原作とは少し違った展開をお楽しみください!
前回までのあらすじ!
討論会前日、達也と深雪は八雲から清夜の辛すぎる過去を聞かされる。その後、八雲がDEMに対し精霊を使った盗撮を試みるが逆に返り討ちにあい殺されかけた。一方、殺しかけた本人こと清夜は作戦会議後、自身の抱える矛盾に悩むが考えを放棄し武器商人という仮面の下に隠した。
2095年 4月22日 第一高校 図書館
討論会は真由美の独壇場だった。
同盟側から出された討論者の曖昧な意見を真由美は明確な数字でことごとく論破する。
元より意識的な問題でほとんどが言い掛かりに過ぎないのだ。
それにたった一つだけある差別的制度に気付けていない。
そんな口先だけの連中に真由美が負けるなんて清夜には思えなかった。
会場はすでに真由美の演説会という雰囲気で同盟に賛成的な生徒でさえ真由美に魅入っている状況だ。
(この空気は論破されただけのものじゃないな。彼女の身振り手振り、声色、トーンが見るもの全てを引き寄せている。これを素でやっているなら正しくカリスマだな。)
今、清夜がいるのは図書館内の本棚の通路。
実際に清夜は討論会にいるわけではなく、講堂に付いているカメラにマリオネット・ジャックでハッキングして映像を脳内で再生していた。
壬生達を叱りつけておいてこの体たらくだが元より正義の味方ではない。
逮捕される心配もない。
サイオンレーダーは全て停止させてあるし、警察が調べたぐらいじゃ魔法だと気づけないし、ハッキングまで気付いたとしてもブランシュがしたことにできる。
清夜は討論会を楽しげに見ていると討論会も最高潮になり真由美がこうまとめる。
『
『そんなの誤魔化しだ!』
(無駄だな。ヤジはもう遅い。お前らが長年かけて作り上げた勢いは七草のたった数分の演説で潰されたんだよ。)
『学校の制度としての区別はあります。ですが同盟側があげた差別はないのです!もちろんそれを言い訳にするわけではありません。私はこの現状に満足していません。なぜなら一科も二科も関係なく全員がここの生徒であり、生徒にとって一度だけの三年間なのですから。』
会場に大きな拍手が響く。
誰の目から見ても勝利はあきらか。
真由美はとどめに宣言する。
『ここで一つ公約をあげときましょう。実はこの学校には差別する制度が一つあります。それは生徒会役員の指名は一科に限られる制度です。私はこれを退任時の総会で撤廃させることを最後の仕事にします。
(
『アイク。報告が』
廃工場近くに待機中のエレンから思考通信がかかる。
コールサインではなく『アイク』と呼ぶのは作戦が始まってないということだ。
『どうしたエレン?』
『私たち以外に所属不明の日本人の二グループ。それぞれ15。気付かれてはいませんがどうしますか?』
『ふ〜ん・・どこか知らないけどこの国の人間もそこまで無能じゃなかったか。とりあえず今は指示があるまで待機。指示より前にそいつらが司一を捕まえるようならそこを強襲、強奪してくれ。』
『了解』
エレンならどうにか出来るだろうが不確定要素は清夜にとって容認できない
清夜は仕方なしに『七賢人』という切り札をきることにした。
『どうせだから彼らで実験するか・・・・・サイモンさん。聞こえる?』
『聞こえるネ、式さん。秘書さんに頼まれてもう調べてある。一つは警視庁公安部、もう一つは軍情報部ネ。お互い相手の存在に気付いてない。』
『さすがサイモンさん。早いし、俺が欲していた情報だ。じゃあ、そのままの監視と構成員全員の位置情報計測をよろしく』
通信を切り、今度は輸送チームに切り替える。
『翠、藍。待機中悪いけど仕事お願いできるかい?』
『なんなりと』
『二チームからそれぞれ一人殺してきてほしい。あとで仲間が見つけられるようにして、出来るだけむごたらしく。』
『むごたらしく・・・ですか。キョフフ、お任せください。』
「さて、下準備は完りょ・・・!!」
ドカーン!!ドーン!!
突如、轟音で揺れる図書館。
中にいる生徒は悲鳴を上げてしゃがみ込む。
地震ならば正解の行動かもしれないがこの音はあきらかにそれとは違う。
ただ一人、清夜はゆったりとした歩調で二階窓から外を見た。
本校舎、実技棟などからは火の手が上がり、中庭では武装した男達が生徒を襲っている。
そして予想通り・・というべきだろうか
何人かの二科生が武装した男達に協力している姿もチラホラと見えた。
特に驚いてはいない清夜だったが大げさに叫んだ。
「ててててて、テロリストだーー!爆弾持ってこっちにきてるぞーーー!」
逃げろーー!
キャー!
中にいた人たちは事務員も含めて全員蜘蛛の子を散らすように逃げる。
もちろん、そんな事実はなく図書館を無人にするための嘘。
いずれ来るのだからあながち嘘ではないというのがこの嘘の醍醐味だ。
『マスター、もう間もなくテロリストとサヤ達がそちらに。司一は見当たりません。おそらく本陣の廃工場かと。』
『アルテミシアか、ご苦労様。じゃあ来たテロリストは俺が処分しとくよ。』
『・・・サヤ達も殺すのですか?』
声色こそ変わらないもののアルテミシアが嫌がっているのはすぐに分かった。
剣道部のエースと剣術部のエース、お互い剣の腕を認めた友人だからこそためらっているのだろう。
清夜はその甘さに不信感、不快感を抱いた。
『お前が殺すわけじゃない。契約とは関係ないケースだが?』
『も、申し訳ありません。』
『・・・努力はしよう。だが俺の秘密を一端でも知るようなことになったら殺す』
『!!・・ありがとうございます。入り次第、剣術、マーシャルマジックアーツ、操射部で防衛線を構築し。誰も入ってこれないようにします。』
清夜はため息をつきながら一階ロビーに移動する。
とりあえず裏切る気がないのは確認した。
しかし不快感こそ消えど不信感が完全に消えることはなかった。
(案外、最初にチームを裏切るのはアルテミシア・・・いやセシル達を含めた4人なのかもな)
「そこのお前!何をしている!」
感傷(?)に浸る間もなくテロリスト5名ほどが侵入してきた。
さすがに第一目標のためだからか、高純度のアンティナイトだけでなくグレネードランチャーが付いているアサルトライフルまで装備している。
そしてテロリストの後ろにはアルテミシアの言う通り壬生の他二科生二人が付いて来ていた。
清夜は勇気ある青年を振舞う。
「そう言う君達こそ何をしている?この学校は関係者以外立入禁止だ。」
「式君!そこを退きなさい!」
「壬生先輩・・・やはり貴方もそちら側に立ちましたか。本当に哀れだ。雨の日に捨てられている犬より惨めだ。」
「人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい!」
「自分の立場を危ぶんでまで貴方を心配している人がいるのに・・・その人のためにもここは通しませんよ。何があって・・ガハッ!」
バチン!バタッ・・
突如、雷のような音が響き倒れる清夜。
壬生を始めテロリストも二科生徒も何が起きたのか分からなかった。
しかし、すぐに壬生と二科生はその音の意味を身をもって知る。
バチン!バチン!バチン!
「「「ウガァッ!」」」
(こ、これは電撃・・・いやスタンガ・・・)
首に衝撃が走り三人の視界が闇に落ちる。
「お、おい!?お前達!?どうした?」
「なんだ、なんなんだ!?」
「落ち着け!敵も気絶したんだ!むしろ都合がいい。今の内に・・」
「彼女達は私の魔法で気絶したよ。BS魔法で出来たスタンガンでね」
「「「「「!?」」」」」
最後のセリフはテロリスト達ではなかった。
その発信源は前のめりに気絶しているはずの清夜からだった。
テロリストは驚きながらも銃を清夜に向けた。
「な!?気絶してたんじゃないのか!?」
「演技だよ。これからゴミ屑を処分するのに目撃者は必要だからね。
「ふ、ふざけるな!化け物!!」
バババババッ!パンパンッ!
清夜に向けて集中射撃するテロリスト。
だがというか、もちろん弾が清夜に当たることはなかった。
「へぇ、弾のほとんどがヘッドショットコースだ。よほど殺し慣れてるようだね。君たちが今のブランシュ一番の精鋭ということか。」
「な、なんで弾丸が手前で止まる!?キャストジャミングしながら撃て!とにかく撃て!」
キィィィィィ!
バババババッ!
「子供誑かしてテロを手伝わせて、そして子供を殺そうとしたんだ。まさか自分だけ無事でいられると思ってるの?・・」
テロリストは必死に撃つが全てが清夜に直撃する直前で静止する。
清夜にとってはもう見慣れた景色だ。
いつも無駄だと分かっていても恐怖で撃つことが止められない光景。
「く、クソがーー!!」
バゴン!バゴン!バゴン!
