ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
久しぶりの一日二話アップを狙ってたんですが、残念ながら間に合いませんでした。

このシリーズは、可能な限りオーソドックスな路線を目指すつもりですが……果たしてどうなることやら(^^





第002話 ”世界で一番大切な”

 

 

 

僕は今、ダンジョンを出て迷宮都市(ダンジョン)オラリオ、その北西のメインストリートにある【ギルド】に来ていた。

 

ギルド……他の街では【冒険者ギルド】って呼ばれるだろうけど、このオラリオではギルドと言えば冒険者のためのギルドだって決まってる。

 

その権威を示すように建物の造りはすごく立派で、本当の神殿みたいに白い巨柱が立ち並ぶ”万神殿《パンテオン》”形式の荘厳な外観だ。

多分だけど、オラリオの象徴であり神々の地上拠点となった場所であり、同時にダンジョンの蓋でもある【摩天楼施設(バベル)】を除けば、オラリオでもトップクラスの立派な建物じゃないのかな?

 

中身も外見に負けず劣らず立派なんだけど……

 

「ベル君、聞いてるの!?」

 

「は、はい!」

 

僕はその一室でメガネが似合うハーフエルフの可愛いお姉さん、ギルド職員で僕のアドバイザーを務めてくれてる”エイナ・チュール”さんに怒られてます。

正直、一対一で向き合う怒ったエイナさんは、ダンジョンでエンカウントしたミノタウロスより怖いです。

 

「まったくもう!……一人でダンジョンに潜ってるだけでも危険だって言うのに、よりによってソロでミノタウロスと戦うなんて!!」

 

「で、でもあれだけ怒ったミノタウロス相手に背中向けて逃げたら、絶対に追いかけられて追いつかれて今頃ひき肉になってましたし、まだ戦った方が生存率高かったかなって……それに”この盾”がありますから」

 

僕がぽんぽんと叩くのは、椅子に立てかけていた中型の円形盾(ラウンドシールド)だ。

死んでしまったお爺ちゃんが、『自分に万が一のことがあったとき』にと遺言と一緒に僕に残してくれたもので、見た目は古ぼけてるけどとても優れた盾だ。

古いせいか銘は削れてしまってよく読みとれないけど、お爺ちゃんは【アキレウス】って呼んでいた。

アキレウスには、”不壊属性(デュランダル)”を持っていて、他にも色々な隠された効果や機能があるらしいけれど……今のところ僕が引き出せるのはデュランダルと”状態異常無効化(オフィウクス)”くらいだ。

 

(なんか宝の持ち腐れってお爺ちゃんに怒られそうだ)

 

僕はまだまだ未熟だ。

あの日……お爺ちゃんが死んだあの日、お爺ちゃんはアキレウスを持っていかなかった。

多分、行きなれた山だったから危険なんて無いって思ってたんだと思う。

でも……モンスターに襲われて死んだ。

モンスターに襲われた拍子に人が入れない深い谷底へ落ちたらしくて、遺体も弔ってあげられなかった……

 

どんなモンスターよりも強いと思ってたお爺ちゃんですら、ちょっとした油断からあっさり死んでしまう……爺ちゃんの死は、世界はそういう残酷で不条理な場所なんだと僕に教えてくれた。

爺ちゃんと比べ物にならないくらい弱い僕が、油断なんてできない。できるはずがない。

 

 

 

「それはそうかもしれないし、その盾が業物だって言うのは知ってるけど……」

 

「それに元々ミノタウロスに第5層なんて浅い階層でエンカウントすること自体、すっごいイレギュラーですよね?」

 

「うっ……まあ、それも間違ってないわ」

 

あれ?

エイナさん、なんでたじろいてるんだろ?

