ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
え~っと、突然ですが驚くべき報告をある方から教えていただきました。
なんと……この『ハデス様が一番!』が、本日2015/10/04午前の日間ランキングにおいて、一位になっていました!!

いや~、真面目に目を疑いましたよ(^^
まさか自分の作品が、一位をとるなんて思いもしませんでした。
これも様々な形での皆様の応援のお陰、本当に本当に大感謝です!!
もしかしたらもう一位なんてとれないかもしれませんが、この結果におごらぬよう精進し、作品を執筆していきたいと思う所存です。
改めて、皆様ありがとうございました!!


***


さて今回のエピソードは……言うならば新章の始まりという感じでしょうか?
原作にないシーンであると同時に、実は原作の「とあるイベント」の代替イベントでもあるんです。






第013話 ”モスポール・ヤードとフレッシュ・チーズ”

 

 

 

「うわぁ~……」

 

そのある意味において神殿に比肩し得る荘厳さに、ベルは思わず感嘆の声を漏らす。

 

ここはロキ・ファミリアの本拠地『黄昏の館』の中にある一室にしていくつかある武器庫の一つ。

通称【武器の安置室(モスポール・ヤード)】と呼ばれる部屋だ。

 

「ここ『黄昏の館』にはいくつか武器庫があるんだけどね……この【モスポール・ヤード】に収められてるのは、”もう現役で使われてない武器”ばかりなんだ。勿論、”使えない”わけじゃ……死蔵されてるわけじゃない」

 

そう語るのは、ここまでの案内役を自ら買って出た団長のフィン・ディムナ本人だった。

彼はどこか懐かしそうに、

 

「文字通りここの武器達は”状態保存(モスポール)”されててね。定期的にメンテはされてるが……ただ大半は、よほどのことがなければもう使われることはないだろうね。あくまで予備扱いさ」

 

ハデス・ファミリアの拠点の古民家一件が庭付きで丸まる収納できるほどの部屋の壁に床に所狭しと綺麗に収納されてる武器、防具それに装備。

フィンの言葉通り、古めかしい感じはするが状態は良い様だ。

少なくともそこいらの武器屋が裸足で逃げ出すほどの質と量と言っていいだろう。

 

「勿体無い話ですね」

 

ベルの素直すぎる言葉にフィンは思わず苦笑し、

 

「仕方ないさ。例えば、さ……うーん、そうだな。まさに今の君さ」

 

「僕ですか?」

 

きょとんとするベルにフィンはうんうんと頷き、

 

「例えば自分自身のアビリティ上昇によって、今の装備が合わなくなる。合わなくなった装備は普通はどうする?」

 

「下取りに出して新しい装備の購入資金の足しにします」

 

「そうだね。いい模範解答だ」

 

迷いのない返答に、フィンはベルの経済観念を上昇修正しつつ、

 

「だが、もし自分の思い入れのある装備が……苦楽を共にした相棒が、二束三文で買い叩かれようとしたら……ベル君ならどうする?」

 

「ああ、なるほど……そういうことですか」

 

フィンの言わんとすることをベルは理解した。

 

「そう。個人差はかなりあるけど、上へ昇れば冒険者はそれに応じて経済的に豊かになるのが普通さ。なら僅かな金より、同じファミリアの”次を担う者(こうはい)”たちのために残す……それもまた当然の帰結だろ?」

 

「それで溜まりに溜まった武器がこの倉庫に収められてるってわけですか……巨大ファミリアならではの懐の深さですね」

 

感心するベルに、

 

「ああ。当然、新人達にはここの装備は無償で貸し出されるけど……やがて彼らも遅かれ早かれ、”自分に見合う装備”を見つけるからね。無論、破損したり破棄される装備も決して少なくないけど……無事に役割を終えた装備は、またここに返却される。一番使ってるのはもしかしたらファミリアのメンテ班の新人達かもしれないね」

 

フィンは苦笑し、

 

「うちのファミリアではさ、いつまでもレンタル装備を使ってるのは『自分の装備を選ぶ力量も稼ぎもない半人前』って評価になるからね」

 

「かくて再び装備は蓄積される……ですか? 本当に贅沢な話だ」

 

「返す言葉もないな」

 

