ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今回は筆が進み、最近では珍しく連日投稿になりました。

さてさて、今回のエピソードは……地味にオリキャラなども出てきますが、基本的には盾と槍のお話となります。
そう、言ってしまえばベルの”相棒”にまつわるエピソードですね(^^

ではでは、スリングショット・ピアースとは一体何なんでしょう?




第016話 ”スリングショット・ピアース”

 

 

 

この戦い……『黄昏の館』で繰り広げられてる模擬戦で、「無慈悲で冷酷で傲慢な強者」という自分でも似合わないと思う役回りを担うことになったベル・クラネルは正直落胆していた。

というのも、

 

(手応えがない……)

 

そう、物足りないのだ。

ベルは自分が大好きだった祖父の形見、”受け継ぎし円形盾(アキレウス)”がチート性能だと知っていた。

見た目は古ぼけた直径58cmほどのセンターグリップ式の中型円形盾で、全金属製なのは少しは珍しいかもしれないが、形状は中央部が分厚く淵になるほど薄くなる円形盾の中では一般的なもの。

装飾と言えば表面になんらかの浮き彫り(レリーフ)はあるのだが、それも長い年月の間に削れてしまったのか、今は彫られていたものが文字なのか絵なのかも判別できない。

少なくとも見た目は中古品というより骨董品の領域で、もしかしたら本当に武具商より骨董商のほうが良い値をつけてくれるかもしれない。

 

しかし、この盾は見た目に反してベルが手の取ったその時から、”不壊属性(デュランダル)”と”状態異常無効化(オフィウクス)”という比較的有名な装備付与属性だが、それを持つものは滅多にいない稀少付与効果(レア・オプション)を発現させていた。

 

 

 

今までのベルの戦い方を見ていると判別できるが、ベルは「アキレウスの防御力にのみ依存」した戦い方はしていないが、「アキレウスを基点にした戦術」は多用する。

それは即ち「敵の攻撃を受け流しながらの多種多様なカウンター」だった。

 

実はベルが槍を武器にしている理由の一つが、この『盾の特性を最大限に生かして効果的なカウンターを放てる武器が槍系統の武器』だと判断したからだ。

片手剣だと間合いが不足し、その他の長間合いの武器では攻守使用時のバランスが悪かったり、汎用性が低かったり使い勝手が悪かったりという結論だった。

 

ただし、いまのアキレウスの性能では”壊れない”だけであって、その受けた衝撃はもろにベルの腕に伝わる。

つまりベルの力と耐久がLv.1として規格外だとしても、例えばミノタウロスと戦ったときに「盾の頑強さにまかせてまともに正面受けた」としたら、その時点で腕を骨折するどころじゃ済まなかったろう。

あの戦いではベルは自ら「跳ねる」ことで衝撃を相殺したが、その前段階としてアキレウスで受ける瞬間にはミノタウロスが全力を発揮できる”最高打点”をずらして打撃ベクトルを逸らし、その余剰威力を腕だけでなく全身のバネを連動させて吸収、更に後方に跳ぶことにより相殺していたのだ。

 

ベルは、ミノタウロスとタイマンを張ったあの時点でもそれだけのスキルが使えていた。

そして、ミノタウロス戦の後と宴会前に行われたアビリティ・チェックで合計上昇値で550近くも基本アビリティが上昇しているのだ。

 

そして相手をするのは、”Lv.2相当のモンスター”であるミノタウロスより弱い……いかに名門ロキ・ファミリアの冒険者といえど『冒険者になって1年未満のLv.1(しんじん)ばかり』なのだ。

冷静に考えればこの結果は必然と言えなくもないが……

 

(だけど……)

 

「脆い。脆すぎる」

 

それはつい口から出た言葉だったのだろう。

 

無論、ベルがそう漏らすのは無理もない話だ。

彼が冒険者になってまだ半月ばかり……対して冒険者になって1年未満ということは、冒険者全体としてはド新人でも、見方を変えれば最大でベルの24倍の冒険者としての経験がある筈なのだから。

