ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
最近、ちょい体調を崩し気味であんま執筆がはかどらないです(泣)

さて今回のエピソードは……サブタイ通りの内容で、第002話その他の伏線回収になりますね~。


第007話 ”ロキ・ファミリアへの訪問”

 

 

 

さて……何度か出てきているが【ハデス・ファミリア】の本拠地は、オラリオの北のはずれ、第2/第3墓地のある小高い丘の程近くある古びた一軒家だ。

故に都市へ向かって歩いていると、やがて北のメインストリートにぶつかる。

ちょうどそのあたりで、

 

「ハデス様、いってらっしゃい」

 

「うん。ベルくんも」

 

繋いでた手を少し名残惜しげに離して二人は別れ、ハデスはそのまま葬儀業のために市中に、ベルは脇道へとそれぞれ向かった。

 

このメインストリートはギルドの関係者が住まう高級住宅街も近隣にあり、また商店街としても活気付いている。

例えばメインストリート界隈は、服飾関係で有名だった。

この周辺にあるランドマークと言えば、いの一番にあげられるのが【ロキとその眷属(ロキ・ファミリア)】の拠点である『黄昏の館』だろう。

 

他にも並行世界(げんさく)では某呑気な女神の『ジャガ丸くんの屋台』がある筈なのだが……少なくともベルはその屋台を見たことはないようだ。

 

というわけで実は……

 

「こんな近くだったんだ……」

 

そう『黄昏の館』があるのはオラリオの最北端、北のメインストリートが始まるあたりから一つ外れた街路に面している大きな建物だった。

規模は勿論小さいがどことなく無憂宮(サンスーシ)を思わせる、フリードリヒ・ロココ調の荘厳さ漂う立派な佇まいである。

距離的には、ここから都市中心部(バベル)に向かうより、自分達の拠点に向かうほうがよっぽど近いだろう。

 

「いつまでも見上げてても始まらないか」

 

普段はダンジョンに潜る前には手に持ってる円形盾(アキレウス)片手槍(ショートスピアー)も今はまとめて背中に背負い、空いた手には土産の入った袋二つをぶら下げていた。

 

 

 

ベルが正門を潜るとまず驚いたのは、その中庭の広さだった。

普通の金持ちの邸宅なら「無駄に広い庭だなぁ……」と言いたくなるとこだが、少なくとも今のロキ屋敷を見る限り誰もそんなことは言わないだろう。

 

とにかく目立つのは、庭に集まっている冒険者達……

ファミリアに名を連ねると思わしき冒険者達が荷解をしていたり軽傷者の治療をしていたり、それが終わってると思われる者は軽い食事やら休憩をとってる最中だった。

 

(タイミング悪かったかな?)

 

見たところ地下迷宮の遠征(ダンジョン・クエスト)を終え、『黄昏の館』に帰還してからまださほど時間は経ってないようだ。

そういえばとベルは思い出す。

 

(ヴァレンシュタインさん、中層からミノタウロスを追ってきたって言ってたっけ)

 

逃がした群れの一匹とするなら、その本隊は中層に居たと考えるべきだ。

 

(そっか……あの後、ダンジョンで一泊して今朝帰ってきたんだ)

 

結局、自分は未だに日帰りできる深さまでしか潜れてないことを改めて思う知らされるベルであるが、

 

(今は焦っちゃ駄目だ)

 

そう自分に言い聞かせる。

ある程度の危険を冒すのは冒険者として看過すべきことだが、かといって自分で対処できないほどの危険(リスク)を背負うのは無茶であり無謀だと考えるベルだ。

もう自分は一人ではない、哀しませたくない女神(ひと)がいるのだから。

 

 

 

***

 

 

 

「あの、すみません。アイズ・ヴァレンシュタインさんに面会したいのですが……」

 

何やら野戦キャンプさながらの光景になっていた中庭を抜け、ギルドのガネっ娘アドバイザーであるハーフ・エルフの”エイナ・チュール”の言葉通りに『黄昏の館』の正面玄関を潜る大広間(ホール)となっていて、ホテルのような受付カウンターがあり受付嬢が座っていた。

 

「あの、どちら様でしょうか?」

 

美人と美少女の中間くらい年齢……おそらくは二十歳には届いてないだろう受付嬢の反応に、ベルは自分の名を告げることを失念していたことを知り、

 

「あっ、すいません。僕はハデス・ファミリアの……」

 

「もしかして……君は昨日の?」

 

背中から涼しい声が聞こえた。

その声に導かれるように振り向くと、まず目に入るのは長い淡い色の金髪と髪とおそろいの淡い金色の瞳……今更だけど、瞳の色がハデスと同じ系統なのをベルは気が付いた。

もっともハデスの金色はもっと濃く、光彩も揺らめき彼女の神秘性の強調に一役買っているのだが。

 

