ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
今回のエピソードの主役はベル君ではなく、オリ女神のハデス様です。
少しづつでも彼女のキャラクターが伝わればなぁ~と思って書き上げました。

正直、ボストークはオリキャラを苦手としてまして(^^
皆様の反応がちょっと心配ですが……楽しんでいただければ幸いです。


2015/09/28、ハデスが「オリュンポス十二神から外され冥界の女王になった」という趣旨の修正と加筆をしました。


第003話 ” Tears in Heaven ”

 

 

 

「ベルくん、ダンジョンどうだった?」

 

「いつも通りでしたよ。ちょっと”はぐれミノタウロス”に襲われたりしましたけど」

 

「そんなのはぐれてたんだ……大丈夫?」

 

「ええ。今日も”お爺ちゃんの盾(アキレウス)”に守ってもらいました」

 

「そう……よかった」

 

ベルの膝の上に座る小さな銀髪の女の子は、あまり表情は動かないけど心からホッと胸を撫で下ろした。

そこで「撫で下ろすような胸なんて無いじゃん」とか言ってはいけない。

 

 

 

ここはオラリオの北の外れにある【ハデスの眷属(ハデス・ファミリア)】の本拠地……と言っても単なる古びた一軒家だ。

とはいえ二人きりのファミリアであるのなら、これで充分とも言えた。

 

そしてベル・クラネルは、いつものようにこのファミリアの主神であるハデスを膝の上に乗せ、櫛で髪を梳きながら本日の近況報告をしていた。

言うならばこれは日常の一部であり、当たり前の日課だった。

 

蛇足ながら女神ハデスは、身長124cm/体重21kg。

現代日本なら大体小学校1~2年生の女児位の体格で、B/W/Hは上からつるーん/ぺたーん/すとーんのいっそ見事なまでの幼児体系を誇る。

ベルは決して立派な体格をしているわけではないが、それでも長時間膝に乗せても苦にならないくらい、ハデスは小さく軽かった。

 

「ハデス様はどうでした?」

 

「今日は三人、見送ったよ……」

 

見かけ小さく愛らしく、顔立ち幼いのに美人というハデスであるが「働かざる者食うべからず……だよ?」と現在ここオラリオにてある仕事に精を出していた。

 

その仕事は、ある意味においてとても彼女に向いていたのだが……

 

「”葬儀屋”さん……辛くないですか……?」

 

 

 

***

 

 

 

そう。ハデスの仕事は”葬儀屋(ヴェスピッロ)”だった。

しかし業種や産業としてシステムマチックになってる現代日本と大分様相が異なり、もっと素朴で土着的だ。

印象的に言うなら業者としての葬儀屋ではなく、『死せる魂を安寧へと導く看取り人(Qui caelum ducere animas defunctorum)』とでも言うべきだろう。

 

彼女……ハデスの役割を示すには、少しだけ背景(バックグラウンド)を語るべきかもしれない。

 

それは今から約半月前、ハデス・ファミリアが立ち上がったばかりの頃……

薬師集団ミアハ・ファミリアの店舗兼本拠地の【青の薬舗(やくほ)】など街の何ヶ所かに奇妙な張り紙が出された。

 

『消え往く命に安らぎを。大切な人の旅路を見送ります』

 

その張り紙には簡潔にそう書かれていた。

普通なら、「なんだぁ? 随分持って回した言い方する葬儀屋だな。新手か?」とか程度で済ますのだが……その署名を見た瞬間、多くの人も神も一瞬、思考を止めた。

 

ΑΙΔΗΣ(ハデス)

 

人間達はかの有名なかつてのオリュンポス十二神の一人にして、現在の冥府の王(正確には”女王”だが)の名に腰を抜かさんばかりに驚き、神々……特にギリシャ神話体系(グリーク・ミトス)の神々は狂喜乱舞した。

何せハデスが地上に降臨したという噂は流れていたが、あの天界きっての美幼女の話は僅かな目撃情報だけで、どの神も接触できてないというのが通説だったからだ。

 

 

 

話は、神々が地上に降臨する遥か遥か昔に遡るが……

一説によれば彼女のあまりの愛らしさに目がくらんだ多くの男神達が『ハデスたんは俺の嫁! 決して異論は認めない』という趣旨の発言を繰り返し、一気に男神間の関係が険悪化 → 一触即発になり、今にも天界版の『トロイア戦争、再び』になりかけた(一説によれば自らの神話体系で”神々の黄昏”を起こす事に失敗したロキが暗躍して煽っていたという噂も……)。

これに業を煮やした主神のゼウスはオリュンポス十二神の座からハデスを外し、冥界の女王に据え、醜い嫉妬で今にも戦争を始めそうな色ボケ男神(ヤロー)共から隠してしまったらしい。

 

まあ、これが新たな騒ぎの火種になったり、事実を伝えてもらえなかったハデス(これはゼウスが逆にあんまりな現実からハデスを守るためだったともいえる)がこの事象をひどく誤解していたりするのだが……それはまたいずれ別の機会にでも。

 

