ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今回のエピソードは……タイトル通りに対価と今回の依頼の舞台裏の話だったりします。
ただ、これもまた中々一筋縄にはいかないわけでして……(^^







第015話 ”白兎は対価に見合う槍を振るえるか?”

 

 

 

オラリオ最大手のファミリア、【ロキ・ファミリア】の団長、”フィン・ディムナ”はここ最近、とある問題に頭を痛めていた。

いわく、

 

『世間的には『過酷で厳しい』と評されるロキ・ファミリアの新人達は、いつの頃から『厳しい試練を乗り越え、晴れてロキ・ファミリアに入れた自分達は特別な存在(エリート)』だと思うようになったのです』

 

『同じLv.1(ルーキー)の中でも、他のファミリアのルーキーとは格が違うのが自分達だと……』

 

要約するとそんなとこだ。

だからこそ、フィンが白羽の矢を立てたベルへの依頼はいたってシンプルだった。

 

「フィンさん、できればこの予想は間違っていて欲しいんですけど……もしかして、僕に『高慢ちきな鼻っ柱を折らせる役割』を担わせたい……とか思ってません?」

 

「君の賢明さは評価と好意に値するよ」

 

 

 

しかしベルは告げる。自分は弱いと。

やれと言われればやらなくもないが、

 

「”目指したい場所”があるから……僕は簡単に負けられない。絶対に負けたくない」

 

兎のように弱い自分は、手加減できるほど強くもなければ賢くもない。

だから必然的に”真剣勝負(セメント)”となると。

 

「はははははっ! 大いに結構じゃないか!」

 

フィンは呵呵大笑する。

勇者(ブレイバー)”と呼ばれるに相応しい凄味と狡猾さと傲慢さを兼ね備えた笑みで。

 

「君には期待したいな……『ロキ・ファミリアなんてブランドネームを歯牙にもかけない、傲慢で冷酷で凶悪』な存在……新人達の越え難い壁となりうる”無慈悲なウサギ”の姿を、さ」

 

 

 

***

 

 

 

「驕りっていうのは怖いものでね。モンスターやダンジョンではちょっとした油断でも命取りになるってのに、それが自分の力を過大に評価した驕りともなれば……その致死率は跳ね上がる」

 

おどけたようにフィンは言うが、その内容は「跳ね上がった致死率」を目の当たりに人間のみがもつ深みがあった。

 

「それはダンジョンのみならず、地上……人間社会だって変わらないさ。例えば、自分のファミリアに愛着と誇りをもつのはいいけど、それが驕りに変わり意味も根拠もなく他のファミリアを見下すようになれば、問題は個人の問題を越えてファミリア同士の軋轢/対立に拡大しかねない。下手をすればファミリア間での殺し合いさ」

 

それを是正するためのベルへの依頼であり、だからこそ【ロキ・ファミリア】あるいはフィン・ディムナからの対価は、無茶な要求を自覚してるだけあって破格と言ってよかった。

 

「一つ。君の得意な槍だけじゃなく、冒険者に必要な装備全般を『黄昏の館』にある”使い手のない予備装備”の中から無償供与。無論、持ち出しの数的制限はつけない」

 

フィンはまず指を一本立てる。

もう既にこの時点で破格なような気もするが……

天下の名門ファミリアの装備庫ともなれば、その質も潤沢さもギルドの『初心者向け配給品』をはるかに凌駕すること請け合いだろう。

 

保有している本当のトップクラス装備ならわからないが、少なくともオラリオのギルドは「無名の新人にそれなりに値の張る良い装備」を貸し出すような気前のいい組織ではない。

同じエルフから「民族の汚点/汚物」呼ばわりされる守銭奴が頭を張ってるだけあって、どちらかと言えば”しぶちん”だ。

ベルはデフォルトでのギルド支給武器が、ナイフ一本だったことに呆れた記憶がある。

 

 

 

「一つ。ダンジョン攻略における情報、ノウハウの提供」

 

