皆様、こんばんわ。
連休の最終日をいかがお過ごしですか?
ボストークは用事の合間に時間を無理やりねじ込み執筆しとりました(^^
さて、今回のエピソードは……いよいよティオナとのガチ戦です。
はっきり言います。今のベルにとってティオナは「巨大すぎる壁」です。
普通に考えれば勝ち目はありません。
ですが……ベルくんは果たして、いろんな意味で男を見せられるのか?
「ねえねえ、ラッセルボック君♪……次は私と、シよ?」
最後の新人だったミシェルを倒した後、そう言い出したのはティオナだった。
頬を上気させ、ハァハァと少し吐息が荒い。
何より僕が印象を強く感じたのは、ティオナの瞳だった。
ティオナの瞳は熱があるように潤み、焦点が合ってるかわからないほど眼光が濁っていた。
僕……ベル・クラネルは、なんとなくこんな感じの女の子に見覚えがあった。
そう、お爺ちゃんのとこに遊びに来た女性が、時々こんな感じになってたと思う。
(気が付いたら童貞を奪われてたときも、たしかこんな感じだったっけ……)
そう、運悪くバッティングしてしまい「お爺ちゃんの夜のお相手」からあぶれた娘にこんな感じで迫られた気がする。
だから僕はつい聞いてしまった。
「ティオナ……もしかして欲情してる?」
「うん♪」
どうしよう? 笑顔で肯定されてしまった。
「ねぇ……見てよ?」
ティオナがパレオ・スカートの合わせを開いた。
(うわぁ……)
ティオナの
(ティオナって縞パン派だったんだ……)
僕は妙なとこに感心してしまう。
シンプルな、あるいは定番の青と白のストライブ……正直、ティオナだったらもっと派手な、もしくは過激なのをはいてると思ったけど意外に清楚だった。
(もしかしてこう感じること自体、アマゾネスって種族への偏見かな?)
それはともかく、
「ティオナ」
「ん?」
「可愛い」
「……馬鹿」
”とぷっ”
あっ、脈打つように動いて押し出された液体が太ももを伝って零れた……
それはとても妖艶な光景で、僕は一匹の雄としてティオナに惹かれつつあることを自覚してしまった。
「ラッセルボック君、私を鎮めてよ……君じゃないと、きっと鎮められないんだよ」
ならば僕の答えは一つしかない。
「いいよ。でも、”どっち”で?」
ティオナは言葉よりも行動で応えてくれた。
それはとても彼女らしい行動で、
「勿論、”こっち”でよ」
そうティオナは、僕が倒した誰かが残していった重量級武器の
「わかった。でも、エモノはそれでいいの?」
「あら? 心配してくれるの?」
ああ。勿論、心配だよ。
試しにティオナは二、三度軽く振ってみるけど、大型重量武器のハルバートが小枝くらいの重さに見えないから不思議だ。
「そんな”華奢”なエモノじゃあきっと、ティオナのパワーを支えきれないから」
「そうかもね。でもさすがに練習用とはいえ”
冷静に考えればその通り。
ティオナは確かLv.5だったから、今の僕と比べたら実力は雲泥の差があるだろう。
(より勝負を面白くするため……かな?)
「ならば遠慮なく。ちょうど体が温まったとこだったし」
僕は使わないと思っていた”より進化した槍”の五本の中から【
キャンドル・スティックは斬ることを考えずにただ貫くことを目的としたやや短めな円錐型の穂先と、敵の穂先や刃を押さえる為の円形の
名前の通り、確かに燭台に雰囲気がよく似ている。
「じゃあ、私も君も熱が
「ああ。そうだね……」
僕は槍と盾を構え、
「ベル・クラネル、推して参る……!!」
「ラッセルボック君、いざ尋常に勝負!」
***
”ガ、ギィーーーン……!!”
二つの武器が交錯したとき、
「「えっ?」」
二人の目の前で信じられないことが起きる。
”バキョッ!!”
そう、二人のエモノ……ハルバートとキャンドル・スティックが”同時に壊れた”のだ。
何が起きたか記しておきたい。
片手で軽々と振り上げられたティオナのハルバートにベルが
(ここっ!)
”ダンッ!”