二人は顔を見合わせて笑いあう。

そんな少年二人(片方は似非だが)を見ていたお付のティオネ・ヒリュテは一言も発せず、ただハァハァと呼吸を荒げながら獣の目線で二人を……特にフィンを見ていた。

 

それはいいとして……フィンは片手をベルの肩に置き、空いたもう片方の腕を大きく広げると、

 

「さあベル・クラネル君、君が望む槍を好きなだけもっていきたまえ!」

 

と少し芝居がかった調子で促した。

 

「では遠慮なく持たせてもらいますよ? ”フィン団長”」

 

そのスタイルに合わせるようにベルは苦笑しながらおどけて応える。

 

「今更だが、君に団長と呼ばれるのも悪くない気がしてきたよ」

 

「引き抜きには応じませんからね?」

 

フィンはウィンクし、

 

「そんな必要ないさ。引き抜くなら君ではなくハデス様だろうから……ハデス様がロキ・ファミリアに来られれば、君は自動的について来るからね。きっとうちの主神ならそう考えるよ?」

 

「……洒落になってませんって。むしろ性質(タチ)の悪過ぎる冗談です」

 

するとフィン、何故かそっぽを向きながら……

 

「ベル君、世の中には『タチの悪い冗談ほど面白い。そしてその冗談を本当にやるともっと面白い』という斜め上の考え方をする存在がいてね……」

 

「さすが元悪神、北欧神話体系(エッダ・ミトス)きっての悪戯好き……半端じゃないですねぇ……」

 

誰のことか察しのついたベルはひどくげんなりしたようだったという。

 

 

 

フィンと更に親睦を深めたベルが最初に選んだのは、彼が愛用していたものによく似た片手槍(ショートスピアー)だった。

同じものを選ぶつもりはないだろうから、きっと基準として使うつもりなのだろう。

 

まずは形状がよく似た【ケルト槍(フラメア)】や【羽根付き槍(ウイングドスピアー)】、【古式騎兵槍(キシュトン)】を物色、そして新たな選択肢である【鉤鎌槍(マルドギール)】、【西洋鉾槍(ランデベヴェ)】、【燭台槍(キャンドルスティック)】、【鴎翼鉤槍(フリウリスピアー)】、【三日月槍(コルセスカ)】を選び出した。

都合九槍を両肩に担ぎ、加えて軽甲冑や自前の円形盾(アキレウス)を装備しているのにも関わらずベルの動きに重さは感じず、フィンのみならずティオネもそれに感心する。

 

(もしかして、見た目に反してパワー系なのかしら?)

 

少し親近感を覚えたヒリュテ姉であった。

 

 

 

***

 

 

 

九振りの槍を担いでベルが向かったのは……

 

「”ラッセルボック”くぅ~ん! 待ってたよぉ~っ!」

 

どこか犬の尻尾を思わせる様子でブンブンと手を振っていたのはヒリュテ姉妹の妹の方ことティオナで、

 

「ん。待ってた」

 

そしてこっちは最近、口下手キャラが崩壊気味のアイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 

さて二人が待っていたのは「公園のように広い」と評判の『黄昏の館』の中庭。

そう、ベルが始めて『黄昏の館』を訪れたとき、ダンジョン遠征を終えたばかりのファミリア冒険者が荷解きなどなどをしながら集っていた場所だ。

 

さて実はここにいたのは、ティオナとアイズの二人だけではない。

 

「「「「「「「「「う・ぬ・ぬ・ぬっ~~~~~っ……!!」」」」」」」」」

 

何故か中庭には、昨日と同程度のファミリア冒険者が集まっていたのだ。

ただし昨日の面子に比べて全体的に歳若で、なんとなくだがファミリの一員としても冒険者としても「慣れてない感」があった。

何より、

 

((((((((((あのウサギ男……ぜってーシバくっ!!)))))))))

 

特に男団員(ヤロー)を中心に見事なまでの嫉妬心に心が染まる「しっと団」っぷりだった。

まあ、ロキ・ファミリア女性団員人気ランキングの上位五人のうち二人に笑顔で迎えられるのは”部外者(よそもの)”、しかもよほどの有名人やトップランカーの冒険者ならともかく、まだ無名で見た目も華奢な”自分達と同じ”はずの『冒険者になったばかりのLv.1(かけだし)』なら余計に嫉妬に基づく敵愾心も沸こうというものであろう。

 

皆様は覚えてらっしゃるだろうか?

