今回のエピソードは……珍しくロキ・ファミリアが主役?
まあ、ベルもしっかり男の子してますけどね(^^
さて、舞台は
時はもう館を去ったベルがダンジョンに潜ってる頃だろうか?
「なんや~。あの兎少年、随分と奮発したみたいやん♪」
バカラ・クリスタルのショットグラスになみなみと注いだ
【ポム・ド・イヴ】とは知らない銘柄だったが、中々に美味だ。剥き身の林檎が丸々封入されたガラス瓶も面白い趣向だ。
「目で楽しみ、舌で楽しむ、か……酒の趣味まで悪くないゆーなら、将来有望株やで♪」
ケタケタ笑う主神に、実質的に【ロキ・ファミリア】のNo.2の
「林檎の甘い香りが効いてるな。喉越し爽やかで、確かに旨い酒だが……かといって昼間から酒を嗜むのは良識ある大人としてどうなんだ?」
「まあ堅い事を言うな。我々のすべき後始末は終えたのだ。何より酒を楽しむときにはその味をとことん楽しむ。でなければ良い酒に失礼だぞ」
そう言うのは古参の眷属で重鎮の一人、巌のような体格を誇る初老のドワーフ”ガレス・ランドロック”だ。
まあ彼の言うとおり、換金やその他の遠征の事後処理の中でも上層部がすべきことは既に終わっている。
でなければ風紀委員気質のリヴェリアがこの場に居るはずもないが。
「それに関しては同意しますけど……でも、まさか貰い物の酒を自慢するためにわざわざ僕達を呼んだわけじゃないですよね?」
最後に纏めるのは酒を優雅に楽しむ少年……ではなく
「まあな。ウチより皆のが詳しいと思うけど……なんでもウチらが逃がしたミノタウロスの一匹と、互角に戦っとった
重鎮三人は顔を見合わせ、
「ええ。アイズの報告にありましたが」
代表してフィンが答えると、
「
ロキは一度言葉を区切り、
「【ハデス・ファミリア】の一員なんやて」
「ほ~う……あの噂の」
少し興味を持ったような顔をしたのはリヴェリアだった。
彼女はファミリア全体の参謀役として常に情報収集を欠かしていない。そうであるが故に主にオリュンポス系男神に課せられた『ハデスに手を出すことを禁ずる』という内容の”紳士協定”とか、それが決まった殺気まみれの”臨時
ちなみにその臨時神会にはロキも参加しており、紳士協定成立に尽力したという。
ただし、話題の中心であるハデスは当然のように参加していない。というより地上に降りてきたばかりの彼女は、神会の存在自体を当時は知らなかった。
「今だから話せることなんやけどな……ウチとハデスたんにはある因縁、いやウチにはある”負い目”があるんや」
ロキは素面ではやってられないとばかりに酒を呷り、
「ハデスたんが冥界の女王になった……
乾いたグラスに再び酒を注ぎ、
「その、な……その男神の欲望まみれの対立を裏から散々煽ったんが、実はウチなんよ」
***
衝撃の告白だった。
あんまりと言えばあんまりな内容にリヴェリアは天を仰ぎ、
「我が神よ……貴女はなんてことを」
「し、仕方ないやん! あの時のウチは
「それで腹いせにギリシャ神話体系の天界で、『ギリシャ神話版のラグナレクもしくは天界版のトロイア戦争』を画策したというわけですか?」
無垢な顔で聞いてくるフィンにズキリと心が痛むのを感じるロキだったが、
「ま、まあ否定はせーへんよ。騒ぎを起こせばなんでもよかったんや……若気の至りちゅーもんやな。赤くて三倍速い人も言っとるやろ? 『認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを』って……」
「言ってることはよく判らんがのう……つまりロキ殿、結局お主は何が言いたいのじゃ?」
「ウチは……」
核心の発言を促すガレスにロキは糸目を開き、今までになく真摯な声で告げる。
「……罪滅ぼしがしたい」
「その前に、一言謝罪すべきではないのか?」
そう鋭い指摘のリヴェリアに、ロキはグッと息を詰まらせ、
「そうしたいのは山々なんやけど、ウチはハデスたんと面識があらへん。それに話を聞く限り、ハデスたんはウチが暗躍してたどころか自分が冥界に追放された『本当の理由』を判ってないみたいなんよ……それもゼウス直々の指示らしいしな」
物憂げなロキを見ながらフィンは、
「時間が経ってる分、話がこじれてるってわけですか……確かに事実を誤認してると思われるハデス様に突然謝っても困惑するだけでしょうし」
なんとなく追い討ちをかけてるような気がするのは気のせいだろうか?