「「「「「ヴェグバッ!!」」」」」
グレネードランチャーを使おうとした次の瞬間、爆発音が鳴りテロリストが血を流して倒れる。
爆発の衝撃とグレネードランチャーが暴発(正確には腔発)し壊れたアサルトライフルの破片が喉や腹に深く突き刺し傷つけたのだ。
これは事故によるものではない。
『EMJ』
正式名称『Electric Missile Jammer』と名付けたこの魔法は清夜の『電気使い』の応用にしてミサイル迎撃術式の一つ。
その名の通りグレネード弾やミサイルの信管に電気的干渉をし誤爆や不発させたり出来る。
『マリオネット・ジャック』と区別するのは軌道変更などが出来ない代わりに単一工程並みに簡単に発動できるからである。
「ぅ・・・k・・ぐ・・たす・けて」
「さて、ここでクイズだ。武器も壊れ、手足も動かせない、このままじゃ出血多量で死んでしまう君達に私は何をすると思う?」
「う・・・ぁ・・?」
清夜は階段に座り込み優しげに微笑む。
しかし、その答えはテロリストの想像以上に優しくなかった。
「
「ぉ・・・・鬼・・・ぃ」
「悪・・・・魔ぁぁぁ・・・。そ・・れで・・も人・・かはっ・・・」
テロリストが最後に見たのは優しげな微笑みではなく、轢かれて死んだ猫を平然と眺めるような冷たい目だった。
「これぐらいで嘆かないでくれよ。冬華が君達悪に受けた仕打ちに比べたら、こんなのはお遊戯にもならない」
返事が出来ない屍を横目に『ニューロリンカー』に送られた公安と情報部の構成員の正確な位置情報、顔写真を見る。
「さて公安部、軍情報部の諸君。君達にもお仕置きが必要だ。スパイまで送り込んで生徒の心の隙間に付け込んで情報を盗むくせに、いざとなったら助けもせず高みの見物を決めるなんて非道いじゃないか。君達や法の善悪なんて知ったこっちゃない。善悪を決めるのはこの私だ。」
これは魔法に必要な情報。
清夜は笑みを浮かべた。
今度は歪んだ顔で・・・
「じゃあ始めようか。新魔法の実験を・・・」
清夜が発動したその魔法式は禍々しく黒光っていた。
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2095年 4月22日 第一高校 講堂
一科と二科の蟠りに一応の決着がついた講堂でも事件は起きていた。
爆発を合図に動きだした同盟メンバーをマークしていた風紀委員が取り押さえる。
すると今度は窓からガス弾が投げ込まれ、同時にガスマスク装備のテロリストが入ってきた。
ガスと武力で制圧されると思われたが服部の収束系と移動系の魔法によりガスが拡散することなく外に戻っていく。
そして目論見が外れたテロリスト達は摩利の魔法で返り討ちに会い拘束された。
こうして講堂のパニックは未遂という形で終息を迎えたが外も同じというわけではない。
達也は摩利に進言した。
「委員長!爆発があった実技棟を見てきます!」
「お供します!お兄様!」
摩利はどうしよかと思ったがここはパニックを事前に予測した功労者の一人に任せることにした。
「二人とも気をつけろよ!」
「「はい!」」
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2095年 4月22日 第一高校 中庭
「お兄様の予想通りになりしたね。」
「あぁ、清夜が予想してピックアップしたマーク対象者リストもほぼ予想通りだった。だがここまで大規模とは思わなかった。主力を集中させたのが裏目に出たな。」
テロリストの奇襲により各棟、校舎から火の手が上がっている中、何故講堂だけが未遂だけで済んだかと言うと風紀委員と部活連で講堂の襲撃を予測していたからだ。
その中で特に達也と清夜は襲撃ルート、パターン、襲撃に参加するであろう同盟メンバーなどをいくつも予測していたのは大きかった。
しかし講堂に清夜の姿はなかった。
「その清夜君は?」
「あいつは「戦いは得意じゃない」と言って参加しなかった。まぁ、思い切っり嘘だが俺は特に何も言ってない。だが予想以上に戦場が広がっている以上、何もしてないわけじゃないだろう。」
爆発、発砲音、怒声、悲鳴が鳴り止まない中庭を駆け抜ける兄妹。
実技棟に近づくとよく知っている人物がテロリスト3人を相手取っていた。
「レオ!」
「達也!こりゃ一体!?」
「お兄様、ここは私が!」
深雪がCADのパネルに指を滑らせるとテロリストは上空に飛ばされて倒れる。
とそこにエリカも現れた。
「レオ!CAD・・ってもう援軍が来てたか。これは達也君?」
「いいえ、私よエリカ。お兄様にそんな手間をとらせないわ」
「はぁ〜・・ハイハイ、平常運転ですこと。それでこいつらは何者なわけ?問答無用でぶっ飛ばしていいの?」
エリカとレオは好戦的な目を向ける。
やはり似た者同士と思ってたが達也はあえて言及せず敵の説明する。
「こいつらは侵入してきたテロリストだ。生徒でなければ手加減無用だ。」
「あはっ、高校ってもっと退屈なところだと思ってた。」
「お〜こぇ〜。好戦的な女だぜ。」
「だまらっしゃい。ところで清夜君は?一緒じゃないの?」
達也はほんの一瞬、エリカの目に不安の色を見た。
「いや、一緒じゃない。恐らくどこかで清夜なりに戦ってると思う。」
「そう・・・でこれからどうする?実技棟は先生達が制圧しちゃたけど」
「なんだか思ったより戦力少ねーな。俺が言うのもおかしいがこいつら3人がかりで魔法も練れねーようだし弱いぞ。」
当たり前のように言っているが3人を同時に、しかも素手だけで相手取るのは容易ではない。
なんとなくは感じていたがレオもかなり腕がたつようだ。
だか達也はふと思った。
一番最初に攻撃したのに戦力が少ないということはここが目的ではない。
となると学校の運営などに影響が出る場所が標的。
そうなると考えられるのはすぐには調達できない資料または機材がある・・
「もしかして図書館と実験棟か・・・その場合、選択肢は3つ。図書館か、実験棟か、二手に分かれるか」
「テロリストの標的は図書館よ。すでに主力は向かっているわ。壬生さんもそこにいるわ。」
答えは後ろからもたらされた。
振り返るとそこにはカウンセラーの小野遥がいた。
いつの間に!?、とかあるが今はそんな場合じゃない。
「後ほど説明を」
「却下します。と言いたいけど仕方ないわね。代わりに壬生さんに機会をあげて!私が不甲斐ないば・・!」
遥は思わず一歩下がる
それもそのはず深雪が物凄い剣幕で睨んでいるのだから。
深雪は隠行と達也の言葉で気づいていた。
遥がただのカウンセラーではなく国の諜報の人間だと。
だから許せなかった。
カウンセリングを利用して情報を集めていたこと。
テロを防ぐ人間なのに、カウンセラーとしても止められる力もあるはずなのに戦いもせず子供に押し付けようとしていること。
なによりも心を取り戻した兄の優しさにつけこむことが許せなかった。
「甘いですね。行くぞ深雪」
「はい」
「おい!達也!」
「レオ。余計な情けで傷付くのは自分だけじゃないんだぞ。」
切り捨てる趣旨の発言をする達也。
でも深雪は分かっていた。
それでも自分の身をすり減らしてでも出来る限り助けようとしてしまうことを。
本当は嬉しいのにそれで兄が傷付くのは嬉しくなかった。
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2095年 4月22日 第一高校 図書館前
図書館前は拮抗した小競り合いになっていた。
それは応戦している生徒の方がテロリストより人数が少ないのにだ。
生徒達は剣術、マーシャルマジックアーツ部員を先陣に操射部員などで側面支援して敵を着実に倒している。
いくら将来有望な人材とはいえ実戦経験なしでここまで綺麗な連携は出来ない。
(恐らく優秀な指揮官が・・・なるほど彼女だったか)
達也はその指揮官こそ清夜だと思ったが違う人物が指揮をとっていた。
「半田君!2時方向から敵が抜けようとしているわ!片山先輩は一度下がって大谷さんのカバーに入ってください!」
ズバッ!!
「グブァ!」
「バハァッ!」
アルテミシア・アシュクロフト
二年剣術部部長にして部活連副会頭。
彼女は自ら前線に立ちながら適確な指揮をとっていた。
その指揮も見事だが達也達が驚いたのは彼女の実力。
木刀一振りで2、3人を斬り倒している。
剣術家のエリカもその強さに驚いていた。
(強い!?力に特化してるでも、私のように速さに特化してるでもない。総合的なスペックが高すぎる。それに・・)
「くたば・・・グギャアッ!」
ズバババッ!