その一瞬、ベルは驚いたモーションを見せた。
ティオナがハルバートを振り下ろす瞬間、ベルは
また防御すると見せかけるために盾ごと前に出していた左腕を一気に後方に引く。
引いた左腕の役割は、上半身ごと大きく回転させて槍を持つ右腕を前へ突き出すための『カウンター・ウエイト』だ。
そう、ベルは送り足→震脚という左右の足を使って得た速度と反発力を膝、腰を伝播させてその部位の筋肉運動を相乗させながら回転運動に変換し、更に先ほどの『左上を引いてカウンター・ウエイトとして得た上半身の捻りこみ回転』を合成させる。
上半身と下半身の別々の動きを連動させ全身の筋肉を相乗し、その全てを合成したベクトルは右肩→左肘→左手首と伝播させながら最終加速を行い、最後に槍の穂先に収束させる……
連射性/速射製を最大限に引き出す【
その技の名を、
(クラネル式三槍技、三の型……)
「【
意表を突いた槍の”最速/最大威力のカウンター”を、いつものティオナのエモノでないゆえに「壊せる」ハルバートの斧穂先と木製の柄の接合部を狙って繰り出したのだ。
カウンターでしかも本人でなく武器を狙う……言うなればベルの渾身の奇襲技であった。
その読みは当たり、振り下ろされたハルバートが十分な加速をする前にキャンドル・スティックの円錐の穂先は接合部を捉えた! のだが……
しかし、ベルにとって予想外だったのは、放った貫突は確かにハルバートの柄を穿ち折ったのだが、同時にまだハルバートがトップスピードに乗っていなかったというのにキャンドル・スティックは圧力に耐え切れずに一瞬で圧し折れたのだった。
(これは予想以上のパワーだよ……)
ベルは素直に驚愕した。
そして戦慄する。
(両方の武器が壊れることで衝撃を吸収/分散しなかったら、きっと今頃は僕の腕の骨がああなっていたかもね……)
「ねえ、ティオナ」
ベルは穂先の根本からポッキリと折られたキャンドル・スティックを見ながら、
「やっぱりウルガを使ったほうがいいよ。僕は『槍をティオナに折られた』けど『ティオナは自分の力で折った』んだし」
それでも一合打ち合うだけで互いの武器が壊れたのでは話にならない。
それは自分が有利/不利を言い出す以前の話だとベルは判断する。
「ふふん♪ その私の力を逆手にとり『高速カウンターでの武器破壊』を狙っておいてよく言うよね~。まさか本当に壊されるとは思ってなかったけどネ♪」
ティオナは嬉しそうな笑みと共にポイッと壊れてただの棒になってしまった元ハルバートを捨てて、
「でも、私もお言葉に甘えさせてもらうね♪」
と予め用意していたらしい練習用に刃を潰したウルガを迷い無く手に取った。
武器を破壊されたことにより、どうやらティオナはベルの戦闘力を上方修正したようだ。
ベルにとってはありがたくない話だろうが。
「お願いだから、あっさり終わらないでね?」
「ああ」
ベルは同じくキャンドル・スティックの残骸を捨て、
「心得てるよ」
残り四本の槍の一つ【
***
(ウルガ相手に武器破壊は無意味。力負けしてる僕の槍が壊されるだけだ……)
ティオナ愛用のエモノ”
分類は刀剣でも、大きさは完全にいわゆる”長柄の武器”の領域であり、特にその大重量は大抵の長柄のエモノを上回るだろう。
まさに「それは刀剣と呼ぶにはあまりに大きく重かった……」という世界だ。
オマケに刃を潰した練習用とは言っているが、元は今【ゴブニュ・ファミリア】に修理に出してる現役モデルの一つ前の”相棒”で、「刃が死んでもう使い物になんねぇな……」とファミリア主神の”鍛治神ゴブニュ”ご本尊自身直々に引導を渡され、練習用に回したものだ。
斬れないとはいえ全金属ボディの重量や硬さは健在で、これに大重量武器を軽々と振り回すティオナのパワーが加わればロング・メイスをはるかに凌駕する打撃武器の出来上がりだろう。
(そもそも槍で壊せるようなエモノじゃないか……)
ハルバートが壊せたのは斧穂先が分厚く重い金属性でも、柄自体は木製だったからだ。
全金属のウルガはどこをとってもそんな強度のウィークポイントはない。
「なら、オーソドックス・スタイルでやるしかないよね?」
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”ゴォォォン!”
「ぐっ!?」
そのティオナの一撃は、ベルの想像を遥かに凌ぐ重さをもってベルに襲い掛かった!