 

「そもそも今回の一件、アイズ・ヴァレンシュタインさんによれば第17階層でロキ・ファミリアと遭遇したミノタウロスの群れの中の一匹が、途中でファミリアとの戦闘を突然放棄し、上層を目指してまっしぐらに逃げ出したことがエンカウントに繋がったんです。これはもう完全に不可抗力じゃないですか?」

 

なぜかエイナさんは深々と溜息を突いて、

 

「正論よ。確かにベル君に非はないわ。でもね、よく聞いて……新前の冒険者がミノタウロスと対峙して生き残れるなんて、本当にほんっとぉ~~~に幸運なことなのよ?」

 

「わかってます。実際にヴァレンシュタインさんが駆けつけてくれなければ、きっと危ないところでしたから」

 

「それがわかってるならいいけど……」

 

本当にいつも心配かけてすみませんです。

 

「エイナさんの薫陶はいつも心に留めてます。『冒険者は冒険をしちゃいけない』って」

 

「うん。よくできました♪」

 

そう、臆病者と罵られたって僕は進んで”危険を冒す”ような真似はしない。

だって、僕の命はもう僕だけのものじゃないから……

 

”あの子”……ハデス様と出会ったあの日から。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ、そうだ。エイナさん、一つ聞きたいことがあるんですが?」

 

「なに?」

 

「オラリオのシキタリ的に、約束無しに他のファミリアに尋ねていっていいものでしょうか?」

 

「はっ?」

 

あっ、ちょっと唐突だったかな?

 

「実はですね……」

 

僕はポケットに入れていた布を取り出して開いてエイナさんに見せる。

 

「あら? ”ミノタウロスの角”?」

 

「ええ。僕がエンカウントしたミノタウロスがドロップした物です。ミノタウロスを倒したのはヴァレンシュタインさんなんですが、譲ってもらちゃったんです」

 

それで事情を察したのかエイナさんは「なるほど」と頷いて、

 

「つまりそれは、逃がしたミノタウロスが君を襲ってしまったことに対するお詫びってこと?」

 

「ええ。そうなんですけど……その時は嬉しくて、つい魔石と一緒にもらちゃったんですけど」

 

ううっ……我ながら恥ずかしくなるくらい現金だ。

ヴァレンシュタインさんに「がめつい奴」とか「無遠慮な奴」とか思われちゃったかな?

 

「冷静になって考えれば、ちょっと貰いすぎちゃったかなって……」

 

おまけに小心者の僕でした……すいませんすいません!

あの時は、今日の稼ぎをすばやく計算して、思考がハデス様に買って帰るお土産に至った段階で、完全に舞い上がってました!

 

「そんなことないんじゃない? ベル君は命の危機だったわけだし」

 

エイナさん、その口調だと「むしろ安すぎる」って言い出しそうで怖いです。

も、もしかして怒ってます?

何に対してはわからないけど、僕に対してではないことを祈りたい。

 

「でも結局、僕一人ではどうにもならなくて、ヴァレンシュタインさんに助けてもらったんですから。それでチャラと言われればチャラになる程度のことです」

 

あの~、エイナさん。僕の顔を見て溜息突くのは、できればやめていただきたいのですが……

 

「お人よし……君、絶対に人生損するタイプだよ」

 

「そうかなぁ? 昔からよく言われるけど、僕はそんなに損した覚えはないですよ?」

 

”なでなで”

 

「あの……エイナさんはどうして優しい目で僕を見ながら、頭を撫でてらっしゃるのでしょうか……?」

 

「特に深い意味はないけど……強いて言うなら、手のかかる弟ってきっとこんな感じなんだろうな~って」

 

正直、さっぱり意味がわかりません。

 

 

 

***

 

 

 

「ベル君が手土産もってロキファミリアを伺うって言うなら止めないし、それは別に失礼にはあたらないわ? 大手のファミリアには大体は受付係がいるし。ただし、遠征前とか忙しいときだったら遠慮するのよ?」

 

「はい!」

 

「それと、手土産だったらロキ様だったら迷うことなくお酒なんだけど……正直、ヴァレンシュタイン氏はわからないわね。一般的には女の子にはお花かお菓子が無難ね。服はサイズがわからないと意味が無いし、アクセサリーや香水だと変な誤解されかねないわ」

 

「なるほど~」

 

参考になるなぁ~。

女の子に贈るものなんて、ハデス様へのお土産以外考えたことも無いから、ホントに聞いてよかった。

 

「賄賂とか言うならまだしも、冒険者としてというより社会人の処世術として付け届けは否定されるべきじゃないからね。ベル君の行動に嫌な感じを受ける人間は、ロキ・ファミリアにはいないはずよ。多分」

 

「ううっ……常識なくてすみません」

 

「ううん。ベル君は人間としての常識はちゃんと持ってるから、後はきっちり色々な経験さえ積めばそういう部分も洗練されていくと思うわよ? 要するに冒険者として成長するのも大事だけど、人間として成長するのはもっと大事ってことなんだけどね」