フィンの二本目の指……これもまた美味しい。

新人とベテランの違いは個人の能力だけではない。その経験……情報やノウハウの蓄積も桁違いだ。

数値化できるような能力は似たり寄ったりにも関わらず、新人とベテランでダンジョンでの致死率やクエストの成功率に雲泥の差が出るのは、そういった理由もある。

物凄く端的な例だが……同じモンスターが相手でも、初見と二度目以降では勝率が全く異なるのは誰でもわかることだ。

はっきり言えばこれは「値千金でありながら、そう簡単に金銭取引できない」類のアドヴァンテージだ。

 

確かに情報屋に金を払って攻略情報やモンスター情報は手に入るかもしれないが、実際の経験と研鑽を積んだ知識は、それを体験したものからしか手に入らないのは世の常である。

 

 

 

「最後は、そうだな……君が望むとき、【ロキ・ファミリア】の遠征に対する”優先参加権”とかはどうだい?」

 

もしかしたらこの三本目こそがある意味、最も破格なのかもしれない。

優先参加権とは言っているが、『ロキ・ファミリア側から言い出した』ということが重要なのだ。

これは実質的に”お誘い”の他ならない。

言うまでもなくロキ・ファミリアはオラリオ最高峰のファミリアであり、その遠征に”ロキ・ファミリアから”同行の勧誘や要請を行なうのは、実力や立場などを考えるとやはり同じ土俵に立てる大手ファミリアということになる。

具体例をあげれば鍛治屋(スミス)系ファミリアとして最大手の【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師が、依頼を受け同行するとかだ。

 

そう普通は、あるいは並大抵のファミリアにとってのロキ・ファミリアは、「一緒に連れて行ってください」と”頼まれる側”なのだ。

 

これを違う側面から見れば、ロキ・ファミリアから同行を頼まれる……「いつでも参加を歓迎する」と言われることは、そのまま『ファミリア自体の格付け(ステータス)』に反映される。

 

いかに良くも悪くも超有名神ハデスが主神だといっても、まだ結成されて半月程度のファミリアが『実質的にロキ・ファミリアから誘われる』のは異例を通り越して異常と言っていいだろう。

 

 

 

「フィンさん……まさか僕にいきなり51階層や”更にその先(未到達領域)”まで潜れと?」

 

「HA-HA-HA。それこそまさかさ。”今の君”にはそんなことは望まないさ。だから僕は言ったろ? 『君が望むとき』ってさ」

 

それは半ば確信めいた予言のようにもベルには聞こえた。

フィンは遠まわしにこう言ってるのだ。

 

『君はいずれ必ず、”僕達のいる場所”まで来ることになる』

 

と……

 

 

 

***

 

 

 

「まあ最初は、うちのLv.2(上級)冒険者あたりが集中強化訓練(ブートキャンプ)代わりにやってる中層あたりまでのお手軽クエストに、気が向いたときに参加してもらえればいいかな?」

 

フィンは含み笑いで、

 

「どうやらベル君には、上層で手助けはいらないようだしね?」

 

 

 

(見透かされてるなぁ~……それとも誘導されてるのかな?)

 

それがフィンの言葉を聞いたベルの率直な感想だった。

だが、悪い気分じゃなかった。

 

(単純な報酬じゃない。フィンさんは僕が欲しがってるものを確実に見極めてる……)

 

これが巨大ファミリアの長の経験に裏打ちされた洞察力の片鱗かとベルは舌を巻きたくなる。

 

(それに……)

 

ベルが視線を向けた先には、ただ彼を静かに見つめてる金色の瞳があった。

 

(ハデス様を守れるほどの力を得るためには、)

 

「もしかしたらそれが一番の早道なのかもしれない……」

 

ベルは右手を差し出しながら……

 

「フィン・ディムナ”団長”、その話お受けいたします」

 

フィンはその差し出された右手を強いグリップで握り返し、

 

「感謝するよ。ベル・クラネル君」

 

「僕はこの機会を最大限に生かし、『自分が強くなるため』にとことん利用しますから」

 

「かまわないさ。その方が利に適う。僕にとってもロキ・ファミリアにとっても、ね」

 

それは歴史の片隅にも残らない小さな出来事だろう。

だが、この二人の合意と友情はやがて、二つのファミリアの枠組みを超えた大きな意味を持つことになることは、人も神もまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

舞台は再びロキ・ファミリアの拠点、『黄昏の館』へと戻る。

 

