昨日アップした後からチコチコ書いてたんですが、思ったより筆の進みが早くて連日アップとなりました。
さて、今回のエピソードは……エロ抜きです(笑)
みょ~に長くなってしまってる白兎vs女傑妹ですが、今回よりいよいよ佳境。
圧倒的なパワーを誇るティオナに対し、ベルの手札は……?
そして、サブタイの謎ワードの意味は果たして……
「どうしよう……ラッセルボック君……」
「えっ?」
「私、どうやら君のこと、本気で欲しくなっちゃったみたい……」
ここは断じて恋人達の場所である『アモーレの広場』などではない。
ロキ・ファミリアの拠点『黄昏の館』の中庭であり、ベル・クラネルは盾と槍をティオナ・ヒリュテを”
ベルは最初の一合で力負けし圧し折られた
これは細長い鋭角二等辺三角形の両刃の穂先を備え、その根元の両側に鎌を思わせる刃が設けられた三叉槍の一種で、その左右に伸びる鎌状の補助刃が三日月を連想させる。
日本の槍に例えると、”千鳥十文字槍”が一番近いだろうか?
二人は互いの得意武器を向け合い対峙し、纏う闘気は本物だ。
にもかかわらず、ティオナの愛らしいチェリーピンクの唇から囁かれるのは、紛れも無く愛の言葉だった。
それを異常と呼ぶか、(アマゾネス的な意味で)正常と呼ぶかは各自の判断に任せるが……
「『汝、欲するものあらば、自らの力で勝ち取れ』……これお婆ちゃんから受け継いだ
そしてティオナはウルガの構えを変え、
「だからラッセルボック君に勝って、君を戴くことにするよ♪」
するとベルは小さく微笑み、
「『ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん』」
「それは? なんか似てる言葉だね?」
「僕がお爺ちゃんから教わった言葉だよ。人として男として生きるのに必要な言葉だって」
ベルはコルセスカを”突撃”用に構え、
「だから『負けて女の子にゲットされる』なんて結末は、いくらなんでも許容できないんだ」
「ねえ、ラッセルボック君……きっと私達って気が合うよね?」
「僕もそう思うよ。おまけにティオナは可愛いし、血の気が多いとこも魅力的だと思う。でも、だからこそ……わかるよね?」
微笑みながら脚に力を込めるベルにティオナは同じ微笑みで返し、
「妥協できない一線がある……でしょ?」
「やっぱりティオナは、お爺ちゃんが教えてくれた”いい女”だよ」
「ありがと♪」
「待たせて悪かったね。じゃあ、」
「いざ尋常に……」
「「勝負っ!!」」
***
それは今までに無いパターンだった。
「ベルが攻め、ティオナが受ける」というパターンだ。
ベルは自分が出せる最高のスピードで一気に間合いを詰める!
レベルの差の重さ……実力差に打ちのめされて、諦めたわけでも自棄になったわけでもない。
槍の持つ”長さ”という強みをあえて捨て、『必殺の一撃を最良の間合いとタイミング』で叩き込むための動きだ。
”ビュオン!”
風斬り音をまとわりつかせ眼前に迫り来るウルガの薙ぎ払い。ティオナの膂力から出される速度と武器自体の重さが加われば、刃が無くとも人間相手なら十分な殺傷力を持つだろう……しかし、
「くっ!」
それはチキンレースともいうべき情況だった。
ベルはギリギリまでひきつけ、命中直前に盾を使わず『身体を沈む込ませる』ことで一撃を交わした。
そして、
(今っ!)
”ダンッ!”
そして地面を思い切り踏みしめると同時に盾を斜め下に引き、
”ビュオッ!”
縮めた両膝と鎮めた上半身を跳ね上げるようにして『後ろにスライドさせて短く持った』コルセスカを、横方向でなく”縦方向”の全身連動でアッパーカットのように振り上げる!
「セイアッ!!」
これが【
(”逆矛”!)
”ギィン!”
「なっ!?」
ベルはその時のティオナの動きに目を見開いた。
ベルは確かにウルガの両刃が自分の頭上を通り抜ける一瞬を見計らって、『絶対にティオナが避けれないタイミングで最速のカウンター突き』を放ったはずだった。
しかし……
「惜しかったね♪」
しかしコルセスカの穂先はウルガの刃に止められていたのだ……
答えは単純明快だった。
ベルは、ウルガの”ある特性”を完全に失念していたのだ。
そう、ウルガは両刃”双刀”、つまり刀の後ろにもう一振りの刀がついた”連結刀”なのだ。
ティオナは横薙ぎにした自分の刃がブラインドになり、ベルの突き上げに反応が遅れた。
もし、これが普通の刀剣だったらこの時点で詰んでいたことだろう。何しろ明らかに『刃を返す』には遅すぎるタイミングだったからだ。
加速した刃の慣性力をいきなり方向転換させるのだから、いかなティオナのパワーを以てしてもあのタイミングじゃ間に合わせるのは難しい。
では、彼女はどうしたのか?
