ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
ここ数日、執筆どころかパソコンに座る時間すら削られまともにアップできなくてすみませんでした。

さて、今回のエピソードは……とりあえずベルとティオナのVSイベントが決着します。
果たしてそれは一体何の意味を持つのか?

うん。あと我ながらサブタイが酷い(笑)
でも残念さを含めて、あながち間違ってない気も……?





第020話 ”貧乳はステータスだ! 希少価値だ!!”

 

 

 

「”鉄血点火(イグニッション)”……!!」

 

僕がその心に浮かんだ言葉(ワード)を呟いた瞬間、その変化が訪れた。

 

(これが力が湧いてくる感覚なのかな……?)

 

なんて言うか……

 

(熱い!)

 

熱い熱い熱い!

全身の毛穴から炎が吹き出し、全身の血液が沸騰してマグマに変わってしまったような感覚……

だけど、それは決して不快なわけでも苦しいわけでもない。

ただ、その熱さが一つの衝動にしたがって熱量を上げていくのが自分でもわかった。

そう、それは……

 

(戦いたい……!!)

 

結局、僕……ベル・クラネルはティオナ・ヒリュテのその本質において同じなのかもしれない。

今の僕はこんなにもこれから起こる戦いに胸躍らせてる。興奮してる……!!

戦いの気配に欲情するティオナを決して笑えない。笑っちゃいけない。

だから告げよう。同胞(ティオナ)に。

 

「ティオナ、ごめんね。また待たせちゃったね?」

 

そう、僕が今の極限値を出せるようになるまでこんなにも待たせてしまったのだから。

 

 

 

「本当に……ラッセルボック君……?」

 

「へっ? ティオナ、何を言ってるのさ?」

 

それになんでそんな金魚みたいに口をパクパクさせてるの?

 

「もしかして……自分の姿に気付いてないの?」

 

「えっ? 何が?」

 

自分の両腕を見る。

左手に円形盾(アキレウス)、右手に三日月槍(コルセスカ)……の残骸。

 

(あちゃ~。吹っ飛ばされたときにオシャカになったか……)

 

あと残ってるのは鴎翼鉤槍(フリウリ・スピアー)西洋鉾槍(ランデベヴェ)だけかぁ~。

いや、それはともかく……ティオナは何を驚いてるんだ?

 

「ラッセルボック君……君、白兎から”赤ウサギ”にクラスチェンジしてるよっ!?」

 

はいっ?

 

 

 

***

 

 

 

……情況を整理しよう。

どうやら今の僕は髪が色素の抜けた白から真紅に変わり、元々赤かった瞳は一層赤みが増し深紅になってしまってるらしい。

う~ん……どんなメタモルフォーゼなんだろうか?

 

「まっ、いいか」

 

「ラッセルボック君、けっこうそういうとこ軽いよね~」

 

ティオナ、何でそこで呆れた顔になるのさ?

 

「どうやらパワーアップはしてるみたいだし……」

 

僕は愉快な前衛芸術(オブジェ)のようになってしまったコルセスカを捨てて、残る二槍のうちフリウリ・スピアーを手に取る。

 

鴎翼鉤槍(フリウリ・スピアー)は鋭角二等辺三角形型の両刃の穂先と、その名の徹りその根本の左右から伸びる正面から見た鴎の翼を思わせるバトル・ピック(戦鉤)を取り付けた武器だ。

つまり、フリウリ・スピアーは槍としての機能、『突き刺す/切り裂く』に加えて左右の伸びるバトルピックで相手を突き刺したり引っ掛けたりして『引き倒す』って機能を追加した武器だ。

槍に他の武器の特性を付け加えた”複合槍”の一種とも言えるけど、

 

”ビュオン!”

 

うん。振った感触も悪くない。

 

「不都合が出るまでは都合がいいみたいだしね。僕にとっても……」

 

僕はティオナに微笑む。

いや、多分うまく微笑んでいられると思うけど、

 

「ティオナにとってもね?」

 

 

 

***

 

 

 

”ゾクリ”

 

その穏やかでいっそ爽やかさの薄皮一枚隔てた向こう側にある物は獰猛さ……そうとしか感じ取れない”ベル”の笑みを見た瞬間、私は確信した。

そう、ベル・クラネルは私、ティオナ・ヒリュテと同じ”生まれながらの肉食獣(ナチュラルボーン・プレデター)”なんだって。

一目見たときに感じたウサギの印象の可愛い外見とちぐはぐな、私の中で鳴った小さな警鐘……私の直感は彼が断じて本物のウサギのように”捕食される側”でないことを告げていた。

 