(敵の一回の攻撃の間に3回以上は斬りこめる。それも私のような自己加速術式によるものじゃない。なにかしらの固有魔法で可能にしてるんだわ。あの女でも、いや私でも勝てるか分からない。下手したら次兄上でも・・面白いじゃない)
恐らくこんな場合じゃなかったら勝負を仕掛けに行っただろう。
だが今すぐというほど馬鹿ではなく、自分の今の実力を過信していなかった。
「アシュクロフト先輩!無事ですか?」
「司波君!深雪さんも来てくれたのね!私は無事だけどこのままじゃ生徒から死傷者が出るかもしれないわ!手伝って!」
「俺が行くぜ先輩!うぉぉぉぉぉぉ!パンツァー!」
ドガッ!
「グアッ!」
いの一番にレオが飛び出し敵を殴り飛ばした。
普通なら叫ぶ必要はないが彼が魔法を使うのには必要だった。
「音声認識型CADとはまたレアなものを・・」
「お兄様。今、硬化魔法の起動式の展開と魔法の構成が同時進行していたましたが?」
「あれは10年前に流行った逐次展開という技術だ。魔法終了までに同じ魔法の起動式を展開しておくことで終了と同時にさっきと同じ魔法が発動する。つまりタイムラグなしで硬化魔法が継続されるんだ。」
なんて会話している間にも達也達は襲いかかる敵をあしらっていく。
レオに関してはテロリストの魔法で飛ばされる瓦礫や氷礫を拳だけ防ぎ、襲いかかるナイフも刺さることなく砕け散らせている。
「プロテクターの形をしているとは言え、あんな使い方してよく壊れないわね。」
「CADや服自体に硬化魔法をかけているんだ。今のレオは全身がプレートアーマーに覆われている状態だ。ついでに言うと硬化魔法は硬度を上げる魔法ではなく分子などの相対位置を固定する魔法だ。物が壊れる=分子などの相対位置が変わることだから固定されてる限り壊れることはない。」
「それにプレートアーマーと言っても動きづらくなるわけじゃないわ。だからこそあんなに動けるのよ。」
達也達が敵を倒しながら中央に近づくとアルテミシアも近寄る。
「皆、清夜君見てない!?」
「いえ見てませんが」
「図書館にはいたらしいんだけど逃げて来た人の中に彼がいないの!」
その言葉にエリカにしては珍しく不安で焦った顔をした。
「先輩!もしかしたらまだ中にいるかもしれない。私が見てくる!」
「待てエリカ。一人で行くんじゃない!」
「でも!」
「分かってるわエリカ。だから私とお兄様も行くわ。」
達也はエリカの実力を知らないわけじゃない。
不安なのも涙目を見れば分かる。
だがだからこそ焦って一人にさせるわけにはいかなかった
「行ってこい三人共!ここは任せろ!」
「ここはなんとかするわ!清夜君をお願い!」
「お願いします先輩!」
「ごめん・・・頼んだよレオ!」
達也達は二人に背中を押してもらう形で
図書館内に入っていた。
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2095年 4月22日 第一高校 図書館
図書館内は静まり返っていた。
この建物には警備員もいたはずだが、きっと実技棟の方に誘い出されてしまったのだろう。
達也は入り口近くに身を潜めると館内の存在を探る。
(これは・・どういうことだ?)
おかしな雰囲気。
そう、まるで殺し屋がいたあの倉庫と似た状態。
「お兄様?」
「・・・階段上り口に9人。その内4人が気絶していて5人が死んでいる。」
「達也君、知覚系魔法使えるんだ。すごいね!でもそれってどういうこと?意識ある人間が一人もいないって。もしかして・・・清夜君!」
言葉途中でエリカはスペースから飛び出し階段を目指す。
着くとそこには達也の言う通りテロリストが5人死んでいる。
残り4人は壬生と剣道部員二人、そして清夜だった。
「清夜君!!清夜君!!起きて!起きなさいよ!」
「落ち着いてエリカ。怪我してて悪化したらどうするの。まずは怪我の確認よ。」
そこに深雪と達也も到着。
気絶してる清夜を怪我をしてないか慎重に調べた。
「怪我はなさそうだが・・む、首の付け根近くに痕が二つあるな。相対位置から考えてスタンガンで気絶させられたのか。」
「死んでないの?」
「ああ、大丈夫だ。とりあえず起こすか。おい清夜、清夜!」
ゆさゆさと揺らすと清夜は目を覚ました。
「ん・・あ、あれ?達也?司波さんに、エリカも」
「清夜君!よかっ・・い、いや大丈夫なのは分かってたわ!」
「あらエリカ。さっきまで泣きそうな顔して必死に起こし・・むごっ!」
「ちょっ!?黙ってなさい深雪!」
「とにかく無事で何よりだ清夜。皆、心配していたぞ。」
エリカと深雪はじゃれ合い、達也が安心した顔を向ける。
それに対し清夜は状況が飲み込めないのか目をパチクリしていた。
「え、えとこれは・・ツッ!?そうだ壬生先輩と対峙した時に後ろから攻撃を喰らって・・!?。こ、この死体は達也達が?」
清夜は青ざめた表情で三人を見つめた。
自分が殺しておいてなんと白々しいことか。
だがその演技を見破る力は達也にはなかった。
「いや来た時にはこうなっていた。それで・・」
「ん・・!?青竹さん!皆!」
ここで一つ清夜にとって予想外のことが起きた。
気絶していた紗弥香が目覚めたのだ。
「司波君!式君!これは貴方達がやったの!?」
「いえ、俺達ではありません。我々以外の第三者にやられたのでしょう。それより壬生先輩は何をしようとしていたのですか?」
「そ、それは誰もが等しく優遇されるために魔法研究資料を公開するつもりだったのよ!」
一瞬言い淀むが開き直りに近い声を上げた紗弥香。
清夜はますます哀れんだ。
「先輩まだそんな戯言を言うのですか。自分が正しい人間とは言えません。でも生徒を傷つけて、産業スパイの手伝いをして本当にそれが正義だと思うのですか!」
「その通りです壬生先輩。これが現実です。誰もが等しく優遇される世界。そんなものはあり得ません。もしあるとするならば誰もが等しく冷遇される世界以外にありません。先輩は利用されたんです。これが他人から与えられた耳当たりのいい理念の現実です。」
「どうしてよ・・・何がいけなかったと言うの!?差別は確かにある!貴方達だって同じでしょう!?特に司波君はそこの妹さんと比べられてきたはず!そして侮辱されてきたばずよ!誰からも馬鹿にされたはずよ!」
それは叫びだった。
不当な差別を受けてきた紗弥香の悲痛な
叫び。
だがこの二人の心には届かない。
一人はそういうものだと「受け入れている」から。事実として「認識している」から。
もう一人は「興味がない」から。彼が生きているのは「復讐」のためだけ。復讐さえ出来れば不当な侮辱も差別も許容範囲だ。ましてや哀れな人間の言葉などで心動かされるほど優しくはない。
この二人はそんな人間だ。
その代わりではあったがその傍らにいた二人には届いた。
「私はお兄様を侮辱したりしません。もちろん清夜君のこともエリカのことも」
「あたしもよ。出会ってまだ短いけど私は一度たりとしてこの三人を侮辱したこはないわ。」
エリカと深雪は二人の一歩前に出て紗弥香と対峙する。
「例え全人類がお兄様を侮辱し差別しようと私は変わることのない敬愛を捧げます。魔法の力故ではありません。そんなものはお兄様の魅力の一端にもすぎませんから。」
「そもそも「誰もが侮辱した」って言うことじたいが許しがたい侮辱よ。確かに二人を侮辱する輩はいたわ。でもそれと同じくらい二人を認めてくれる人をあたしは見たわ。先輩にはそんな人いなかったの?」
「いいえ、少なくともお兄様は認めていましたよ。貴女の腕前を、容姿を」
「そんなもの上辺だけのものじゃない!」
「でもそれも先輩の一部でしょ?」
「それにたった数回しか会ってない相手に何を求めているのですか。結局、誰よりも貴女を侮辱していたのは貴女自身です。」
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!もういい!そこを退きなさい!斬り捨てるわよ!」
二人の正論による言葉責めは彼女を操る糸を断ち切るとはできなかった。
紗弥香はあらかじめ持ってきていた。スタンバトンを構える。
達也、深雪、清夜は戦闘体勢をとるがエリカがそれを制した。
「ここは私がやる。」
「エリカ・・」
「手助け無用だよ清夜君。少しは私を信じなさいって。それじゃ始めましょうか先輩。私は千葉エリカ。よろしく」
清夜の声をよそに警棒を構えるエリカ。
紗弥香はすぐには動かなかった。
いや、動けなかった。
笑っているエリカだが通り抜ける隙が一切ないのだ。
そして少しの間の後、戦いは始まる。
気合の掛け声も合図もなしに。
ガキン!ガキンガキン!
