン)を外して第一ボタンも外している。会うのは二回目、ちゃんと会話するのは今回初めてだが。

 

「一杯やってかない?サービスするよ…?オニイサン、」

 

屈んで胸元を見せつけしっとりとした色気のある表情を浮かべる籾岡里紗

 

「ほーう、どんなサービスなんだろなー調べてみるとしようかなー」

 

厭らしい笑みをうかべながら手をわきわきとさせる俺

 

「そりゃ秘密♡箱開いてのお楽しみ~♡」

「へーえ、早速ここで開いてみようかな」

 

魅惑の女子高生へ片手を伸ばす、その手は柔らかく無粋な10本の指に絡み取られた。

 

「やん♪お客様、踊り子さんにお手を触れないように、黄色い線の内側までお下がり下さい♡」

「電車かオマエは」

 

お互い演技をやめ、軽く微笑みを交わし合う。

 

「オニイサンもしかしてランチまだっしょ?」

 

弾むように歌うように問いかける里紗

 

「よく分かったな、腹ペコだぞ。」

 

空腹を思い出しセールスを始めようとする妖艶な女子高生のお姉さまからわざと視線を逸らす

 

「あたしもまーだ、どこかにご一緒してくれるステキなオトコいないカナ~?」

 

流し目を送る籾岡里紗。片腕をとり、柔らかい膨らみを押し付けてくる。

 

「まったく、タカるなっての、ハンバーガーなら良いぞ」

 

あっさり降参し軍門に下る俺。少し悲しい気がする

 

「やたっ♪さっすがぁ~♪」

 

食事にありつくまでそうしているつもりなのか、腕を組んで街を歩く俺と籾岡里紗。

 

「それでオニイサンはブラコンな春菜とどんな感じなんですか?春菜は最近おっぱい2ミリ位大きくなってますよぉ?」

「マジか、是非俺も調べよう」

「オニイチャンのクセに悪いヤツめ~」

 

微笑う里紗とは気があった。特にセクハラ関連で。まったくズルい、いつかコイツのように調べてみたいもんだ。並んで里紗と繁華街を歩く。日曜だからか?混んでるな、こんな日に補習とかやるなよな、まぁそのおかげで気が晴れるようなこともあったけど。ニヤニヤと邪な微笑みを浮かべながら春菜の発育具合をこんこんと語る里紗。もちろんばっちり聞いている。なるほど、あの夜な夜なやってる変な体操は里紗が教えたのか。そんなに気にしなくても胸の大きさは丁度いいんじゃないか?お兄ちゃんはそう思いますよ。ファーストフード店に入り、列に並ぶ、その間やれ胸は感度が・・・いや柔らかさも・・おっぱいは柔らかいですよ?オニイサン、イヤイヤそうじゃなくてな・・・と熱い議論を交わす。「ハレンチな!そんな人前で迷惑行為やめなさい!」と内なる古手川唯がうるさい。まったく、呼んでないのに出てくるんじゃない。

 

「貴方達!聞いてるの!?学生の身分でハレンチな行為に浸りハレンチな言動をくりかえして!・・・・・いらっしゃいませ、お持ち帰りですか、此方で召し上がられますか・・・・なんで先輩がココに来たのよ…ぐっ・・・」

 

腕を組んで熱く語り合っていた俺たちの前に立つ謎の店員Kさん。いつの間にか順番がまわってきたようだ。

 

「「・・・スマイル一つ」」

 

同時に注文をだす俺と里紗

 

「ぐっ、そんなサービスありません!」

「無いのか、ふーん」「へー・・ウソっしょ?オニイサン、向こうの店員にも聞いてみましょうよーニシシ」

 

悪い笑みを浮かべる俺と里紗。

 

「ぐっ、い、いらっしゃいませ、ようこそエムドナルドへ」

 

目の据わった口の引きつった微笑みを浮かべる謎のツンデレ店員Kさん。

 

「ぷっ」「はい、よくできましたー、プッ」

「さ、最悪な客だわ…早く帰りなさいよ貴方達…」

 

わなわなと震える誰だか全く見当もつかないツンデレ店員Kさん

 

「客に帰れとは失礼な店員だな、てりやきバーガーセットで」

「もう一回スマイルください♪チーズバーガーセットお願いするねー」

「セットでこちらの激辛バーカ!!バーカ!!!激辛バーガー・・・は如何でしょうか?」

 