 

 

「セラッ!」

 

”ギュルッ”

 

ベルは中心が分厚く淵に行くほど薄くなる典型的な円形盾の形状を生かし、相手の刃渡り1m半はありそうな”高地大剣(クレイモア)”を、正面から受けるのではなく一歩以上踏み込み、刀身の半分に近いところで斜めに合わせて盾の丸み(アール)を使い『刃を滑らせる』ことによって受け流した。

そして重量のある大剣の渾身の一撃を流されたことにより体制が崩れた相手……実はクレイモアと同じほどの背丈の女性だったのだが。

 

「よっと」

 

崩れ際に槍、現在使っているのは三本目の【羽根付き槍(ウイングド・スピアー)】だったが、その穂先突き出し少女の体制を立て直そうとしている足に絡めて派手に転倒させる。

ウイングド・スピアーは、その名の通り穂先の根本に槍が相手に深く突き刺さりすぎて抜けなくなるのを防止する為の”羽根を思わせる突起(歯止め)”が取り付けられており、穂先で突き刺すだけでなくこういう使い方には向いていた。

 

「きゃっ!?」

 

思ったよりも可愛い声だったが、

 

「倒れてもモンスターは攻撃をやめてくれませんよ? むしろ相手は狩り取る好機と捉えます。倒れたときこそフォローは大事です」

 

”ドズッ”

 

「ふぐっ!?」

 

流れるような動きで石突きをそのまま鳩尾へ落とす。

現代日本なら「リョナ」とか言われて敬遠されそう(一部のマニアには大うけだろうが)な光景ではあるが……

 

”ぷしゃあああ”

 

失神すると同時に盛大に失禁した女戦士の卵に、温厚な素顔に冷酷で無慈悲な仮面をつけた……ただ間違いなくこと戦闘ともなれば『獰猛さは本物』の白兎は目線で救護班(メディック)に片付けるように促しながら、

 

「ああ、言い忘れてましたがモンスターは究極の男女不区別主義(フェミニスト)でね。性別で攻撃を変えてはくれませんので、悪しからず。か弱い女性はモンスターにとって抵抗力の弱い獲物にすぎません」

 

 

 

対してアイズはいちいちベルの言うことに納得しているようだったが、理由はわからない……ということにしておくが、アマゾネス姉妹の妹のほう(あるいは平坦なほう)ことティオナ・ヒリュテは、うっとりしたように無慈悲な兎を見ていたという。

 

頬を赤らめ、脚の間に疼くような濡れた甘痒さを感じながら……

 

 

 

***

 

 

 

そして、そんな白兎の蛮行(せんとう)を階上のテラスから見下ろす存在があった。

 

「ほぉ~。やっとるなあ! ロキ・ファミリア名物『百人組み手』♪」

 

館の真なる主にしてファミリが主神のロキと、

 

「一つ聞きたいのだがな……いつから我らがファミリアは、そんな妖しげな名物を持つようになった? 私は聞いたことがないのだがな」

 

呆れを隠そうともしないジト目で見るのはファミリアの参謀役にして副団長のハイエルフ、リヴェリアだった。

 

「今や今! どんな名物かて最初はあるもんやさかいな」

 

その言葉の意味の深い部分を持ち前の叡智にて読み取ったリヴェリアは短く問う。

 

「……恒例にするつもりなのか?」

 

と。しかしロキは意味ありげに琥珀色の液体がなみなみと注がれたグラスを傾け、

 

「この林檎蒸留酒(カルヴァドス)、ベルやんの故郷の特産品なんやてなぁ~。さすがに神酒(ソーマ)と比べるんは殺生やけど……違う方向でホンマに旨いわ」

 

どうやら昨晩の夜、フィンだけ後酒を楽しんだことを知ったとたんに拗ねるロキを見越して、ベルとフィンは共謀し、昨晩出した【ブラー】とベルお手製の三種のフレッシュ・チーズを手土産に持参したらしい。

それは見事にロキたちが座るテーブルの上に広げられてるわけなのだが……

 

「チーズもファミリア(うち)の専属チーズ職人にしたいぐらいや。今回だけで終わらすのは惜しいとは思わへん?」

 