初撃はエリカ。紗弥香の首元目掛けて警棒が振られる。壬生はその速度に驚きづつも無意識に払って防いだ。
しかし、防いだ次の瞬間にはエリカは背後に回りこんでいた。
紗弥香は振り向きながらバトンを縦に構える。
直感とも言える防御だったがダメージは衝撃だけで抑えた。
定石ならばここで鍔迫り合いに持っていくのだが、すでにエリカは間合いの外に逃げていた。
「自己加速術式・・渡辺先輩と同じ?」
渡辺というワードにエリカの足が一瞬止まる。
たかが一瞬、されど一瞬。
紗弥香が攻撃に転ずるには充分な隙だった。
キィィィィィ・・
「っ!?」
紗弥香が指輪にサイオンを注入すると
キャストジャミング特有のノイズとともにエリカの表情が険しくなる。
ガキンガキンガキン!!
面、面、胴、袈裟斬り、小手、斬り上げ
紗弥香の連続攻撃がエリカに襲いかかった。
古流をも取り入れたその剣筋にエリカは防戦一方に・・・見えた。
清夜にはエリカの表情が見えた。
(笑っている?)
そもそも防戦一方ということがおかしい。
紗弥香は攻撃に力を入れすぎてキャストジャミングが弱くなっているから自己加速術式で距離をとることができるはず。だがエリカは自己加速術式を使わない。
その理由はすぐに分かることになった。
「はっ、はっ、」
「あら、もう息切れ?じゃあ次はこちら・・からっ!」
ガキンガキンパキーン!!
怒涛の連続攻撃。
すぐに息が切れるのは必然だった。
エリカはその息切れの瞬間、お返しと言わんばかりに小手、袈裟斬り、斬り上げの連続攻撃を仕掛ける。
そして最後の一撃でスタンバトンをへし折った。
さながら剣の円舞曲。
エリカの華麗な攻防に清夜も目を奪われていた。
しかし勝負は終わっていない。
「拾いなさい。そして貴女の全力を見せなさい。あたしの最強をもって貴女を縛るあの女の幻影を斬り捨てる。」
エリカの視線の先には剣道部員が持ってきた一本の脇差。
覚悟を決めたのか、紗弥香はアンティナイトの指輪を捨て、ブレザーを脱いで構えた。
「こんなものには頼らない。私の剣で渡辺先輩と同じその技を打ち破る。」
「あたしの剣はあの女のものとは一味違うわよ。」
そこにはもう怒りも迷いもない。
純粋な闘志が場を支配していた。
そして二人は駆け抜ける。
全てをたった一撃に込めて。
ガキン!
決着は一瞬でついた。
「ごめん先輩。ヒビが入ったかも」
「・・いいわ、てかげんできなかったんでしょう?」
膝をついたのは紗弥香だった。
それでもエリカは賞賛する。
「うん、先輩は誇っていいよ。千葉の娘、それも印可の剣術家に本気を出させたんだから。あたし剣術なら目録のあの女より強いんだから」
「そう・・・ねぇ、おね・・」
「あ、あの!」
感動の幕切れに水を差したのは清夜ではなかった。
かと言って達也でも深雪でもない。
その声の主は裏口通路近くの本棚から出てきた。
「そ、その、わたわた私!爆発があってからずっと隠れてたんですけどもう大丈夫なんですか!?」
日本人にしてはやや白い肌。
黒い髪に可愛らしい目。
身長こそ小さいものの美少女と言える少女だった。
紗弥香が知らないところを見ると同じ一年生なのだろう。
エリカは笑いながら構えを解いた。
「えぇ、だいじょ・・」
「「全員、そいつから離れろ!!」」
達也と清夜が叫んだのとほぼ同時だった。
その少女はスカートから拳銃を取り出し発砲する。
バンバンバンバンッ!!
達也は深雪と紗弥香を、清夜はエリカを抱えて本棚に避ける。
本棚が木製じゃないのが幸いだった。
だが数発撃たれれば貫通するかもしれない。
なぜなら少女が持っているのは拳銃でもトップクラスの威力を持つデザート・イーグルなのだから。
「フジャッケんな!何で分かった!?」
少女は怒りながらナイフ型のCADを構える。
達也が分かったのは最初に存在を確認した時に見つからなかったから。
少なくとも嘘をついているのは分かった。
清夜はというと
「それ裏で売られているレプリカだろ?胸に紋章が付いてるのに肩には紋章が付いてない。そんなオーダーミスを着ている奴、入学して一カ月近くたったこの学校には一人もいないはずだ。」
「チッ、あのビッチ!簡単にバレるのを用意しやがって!キッシシシ・・まぁいいや。こいつらなら楽しめそうだしな。」
そうしている間にもパンパンッ!と少女は音を鳴らせていた。
その標的は気絶している二人。
二人とも頭を撃ち抜かれた。
「亀田君!木下君!」
「何よアイツ!?ブランシュでもないの!?」
「お兄様!あれは!?」
「雰囲気から工作員か暗殺者と考えるのが妥当だ。たぶん清夜達を気絶させたのも奴だろう。ここにいる人間を殺すのが目的なのか分からないが」
「どちらにせよ、このままじゃ皆殺しだろうね。どうにかしないと」
清夜の声をよそにエリカはちょろっとだけ本棚から頭を出す。
お約束通りならここで弾丸が飛んでくるのだが飛んでくる気配はない。
そのことを良しと思ったのかエリカは提案した。
「入り口は塞がれてない。例え取り押さえるのが無理でも逃げるぐらいなら。」
そう言ってエリカ立ち上がろうとするが
清夜に袖を掴まれ止められる。
「駄目だエリカ。あれは『欠囲』だ。」
「欠囲?」
「あえて退路を作ることで窮鼠の力を発揮させない、または殺すための誘導技なんだ。」
「清夜の言う通りだ。この場合は間違いなく後者。うかつに出口に向かったら殺される。」
「じゃあどうするの司波君?」
戦っても必ず誰かは死ぬ。下手したら全滅。
かと言って出口に突っ走るのも殺されるだけ。
しかし手がないわけじゃない。少なくとも取り押さえる力と作戦を達也と清夜は持っていた。
問題なのは人がいる前で自分の力を見せてしまうことだった。
それに殺し屋が見てから逃げてしまい、その力が危険視され命を狙われてしまうオチはよろしくない。
エリカにしては珍しく暗い表情が浮かんだ
カタッ・・・
清夜の中でもう壊れて消えたと思っていた”何か”が修復される音がした
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・方法がないわけではありません。」
達也は苦渋の顔を浮かべている。
そうだ。ここは達也に任そう。
そうすれば達也の力も見れるかもしれない。
俺も話や表情を合わせる。
「道が開いてるのは事実。なら一人が足止めをしている間に四人が脱出。これなら確実に四人は助かる・・か?」
「そんな!本当なの達也君、清夜君!?」
「お兄様・・」
達也は無言で頷く。
やはり俺と同じ考えか。
なら、俺がいうことは決まっている。
「じゃあ、俺が足止めをする。」
へ?
達也の声ではない。
どこの誰ですか?え、俺?
何を言ってるんだ俺?
違う、ここは「任せた」だろ?
なんで俺が引き受けるんだよ!?
「違うぞ清夜!それは最悪のケースという意味で」
「そのケースが今じゃないか。」
そうかも知れないが俺じゃなくていいだろう!
なんで俺なんだよ!自演だがスタンガン喰らってんだぞ!
「なら、俺と一緒に・・」
ガシッと俺は胸倉を掴む。
おいおい、何するんだ俺!?
まさか、漫画みたいな臭いセリフを、吐くんじゃないだろうな!?
「妹を置いてか?外だってまだ危ないんだぞ!兄なら妹の命を第一に考えろよ!兄なら死んでも妹を守りやがれ!」
「・・・っ!?」
何で泣いてるんだよ!
今は昔の自分に後悔する時間じゃないどろうが!
「なら私が」
「先輩は怪我をしていますから却下です!」
「私が一緒に!」
「司波さんも話を聞いてだろ!?兄のためにも生きるんたよ!あんたは!」
今は善人面するなよ!
今までだって他人の命を踏み台に生きてきただろ!
冬華の時だってそう!
今だってテロリスト殺して、公安部や情報部の命を実験に使っているだろ!
「じゃあ、あたしが行く!嫌だと言ってもあたしは・・・」
「お前じゃ足手まといだ!」
「!!」
そうだ!アルテミシアの増援だ!
何で呼ばない!?
まさか、優しい彼女を巻き込みたくないというのか!?
散々、殺させておいて何を言う!
捨て駒でもいいだろう!
裏切りの兆候はあるんだろう!?
「もしもーし!作戦会議は終了でーす。キッシシシ、続いてはバッドエンドのお時間ですよー」
「もうこれしかない。手信号のスリーカウントで行くよ。」
冬華の無念はどうする!?
冬華を見捨てるのか!?
俺が生きなきゃ復讐できないだろう!!
だからやめろ!