「ヴァレンシュタインさん! あっ、よかった。探してたんです」

 

「……私を?」

 

「はい。この間、助けてもらったお礼です。よかったら受け取ってください!」

 

ベルが紙袋ごと差し出したのは、ハデスのお気に入りで故にベルが愛顧にしている洋菓子店の焼き菓子詰め合わせセットだった。

 

 

 

「別にいいのに。むしろ迷惑かけたの私達だし」

 

「だとしても貰い過ぎですから。その差額代わりの返礼として受け取っていただければ」

 

「……いいの?」

 

「もちろん」

 

受け取ったはいいものの、甘い匂いのする紙袋を小さく抱きしめるように持ったままどうしたらいいのかよくわからずきょとんとしてしまうアイズが、少し小動物チックな意味で可愛いなと思うベルだった。

 

アイズは直感が鋭い。異性からの下心ありありの贈り物なら身内(ファミリア)だろうが見ず知らずの赤の他人だろうがすぐに気付き突っ返すところだが、今回はどうも勝手が違う。

”剣姫”の二つ名を持つアイズ・ヴァレンシュタインという少女、他人からの尊敬や畏怖の感情を向けられてるのは慣れているが、裏表のない……上級(すごうで)冒険者やら剣姫やらという冠とか容姿の良し悪しや性差とは無関係の、等身大の自分に対する好意やら謝意やらにはどうにも慣れてないようだ。

 

思考としては感覚情報が多すぎてまとまったものではないが、ベルはなんとなく自分が言うべき台詞があるような気がした。

 

「美味しいですよ、それ? 無名かも知れませんが、ハデス様もお気に入りの洋菓子店のお菓子ですから。お茶会とかするときとかいいと思いますよ?」

 

「そうなんだ……」

 

ベルはそろそろ切り上げ時かなと考え、話題の転換を試みる。

 

「ところでヴァレンシュタインさん、もしかしてお邪魔じゃありませんでしたか? 見たところ遠征が終わったばかりのようですが……」

 

「それは大丈夫。ここで待ち合わせしてるだけだから」

 

「よかった。あっ、それならロキ様に面会することってできますか?」

 

「ロキに? ……多分、まだ館の中をぶらぶらしてると思うけど……」

 

するとベルは残ったもう一つの紙袋を軽く持ち上げ、

 

「一応、ロキ様にご挨拶くらいはしておこうかと思いまして」

 

 

 

 

***

 

 

 

さて、少し視点を変えよう。

場所は同じく玄関ホール。ただし受付前ではなくその斜め後ろにある白大理石の後ろ側。

カウンターからは死角になる場所だ。

 

「ねぇ、あなた達……何してるの?」

 

そのあんまりと言えばあんまりな光景に、つい”アマゾネス姉妹の姉のほう(ティオネ・ヒリュテ)”は真相を問いただしてしまう。

何しろ『”愛すべき自分の妹(ティオナ・ヒリュテ)”が、うつ伏せに倒した同じファミリアのトップクラス冒険者の”粗暴な狼系獣人(ベート・ローガ)”の背中に馬乗りになり両手で口を塞ぎながら変形駱駝固め(キャメルクラッチ)をかけてる』というかなりシュールな光景だったのだから。

 

「ティオナ(ねえ)、手伝って! ちょっとこの馬鹿狼を鎮圧しとく必要があるののよ!」

 

「むぐぅぅぅーーーっ!!!(このクソ女、離しやがれ!!!)」

 

と妹が視線を向けた先には、

 

「あらあら、まあまあ♪」

 

男っ気の無さではロキの眷属(ファミリア)の中でトップランカーのアイズ・ヴァレンシュタインが、見知らぬ可愛らしい男の子からプレゼントを渡され、驚くべきことに突っ返すことが普通のアイズがそれを大事そうに抱きしめたまま親しげに話しているのだ。

無論、恋愛沙汰が大好物の年頃の娘に標準搭載されてると言われる”姦しい乙女フィルター”の補正が入る情景描写ではあるが。

 

「わかったわ」

 

ばたつきもがくベートの足を取り、躊躇い無くテキサス式四葉固め(テキサス・クローバーホールド)を決めるティオナも大概だろう。

 

「ふんぐぅぅぅーーーっ!?(てんめぇーーーーっ!?)」

 

「ほらほら暴れないの。せっかくのレアなシチュエーションなんだから邪魔したら駄目でしょ?」

 

褐色の肌が美しいアマゾネス姉妹に二人がかりで責められるなど、ドMにはたまらないシチュエーションだろうが……ベートには生憎とそのケはないので、どうやらご褒美にはなってないようだ。

 

 

 

***

 

 

 

さて視線を戻そう。

 

「一応、ロキ様にご挨拶くらいはしておこうかと思いまして」

 