ともかく冥界に引きこもらされてからというもの、一部を除き神々がハデスを見る機会はめっきり減ってしまったのだ。

それが、なんということか……伝説の美幼女(アイドル)が地上で葬儀屋を始めるというのだ。

これで喜ばないわけは無い。

 

さて、ならば今にもハデス一目見たさに……その後の「グフフ……」な展開込みで依頼が殺到しそうだが、”どこからか”圧力がかかった。

そして、オラリオに住まうかつて「ハデスたんは俺の嫁」発言をした男神とその予備軍、ならびに潜在的危険因子共はまとめて【紳士協定】を結ぶことになる。いや、もう強制的に有無を言わさず結ばされてしまった。

どうでもいいが淑女という言葉は、どういうわけかどこにも見受けられなかった。

必要なかったからだろうか?

 

その紳士協定が強制決議されたときの”臨時神会(デナトゥス)”は、「いつの間に神々の黄昏(ラグナレク)が始まったんだっ!?」と誤認されるほどのガチな殺気的な意味での神威に満ちていた……と記録に残っている。

 

 

 

***

 

 

 

とにもかくにもこうして【ハデスの葬儀屋さん(ハデス・ヴェスピッロ)】は始まったわけなのだが……

神々達は”紳士協定”の手前、しばらくは表立って仕事の依頼はできず、ファミリアを通じてでも数多の制約が設けられていた。

となれば必然的に彼女の顧客は、人間などの一般市民だった。

 

そして多くのオラリオ市民は、”奇跡(ミラグロ)”を目の当たりにし、その意味を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

ハデスは、その神としての性質ゆえに消え往く魂がわかってしまう。

だから、一目見てまだ助かる可能性のある人間の依頼は決して受けない。

逆にミアハやディアンケヒトなどの医療系ファミリアや優良な医者にかかることを強く勧める。

この商売っ気の無さも、オラリオ市民達には好意的に受け取られた。

このちょっと後に、特にとある女神の仲介で知己を得た神柄のいいミアハと意気投合、ミアハ・ファミリアと業務提携し、助かる命の為に無料で紹介状を書くことになるのだが……まあ、これは余談だ。

 

そして消える命……もうどうやっても地上に留まれない魂にだけ、彼女は”謡う”のだ。

横たわる死にかけた者の手を握り、そっとわが子に子守唄(ララバイ)を謡う母親のように……

 

 

 

わたしの声が聞こえるかな?

(Wonder if my voice is heard?)

 

わたしの歌が届いてるなら聞いてほしい

(I want to hear if my song has arrived)

 

その苦しみは痛みはもうすぐ終わるから

(The suffering is pain coming soon to be end)

 

あなたはもう充分に生きたよ

(You have already sufficiently alive)

 

立派に生ききったから

(From a splendidly taken alive)

 

だからもう休んでいいんだよ

(So cause resting anymore)

 

もう眠っていいんだよ

(I do tell anymore asleep)

 

冥府にはあなたが涙を落とすような哀しいことはなくて

(The Heaven rather you be sad, such as drop a tears)

 

安らかな時間がまってるから

(Because just are waiting restful life for you)

 

だから旅路の支度をしよう

(So ready for journey)

 

大切な人たちにさよならを

(Say Goodbye to friends)

 

遺された人たちは強く生き続けなくちゃいけないから

(Bereaved were friends must be to live storong)

 

あなたが安らぎの園で心配しないように

(So you do not worry in the Garden of Peace)

 

 

 

それはΡεκβιεμ(ペクヴィウム)……鎮魂歌だった。

いや、ハデスから紡がれる歌声は鎮魂歌と呼ぶには優しすぎるバラードで……死を恐れ苦しむ魂を慰め、黄泉へと送り出す慈愛の歌だった。

 

その歌が終わるとき、決まって死に往く者たちは微笑むのだという。

「ありがとう」と人生最後の言葉を残して……そして微笑んだまま、まるで生きていたことが幻だったように消える。

 

「よくがんばったね……」

 

さっきまで手を握っていたはずなのに、腕の中にはもう何も残っていない。

そんな時、ハデスは決まって天を仰いでから、遺された者たちの方を振り向いて告げるのだ。

 

「この人の魂は無事に冥府へと旅立ち、肉体はこの空と大地に還りました」

 

大きな金色の瞳に今にも零れ落ちそうな涙をいっぱいに湛えて、それでも苦手なはずの笑顔を精一杯つくって……彼女はそう告げるのだ。

亡き魂が、遺された人々が、もう泣かなくてすむように……

 

 

 

***

 

 

 

彼女の力は【冥府の門(ゲート・オブ・ハデス)】……名前の通り冥府の門を開き、この世と冥界を繋ぐ回廊を出現させる能力だ。

 

しかもこの能力、彼女のこの能力は彼女の『神としての資質、冥王としての役職』に起因するものであり、フレイヤの”魅了”と同じく神通力(アルカナム)には該当しない。

やらうと思えば冥界に住まう彼女のためだけに存在する義勇兵団、自称ハデス軍(しんえいたい)を呼び寄せ、オラリオくらいなら即座に灰に変える事も可能という、地上で神々が使える力としては破格なのだが……

ハデスの性格的にもそんなことはしないだろう。

だからこそ、彼女はこの力の行使を許されているのかもしれない。

 

彼女はただ、もはや救えぬ命を安らかに送り出すためにだけ力を使っていた。

だからだろうか?