正解は『刃を更に加速させ、刀全体を回転させた』だ。
そして、最初に振るった刃とは”反対側の刃”をベルの穂先に当てたのだった……
更に運が無かったのは、ベルがコルセスカを使っていたことだ。
コルセスカは前出の通り三叉槍あるいは十文字槍の一種で、刺さりすぎを防ぐ刃止めも兼ねる左右に伸びる鎌型の枝刃は、槍の命中範囲を広げる(結果として命中率が上がる)と同時に横に避けられた場合も対応し易く、また直線に伸びる刃と左右に伸びる刃の付け根で敵の刃物や槍を受け止めたりあるいは絡め取ったりもしやすい。
だが、逆に言えば受け止め易い/絡め取り易いということは敵にとっても同じであり、まさにコルセスカの穂先は右の鎌刃の位置で止められていたのだ。
”ゴスッ!”
「ぐふっ!?」
ベルの一瞬の硬直を見逃さずティオナはベルの脱力した腹筋に内臓までダメージが”徹り”そうな膝蹴りを叩き込む!
「かはっ!」
まともにそれを喰らったベルはたまらず吐血するが、生まれた隙を見逃すようなティオナではなかった。
「はぁぁぁーーーっ!!」
”ガィィィーーーーーン!!”
それはティオナの全身の筋力と全体重を乗せた
身体をくの字に曲げ、完全に崩れた体勢でありながら、それでも”
しかし、そんな情況ではとても得意の『跳躍による相殺』など使えるわけはない。
ベルの男としては小柄で華奢な身体は、今度こそ語義通りに石弓で弾かれたように「弾き飛ばされ」……
”ドウッ!!”
勢いを落とさず黄昏の館の壁に激突する!
朦々と立ち込める土煙と頑丈なはずの強化煉瓦の壁に蜘蛛の巣のように入った亀裂から、その威力のほどがうかがい知れた……
*************************************
「こら終わったな~」
むしろ呑気な雰囲気でテラスのテーブルからこの闘いを観戦していたロキは判断するが……
「さて……それはどうでしょう?」
そう呟いたのは手摺に両手を乗せ、身を乗り出すように観戦というより一部始終を見逃さぬように凝視していたフィン・ディムナだった。
「ほう……フィンは何か感じるものがあるのか?」
そう彼の発言の関心を持ったのは、ロキと同じくテーブルを囲み、紅茶の香りを楽しんでいた副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴだ。
「どうにもね……”親指が疼く”んだよ」
フィンにはある特殊な能力、いやそれとも特徴? あるいは体質かもしれない……があった。
それは通称『危険を教えてくれる親指』。どうやら機能は名前の通りのようだが、その親指が反応してるということは……
***
「ここは……どこ?」
気が付いたとき僕……ベル・クラネルはここにいた。
(確か僕はティオナと戦っていて……黄昏の館の庭にいたはずなんだけど……?)
でも目に映るのは……僕はこの風景を表現する言葉を知らない。
強いて言うなら、
「何もかも不確実な世界……」
『面白いことを言うな、少年。面白い感性だ』
「えっ?」
気が付いたらそこに【焔の巨人】が佇んでいた。
確かにさっきまで何も無かったし、誰もいなかったはずなんだけど……
「イフリート? スルト? クトゥグア?」
『どれも違うぞ少年。我に固有の名はない。あくまで仮初の姿だ』
「そうなんだ……」
どういうことだろう?
目の前にいる焔の巨人は、今まで僕が遭遇したどんなダンジョン・モンスターより恐ろしい姿をしてるのに、不思議なくらい恐怖感が沸いてこない。
『察すると少年には我が”炎の魔神”にでも見えているようだな。まあいい。だが名が無いというのも不便だな……』
焔の巨人は、ちょっと考える仕草をすると、
『そうだな。我のことは【グロリオーサ】とでも呼ぶが良い』
「いや、それ僕のスキルの名前なんじゃ……」
思わず突っ込んだ僕は悪くないと思う。
だけど、焔の巨人は微かに笑い……確証は無いけど、笑ってるような気がした。
『あながち間違いというわけでもない。それより少年、一つ聞きたい事がある』
「なんですか?」
『お前はこのままでいいのか?』
「えっ?」
『女傑族の
そっか……僕は今、そんな姿だったのか。
「いいわけありません……!」
もしかしたら今、僕が見ている光景は幻覚なのかもしれない。夢なのかもしれない。
だけどだからといって妥協する道理は無い。
確かに「レベルの差が……」とか「今はまだ届かなくても……」とか
だけど、その言葉を言うのはまだ早い。
たかが失神。死んだわけじゃない。
(僕はまだ限界まで挑んでないから……!)