(”羊の皮を被った狼”って慣用句があるけど……)

 

ベルの場合は、差し詰め”ウサギの皮を被った肉食獣”ってとこかな? それも小さな肉食獣じゃない。今ならはっきりわかるけど、私が何度か密林にいた頃に出会った狩り甲斐のある大型のそれに印象が近い。

 

(それに”あの力”の発動……)

 

私には覚えがあった。

そう、私にも姉さんにも同種……かどうかは判らないけど、似たようなスキル(ちから)があったからだ。

私の場合は【狂化招乱(バーサーク)】と【大熱闘(インテンスヒート)】……前者はダメージを負うほど攻撃力が上がっていくスキルで、後者が瀕死の時における全アビリティに高い補正がかかるスキルだ。

もっとも両方とも私がダメージを負わない限り発動しないから、今の状態だと意味は無いんだけどね。

 

(正直、最初は私のバーサークやインテンスヒートと類似スキルかとも思ったんだけど……)

 

ベルにダメージを与えれば与えるほど少しずつだけど強く、手強くなっていたから。

 

(でも、まさか最後にこんな”隠し球”を持ってくるとは思わなかったわ)

 

発動条件が一定以上のダメージの蓄積なら、確かにインテンスヒートに似てるけど、

 

(でも、似て非なる力よね……?)

 

外観的な変化だけじゃない。チリチリと肌が焼かれる感覚……

より私の命が、子宮が疼くような感じ……

 

「ラッセルボック君、君やっぱり最高だよ♪」

 

さあ、殺り合おうっか!!

 

 

 

***

 

 

 

「セイヤッ!!」

 

「ハウトッ!」

 

”ガィィィン!!”

 

ベルの遺産の盾(アキレウス)とティオナの両刃双刀(ウルガ)が、比喩ではなく火花を散らし交錯する!

 

(今度は圧し負けない!)

 

(私の斬撃を受け止めるとは惚れ直しそうだよ♪)

 

そして二人は笑っていた。それは同じ類の笑みであり、笑みと呼ぶには些か凶悪な気がしないでもないが……文明を持つ以前の遠い昔、なるほど人は確かに狩猟により日々の糧を得ていたと実証するような楽しげな、あるいは興が乗ったような笑みだった。

 

 

 

”ザッ!”

 

「なんてパワーだ。刃の無いウルガで穂先を切り飛ばされるなんて思わなかったよ」

 

自分の未熟さや複合槍の扱いに関しての不慣れもあるが、ベルは綺麗に切断されたフリウリ・スピアーの断面を凝視してしまう。

 

「ふふん。”大切断(アマゾン)”の二つ名は、伊達じゃないってことだよ♪」

 

そうウルガをひゅんひゅんと振り回し、パンとキメポーズを取りながらサムズ・アップするティオナ。

ぶっちゃけノリノリである。

まあ、それを見ていた姉が「あの馬鹿妹、また調子に乗って……」と小さく溜息を突いたり、「私だって木刀で薪割りできる……」と何に対抗してるのか追及しないが、そう無意識で呟く某剣姫がちょっと可愛かったりするのだが……

 

「これが最後の一槍か……」

 

ベルはただの棒ッ切れになったフリウリ・スピアーを捨て、残る一本……西洋鉾槍(ランデベヴェ)を手に取る。

ランデベヴェとは異国の言葉で『牛の舌』、まさに『牛タン』という意味だった。

一瞬、脳内に赤毛の没落鍛治貴族の青年を思い浮かべた読者諸兄も多いと思うが、かの者の登場は近い将来のお楽しみということで。

さて、牛の舌(ランデベヴェ)という名の由来は、穂先の形状が由来となっていた。

鋭角二等辺三角形の両刃の穂先が牛の舌のようなのだが、コルセスカやフリウリ・スピアーと同じような形状だった筈だ。

しかし、ランデベヴェがその二つ大きく異なるのは穂先の厚さと大きさだ。

ぶっちゃけてしまうと、ランデベヴェは三日月鎌刃や対の戦鉤のようなオプションは無く、純粋に普通の槍の穂先の代わりに”菱形断面の両刃直刀”を取り付けてしまったような武器なのである。

例えば全体的に幅広で、断面が中央が分厚く刃に近づくほど薄くなる構造はまさに両刃の西洋剣の構造であり、根本が分厚く先端に行くほど細く尖る拵えや左右対称の刃の付け方も同じことが言える。

穂先の分厚さも大きさも同じく西洋の片手剣に匹敵し、例えば今のベルが握るもので刃渡り50cm以上、資料によれば70cm以上の長さを持つ穂先もあるらしい。

イメージ的には漫画「うしおととら」に出てくる『獣の槍』を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。