「式君。私がこんなこと言う資格はないけど無理はしないで」
「清夜君、武運を・・・」
「すぐに助けを呼んでくる。それまで死ぬなよ清夜」
「ッ・・・」
ちがうちがうちがうちがう
3
ちがうちがうちがうちがうちがうちがう
2
ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう
1
違う!
go!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五人はそれぞれ別の本棚から一斉に飛び出した。
「1分あげてやったのに思いついたのはそれか。結局、こいつらはイエローモンキーってことか・・・死にな!」
「お断りだチビ!」
ガキン!
バン!
「!?、グブッ!」
ドガッ!
弾はエリカの数センチ左に直撃した。
外したのではない。
清夜がナイフ型CADを拳銃に当てて銃身をズラしたのだ。
無論、それで終わらずヒザ蹴りで少女を蹴り飛ばす。
「ちぃっ!」
シュバッ!パンパン!
少女は衝撃で体を崩しかけながらも清夜にナイフを振り、銃で追撃をしかける。
それに対し清夜は引き剥がされる形でナイフを避け、柱に隠れて弾を防いだ。
たったこれだけの攻防だがこれで十数秒稼げた。
距離的に考えてこの時点で四人の脱出は確実と言っていいだろう。
自分が望んでない展開だがこの相手一人ならBS魔法を使わずになんとかなるかもしれない。
そんな思いも出てきた。
しかし、幸運の女神というのは非情だった。
パリンパリンパリンパリン!!
着弾の直後、二階の窓が割れる音が聞こえた。
その後に聞こえた足音の数は8
歩幅、速度から考えて教師などではない。間違いなく軍隊経験者。
つまりは敵の増援。
一瞬でそれを判断した清夜は叫んだ。
「止まるなーーーー!」
「ッ!?」
入り口で止まりかけた足を無理やり動かす四人。
あまりにベタな展開に清夜はヘドが出そうになるが笑い事では終わらせられない。
増援が来る前に自分も急いで出ようとするが少女がそれを阻む。
「おいおい、逃げんなよ殺せないだろ」
パンパン!ガシャン
数回の発砲音の後に何かが落ちる音。
武器商人の清夜はよく知っている。
弾切れのカートリッジの落ちる音だ。
それに気づいた清夜は柱から飛び出し逃げようとした。
しかし、
「っ!」
ググッ!
少女の加重系魔法が清夜にかかる。
清夜の干渉力を持ってすれば倒れるほどの威力にはならないし、振り払えるがリロードして発砲するまでの時間は出来る。
「あばよ」
ガシャッ!パン!
「誰がそんな間抜けな死に方するかよ!」
パンパンパンパン!
清夜は加重系を振り払い、仰け反りながらナイフ型CADの移動魔法で弾丸の軌道をズラした。
そして今度はリボルバー型のCADを取り出し空気弾をぶつける「エア・ブリット」を放つ。
当たらなくともけん制にはなると思ったが少女は清夜の想像を超える。
まるで昔会った殺し屋を彷彿させるような速さで
「キッシシシ!」
「なっ!」
(透明の弾を全部、突撃しながら避けたやがった!伊万里並に速い!?なんだこいつ!)
ガキンガキン!
「へぇ、スペシャルフォースの人間でも今の速さなら死ぬんだけどな。テメェもオウル並に速いじゃん。ぶっ壊れてやがる。」
「くっ!」
CADとはいえ皮肉にも互いにガンエッジ(両手に銃とナイフ)。
二人はナイフと銃の鍔迫り合いという形で止まった。
このまま千日手状態ならありがたいがそんなわけない。
二階の冊から覆面兵士姿の男が顔を覗かせる。
「紅雪!状況は?」
(肌が黒い・・・南米、アフリカ・・いや白人もいる!ということは・・)
「遅ぇんだよ間抜け。見ての通りだ。」
「よし、トレジャー3、4、5は行け!残りは援護だ。」
ババババッ!
「っ!・・」
図書館の階段が吹き抜けというのが悪かった。
五人の男は囲むように位置取り吹き抜けを見下ろす形で銃を構えると二階からアサルトライフルの弾と魔法の雨を降り注いだ。
清夜は慌てて吹き抜けから離れ本棚に逆戻り。
(最悪だ!あのチビでもキツイのに!!どうするBSで殺すか!?いや駄目だ!せめて上にある熱光学迷彩のコートが取れればいいんだが)
達也の場合なら最悪、分解で殺すという手がある。
しかし、清夜の場合はそうはいかない。
達也は彼女達がスタンガンの犯人と考えている。
仮に彼女達を殺してしまえば死体を調べられ、スタンガンがないのに気付かれる。
そうすれば過程はともかく、間違いなく達也は清夜に疑いの目を向け、犯人またはBS魔法持ちだと分かってしまうだろう。
かといってBS魔法で逃げるのも前述通り、後々、魔法のせいで彼女達に命を狙われることになる。
つまり清夜が目指さなければならないのは「BS魔法を使わず、敵を殺さずこの場を生きて切り抜けること」
なんて鬼畜な勝利条件だろう。
しかも清夜はあることに気づいた。
(別の階段から二階に逃げて魔法で・・・!?CADが動かない!?キャストジャミングではないとなると故障か?いや違う!CAD限定のジャミング装置か!)
「ははは!魔法が使えない気分はどうだ小僧!これが我が国の最新兵器の効果だ!ヒャハハ!」
「おい!べらべらと喋るな!時間がないんだ。下降りて援護いけバカ!」
増援のリーダーらしき男が部下を叱りつける。
焦ってるかのような会話だが彼らには隙がない。
紅雪と呼ばれる少女はつまらなそうに構えた。
「ちっ!あいつら・・・なんだかつまんねー形になったが仕方ねぇ。まぁ、私相手にテメェもよく生きたよ。誇っていい、ただしあの世で・・だが」
清夜は顔を顰めた。
入り口、裏口からは遠ざかってしまった。
入り口、裏口から逃げるには必ず銃弾と魔法の雨が降りかかる階段前を通らなければならない。
そして階段は一つだけではない。
二人の男が別々の階段を降りてこっちに向かってくる。
つまり出口が塞がれた状態で紅雪と増援に追い詰められている。
(BS魔法を使ったところで捕まって人生終了。使わなければ死ぬだけ。もうダメか・・・はぁ、短い人生だった。でも彼女を守ったんだ。気分は悪くない。冬華もきっと・・・)
清夜は終わりを覚悟した・・はずだった。
お兄ちゃん・・・苦しいよ・・・
冬華の悲しげな顔が頭をよぎった。
バキバキッバキーン!
清夜の中で修復されている”何か”がまた壊れる音がした。
「違う・・・そんなわけない。ごめん、冬華、エリカちゃん。忘れてた。希望なんかにすがらないんだよな。悪党でいるんだよな。」
「?」
カシャン・・・
CADに銃剣をつける音が響いた。
いや、清夜が復讐鬼に戻る音・・・かもしれない。
すると紅雪に不思議な事が起きた。
目の前で隠れているはずの清夜の気配が消えた。
かと思いきや
「切り捨てられないのは俺も同じだった。数分とはいえ何してんだ俺。必ずあの男を殺す・・だから全てを捨てでも・・」
ザシュ・・・
「ギィィィィアァァァァァ!!」
吹き抜けになっている階段から降りてきた男の一人がナイフで刺されていた。
後ろに回り込まれた感じはしなかった。
二階で構えていた男達も同様だ。
突然、現れたとしか思えない。
「なっ!」
紅雪も男達も一斉に銃を向ける。
「きえ・・・!?っ!!」
次に気づいた時には後ろから抱きつかれていた。
彼女の首にはヒヤリと冷たいものが、もしそのまま手前に引いてしまえば首から血が吹き出てしまう恐ろしいものが当たっていた。
ガキン!ガガキン!
かろうじて抜け出した紅雪。
仕留められなかった清夜は代わりに『マリオネット・ジャック』を使ってジャミング装置を止めた。
(どうでもいいんだ!いや何も変わらないんだ!!命を狙われるならその時殺せばいい!疑われる?なら達也を殺せばいい!警察なら金でも握らせて黙らせろ!復讐という結果を出せるなら手段、過程は・・・問わない!)
そのまま二人は吹き抜けの階段前まで移動し、ナイフの斬り合い、弾のぶつけ合いを始めた。
「キッシシシ!おもしれぇ、おもしれぇぞお前!」
「・・・」
ババババ!
ガキンガキン!パァン!ガキン!ドガッ!パァン!
紅雪の斬りおろしを清夜は斬りあげで防ぐ。
そのまま鍔迫り合いに形が変わったが清夜はすぐに空いてる片手でリボルバー型のCADを使い「エアブリット」で攻撃。
紅雪はこれを魔法なしの自身最高速度で躱す。
すぐに清夜はナイフで追撃を仕掛けたが
防がれ、逆に頭突きをくらってしまう。
そして引き剥がされた清夜に紅雪はデザートイーグルの鉛弾をお見舞い。
清夜は横に転がることで避けた。
『アルテミシア。現在、所属不明の第三勢力に襲撃を受けている。すぐにきてくれ。』
『!・・了解!』
『命に代えても守ってくれるよね?』
『この命に代えても必ず!』
(そうだ、切り捨てろ、踏み台にしろ!例え仲間の命を、エリカちゃんの命を犠牲にししてでも生きて生きて!復讐を成し遂げてやる!それこそが冬華への贖罪!恩返し!)