ベルは、「白兎を思わせる華奢で痩躯の体格から侮られ、いくつものファミリアから入団を門前払いされてる」という出来事があったことを。

何かと女性受けしやすい、顔立ちの整った……ぶっちゃけ現代日本ならアイドルで食ってけそうな可愛い系美形の女顔であるベルだが、「厳つく強そうな外観が武器になる」冒険者としてはマイナスなのだ。

正直言えば、「しっと団」どもはベルの「軟弱そう」で「女受けしそう」なルックスが二重の意味で気に入らない。

 

 

 

しかし、ジェラシー・オーラを隠そうともしない面々に対し、ベルは気にした様子もなく……むしろ煽るようにティオナやアイズと談笑(?)しながら、一本ずつ槍の石突きを地面に突き立て、最後の一本……扱いなれたそれと大して感触の変わらない片手槍(ショートスピアー)を右手に、遺産の盾(アキレウス)を左手に構えながらロキ・ファミリアの若手に向き直り、

 

「さあ、戦闘(くんれん)をはじめようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

さてさて、ベルが『黄昏の館』にて数十人はいそうなロキ・ファミリアのLv.1、中でも1年以内に冒険者になった駆け出し(ルーキー)と対峙しているのは、当然のように理由がある。

 

話は昨晩、宴会の後まで遡る……

 

フィンは「深夜だし、ちょっと二人を送ってくるよ」と言いつつ、実は『黄昏の館』と思ったよりも近所だったハデス・ファミリアの拠点、オラリオの北の外れにある一軒家へとエスコートした。

 

無論、「ちょっとハデス様やベル君とビジネスの話があるから」オーラを出していたためロキをはじめ余計な詮索をするものはいなかったが、護衛と称してついてきたティオネはともかく(デフォ)として、アイズとティオナまで付いてきたのはフィンにとっても意外だった。

 

「飲みなおしますか? 仕事の話をするにしてもリラックスしながらの方がいいですから」

 

家に招きいれ、リビングに案内したベルはそう言うなり人数分のグラスと酒瓶、そしてツマミなどを用意にかかる。

 

「ツマミはカッテージ/モッツァレラ/ リコッタのフレッシュチーズ三種盛りと、生ハムと鴨のテリーヌのカナッペとかでいいですか?」

 

「おかまいなく……と言うべきとこだが、実に悪くないね」

 

とはチーズ好きのフィン。

 

「あっ、鴨のテリーヌとか好きかも♪ もしかして自家製?」

 

そう嬉しそうに聞くティオネに、

 

「ううん。テリーヌは貰い物だけど、三種類のフレッシュチーズはベルくんの手作り、だよ?」

 

答えたのはハデスだった。

 

「うそっ!? チーズって自分で作れるもんなの?」

 

そう驚くティオナだったが、

 

「温度管理をしっかりすれば結構、簡単ですよ? 僕の場合は牧童とかもやってたから慣れてるってのもあるんですけどね」

 

「そうなんだぁ~」

 

「フレッシュチーズは食べごろが短いし、冷蔵してもそんなに保存が利かないから店で買うよりその都度自分で作ったほうがいいんですよ」

 

楽しげに語るベルだったが、

 

「ふ~ん……ところでラッセルボック君」

 

「はい?」

 

皿を並べるベルにティオナはにっこり微笑み、

 

「私にも敬語禁止ね?」

 

「なぜに!?」

 

「なんでも、よ♪ それともアイズはいいけど私は駄目だって言うのかなぁ~?」

 

「うっ……」

 

「もしそんなこと言い出したら、お姉さんそのあたりの理由を根掘り葉掘り聞いちゃうかもなぁ~」

 

「ああ、もうわかったわかった! ねえ、ティオナ……もしかして押しが強いとか、一度言い出したら聞かないとかって言われない?」

 

「しょっちゅう言われるわよ? さっそく私の性格を把握してくれたみたいで嬉しいわ♪」

 

「ごめんね、ベル君。うちの馬鹿妹が我侭言い出して」

 

謝罪するティオネにベルは苦笑しながら、

 

「いえ。確かに僕もざっくばらんのほうが話しやすいですから」

 

その表情は実に楽しげだった。

 

 

 

***

 

 

 

そんな二人のやり取りを微笑ましげに見ていたフィンだったが、ふとベルの持つ酒瓶の明るい琥珀色に気付いた。

 