牛も獣の一種とみなすなら、案外面白いつながりである。

 

その形状や造りからわかるとおり、ランデベヴェの最大の特徴は防御や付加能力は一切無視で、その穂先としてはそれ以前のものを大きく上回る重さ/大きさ/分厚さ/幅広さ/形状の全てを『突き刺す/切り裂くという槍という武器が持つ攻撃力』に特化させた代物だった。

違う言い方をするなら、これまでベルが手にした中でもっとも攻撃力のある槍だといえる。

 

 

 

「これが最後の一振りである以上、そろそろ決着といこうよ?」

 

「あら? 私はいつでも望むところよ?」

 

ランデベヴェの剣穂先を向けるベルに軽口で返すティオナ。

挑発だけじゃない。おそらくは彼女の本音が口からでたものであろう。

 

「「ハアアアッ!!」」

 

そして図った様に二つの影が正面からぶつかり合った!!

 

 

 

***

 

 

 

それは数合、あるいは十数合の打ち合いの果てだったろうか?

いつまでも続く祭りが地上には無いように、またこの戦い(まつり)も終焉の時が訪れる。

 

前兆は互いに決定打を与えられぬまま距離を取り、再び踏み込んだその直後に起きた。

 

「あれ?」

 

ベルの視界が急速に暗くなり、平衡感覚が無くなった。

地面が液状化したような気持ち悪い踏み心地に足元が覚束無くなり、加速が見る見るうちに失われるのが自分でもわかった。

 

「ティオナ……ごめん……」

 

きっとその謝罪は、最後まで彼女に付き合えなかった、そして最後まで「本当の本気のティオナ」を引き出してあげれなかった自分の不甲斐無さを謝りたかったのだと思う。

レベル差から考えれば当たり前なのだが、ベルはそれを言い訳にする気は無い。

レベル差で自分を慰めたくは無かった。

 

(だって僕は……男……だから……)

 

もはやベルは槍を握ることも出来ずにランデベヴェを取り落とす。

それでもアキレウスを取り落としたりしなかったのは、最後の意地だろうか?

そして……

 

”ぽてっ”

 

ベルの異変……急速に薄れた闘気にいち早く気付きウルガを放り投げ、慌てて駆け寄ったティオナの平たい胸に顔を当てる(埋めると表現したいところだが、物理的に不可能)ようにしてベルは倒れこむ。

真紅に染まった炎髪は油の切れたランプのように徐々に炎を消し、元の白髪へと戻っていった。

 

 

 

闘いの激しさと比べるなら、拍子抜けするほどあっさりとした決着だった。

 

「ううん。いいんだよ……」

 

だが、ティオナに不満なんかあるわけはない。

存分に戦えた。そして自分が……アイズではなく自分が、どうやら「ベルの隠された力」を”初めて”引き出せたようなのだ。

「これはもしかして私は、ベルにとってある意味”特別な人”なのでは?」と優越感を感じても無理はない。

なんに対しての優越感かは、ティオナ自身は気付いていないようだが。

 

「私こそ薄い胸でごめん」

 

的外れのことを言ってる自覚はあったけど、それでも「私の胸がもっとあったら、もっといいクッションになったのになぁ……」という思いも偽らない本音だったので仕方の無いことだ。

 

「違う……ティオナ……僕は小さい……胸の方が……好……きだから……」

 

それが意識を手放す前のベルの最後の言葉だった。

それは霞み消えるような小さな声だったけど、前に書いたと思うが種族的に女傑族(アマゾネス)は耳も目もいい。

何が言いたいかと言えば、ベルの声はティオナの耳にはしっかりはっきりくっきり聞こえたわけで……

 

(……!!!☆♪♪)

 

ティオナは心の中で声にならない歓喜の雄たけびをあげ、右手でベルを抱きとめたまま左手でガッツポーズを作った。

 

 

 

ティオナは後で語ることになる。

 

『きっと私が本当にラッセルボック君……ううん。ベルに恋に堕ちたのは、この時だったと思う』

 

同時にある偉大な偉人の言葉を……世の成長してもなお胸部装甲の薄さに悩む女性達の福音であり、救済になった言葉を思い出していた。

かの偉人いわく

 

「貧乳はステータスだ! 希少価値だ!!」

 

ティオナはこの言葉が真実であることを、心の底から信じられたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

「さわるなっ……!!」

 

ベルの失神を危険と判断した待機済みの救護班が慌てて駆け寄ろうとするのを、ティオナは普段ならありえないぐらい硬い口調と言葉で制した。

 