自己暗示のように繰り返していくが清夜の気持ちはどんどん冷めて乾いていき、そして思考が冴えていく。
不意に誰かが呟いた。
「ジーザス・・・」
二階にいる男達全員が同じ感想だった。
新型兵器で魔法が封じられているのにCADで魔法発動していたのもおかしいが戦闘そのものがおかしかった。
そもそも男達は二人の戦いを何もしないで見ているわけじゃない。
新型兵器を起動させながら清夜に集中射撃、魔法攻撃を行っている。
それは紅雪すらも巻き込む形で。
彼女との間に絆なんてものはない。
だから巻き込むことも攻撃も容赦してない。
なのにこの二人は魔法と弾丸の雨を掻い潜りながら戦っているのだ。
例えるならこちらも円舞曲を踊る二人。
それは剣と銃と魔法の円舞曲。
止められるのは殺しあっている当人達だけ。
(力勝負に持っていきたいが加重系で斬撃を重くなっているから期待はできない。となると空気弾だがこれも期待は出来ない・・・!、あれはもしや!・・・なら!)
清夜は当たらない空気弾を諦め、弾倉を二つ動かした。
バシュッ!
本に移動系の「ランチャー」がかかり紅雪に紅雪目掛けて飛んで行く。
だがそれも軽々と避けられた。
「おっとと・・・やるなぁ、亡霊野郎!」
ガキン!バンバンッ!
「亡霊・・・だと?」
ブン!シュパッ!
ピクリと清夜の眉が動く。
化け物とか悪魔とかは散々、言われてきたがそれは初めての呼ばれ方だ。
「プロに気配すら悟らせないんだ。そんなこと出来るのは亡霊しかいねぇだろ。」
「黙れ・・・」
「ははは、何だ?図星ってか?そういや、日本語には『生き霊』って言葉があったな。惨めなお前にはぴったりだ!」
「黙れぇぇ!」
清夜は叫びながら力任せに蹴り上げた。
無論、そんな攻撃をすれば大振りになり隙が出来てしまう。
そしてその隙こそ紅雪の狙い。
「あらよ」
ガッ!!
「っ!?」
バタン
蹴りを避けた紅雪は軽く足払いして清夜を倒した。
ここから戦いの均衡が崩れる。
シュッ!パンパン!シュッ!シュッ!シュッ!
紅雪はとうとう自己加速術式を併用し清夜を追い詰める。
「くそっ!!」
素早い斬撃に銃弾を前に清夜は後退しながら避けることしか出来ない。
清夜にとっては絶体絶命、紅雪にとっては千載一遇。
「どうした、スタミナ切れか!?遅くなって・・・!」
紅雪の中で違和感を感じた。
目の前には清夜と入り口のガラス張りのドア。
そして
紅雪は気づいた。
これは
『亡霊』で怒ってるのも大振りも速度が遅くなっているのも反撃しないのも
外にいる
追い詰めていたのではない誘い込まれていた・・・
「なっ・・・テメェ!!」
よく見ると清夜の目は冷たく据わっていた。
ついさっきのような演技ではない、間違いなく光のない瞳が清夜の今の本心。
清夜は侮辱するでも高笑いするでもなく冷たくこう呟く・・・
「お前の願い、この俺が踏みにじる」
紅雪は今日初めて、身震いした。
(こいつ本当に同一人物か!?最初に攻撃してきた時とはまるで違う!・・・はっ!?)
「まさかお前も
ピカァ!
ガラスに差し込む光が清夜の魔法で閃光に変わる。
その光が男達の、紅雪の目を眩ませた。
「「「うあぁあああ!」」」
「ちっくしょぉぉぉぉが!!!」
今まで隙がなかった彼女達にこの瞬間、致命的といえる隙が生まれた。
清夜は紅雪の首を目掛けて銃剣を振り下ろす。
「・・・終わりだ」
「んなわきゃねぇーだろ!!」
シュッ!!ガキン!!
「!?」
なんと弾いたのだ。
紅雪の視界は眩んでいるはずなのに正確に清夜の銃剣CADをナイフで弾いた。
さらに・・・
「もう一丁!!」
ガキン!!
清夜のナイフまでも弾いてしまった。
こんなこと出来る方法は一つしかない。
「知覚系魔法・・・」
「今度こそ、終わりだ!」
「・・・」
銃の引き金に指を掛ける紅雪。
だが未だ清夜の目の色は変わらない。
少なくともこれから命奪われる人間の目ではない。
その理由は清夜の後ろから現れた
バリン!
入り口のガラス張りのドアを突き破り一つの人影が紅雪目掛けて隼の如く突撃してくる。
「その人から・・・離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ズバババッ!
「デザートイーグルが!?」
金髪で紅雪と同じくらい白い肌の人物『アルテミシア』
木刀から日本刀に装備を変えていた彼女は紅雪に高速の斬撃を斬りつけデザートイーグルを切り裂いた。
本気の清夜と互角以上の速度で戦える紅雪が反応出来ず防御だけになってしまったのには理由がある。
『反応加速』
アルテミシアだけが持つ固有魔法。
加速系に分類される魔法だが千葉家が好んで使う自己加速術式とも自身の神経への干渉を得意とする一色家のそれとも違う。
自己加速術式は運動速度を速める魔法。
一色の魔法では神経の伝達速度を上げるのが精一杯。
それに対し、この魔法は
故にアルテミシアは常人の数十倍以上の速さで反応し回避、防御、攻撃が出来るわけだ。
自己加速術式を併用すれば世界の名だたる近接戦魔法師をも上回る。
これが弾丸を容易く避ける紅雪でさえも反応出来ない最大の理由だ。
(二段構えで本命はこの女か!?いや、それよりも命の瀬戸際だっていうのに迷うことなく自分の命を囮に使いやがった!体がぶっ壊れてるとか自棄とかじゃねぇ!こいつ脳味噌からイカれてやがる!!)
それでも紅雪は負けるわけにはいかない。
「舐めん・・うぐっ!」
カタン・・
紅雪はナイフを振りかぶる直前、手に激痛を感じナイフを落としてしまう。
見ると手には何かで穿かれたような痕があり血が出ている。
アルテミシアや清夜とは思えない。
距離をとりながら周りを見ると銀色のCADを構えた達也がいた。
「お前の企みもここまでだ。両手を挙げて投降しろ。」
「さっき逃げたむっつり野郎・・・!!」
だが紅雪は反撃する暇がなかった。
目の前から魔法の兆候を感じたからだ。
すると見えない壁でも出来たのか、紅雪は四角い何かに体を押された。
いや紅雪は分かっていた。
「当校の生徒から離れろ!」
「ファランクス・・・カツト・ジュウモンジか!」
ダンッ!タッ!
紅雪は押してくる壁を逆に足場にして二階に飛び移る。
そこには視界が回復した男達だけでなく、奥で作業していた三人も記録用キューブを大事そうに抱えながら来ていた。
紅雪達の損害は刺された男一人、作戦上捨て置くことは出来ず死体は担がれていた。
「おい、紅雪撤退だ!最低限の任務は成功・・ウォッ!」
「あら、どこへお逃げになるのですか?おじ様方?」
「マユミ・サエグサ!?」
ビュバッバッバッ!バキン!
空中にツララのようなものが出来ると弾丸の速度で紅雪達に襲いかかる。
性格にはドライアイスの弾を降らせる七草真由美の得意魔法「ドライ・ミーティア」だ。
紅雪達は全員回避するが男が大事に抱えていたキューブにはあたり砕けた。
「フ◯ック!キューブが!」
「ドライ・ミーティアだ!全員周囲を警戒!」
「ルート1から脱出は出来ない、ここはルート3使って脱出だ。」
紅雪達は窓を目指す。
しかしそこにも待ち伏せがいた。
というより飛び乗って現れた。
「行かせない!」
ボバッ!
渡辺摩利。
風紀委員長にして十師族直系の真由美、克人に並ぶ実力者。
彼女は何かしらの薬物と魔法で煙幕を焚くと先頭の男に木刀で斬りかかる。
ガッ!ドガッ!