睨みつけ怒気を孕んだ営業を行うこてが・・店員Kさん。お前、今わざと間違えたろ

 

「いーらないっと、はじめましてだよね?コケ川ってあなたっしょ?」

「古手川よ!はい!てりやきとチーズのセット!さっさとお金払って食べずに出て行きなさい!あといつまでも腕を組んでるんじゃないわよ!ハレンチな!」

「あはは…ジョーダン通じなさそうなコだねぇー」

 

しっしと手を振る店員Kさんに追いやられ、店内に設けられた席へ向かう俺たち二人。こんな迷惑な客も最悪だが、彩南祭とクリスマスで少しは仲良くなったのに冷たいな、まだツン期なのかな、あ、でも俺毎回セクハラして台無しにしている気がするな、わざとじゃない、好きな子は苛めたくなるアレだ。湧き上がる衝動は抑えられないのだ。そう、そういうことにしておこう。

 

「なーんかイイ顔してますね?」

「ん?そうか?」

「ハイ、とっても」

 

里紗は満腹で気だるげにストローを丁寧に手入れがなされた指で弾く、突き刺さったストローはコップの縁をくるりとなぞった。

 

「いつもと変わんねーぞ?」

「そうッスかねー?…で?春菜にナニしたんですか?オニイサン♡」

紙コップの水滴を指でなぞり細い水路をつくる里紗

「ナニ?何もしてねーッスけど?里紗センパイ」

「またまたぁ♡春菜の最近のオニイチャンラブ祭りは大変な賑わいをみせてますケド?」

 

目を細めてこちらを覗き込む姿は悪戯好きのペルシャ猫のよう

 

「そうか、そりゃ是非参加したいな」

 

対面で頬杖をつきコーラを啜る。既に氷だけになったそれはズズッと虚しい音を立てるだけだった

 

「オニイサンは主要ゲストですケド?」

 

自分のアイスティーが入った紙コップを差し出す里紗

 

「マジでか、なら事務所通してくれ」

 

コーラを散らかるトレーに置き差し出されたソレへ手を伸ばすが虚しく空を切る

 

「ありゃ、事務所所属の売れっ子でしたか、事務員はもちろん私ですよねぇー?」

 

差し出したはずのアイスティーに刺さるストローを口に含みつつニヤリと口角を上げて微笑う、少しだけ噛んだストローにはルージュが薄く色をつけていた

 

「エロい事務員か・・・良いな、だがセクハラして女性職員手籠めにされるだろうな」

 

諦めて里紗の食べかけポテトを奪う、冷えて固くなった塩味が口に広がる

 

「やだなぁ~スキンシップスキンシップ♪あ、それよりララちぃのわがままボディはですね・・・」

 

再びアイスティーを差し出す里紗。今度は大丈夫なようだ。無事アイスティーの味が広がることを予感したが、期待は外れ、ズズッと虚しく音を立てるだけだった。

 

籾岡里紗とくだらない話を続ける。それは時はどんどん過ぎ去っていき夕暮れになって春菜から捜索願いのメールが里紗に着信するまで続いた。秋人はこんな楽な気分でこうして下らない話ができる事に感謝した。里紗と友達になれた気がするな、・・・・・セクハラ仲間だし・・・春菜に玄関で正座&お説教をされながら秋人はニヤニヤと昼の会話を思い出す。それが春菜の説教をますます長くすることを秋人は気づかなかった。

 

春菜の白百合の髪留めが明かりを反射し光る。秋人は帰ってきたばかりで赤い刺繍入りマフラーを巻いている。二人の絆が繋がっている、それは見えないながらも確かにそこに存在していた。秋人(・・)自身が繋いだ心の絆が、

 

――――なんだか最近は春菜に振り回されてばかりいるな

 

――――なんだか最近は秋人お兄ちゃんに振り回されてばかり・・・

 

同時に同じことを考えている西連寺兄妹のじゃれあいは今回も長くなりそうだった。

 




感想・評価をよろしくお願い致します。

(改定)
2015/10/11

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【 Subtitle 】

34 突撃!我が家のバスルーム

35 思春期戦隊!コクレンジャー!(例外有)

36 …しりとりってなんだっけ。

37 異物のアイデンティティ

38 「「ハレンチよっ!(笑)」」
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