「ラッセルボック君……いや、ベル・クラネルは最後の最後まで戦うことを諦めなかった勇者だ! このティオナ・ヒリュテと対峙して最後まで一歩も引かなかった勇者だ!」

 

普段のティオナの戦闘力、ロキ・ファミリア屈指の実力者であることを救護班を含め場の全員が知っていたからこそ、例外を除くその他大勢が気圧され、妙な説得力を感じていた。

そう、ティオナは場を制す……ノリと勢いでこの場を押し通せる権利をゲットすることに成功したのだ。

 

「我らアマゾネスは、例え敗者となっても勇者に最大限の敬意を払う。それがアマゾネスの掟であり心意気だ!」

 

そして、ベルをひょいっとお姫様抱っこで持ち上げ、

 

「この者は私の認める勇者だ。故に私が介抱する。異論は誰であろうと認めない!!」

 

そしてスタスタと『ベルをお姫様抱っこしたまま』、母屋へ歩いて行ってしまった。

行き先は一つしか思い浮かばないが、呆気にとられたせいか誰も後をついてゆくものはいなかったという。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ……ティオナ、どさくさにまぎれてちゃっかりベルやんお持ち帰りしよった」

 

最初に再起動を果たしたのは、さすがは主神というべきか?

ロキだった。

 

「良いのか? このまま放置して。いくら男女の機微に疎い私と言えど、この先の展開ぐらい読めるぞ?」

 

そう言うのは副団長のハイエルフ、本人の言葉を否定するようで恐縮だが別に男女の機微に疎いわけじゃないリヴェリアだ。

ファミリアきっての知恵袋の網羅する知識と経験の守備範囲をなめてはいけない。

というかリヴェリアは気圧されるどころか呆気にも取られずに静観してたのではないのだろうか?

積極的に止める様子も無さそうだし。

 

「よいよい。若者とはこのぐらい積極的でやんちゃなぐらいがちょうど良いのじゃ」

 

と自慢の口ひげを撫でながら「孫の顔見たさに男っ気の無い娘の出会いを仕組んだ父親」のような顔をする老ドワーフのガレスに、

 

「いいんじゃない? 冒険者は自己責任がモットーなんだし」

 

そう人畜無害の笑みを浮かべるフィンだったけど、

 

「ところでハデス様って今、葬儀屋業の最中だったっけ?」

 

「そやろうな。ウチも噂で聞いてるだけやけど、えろう評判ええみたいやし、今日も忙しいんちゃう?」

 

代表して答えるロキにフィンは小さく頷き、

 

「では、ハデス様に使いを出しましょう。ベル君も”色々と”今日はダンジョンに潜れるような情況ではないでしょうし、『今宵は黄昏の館で夕餉をご一緒しませんか?』と失礼の無いように」

 

するとリヴェリアは薄い笑みを浮かべ、

 

「フィン、何を企んでいる? お前の事だ。まさか『昨日、家にお邪魔した晩酌の返礼』などとはいわないでくれよ?」

 

「企むなんて人聞きの悪い」

 

するとフィンはいつの間にか団長の顔になっていて、

 

「たださ……今回の一件って、『二つのファミリアの親交をより深める』には、”またとない好機”になるとおもっただけだよ」

 

 

 

 

 

何やらまたしてもフィンの悪巧み(いんぼう)の予感が……

さて次回、お持ち帰り(?)されてしまったベルは、哀れ褐色の女豹の餌食になるのか!?

あるいは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
ちょっと間が空いてしまいましたが、イベント・エンドのエピソードは如何だったでしょうか?(^^

今回は初めてティオナ視点(モノローグ)を入れてみましたが、けっこう難しいもんですね~。
結果はごらんの通り、やっぱり圧倒的なレベル差は鉄血点火をもってしても覆らず、奇跡は起きませんでした。
しかし、フラグは見事に立ってしまいましたが(笑)
サブタイの答えはは「ティオナが恋に堕ちた一言」でした。
ちなみに堕ちたは誤字に非ずです(えっ?)

鉄血点火の解説や謎解きは、きっと登場フラグを立てたハデス様が次回にやってくれる筈です。

それにしても長丁場のイベントにお付き合いくださり、改めてありがとうございました。
ある方が教えてくださったのですが、「ハデス様が一番!」が再び日間ランキング一位になっていたそうですね?
ここのところ更新が滞っていたのに驚くと同時に大変嬉しいです。
これも読んでくださりお気に入り登録やご感想/ご評価など様々な形で応援していただいてる皆様のお陰です。
これからもまだまだ稚拙ながら精進したい所存です。

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!




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