彼女の力で冥府へ旅立った者は、この世への選別として亡骸を世界に還元する。

自分達はもう生きれないけど、やがて生まれてくる命が少しでも豊かになることを祈りながら……

 

その役割は現代の解釈なら葬儀屋というよりむしろ”終末医療院(ホスピス)”に近いのだが……そして今日も彼女は葬儀屋として街を駆けたのだった。

 

「辛くないよ? だって、これがわたしのできることだから……」

 

「そうですか……」

 

ベルは梳き終わった銀色の髪を柔らかく撫でる。

彼女はとても忙しい。

葬儀料として考えれば、特に安いわけじゃないけど人気があるのだ。

理由は……言うまでもないだろう。

 

「ベルくん、わたしはとても嬉しいんだよ? わたしは冥王で死神だから怖がられたり嫌われて当然なのに、みんな喜んでくれるの。感謝してくれるの。それによくわからないけど、お土産もいっぱいもらっちゃった」

 

見れば確かに机の上には食料品が山のように積まれていた。

ハデスは花がほころぶような微笑で、

 

「今日も『ありがとう』っていっぱい言ってもらえた……♪」

 

思わずギュッとベルはハデスの小さな肢体を後ろから抱きしめる。

 

「ベルくん? ちょっと苦しいよ……?」

 

「ごめんなさい。ハデス様……ちょっとだけでいいんです、もう少しだけこのままでいさせてください……」

 

「う、うん……ベルくんがそうしたいなら、いいよ?」

 

「すみません。我侭言って」

 

だけどハデスは首を小さく横に振って、

 

「ううん。わたしはベルくんの家族(ファミリア)で、お母さんなんだからいっぱい我侭言っていいんだよ?」

 

 

 

***

 

 

 

(不憫だ……不憫すぎるよ……)

 

それはベルの純粋すぎる想いだった。

 

(なんでこんなにいい子が、冥王とか死神とか呼ばれなくちゃいけないんだっ!!?)

 

祖父が死んだとき、この世は残酷で不条理な場所だと知った。

でも、

 

(ハデス様の不条理は、そんなの比べ物にならないじゃないかっ!!)

 

ベル・クラネルという存在は、生まれて初めて本気で怒っていた。

誰に対してではなく、この世界に存在する不条理に、だ。

 

ハデスが置かれた状態は、彼女自身も含めて多分に誤解があるのだが……だが、それを指摘できる存在はここにはいなかった。

 

(だれでもいい……僕に力をください……!!)

 

それは純粋だった。純粋であるが故に危険な願いだった。

だが、少年は孕んだ危険に気付けない……いや、例え気付いたとしても止められなかったろう。

 

かつてその願いゆえに破滅を迎えた英雄豪傑がそうだったように、「譲れない願い」というものは誰にだってあるのだから……

 

(この世の全ての不条理を打ち払い、ハデス様を守れる力をっっ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

その照明の落とされた薄暗い部屋では、一人の女神が微笑んでいた。

それは怖いくらいに艶やかで、同時に夜以上の暗闇を連想させた……

 

「フフフ……ベル、ようやく願ってくれたのね?」

 

頬を紅潮させ、心から湧き上がる甘美な感情に身をゆだねながら女神は言葉を紡ぐ。

 

「もっと強く願いなさい。そうすれば、私が貴方”達”の物語(ミィス)を作る力を貸してあげるわ」

 

今日は自分がいつに無く饒舌であることは自覚していた。

それは手に持つグラスに注がれた美酒(ワイン)のせいでもない。でも、止めるつもりもない。

子宮の奥底から湧き上がってくるような熱が、それを許してくれない。

 

「そして最後はきっと私の元へ来るわ。ベル、そして……」

 

彼女は瞳を潤ませながら愛しいその名を告げる。

 

「もちろん貴女もよ? ハデス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。

最後の最後に某女神様に美味しいとこを持ってかれたような気もしますが(苦笑)……ハデスにまつわるエピソードは如何だったでしょうか?

ちなみにサブタイの” Tears in Heaven ”はギターの神様エリック・クラプトン氏の名曲の題名で、息子さんが不慮の事故でお亡くなりになったときに書き上げた曲でもあります。
実は日本でもCM曲として何度か使われたことがありまして、もしかしたら皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね?
すごくいい曲ですよ♪

作中の『ハデスの鎮魂歌』も、この曲にリスペクトされて書き上げたものだったりします。

自画自賛に聴こえてしまうかもしれませんが……このエピソードは久しぶりに『執筆すことにとことんのめりこむ感覚』を感じられた話でした。
皆様に楽しんでいただけたならとても嬉しいです。
今の全力全開であっても誤字脱字があるのはお約束かもしれませんが(^^

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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