 

 

 

しかし吐いた唾を再び飲み込めないのは世の摂理だ。

 

「このっ!!」

 

どうやらそれは対戦相手……小人族(パルゥム)の少年に丸聞こえだったらしい。

まあ確かに見た目は人間に例えるとフィンよりちょっと年下くらいの少年だが、成体がこんな感じの種族だけあって、もしかしたら成人してるのかもしれない。

 

ただ、なんとなく男の娘っぽいというか……華奢な印象がある。

金髪を長く伸ばして三つ編みにしていたり、体形や性別がわかりづらいパンツルックだったり顔立ちが幼いなりに整っていたりするので、余計にそう見えるのかもしれない。

 

(多分、この娘ってフィンさんよりは若いだろうなぁ……)

 

やっぱり勘違いしてた!? いや、それはさておき……

きっとフィンに憧れて入団したのだろう。

槍を主武器としてるあたりもそれを伺える。

言うまでもないが、その外見から半人前扱いされ侮られることの多い小人族において、膨大な戦闘力と卓越した指導力、なにより優秀な頭脳をもって最大手ファミリアの団長として君臨する”フィン・ディムナ”は自分達種族の出世頭であって、同時に”外”で一旗あげたい野心あるいは向上心をもった若い小人族にとっては、男女やその中間を問わず憧れの的であった。

故に他のファミリアと比べてもロキ・ファミリアに入団を希望する小人族は多く、また全団員に占める小人族の比率もやや高めだ。

 

余談ながら他に小人族が活躍するとなれば、真っ先に挙がるのが【フレイヤ・ファミリア】の『炎金の四戦士(ブリンガル)』こと”ガリバー兄弟”であろうが、かのファミリアは色々と”特殊”過ぎて一般的な入団希望ファミリアに入るか微妙だったりする。

 

 

 

***

 

 

 

話は戻して……

ベルが男の娘っぽい少年を若いと評したのは理由がある。

なんせ「脆い。脆すぎる」というベルの呟き(ツィート)がよほど癇に障った……ファミリアを侮られたと思ったのか、あるいは小人族だからと侮られたと考えたのか、あるいはその両方かはわからないが……明らかに怒りを推進剤にして突っ込んでくる。

 

無論、少年に勝算がないわけじゃないだろう。

少年が両手に持ってるのは身長の倍ほどある”長柄槍(ロング・スピアー)”であり、対してベルの今のエモノは2m程度の”古式騎兵槍(キシュトン)”だった。

ロング・スピアーはキシュトンと同じような年代の武器を言うなら槍兵用の古式長槍(サリッサ)に該当する長さを持ち、キシュトンは古式騎兵槍の名の通り馬上で取り扱うために槍としてはやや短めに入る(ただし馬上槍としては眺めの部類)。

 

片手で手綱を握り片手で槍を扱うための”必然的な短さ”ではあるのだが、キシュトンは本来は騎兵の機動力や突破力があってこそ威力が十全に生かされる槍であるため、もし少年が戦い方を間違わなければ、ベルの”間合いの外(アウトレンジ)”から一方的に攻める事ができたはずだ。

しかし……

 

「”ミシェル・バルカ”、推して参るっ!」

 

「シッ!」

 

”ビュッ!”

 

二振りの槍が交差し、

 

「えっ?」

 

”ゴッ!”