「僕には辿り着きたい場所があるから!」
『いいな。ならば、少年……もう一つ問う』
僕は頷きで答える。
『力が欲しいか?』
「欲しいです! 誰にも負けない力が……」
『ならばお前の心の、魂の奥底にある。”
「えっ?」
『お前にはあるのだよ。
”ドクン……”
「えっ……熱い……なにこれ?」
『力を望むなら、その名を唱えてみよ。力が欲しければ、』
この力の名……それは、
『くれてやる』
***
土煙の晴れた後、ティオナは壁に埋め込まれるようにして気を失ってるベルを見た。
その時は内心で、「あちゃ~……もしかして、やりすぎちゃった?」と思い少なくとも安否は確認するべきだろうと思って近づいたのだが……
「”
「えっ?」
その変化は、失神してるはずのベルの口が小さく何かを呟いた直後に起きた!
”ヴォン!”
「きゃっ!?」
その時、ティオナは”それ”を見た。
いや、幻視だったのかもしれないが、
(ラッセルボック君の全身から炎が吹き出た!?)
そう、そう誤認してしまうほどの何かだ。
しかし、ベルから噴出したように見えたその”正体不明の炎”は、瞬く間に布のように鎧のようにベルにまとわりつき、やがて彼の身体へと吸収……いや還元するように飲み込まれてしまった。
そして……
「ティオナ、ごめんね。また待たせちゃったね?」
ゆらりと……まるで幽鬼のように立ち上がるベルに、ティオナは口をパクパクさせながら指を指してしまう。
「本当に……ラッセルボック君……?」
「へっ? ティオナ、何を言ってるのさ?」
「もしかして……自分の姿に気付いてないの?」
「えっ? 何が?」
ベルは自分の腕を見るが特に変わったような様子は無い。
間違っても腕がウサギの前脚になってたりするようなことはないのだが……
「ラッセルボック君……君、白兎から”赤ウサギ”にクラスチェンジしてるよっ!?」
***
そう、ベルの容姿は異形……とは言いすぎだが、明らかに容姿を一変させる変化が起きていた。
そう雪のように白かった髪は今は燃えるような赤い色に染まり、光の加減によりまるで火燐が舞ってるようにも見えた……まさに”炎髪”と呼んでいいだろう。
そしてウサギのように明るい赤色だった瞳は色に深みを増し、真紅と呼んでいい色合いを帯びていた。
髪が炎髪ならこちらは差し詰め”紅眼”だろうか?
そう、今のベルは白兎から”炎髪紅眼”の持ち主へと姿を変貌させていた。
オマケに顔には意味は読み取れないが、
『はっはっはっ! 赤ウサギかぁ~。こりゃ傑作だよ。いいセンスしてるじゃないか? お嬢ちゃん』
世界のどこにも無いはずの空間で、焔の巨人は膝を叩いて笑っていた。
どうも先程とは大分雰囲気が違うようだが……
『おっと。せっかく”坊や”の強さのイメージを拝借して作った姿だが、このままでいるのも無粋ってもんだねぇ~。よっと』
すると巨体を象っていた焔が弾け、紅焔色のドレスに雷光色の鎧を組み合わせた黒髪を結った美しい女性が姿を現した。
この洋風の美人さんを見てるとなんとなく”色違いセイバー”と言いたくなるが、多分彼女の本質は真逆だろう。
『
蓮っ葉な砕けた口調で下品にならない程度に彼女は愉快そうに笑い、
『願わくば坊や……どうかさっさとアタシを使いこなせるようになっておくれよ? アタシはいつまでも”偽りの名”で呼ばれたくないんだ』
皆様、ご愛読ありがとうございました。
久しぶりのエロ抜きガチバトル・オンリーの回でしたが、いかがだったでしょうか?
奇襲技を用いても普通の戦い方では、やっぱり今のベルではティオナには太刀打ちできませんでした(^^
そしてお約束のピンチな時の”覚醒する力”! 中二スピリッツ全壊です(笑)
サブタイの答えはこの特殊能力でした。
この能力がなんなのかは、きっと次回か遅くてもその次くらいにハデス様が説明してくださるでしょう(えっ?)
そして『焔の巨人=謎の美女』というオリキャラが現れましたが……正体はなんだろうなー(棒)
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!