 

「しょ、精進します!」

 

いや、なんで僕は満面の笑みのエイナさんに、また頭撫でられてるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

エイナさんに見送られて、僕は魔石を換金する。

公的に換金できるのは基本的にバベルとギルドだけなので、正直助かるな~。

というか魔石の標準買い取り価格は、バベルとギルドで決めていると言って間違ってないと思う。

ダンジョンの真上に立つ(蓋をしている)バベルの換金所は確かに近いしすごく便利なんだけど、

 

(凄く混むからなぁ~)

 

街の換金所は免状持ちから非合法(モグリ)まで数多くあるけど、標準価格より高く売れる可能性もある反面、足元見られて安く買い叩かれるリスクは否定できないから、僕は使わないことにしてる。

 

(でも、今回は実入りよかったよ)

 

今日は普段の倍以上の稼ぎが出た。やっぱり雑魚モンスターとは格違いのミノタウロスの魔石が大きかったんだと思う。

何しろ結晶の大きさ、重さ、密度、純度のどれをとっても桁違いだ。

 

そして僕はいつもどおりお菓子屋さんのドアを潜る。

ここの”猫の舌”って意味の名前のチョコレートを挟んだ薄焼きのクッキーが、最近のハデス様のマイブームだ。

値段も味から考えたらお手頃だし。

 

「ありがとうございましたー♪」

 

背丈ならハデス様とそう変わらないか少し高いくらいの妙に愛想のいい小人族(パルゥム)の店員さんから12個入りのパッケージを受け取った。

 

「紅茶の葉はまだあったはずだし……」

 

浮き立つような足取りをなんとか押さえつつ、僕は家路を急いだ。

 

 

 

***

 

 

 

僕達の、僕とハデス様の本拠地(ホーム)は都市北方の外れにある。

一番近い名の知られた場所が、小高い丘の上にある第二/第三墓地というのだからかなり辺鄙な場所にあることがわかったと思う。

実際、僕達が本拠地使ってる古い一軒家は元々は墓守の老夫婦が使ってたものだったんだけど、二人が他界した後に売りに出されてたけど、立地条件が悪いので長い間売れ残ってたらしい。

それでバーゲンセールになっていたところに飛びついたのが僕達だった。

 

都市の中心部から遠いのは僕もハデス様も大して気にならないし、特にハデス様はこのもの静かな雰囲気が気に入ってるらしい。

 

そして、まだ見慣れたと言うにはおこがましい古いけどしっかりとした樫造りのドアを開けると、

 

”とてとてとて”

 

いつものように聞こえる軽い足音、廊下を曲がったときに真っ先に見える緩くウェーブのかかった腰まで伸びる淡い銀色の髪、そして僕を真っ直ぐ見つめる少し垂れ気味の大きな金色の瞳……

 

(ああ、僕は今日も無事に帰ってこられたんだ)

 

本当に……この子の姿を見るとき、本当に僕は生きてるってことを実感できる。

 

”ぴょん”

 

助走をつけて僕の胸に飛び込んでくる、小さな小さな肢体(からだ)をしっかり抱きしめて、

 

「ただいま! ハデス様!」

 

「おかえりなさい。ベルくん……♪」

 

 

 

よかった……

僕は、今日も生きてハデス様に……世界で一番大切な女の子に会うことができたんだ……

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。

ハデス様ご登場と原作とは違う、律儀な性格ゆえのロキ・ファミリアとの接触フラグ(必ずしもアイズたんフラグじゃない気が……いや、気のせい気のせい)を楽しんでいただけましたでしょうか?

それにしても円形盾の名前が【アキレウス】で、しかも持ってたのが爺ちゃんって……それって、ねぇ?
爺ちゃんもベル君を可愛がってたみたいだし、このくらいは遺しても文句は言われないでしょう。多分(^^

あとエイナさんがベル君に正論で言いくるめられてるうちにどんどん可愛くなってしまったのは、何故でしょう?(笑)

ちなみに状態異常無効化に付けた【オフィウクス】とは”蛇使い座”のことで、蛇使い座の由来を調べてもらうと意味が繋がると思いますよ?

次回は……多分、ハデス様のお仕事とかでてきそうですが、後は未定です。

それでは、また次回にてお会いしましょう!


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