「せやろ! だから先ずなんにするにしても面識を持ち、交流を深めることが第一歩やと思うんや!!」
「ほほう。お主にしては堅実で健全だのう」
感心(もしくは皮肉か?)するガレスにロキは興が乗ったように、
「というわけで、今日の打ち上げにハデスたんと眷属の白兎君を招待することにした! なっ? ええよな?」
すると自分の役割をいつも自覚してるフィンは、
「誰か異議はあるかい?」
「いい酒だ。多少の返礼はむしろ義務だろう。宴への誘いがその充当になるかはわからぬが」
とはリヴェリアの弁。ガレスも頷き、
「年端も行かぬ小僧に礼儀を見せられて、何もしないのは大人として駄目じゃろうな」
フィンはウインクしながら、
「ということらしいですよ? ロキ」
ロキの顔が嬉しそうにほころんだのは言うまでもない。
気が付くと酒瓶はいつの間にか空になっていた。
ロキが酒瓶の中に残った林檎を出そうと悪戦苦闘してる様を見ながら、リヴェリアが涼しい顔で魔法を使って取り出し、しゃくりとかじって最後までカルヴァドスの風味を楽しんだという
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一方、その頃ダンジョンでは……
「セイリャッ!!」
時はロキ・ファミリアの四人が真昼間からお茶会ならぬ軽い飲み会を繰り広げてる頃、場所はダンジョン第6階層。
ベル・クラネルは元気に槍を振り回していた。
(まだだ……)
「まだ足りない。全然足りない……!」
思い出す。
崇拝する女神であると同時に、槍の師でもあるハデスの動きを。
その動きを自分の身体に合わせてトレースする。
「セアッ!」
槍を弧を描くように振り、飛び掛ってくるゴブリンを纏めて薙ぎ払う。
ベルにとって目指すべき武の頂は久遠の彼方にある。
そう簡単に手が届く場所じゃない。
だからベルは考える。
(イメージしろ……ハデス様を守れる自分を……!!)
【
「トリプルバースト!」
今のベルで最も攻撃力のある技、
トリプルバーストには大きく分けて二つ放ち方がある。
一つは一つの目標に対して刺突三撃全てを当てる”
ウォーシャドウに放ったのはバラージのほうであり、特に複数の敵を急場で凌がなければならない場合に便利な槍術であった。
無論、強固な相手……例えばミノタウロスにはスマッシュの方がベターであるが。
「とりあえず、視界に入る敵は倒しきった……かな?」
すぐにモンスターが発生する気配は無い。
第6階層で随一の戦闘力を誇るウォーシャドウですら、今のベルには手強い敵にはならなかった。
囲まれる前に倒しきる……その原則を貫いた結果ではあるが、故にベルはほとんど
魔石と稀にあるモンスタードロップを拾い終えたベルは、懐から懐中時計を取り出す。
手の平サイズの真鍮の筐体の中に、現代の技術で言うなら特殊な加工をした魔石を
従来の機械式に比べて桁違いの正確度を誇るこれは、ハデスとの生活には必要不可欠なものであると割り切り、ファミリアに入ってすぐに奮発して購入したのだった。
(まだ時間はある……)
「行ってみるか……第7階層へ」
その日、ベルは初めて『新米殺し』と呼ばれるキラーアントやパープルモスと言った凶悪な昆虫型モンスターやニードルラビットという新しい敵と対峙することになる。
そう、確かにベル・クラネルはこの日、”冒険”したのだ。
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「おかえり。ベルくん」
「ハデス様、ただいま戻りました」
再び場所は変わってオラリオ北の外れにある何の変哲も無い古びた一軒家、【
時は夕刻、夜の帳がそろそろ降り始める頃。本日も無事に過ごせた二人は邂逅する。
「んー……もしかしていつもよりボロボロ?」
想像以上に自分をよく見ているハデスにこみ上げるような嬉しさを感じて、ベルは笑みをこぼしながら