「さりとてロキよ……そのプランには致命的な欠点があるぞい」

 

とは同じテーブルでチーズとサラミとピクルスをここぞとばかりのっけてクラブハウス・サンドイッチの親戚のようになってしまったクラッカーを楽しんでいたガレスだ。

 

「なんやの?」

 

「今回はファミリアに入って一年以内の新米(ペーペー)に、世間の厳しさを死なん程度に身体へ叩き込むのが目的じゃろうが。どこぞの負け癖の付いた国家系(アレス)ファミリアじゃあるまいし、うちには百名も新米はおらんぞい?」

 

「せやな……」

 

ロキは腕を組み、

 

「ウチの予想やと、気絶しても水でもぶっかけて強制再起動、ローテーションで立ち向かわせる鬼仕様くらいはフィンならやるとは思ってんやたけど……」

 

ちらりとベルに視線を送る。

 

「こうもきっちり戦った相手の悉くを不殺(ころさず)のまま『戦闘不能』するとは思わへんかったな。ぶっちゃけ、フィンかてベルやんの強さは予想の範疇を少々超えてたんちゃうかな?」

 

実はこのロキの予想は当たっていた。

ベルと実際に会い話すうちに彼の実力を上方修正していたとは言え、基本となっているのは「ミノタウロスと正面から戦いアイズが駆けつけるまで生き残っていた”驚異的なLv.1”」という基準だ。

まさか昨日今日でそこから急速に基本アビリティが、「本来ではありえない上昇率で爆上げする」なんて、神ですらも予想できるわけはない。

ましてや神ではないフィンなら尚更だろう。

 

「ベルやん、フィンには『手加減でけるほど自分は強くないから真剣勝負(セメント)になる』言うとったらしいけど、蓋をあければこの有様や。きっとベルやんにとっては……」

 

ロキは意地の悪い笑みで、

 

「うちの新人は『予想以上に弱かった』ってとこやろな~。せやから『後遺症が残らんように手加減して、なおかつすぐに再戦でけへんように〆て勝てる』と判断した……そんなとこちゃうやろか?」

 

「なんとも不甲斐無い話だな……もっとも。それ以上に団員(しんいり)のトラウマを心配をせねばならぬかもしれないが」

 

そうリヴェリアはぼやくが、ロキは楽しげに笑う。

 

「この程度で心が折れるようだったら、いずれにせよロキ・ファミリアで冒険者としてやっていくんは叶わん夢や。ベルやんは、まだモンスターよりは優しくボコってるんやで?」

 

「それに関しては完全に同意じゃな」

 

うんうんと頷くガレスに、

 

「それにしても困りモンやな……確かに救護班(メディック)治癒術師(ヒーラー)にはいい訓練になるかもせーへんけど、肝心の新人達はもうすぐ終わってしまいそうや。な~んや不完全燃焼感があるな……」

 

「しかし、これで他のファミリアの新人を見下し侮るような不心得者は修正されただろう。つまり当初の目的は達成された……違うか?」

 

リヴェリアの言うことは正論(もっとも)だ。確かにごもっともなのだが……

 

「きっとウチはもっとベルやんの『本気』を引き出してみたいんやと思う。そっちのが面白そうやしな♪」

 

そしてロキは視線を”小さな背中”に向け、

 

「アンタはどないや? フィン」

 

一人テーブルに着かず、テラスに仁王立ちしながら成り行きを団長の顔で見つめていたフィンは、ただ静かに「危険を教えてくれる親指」を上に向けて立てる(サムズ・アップ)のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。

ロキ・ファミリアもしくはフィンが裏の意図付き(笑)で大盤振る舞いするエピソードはいかがだったでしょうか?

もうお察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はかなり今後のストーリーの流れやら伏線やらが含まれてたりします(^^

そして白兎が再び大暴れという回でもありましたが……ちょっと皆様の反応が心配になるくらい無慈悲キャラになってるような?(汗)
いや、あれできっちり手加減はしてるんですよ~。

そして最後に美味しいとこもってくのはロキとその幹部だったりして。

かなり原作乖離が進んでいますが、それを楽しんでもらえれば作者としては嬉しい限りです。

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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