「さすが”
一気に数mは”吹っ飛ばされ”たベルは苦笑しながら、
「別に跳ねたくて跳ねたわけじゃないんだけどね。単にティオナの
基本はミノタウロス戦と同じだ。
不壊の”
だが、ミノタウロス戦と明らかに違うところがあった……
(なんて威力だ……まだ左腕が痺れてる)
そう……ティオナの一太刀は、後ろに跳ねてなおダメージをベルの身体に遺していたのだ。
驚くべきことに、ティオナの残撃は体重も体格も、本来の生物学的な筋肉量も人間とは比較にならないほど大きなミノタウロスの一撃の数段上を行く威力を誇っていたのだ。
繰り返すが、ベルのアキレウスは壊れないだけで衝撃を吸収してはくれない。
であるならば、
(長引かせれば僕の絶対不利……)
「まだまだいくよーーーっ♪」
”ギィン! ガインッ! ゴォン!”
そう。ティオナは攻撃の手を緩めない。ベルのダメージが回復するまで待つ理由が無い。
そしてその一撃を盾で防ぐたびにベルの左腕のダメージは蓄積されてゆく。
未だ戦闘不能になる致命傷に至ってないだけベルを誉めるべきかもしれないが……
(遠からずそうなるよね)
「反撃温いよ? 何やってるの? 私をがっかりさせないで!」
そう、ミノタウロス戦の時とのもう一つの大きな違いは、ティオナの斬撃の威力と速度が高すぎて、満足な反撃が出来ないことだった。
ミノタウロスと戦ったときは、跳躍すると同時に権勢の意味をこめた【
しかも自分の意思で踏み切り跳んでいるのではなく、半ば威力を殺しきれず弾かれているので威力も速度も槍に乗りきらない。
無論、そんな拍子抜けの穂先がティオナの柔肌を傷つけられるわけはない。
「だったら、少しは反撃の機会をくれてもいいと思うんだけど?」
と軽口を叩いてみるが、正直そんな余裕はベルにはない。
「あら? 君はそんな手加減されて嬉しいの?」
だが、残念ながらベルは男の子、そして一端の”漢”を目指す者だ。
意地や見栄を貫けないで、一体何を貫こうというのだろうか?
「まさか。言ってみただけだよ」
”ゴワァン!”
左腕の痺れがそろそろ鈍痛に変わってきたことに顔をしかめながら、それでもティオナの一太刀を利用して後方に跳び、間合いを取る。
「このままじゃあジリ貧だよ?」
「わかってるさ」
(これがLv.5の実力か……)
「我ながら無謀だったかな?」
そうベルは苦笑するが、
「へぇ……やっぱりラッセルボック君は凄いよ。それだけ痛めつけられてまだ笑えるんだから」
そう感心するティオナだが、視線に少し疑念の色が浮かび……
「……まさか、マゾってオチは無いよね?」
色々と台無しだった。
「あのね……なんで視線が疑わしげなのかはあえて追求しないけど、僕はどちらかと言えばサドだと思うよ?」
「それは意外ね?」
「見た目に騙されちゃいけないってことだよ」
二人は顔を見合わせて笑いあう。
笑いあいながら、互いの武器を構えなおし……
「ダメージは回復した?」
「そこそこね。戦いの最中なのに、気を使わせちゃってごめんね」
ティオナにはそれがベルの強がりなのはわかっていた。
いくらチート盾を持っていたとしても、手応えから考えてベルが追ってるダメージはこんな短期間で回復するようなものじゃなかったはずだ。
だから彼女は小さく首を横に振り、
「いいよ。私がもっと君と戦いたいだけだから」
その微笑がなんだか優しくて、だからベルはつい正直すぎる言葉を漏らしてしまう。
「きっとティオナみたいな娘を”いい女”って言うんだろうなぁ……」
”カッ”
ティオナは自分の頬が急速に熱を帯びるのを感じた。
脚の間を濡らす感覚とまた別の”感情”……
(どうしよう……)
ティオナはなんとなく気付いてしまった。
それはまだ淡いものだったけど、
「どうしよう……ラッセルボック君……」
「えっ?」
「私、どうやら君のこと、本気で欲しくなっちゃったみたい……」
皆様、ご愛読ありがとうございました。
というか、しょっぱなからベルきゅんがある種のフラグ立てまくってましたなぁ~(^^
これもお爺さんの”英才教育(笑)”の賜物でしょうか?
あくまでこのシリーズの中でですが、ベルとティオナはひどくフィーリングが合うようです。
今更ですが、今回のサブタイはベルが出したカウンター、トリプル・バーストとスリングショット・ピアースに続く第三の技【フラッシュ・ブローバック】のことだったんですね。
これで今のベルが使える”必殺技(と呼ぶには派手さが無いですが……)”は打ち止め、これを放ってもハルバートを貫き折り、自分の槍も圧し折られる……これが”今のベル”の限界なのかもしれません。
さて、思ったよりも長くなってしまったvsイベントですが、最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!