「あはは。つい第7階層まで潜ってしまって」
「そっか……でも無事でよかった。今のベルくんの実力なら大丈夫だと思うけど」
「そうなんですか?」
彼女は小さく頷き。
「うん。でも、盾はともかく槍はもう駄目だね?」
彼女の視線の先には、ぐにゃりと潰れかけた槍の穂先が映っていた。
その変形は著しく、打ち直したり研いだりでどうにかなるような雰囲気ではない。
「ですね。キラーアントの甲殻が想像以上に硬くて」
「昆虫型は外骨格だから……体表が骨の役割を担ってるから硬いんだよ」
ベルは納得しながらも少し残念そうに、
「まさかこうも早く武器を切り替えることになるとは思いませんでした」
「いい機会だと思うよ? 今までのショートスピアーじゃこの先戦うことになるモンスター相手には力不足だし……」
ハデスはじっとベルの顔を見て、
「そろそろベルくんの
「そうですね……武器がなければ結局ダンジョンへは潜れませんし、明日は休みにして武器屋に行って見ますね」
「そうしたほうがいい。じゃあ晩ご飯食べたら、いつものアビリティ・チェックしよっか?」
「あっ、ちょっと待ってください! 実はですね……」
***
今日のロキ・ファミリアの来訪とロキとの邂逅、そしてロキからの宴会への誘いという流れを聞いたハデスは、
「話はわかった……ロキが招待」
「どうしますか? もしハデス様が気乗りしないなら僕は……」
ハデスは小さく首を横に振り、
「ううん……行こうよ。せっかくだから受けたほうがいいと思う」
「はいっ! ハデス様がそう言うなら、僕に異存はありません」
「それじゃあアビリティの確認だけして……支度しよっか?」
「はいっ!」
「これはまた……凄いことになってるね?」
「自分のことですが、確かに……」
その日の最後のサプライズは、ベルのアビリティ更新のようだ。
†††
冒険者Lv:Lv.1
基本アビリティ
力 :851(A) → 944(S) 上昇93
耐久:888(A) → 975(S) 上昇87
器用:434(E) → 501(D) 上昇67
敏捷:548(D) → 620(C) 上昇72
魔力: 60(I) → 133(H) 上昇73
魔法
【】
スキル
【
†††
「合計上昇値392……これは前代未聞かもしれないね? グロリオーサの効果が上がってるのかな?」
「だとしたら嬉しいです……!」
スキル【
・『誰かを守りたい』『守るために強くなりたい』という願望が触媒となり成長を促進させる。その想いが続く限り効果は持続
・『誰かを守りたい』『守るために強くなりたい』という意思の強さに比例して最終防御力/回避率/命中率/クリティカル率に補正が加えられる。
・成長促進の度合いは『守りたい』という想いの強さと守りたい人数に比例する
・特に力と耐久に獲得経験値ボーナス
・被ダメージにより全基本アビリティの一時的な
・冒険者Lvに比例して効果は増強される
その効果は今のベルにとっては『ハデスを守るために強くなりたい』という想いに、願いに直結していたのだから。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
珍しくロキ・ファミリア年長組の描写に文字数を裂いてみましたが、如何だったでしょうか?
個人的には年長組が無自覚にちくちく主神を言葉で刺す描写が楽しい楽しい(笑)
今回のエピソードの肝は「実はロキ様も気にしていた」だったりします(^^
ベルのグロリオーサの効力が一段強くなり基本アビリティの爆上げに繋がったのは、おそらく第003話”Tears in Heaven ”のラストを含め、より一層強く願ったからだと思われます。
いよいよ次回は宴会パートになりそうですが、果たしてロキとハデスの邂逅はどんな色彩を生むのか……?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!