 

当たったのは……ベルの槍だけだった。

 

 

 

男の娘……もとい。ミシェルの放った槍の穂先は、ベルの鼻先……拳二つほど先でとまっており、

 

「かはっ!?」

 

対してミシェルの喉元(首の付け根)には、尖端が潰されたキシュトンの穂先がめり込んでいた……

喀血し崩れ落ちるミシェルは暗くなる視界の中で、ふと天啓のように閃くものがあった。

 

(そっか手加減されちゃったんだ……)

 

彼女、いや彼は気付いてしまった。

自分は間違いなく殺気を込めて……他の”挑戦者”たちと同じく「殺す気」で槍を放った。

しかし、彼は他の挑戦者達同様にいとも容易く自分を退けた。

あと数センチ上にずらせばそこは喉笛(喉仏)であり、練習用の槍といえどこの勢いなら一撃で喉仏を潰し自分を即死に追い込めたろう。

 

(相手にもされてなかったんだ……)

 

殺そうとした……本物の殺気を放つ自分に対して、ベルは「殺す価値もない程度の力」と断じてみせた……それがミシェルの結論だった。

 

(くやしいよぉ……)

 

それが意識を失う前、ミシェルが最後に感じた感情だった。

 

 

 

***

 

 

 

さて長いはずのミシェルの槍が当たらず、対して短いはずのベルの槍がなぜ当たったのか?

別にベルが魔法を使ったわけでも、特殊な武術や体術を使ったわけではない。

まず二人の大きな違いは、「槍の持ち方」にあった。

ミシェルがベルより一回り小さな身体とそれに見合った筋力なのにも関わらず長いエモノを振り回すために槍を両手で持っていたのに対し、ベルは利き手である右手の方手持ちだ。

ミシェルとベルは同じ右利きなのだが……

まず一つ、槍の持ち方に対する追加情報を書いておこう。

槍を問わず長柄の武器を両手で使う場合、本来なら利き手が前後どちらにしようと自由なのだが、基本的には「槍使いの利き手を後手(うしろで)にすると良い」と言われている。

理由は単純明快で、後手は槍の主たる操作法である「突きや払い」等の際に非常に要となる場所ゆえに、力を入れやすく操作もし易い利き手を当てるのは理に適っている。

槍術の基本は「槍の操作は後手で行い、先手は保持や補助をメインとする」なのだ。

基本的に真面目な性格のミシェルは、その基本を忠実に守っていた。

 

では、次にもし暇があるなら少しばかり検証してみるのはどうだろう?

身近にある長い棒状のもの……例えば釣竿や物干し竿を、無ければエア槍(イメージ)で全然かまわないが、後手を利き腕に先手を利き手の反対側で握り、突き出してみよう。

そして次に両手では後手だった位置、持ちにくかったら先手と後手の中間の位置を利き手の片手で持ち、それを同じように突き出してみよう。

できるなら、踏み込む足は利き手と同じ側の脚にした方がよりわかりやすい。

 

さて、どちらが遠くまで先端が延びただろうか?

 

 

 

種を明かせば簡単な話で、人間の構造上、利き手が後手の両手持ちより利き手の片手持ちの方がずっと長くリーチが稼げるのだ。

しかもベルは、『手の平の上で槍の柄を滑走させて放った』のだった。

右足の震脚ばりのつよい踏み込みで起きた反発力を膝→腰→上半身→腕と回転運動に変換しながら伝達/加速、最後はフェンシングの突きのようなフォームからキシュトンを振り出すと同時に石弓やカタパルトのように手の平で槍を滑らせたのだった。

そう、槍の穂先がミシェルの喉元を捉える瞬間、ベルはほぼ反対側の端である石突の部分を握って一突きを極めたのだ。

 

実は手の平で槍を滑らせる突き方は流派によっては”()り突き”と呼ばれ、現実に存在する。

無論、片手突きもだ。

 

ただ、この二つを合わせて使う者はあまり……いや、ほとんどいないだろう。

繰り突きも片手突きも槍の保持力や安定性を犠牲にしてリーチを伸ばすやり方であり、この二つを組み合わせるということは、極端に槍の操作が難しくなる上に外れた場合の隙が大きい……まさに一か八かの”奇襲技”を放つ事と同義なのだ。

もし、ベルがもっと中二(ヒーロー)寄りの考え方をする少年だったら、きっとこう技名を呟くだろう。

 

『クラネル式三槍技の一つ、【スリングショット・ピアース】』

 