ベルがそう小さく残る紙袋を持ち上げると、

 

「ほ~う……それは中々ええ心がけやんけ?」

 

”ぺろんっ”

 

「うひゃっ!?」

 

突然、後ろから尻を撫でられる感覚にベルは小さく飛び上がり無意識に距離を取って振り向き際にファイティングポーズを取るが、

 

「カカカッ♪ 反応も悪ぅないな? せやけど背後がまだまだ甘いで」

 

ベルの視線の先に居たのは糸目と短い赤毛、それに真平らな胸板が特徴の女性だった。

ただし、神威付ではあるが。

 

「も、もしかしてロキ様……ですか?」

 

「そうやで~、少年。天界きっての道化師(トリックスター)、元悪神ロキとはうちのことや♪」

 

そして、微笑みながらもどうにも笑ってるようには見えない目で(糸目だから判りにくいが)、

 

「ところで少年、ウチのアイズたんとやけに親しげやけど……一体何モンや?」

 

「あっ、すいません。自己紹介が遅れました。僕は【ハデス様の眷属(ハデス・ファミリア)】の”ベル・クラネル”といいます」

 

「なっ!?」

 

その瞬間、糸目だったロキの瞳は大きく見開かれた。

そして上から下までしげしげとベルを見つめ。

 

「そっか……君がオリュンポス系の地上の男神(ヤロー)どもが泣いて悔しがったという噂の少年かぁ~」

 

そして改めて、

 

「ところでそのハデスたんのとこの少年が、なんでアイズたんと?」

 

「ロキ……もしかしてまだ遠征の報告書あがってない?」

 

そう確認するアイズに、

 

「あがってるかもしれへんけど、まだ読んではおらへんな」

 

アイズは小さく溜息つくと、ダンジョンでの小さな邂逅を話し始めた。

 

 

 

牡牛の化物(ミノタウロス)相手に小さな身体で互角に張り合った、勇気ある仔兎(ベル)のサーガ』……アイズの口頭報告にタイトルをつけるとそんな感じになるだろうか?

それに半ば呆れ、半ば感心したロキは頷きながら、

 

「なるほどなぁ~。なんやウチの眷属(ファミリア)がごっつい迷惑かけてもーたみたいやね? ホンマすまんな」

 

「とんでもありません。最後の最後にヴァレンシュタインさんに助けてもらいましたし」

 

自分の実力の無さ……特に攻撃における決定力の低さを自覚しているベルは苦笑し、紙袋を差し出した。

 

神酒(ソーマ)とはいきませんでしたが、お礼とご挨拶をかねてお納めください」

 

「なんや悪いなぁ。迷惑かけたんはむしろこっちなんに」

 

「いえいえ。僕はひたすら攻撃に耐えてただけで、ヴァレンシュタインさんが討伐してくれなければ危なかったですよ」

 

すると酒瓶が入ってると思わしき紙袋を受け取ったロキは何やら考え始め、

 

「なあ少年……槍と盾を持ち歩いてるっちゅーことは、これからダンジョンに潜るんやろ?」

 

「ええ」

 

「一晩潜る予定かいな?」

 

「いえ。夕方には戻る予定ですが……」

 

「なら、それ以降は時間が空いてるってことやな?」

 

「そうなりますね」

 

ロキはニカッと笑い、

 

「ならちょうどええ。今晩開催予定のウチらの”打ち上げ”に参加せーや!!」

 

「えっ? ちょ、ちょっと待ってください! ”打ち上げってダンジョン遠征”の慰労会ですよね? さすがに僕が参加するのは角が立ちそうな……」

 

ロキはバンバンとベルの肩を叩き、

 

「ええやんええやん♪ ミノタウロス押し付けたにも関わらず、こうして土産までもらうてもうた。これで何もせーへんかったらウチのファミリアの沽券に関わるってもんやしな。そうやろアイズたん?」

 

いきなり話を振られてちょっと困った顔をしたアイズだが、それでもコクコクと頷いた。

 

「でも、ハデス様に一人で夕食を取らせるわけには……」

 

無自覚に過保護発言するベルだったが、ロキは「その台詞を待ってたで~♪」と言いたげにニンマリ笑みを浮かべ、

 

「せやったらハデスたんも一緒にならどや? 子を誘うんならその親まで誘ういうんも道理に合うやろ?」

 

 

 

結局、ベルはロキに押し切られ打ち上げ参加を了承してしまう。

平行世界(げんさく)とはまた違う邂逅……果たしてそれは、どのような意味を持つのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。

ベルくんのロキ・ファミリア探訪(?)はいかがだったでしょうか?

アイズを除くロキ・ファミリアの面々初登場の回でもありましたが(^^

次回はベルくんのダンジョンアタックと宴会パートかな?
何やらハデス様も参加しそうですが……またまた一波乱がありそうな予感?

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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