「こいつらに構うな!行くぞ!」
だが男達もやられぱなしではなかった。
男は摩利の横薙ぎを左腕で防ぐとそのまま膝蹴りと移動魔法で引き剥がした。
摩利は驚く。
「ぐあっ!・・こいつら軍人か!?」
「キッシシシ・・・日本の子供は平和ボケの雑魚しかいないと思ったがそうではないらしいな。認識を改めておくぜ!特に亡霊とむっつり顔!お前らは絶対に忘れない。じゃあな次の殺し場で会おうぜ!」
紅雪は何故か笑顔でそう言って男たちとともに窓から屋根伝いに逃げていった。
清夜は逃げたのを確認するとヘナヘナと上体を倒れる。
今からは劣等生の式清夜の時間だ。
「た、助かったよ達也」
(笑ってる・・・のか?いや笑っているはずなのに笑ってないような・・・纏う雰囲気が変わったというか)
「達也?」
「あ、ああ。言っただろう?『すぐに助けを連れてくる』と。あの後、皆無事に脱出出来た。お前のおかげだ、本当にありがとう清夜」
「どういたしまして。本当、ヘタレ男子が頑張るもんじゃないね。腰が抜けちゃったよ。あはは・・・にしてもさっきのキューブ・・・」
「あぁ、大容量の記録キューブだ。恐らくブランシュの騒ぎに乗じてあの女が目撃者、警備員を殺して覆面の男たちで魔法研究資料を強奪する算段だったんだろう。」
そうして推測を確認し合う二人と・・・なぜかプルプルと震えているアルテミシアの元に三巨頭が駆け寄った。
「清夜君!怪我はない!?まったく無茶するんだから・・・」
「はい、おかげさまで。先輩方も助けていただきありがとうございました。それとすいません。逃げるのに必死で本や備品が・・・」
「かまわないさ。むしろよく生き延びてくれた清夜君。君のおかげで資料強奪を防げたわけだ。達也君といい、君達二人は本当によくやるよ。」
「それだけじゃありません。ブランシュの仲間とはいえ亀田先輩と木下先輩が・・・」
「俺たちもさっき確認した。だがな式、それこそお前のせいではない。俺たちが憎むのは利用したブランシュと殺した奴だ。」
「そう言ってもらえるとさいわ・・・・ウグゥォッ!!」
ガシッ!
言い切ることが出来ず清夜は苦痛の声を上げる。
攻撃ではなくアルテミシアが突っ込んで抱きしめてきたからだ。
先ほどまで先輩としての面子のために堪えていたが我慢できなくなったようだ。
「よかった・・・本当によがっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
女神とか呼ばれる普段の面影はなく、まるで小学生のように泣きじゃくるアルテミシア。
端から見れば、これはこれで可愛らしいかもしれないが彼女は傭兵。
なぜか可憐な体格をしているが筋力は半端ではない。
彼女が本気で抱きしめればそれはすでに相撲の鯖折りだ。
「ぐ、ぐるじぃ・・・アシュ、クロフト先輩も・・・ありがとう・・ございました。だ、だから離して・・」
「あらあら!これは面白そうね」
「ほほう、モテ男だねぇ君は。」
「ほどほどにしとけよ。」
「ふっ・・・」
そんな清夜の悲痛な悲鳴は届くことなく鯖折りは続く。
残りの四人はというと最初こそ驚いていたが途中から楽しそうに眺めている。
そこにさらなる来客が現る。
「お兄様、清夜く・・って、まぁっ!」
「・・・ず、ずいぶんと幸せそうじゃない清夜君?こんなに美人な先輩に抱かれて・・・こっちの心配を知らないで・・・あ、あたしはこんなクソ男を・・・?」
「そ、そりゃ男なんだから下心ぐ「あぁん!?」・・いや違います嘘です!!それにこ、この鯖折りのどこに幸せを感じたの!?・・・ま、まって!!それもそれでお約束すぎる!先輩!離して!離してぇぇぇぇ!」
エリカは力を込めながら警棒を振り上げる。
逃げようにもアルテミシアの鯖折りから抜け出せない清夜。
「うっさい!!あたしの心配返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ドガッバキッボコッベキッビキッ・・・etc
なんともオチがテンプレなエリカと清夜。
そんな二人を見た達也はその場を離れ現場を見渡した。
「無数の銃弾、魔法の痕。敵の攻撃のすざましさが見て分かりますね。お兄様」
「ああ、だが・・・」
「お兄様?」
「いや、なんでもない。あそこの茶番を早く終わらせて壬生先輩の話を聞こう。」
「はい」
この時、まだ達也は今日、最初にここへ来た時の違和感が拭え切れなかった。
(なぜあの少女は殺さずスタンガンを使って清夜達を一度眠らせたんだ?そして何故現場に戻って殺しに来たんだ?それにブランシュの男達は誰一人として記録用キューブを持っていない。これはどういうことだ?データ保存にあれは必須のはず。持っていたならどこに消えた?・・・いや、まさかな・・・)
達也の中にある仮説が生まれるが『友情』と『妹の命の恩人』という言葉がすぐに思考を止め、仮説を切り捨てる。
その仮説の先に疑問の答えがあるとも知らずに。
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2095年 4月22日 第一高校 保健室
空が完全にオレンジ色になった頃
保健室で紗耶香の生徒による事情聴取が行われるというので同行する清夜。
保健室には図書館にいた8人にレオが加わっていたが賑やかな雰囲気ではなかった。
道中、紅雪と戦っている間に起きたことを皆に聞くと・・
テロリスト、同盟メンバーの制圧は戦っている間に終了。
軽傷者はいるものの死者は図書館にいた二人だけ。
生徒側の主犯格『司甲』は風紀員により逮捕。
という話だった。
ほぼほぼ清夜の予想通りだが、やはり紅雪と覆面男8人が襲いかかるのは想定外。
それに対し清夜自身の起こした行動はもっと想定外だった
だが今は迷いはないと清夜は思っている。
(そうだ、忘れるな。結果のために俺が為すべきことは・・・)
『マスター、その・・・先ほどは申し訳ございません。取り乱して』
『もうその件はいいよ。部下と上司だと気付かれてないようだし。腰も無事だし。あとその話するだけでエリカにやられた傷が痛む・・・精神的に』
『で、では話を変えますがマスターを襲った奴ら、イギリス英語で話していたようですが』
『・・・そいつはフェイクだ。覆面越しからでも分かる
『CIAのパラミリ!あの強さで黒人のエージェントなんてUSNA以外ありえない。それにパラミリメンバーはバラバラに集められるから癖がバラバラなのも必然ということですか』
『ブランシュのテロ騒ぎに乗じて火事場泥棒、それも逃走ルートを複数持ってた用意周到さからして黒幕の一つなのは確定したね。最悪、大亜連合とUSNAが手を組んでる可能性も出てきた。まっ、テロされてしまった時点で全部どうでもよくなったけど。今の問題は・・・』
今の問題を話し合おうとしたが紗弥香が話し始めようとするので話を止めた。
「今思えば私、剣道小町なんて言われて浮かれていたのかもしれません。だから去年、渡辺先輩に「お前とは戦うまでもない」って言われてやるせなくなっちゃって」
「?・・・去年の新歓の時だろう?私はそんなことを言った覚えはないぞ?」
「傷つけた人間が傷ついた人の痛みが分からないのはよくあることです。」
摩利の戸惑いにエリカは皮肉たっぷりの口調で非難する。
「エリカ」
「何よ清夜君。まさかこの女の味方をするつもり?」
「俺は誰の味方でもないさ。でもエリカがそう非難するならエリカがさっき殴った俺の傷の痛み分かるよね?」
「うぐ・・・」
「今は事情を聞く時間だよ。非難もその追及もまた今度ね。」
「う〜・・・分かったわよ。」
「・・・・・俺は君の傷の痛みをよく分かってるから、絶対に忘れないからね。」
「?」
最後に清夜は小声で何か呟いた気がするがエリカは聞き取れなかった。
(皆、聞こえなかったみたいだし気のせいか)
しかし聞き取れていたアルテミシアは後ろから静かにエリカを睨みつけていた。
摩利は話を続ける。
「確か私は『私ではお前の相手を務められないからお前の腕にあった相手を見つけてくれ』と言ったはずだが」
もちろん双方とも証拠はない。
だが紗弥香は全てが解けたような清々しい気持ちになった。
「え、あ・・・じゃあ・・・勘違い・・・だったんだ。グスッ・・・あたしバカみたい。誤解して、自分を貶めて、逆恨みで一年間を無駄にして・・」
「無駄ではないと思います。」
紗耶香の言葉を止めて慰めたのは意外にも達也だった。
達也は一歩前に出る。
「エリカが言ってました。『中学とはまるで別人の強さ』だと。それは紛れもなく壬生先輩が磨いた先輩の剣です。恨みに凝り固まるでなく、嘆きに溺れるでなく、己を高めた先輩の一年間が無駄であったはずがありません。」
清夜も紗耶香の目を真っ直ぐ見つめて言う。