と……

そう、その性質や欠点から使いどころが難しいこの技……【滑飛射貫槍(スリングショット・ピアース)】は、一つの目標に対して刺突三撃全てを当てる”三撃一点(スマッシュ)”、三つの異なる目標に一撃づつ当てる”三撃分刺(バラージ)”の二つの顔を持つ極め技【三段突き(トリプル・バースト)】に並ぶベルの得意技だったのだ。

 

正確には、遠間合いに対応できる飛び道具や魔法を持たないベルにとっては、この奇襲技であると同時に「槍という長柄武器の持つ最大射程」を引き出せるこの技は、必然的に得意とせざるえなかったというべきだろう。

 

蛇足ながらスリングショットとは”西洋弾弓”のことで、ぶっちゃけてしまえば”超強化パチンコ”であるのだが……おもちゃ屋で変えるようなパチンコと違い、専門店で取り扱うような本格的なモデルは小鳥や野うさぎ、小型害獣程度なら狩れる威力がある。

この世界でも子供用の玩具だけでなく狩猟用に持ち歩く人間も少なくない。

モンスターや武装した人間相手には威力不足は否めないため、オラリオではあまり見ることはないが、きっとベルも故郷(ハリス村)ではよく使ってたのではないのだろうか?

多分だが、ベルはスリングショットの弦を身体に弾き出される金属球弾を槍にそれぞれ見立ててこの技を編み出したのかもしれない。

 

 

 

***

 

 

 

そしてミシェルが倒れたことにより、30人はいただろう入団1年以内のLv.1(しんじん)冒険者達は壊滅した。

ベルが使用した槍は最初の片手槍(ショート・スピアー)に始まり【ケルト槍(フラメア)】から【羽根付き槍(ウイングド・スピアー)】へと続き、今手に持つ【古式騎兵槍(キシュトン)】まで含めて都合四本。

結局、基本は同系の……強いて言うなら”古典的な槍(オールド・ファッション)”の四振りで終わってしまい、槍として武器としてより進化したあるいは深化した【西洋鉾槍(ランデベヴェ)】など残る五槍は結局、使われることは無かった。

 

だが、それでよかったと今のベルは考えていた。

尖端が丸められ刃が潰され武器としては既に死んでるとはいえ、形状や重さが慣れてないだけに加減が難しい。

思った以上に殺傷力が上がり、ロキ・ファミリアの団員に回復不能な怪我を負わせたりましてや死なせたりしたら目も当てられない。

 

 

 

「フィン、入団して三年未満のLv.1を集めたらどないや? 中々芽出ぇへんで燻っとる連中にもエエ刺激になるやろし」

 

「そうですね……」

 

ただし、それは彼らの心情を考えれば、メリット/デメリットを天秤にかけた上でかなり面倒なことになりそうなのだが……

 

だがその時、それを一発で解決する声が庭から聞こえてきたのだった。

 

「ねえねえ、ラッセルボック君♪……次は私と、シよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。

正直、今回のエピソードはベルと盾と槍の話を書いてたら出来上がってしまったという感じで、皆様に面白いと感じてもらえるようなものだったか正直、自信はなかったりします(^^

ただ、原作のナイフと全く違う”ベルの相棒達”を一度は掘り下げてみたかったのも、また本音なので困り者です(苦笑)

実はオリキャラ男の娘(?)のミシェル君は、戴いたとあるご感想からインスピレーションを得たキャラで、今回は残念ながら「やられ役」の「ロキ・ファミリアのモブではなく名前や顔のあるLv.1(ルーキー)」という立ち位置から視点を変えて書いてみたくて生まれたキャラだったりします。
彼(彼女?)の再登場は果たしてあるのか?(えっ?)

そしてサブタイの謎は、明らかになった「三段突き(トリプル・バースト)に続く、”ベルの第二の槍技”」というオチでした(^^
それにしてもこのシリーズのベルくんの技は、あんまファンタジーっぽくないような?

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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