「おや? もしかしてそれも林檎蒸留酒(カルヴァドス)かい?」

 

最初に気付いたのは、今朝ロキにベルが贈ったカルヴァドス【ポム・ド・イヴ】のおすそ分けを受けたフィンだ。

 

「あっ、フィンさんも飲まれたんですか? どうでした?」

 

その芳醇に林檎の芳香が残る強くて甘いアップル・ブランデーの味を思い出しながらフィンは、

 

「いいね。度数は強いけど林檎の香りのせいか甘めに感じる酒だから、食前酒としてもいいかもしれない」

 

「ちょっ、ねえ団長……その話、詳しく聞かせて欲しいなぁ~とか思うんだけど?」

 

どうやら旨い酒の話と結論に至ったティオナはジト目になるが、

 

「これティオナ!」

 

と姉のティオネに窘められる。

アイズは、「自分も焼き菓子をベルに貰ったこと」をここでは告白しないことが吉と判断したようだ。

 

「まあまあ、ティオナ」

 

敬語使いをやめた(諦めたとも言う)ベルは綺麗なデザインのガラス製の酒瓶をテーブルに置いて、

 

「【ブラー】。普段飲みの酒だけど、これだって十分旨いよ? 試しに先ずは一杯どう?」

 

ティオナのグラスにトクトクと注ぐ。ティオナはまずその香りを試し、

 

「あっ、ホントに微かに林檎の香りがする……」

 

そして徐に一口……

 

「はふぅ~♪」

 

その表情は実に幸せそうだったという。

 

 

 

***

 

 

 

さて……

カルヴァドスで軽くアルコールが回り、この一軒家まで歩くうちに冷めていた酔いが軽く戻って全員がリラックスした頃……

 

「なあ、ベル君……」

 

フィンはグラス片手にやおら真剣な顔になり、

 

「改めて確認するのもあれだけど、君は新米冒険者(ルーキー)だよね?」

 

「ええ、まあ。まだ冒険者になってまだ半月ほどですが……」

 

「……なっ!?」

 

どうやら誰もベルが冒険者になった時期を知らなかったのか、絶句したのはフィンだけではなかった。

いや、おそらくアイズは知っていたはずだが、伝え忘れたのかあるいは覚えてなかったのか……その表情からは判断できない。

ベルはベルで『そういえば話してなかったっけ。話題にも出なかったし』と呑気に思っていたが、

 

「やっぱり全然違うなぁ……」

 

そうぼやくように呟くフィン……

同行していた三人の娘も同意するように頷いていた。

 

「そりゃあフィンさんのとこ(ロキ・ファミリア)みたいに大手の新人と比べるなら、僕は見劣りするかもしれませんけど……」

 

内心、ちょっとムッとしながらそれを極力表に出さないようにベルは反論しようとするが、

 

「いや、そうじゃないんだ。むしろ逆なのさ」

 

フィンは頭を振り、

 

「ある側面において……いや、かなりの部分においてうちの(ロキ・)ファミリアの新人は、君に比べて『大きく劣る』んだよ」

 

「……どういうことですか?」

 

 

 

この後、ベルがフィンより聞かされたのは意外でもあり……同時に最大規模ファミリアならば、ある意味においては起きて当然の”事情”であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。

原作にないシーン……「『黄昏の館』にてベルくん、ロキ・ファミリアの新人と対峙するの巻」という感じの始まりでしたが、いかがだったでしょうか?

もうお気づきの読者様もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの先の数話は原作の「ベートの言葉に酒場を飛び出したベルが、ダンジョンで無茶な戦いをする」の代替イベントなんです。
なので伏線を回収しつつもなるべく原作と対照的、あるいは対極的になることを目指したので、こんな形になりました。

そして後半は、ヒリュテ妹が相変わらずの大活躍(笑)である意味、アイズと同じ立ち位置に立ったり、あるいはベルが牧童だった経験からチーズ作りが得意だったりと、細かい情報が出まくってましたね~(^^

次回はきっと「対峙の理由」が明らかになると思いますが、果たしてフィンの意図とは……?


***


前書きにも書きましたが、皆様、本当に「ハデス様が一番!」を応援してくださりありがとうございました!!
そして、どうかこれからも改めてよろしくお願いいたします。

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



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