「達也の言う通りです。結局、その力を持って何を為すかではありませんか?今回は犯罪に使ってしまいましたが今後、何かを助けるために使えば罪は消えませんが無駄にはならないと思いますよ。」
「サヤ、あなたの剣は剣術部と剣道部に必要不可欠よ。だから『無駄』だなんてそんな悲しいこと言わないで」
アルテミシアは優しく励ますように、清夜は少し拗ねぎみに言う。
それでも二人の言葉は紗弥香の心に届き、何も言わずコクリと頷いた。
「・・・司波君。お願いだから少し動かないでね。」
紗耶香は達也の服を握りしめて胸に顔を埋めた。
何も言わず達也は肩を支えた。
「うっ、うう・・・うぁぁぁぁぁぁ」
嗚咽は号泣に変わり大声で泣く紗耶香。
普段なら深雪が止めていただろうがここで邪魔をする無粋な女ではなかった。
ようやく落ち着いた紗耶香の口から色々なことを語られた。
同盟の背後組織がブランシュであること
リーダーの弟が司甲であること
サークルを装っての思想教育を行いつつ長い時間をかけて足場を作っていたこと
清夜とアルテミシアはその全てを知っていたがそれ以外の人間は最後の事実に驚いていた。
「時間をかけていたのは驚きましたが予想通りでしたね。」
「本命すぎてつまらんがな」
「現実はそんなものですよ。さて問題は奴らがどこにいるのかですね。」
「えっ!?」
達也が当たり前のように語られた行動方針に思わず声をあげて驚くアルテミシア。
ほかの人間も同様だった。
「達也君、まさか彼らと戦うつもり?」
「いいえ、叩き潰すんですよ。」
摩利は声を荒げて反対する。
「ダメだ!危険すぎる」
「では壬生先輩を強盗未遂で家庭裁判所に送りますか?」
達也の言葉に誰も言い返せず絶句する摩利と真由美。
ただでさえ悪い雰囲気なのに達也の有無を言わせぬ雰囲気と感情論ではあるが正論に皆、言い返せず黙ってしまう。
しかし
「本音は?」
清夜は物怖じせず言った。
(!・・・お兄様の建前に気づいた!?それに心の色が深い藍色に変わっている・・・それだけ冷静にものを見ているというわけね。お兄様の言うとおり信頼はできるけど油断できない)
「見透かされたか・・・正直に言えば先輩のためじゃない。俺と深雪の生活がテロの標的になったからだ。俺と深雪の生活を損なおうとしたものは俺の手で排除する。これは最優先事項だ。」
腹の探り合いに近い微妙な視線を互いが互いに向ける。
だが二人がそれ以上、話すことはなく克人が割って入った。
「壬生の件も含めて納得はした。だがな司波。相手はテロリストだ。お前の事情に付き合う理由はないし、壬生のためだとしても生徒に命を賭けさせることは俺も渡辺も七草も出来ん。」
「当然だと思います。元より部活連や風紀委員の力を借りようとは思っていません。」
「まさか一人で!?」
「そうしたいのは山々ですが・・・」
「お供します」
すかさずお供宣言する深雪に苦笑いの達也
「あたしも行くわ」
「俺もだ」
エリカ、レオからも参戦の意思を表明される。
それに乗る形で清夜も手をあげた。
「じゃあ、
「「「え!?」」」
周囲の視線が清夜に集まる。
今日2回目とはいえ自称ヘタレの清夜が自分から戦いに名乗り出るのが珍しいと思っているのだろう。
一番に反対したのはエリカとアルテミシアだ。
「あなたはダメよ清夜君!さっき戦ったばかりの人にそんなことさせられない!休んでなさい!これは先輩命令!」
『マスターいけません!体力が万全でない以上、万が一があります。控えてください!』
「そうよ!怪我人はじっとしてる!あたし達が清夜君の分までぶっ飛ばしとくから」
「さっきの戦いは擦り傷だけですから問題ありません。何より友人が命懸けて戦うんですから黙ってられません。」
『安心してくれ、積極的に戦うわけじゃない。心配ならアルも来ればいい』
「うっ・・・」
『しかし・・・』
「だ、だけど・・・」
(清夜君が言ったわけではないけど、もしかして私頼りにされてないの?)
「人数は多いほうがいいだろう?無論足手まといにはならないよ。」
『これは決定事項だ。異論は許さない』
アルテミシアは何か言いたげな顔を向けたが清夜の視線に負けてしまい黙ってしまう。
エリカも別の意味でだが視線に負けて黙ってしまう。
「それでも行くな」という視線は理解していた。
「俺はいいと思うぜ。清夜のその心意気を買うぜ」
しかし全員が反対ではなくレオは賛成してくれた
念押しで達也が確認する。
「気持ちは嬉しいが命の保証は出来ないぞ。」
「分かっているさ。でも死ぬつもりはないよ」
「すまん。頼りにさせてもらうぞ。」
「それでお兄様。どうやって敵の居場所を見つけるのですか?」
話が脱線しないように深雪が達也に促した。
「分からないことは知っている人に聞けばいい」
達也は黙って保健室のドアを開ける。
するとそこには二科生メンバーが良く知る人物がいた。
(工場にいないと思ったら、やはり学校にいたか。しかも俺の特注制服と同じ防刃・防弾繊維の服まで着ているくせに戦った痕がない。こいつも高みの見物か・・・クズが)
「小野先生?」
清夜の心の声をよそにエリカがその人物の名前を語った。
その当人は素知らぬふりを貫き通そうとするが深雪の怒気の混じった冷たい視線に負けて困惑気味な笑みを浮かべる。
「う・・九重先生秘蔵の弟子から隠れ仰せ用なんて、やっぱり甘かったか」
「高みの見物を決めようとする先生と違って、お兄様は優秀なんです。」
「そこは兎も角。今回、死傷者まで出しておいて知らないふりはありませんよね。」
深雪ほどではないが達也も棘の生えた言葉を吐く。
仕事だと理解しているし、自分のことを棚に上げているのも分かっている。
それでも達也も遥、いやその後ろの存在に多少なり憤りがあった。
事情を知らないメンバーを置き去りに話は続く。
「地図を出してもらえるかしら。」
達也に送られた座標データは清夜が知っている場所とぴったり同じだった。
その場所にレオとエリカは驚きながらも憤慨する
「目と鼻の先じゃねぇか」
「徒歩でも一時間かからない場所にあるじゃない・・・舐められたものね。」
「車の方がいいだろうな。清夜はどう思う?」
「俺も達也に賛成だよ。魔法で忍びよろうと結果は同じ。探知されるからね。」
「正面突破ということですね。」
達也どころか深雪まで好戦的なセリフを口にして方針を決めて行く。
それに克人も賛同を示す。
「なら車は俺が用意しよう。」
「えっ?十文字くんも?」
真由美の驚きは達也と清夜も同じところだった。
意外にも自分だけは前線に立つタイプらしい。
年齢離れした風格もきっとそれが要因なのだろう。
「十師族に名を連ねる十文字家の者として当然の責務だ。だがそれ以上に俺も一高の生徒として、この事態を看過することはできん。」
「じゃあ、」
「七草。お前はダメだ。」
「この状況で会長の真由美が不在になるのは拙い。」
「・・分かったわ」
摩利と克人の説得に真由美は少し間を空けてから了承する。
納得はしてない様子ではあったが。
「でも摩利もダメよ。まだ校内に残党がいるかもしれないんだから風紀委員長には居てもらわないと。」
今度は摩利が不本意ながら頷き了承した。
代わりにアルテミシアが手を挙げた。
「では私が真由美さん達の代わりに行きます。」
「う〜ん。そうだなアルテミシアなら安心できる。すまないが頼むぞ。」
「アルちゃん。無理はしなくていいんだからね。」
「はい、行ってきます。」
そうしてメンバーが決定し、沙耶香と遥を残して部屋を出ようとする一同。
その時、遥は達也に近づいて小さくこう呟いた。
「気をつけなさい。あそこには何かがいるわ。」
「何か?ブランシュ以外のということですか?」
「詳細はほとんど不明なの。でも待機していた仲間が全員死んだわ。」
「・・・了解しました。気をつけます。」
達也は会話が悟られないように背中越しに答えて部屋を出た。
(さっきの話といい、図書館の戦闘といい、俺たちが思った以上に複雑で根深いみたいだな。本当の敵はどこにいる)
ブランシュ、そして見えない敵との戦いが始まる。
妹への思いとエリカへの思いで大きく揺れ動く主人公。
その違いで彼の戦闘力は大きく変わっていく・・・
と、いうわけで今回、とうとうデストロ246キャラの紅雪ちゃん正式に登場しました!(パフパフ)
パラミリも出してヨルムンガンドっぽい戦闘させようと思ったけど
今回は29、30話と違ってデストロ246っぽい戦いだったかな?
なんか違和感あるので書き直すかも
次回予告!
敵の拠点に乗り込む達也達。
順調に敵を追い込んでいると思われた。
しかし、その戦いにはすでに異変が起きていた・・・
次回もなんとニ万字越えです!(ただ宣言通りに40話で終わらせたいだけ)
もちろんデストロキャラも活躍しますよ!
次回をお楽しみに!
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