魔法科高校の武器商人<修正版>   作:akito324

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お久しぶりです!とうとう入学編最終話です!
突然ですが来訪者編の漫画買いましたか!?
リーナ!とかレオが!とかあるでしょうが俺としてはやっぱりエリカ!
エリカのパジャマとざっくりニット・・・そして!縞パn←パンパンパン

これまでのあらすじ!
達也達は司一のいる廃工場に強襲!敵のほとんどを掃討出来るも肝心の司一だけは逃してしまうのであった。

話は39話の最後から少し戻ります!
それではどうぞ!



40話 エピローグと次の戦いの香り

2095年 4月22日 第一高校 剣術部部室近く

 

これは達也達が廃工場に乗り込む少し前の話。

一人の少年は苦しい思いを壁にぶつけていた。

 

「くそ!壬生の剣はあんな奴らに・・・」

 

少年の名は桐原武明。二年生。

勧誘期間の際に沙耶香と戦った剣術部のエース。

彼は壬生と対立していたものの元は同じ道場の出だ。

中学生で剣術に鞍替えしたものの彼は沙耶香の剣を認めていたし、綺麗だとも思っていた。

だが高校に入ってから沙耶香の剣道が剣術以上に人斬りの剣に変わっていった。

勧誘期間に乱入したのはそれが許せなかったからだ。

しかし蓋を開けてみればどうだろう、沙耶香はテロリストに手駒として操られていたのだ。

保健室の外で沙耶香の話を聞いた武明は恥ずかしくなった。

 

 

ただ強さを求めて人を辞めたと誤解していた。

あいつに何があったか知ろうとしなかった。

何より、剣を交えたのに悲痛な叫びが分からなかった。

 

 

出来ることなら今すぐにでも慰めにいきたい。

でも自分にそんな資格はない。

そんな”矛盾”でもどかしくなり桐原は話途中で保健室の外から逃げだし、ここに来ていた。

 

「どうすればいいんだ俺は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに”魔王(武器商人)”のささやきが呟かれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら”戦う(殺す)”なんていかがでしょう?あなたの大事な人を傷つけた憎い、憎い、ブランシュのボスを・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

桐原の背筋にどっと嫌な汗が流れた。

『戦う』が『殺す』と聞こえてしまうくらいに・・・

桐原はゆっくり後ろを振り向く。

 

「・・・お前は確か一年の・・・式清夜」

 

「おや、ご存知でしたか。」

 

「どっかの風紀委員と違って目立ってはいないがそれなりに知られているぜ。で、”戦う”とはどういうことだ?」

 

一本の刀が桐原の前に差し出された。

清夜は武器商の笑みを浮かべて言う。

 

「これから私たちはブランシュのアジトに乗り込みます。もちろん、そこにはブランシュのボスであり、壬生先輩を唆した犯人『司一』もいますよ。」

 

「俺も参加して奴を殺せと?」

 

「あっははは!『殺せ』なんて物騒な。私は一言たりとも言っていませんよ。ですけどね先輩、これからいくメンバーの中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ。だからあなたが壬生先輩の無念を晴らしてやってはどうでしょう。そのために私はこの刀を用意しました。」

 

ガッ!

 

桐原は清夜の胸ぐらを掴む。

 

「壬生はそんなことしたって喜んだりはしねぇ!一年坊が知ったような口を聞くな!」

 

清夜は笑みを崩さない。

これすらも期待通りの反応だから。

 

「おおっと、怖いなぁ〜。ではこのまま壬生先輩に一生顔向けできずに終わりますか?」

 

「っ!・・・」

 

「とは言っても先輩の言うことも一理あるでしょう。だからこれは()()()()()()のためというのはどうですか?」

 

「俺の・・・ケジメ?」

 

桐原の動揺した顔で言葉を繰り返した。

もう彼は清夜の()()にハマっている。

まるで麻薬のように・・・

 

「そうです。あなたが壬生先輩と向き合うために必要なケ・ジ・メ。もしこれだけで納得出来ないなら、もういっそのこと八つ当たりでどうでしょう?これなら()()()()()()()()()()・・・」

 

「・・・戦ってやる(殺してやる)。・・・・これは俺が向き合うために必要だ。八つ当たりと言われてもいい・・・」

 

桐原の心に狂気の芽が生えた。

清夜はトドメにこう囁いた。

 

「そうです。戦いましょう(殺しましょう)・・・もし先輩が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って誰も文句は言いませんよ。」

 

「・・・その刀いくらだ?」

 

「お代はいりませんよ。全てはあなたが思うがままに、感情のままに」

 

虚ろなようで狂気に満ちた目をする桐原。

そんな彼に清夜は刀を託しその場を後にした。

 

〜2分後〜

 

「・・・あれ?俺は・・・」

 

周りを見渡すが誰もいない。

なぜここにいるのか分からない。

なぜ刀を持っているのかも分からない。

 

「そうだ。俺はあいつの無念を・・」

 

だが彼の心に狂気だけは残っていた。

 

 

これは決して邪眼ではない。

これは少年を苦しめる矛盾を解いてくれる甘い甘い魔法。

 

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2095年 4月24日 DEM 社長室

 

ブランシュ事件から二日後。

清夜はアイザック・ウェストコットとして会社に訪れていた。

 

「ホウ、アーキン、エコー。三人とも別任務ご苦労様。」

 

「うっす。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あいよ。といっても報告書の通りだが情報収集についてはいい結果じゃなかった。」

 

部屋にはアイク(清夜)の他にエレン、エコー、アーキン、ホウがいた。

別に労うのが目的ではない。

どちらかというと報告会議と今後の予定確認という意味合いが強かった。

 

「けど大都市にあるブランシュ拠点は潰してくれた。商売という意味でも反魔法主義者を減らしたのはありがたい。彼らみたいのはこれから商売の邪魔になるから。特にこれから()()()()()()()()()なら尚更。」

 

「ん?最後なんて言った?」

 

「なんでもないよ」

 

清夜が彼らに与えた任務はブランシュ拠点の襲撃、ならびに購入者を含めたアンティナイトの追跡

ブランシュ事件が終わった今、第一高校でない限り、どこでテロを起こそうが清夜には興味はない

しかしアンティナイトについて、特に3割の購入者とその使い道について警戒が必要。

そんな武器商の勘に従い七賢人ことサイモンに調べさせたのだが購入者は特定できず

少なくともネットでのやり取りはないと推測し彼らに足で調べさせたのだ。

エレンが改めての報告を促した。

 

「一応、ちゃんとした報告を。アーキン。」

 

「はい。横浜、大阪、福岡、名古屋、札幌の襲撃および調査を行いましたが、いずれも紙媒体の取引資料は確認できませんでした。」

 

「うん。なら今はそれでいい。あとはゲットした彼から聞くとしよう。エレン、その後の準備もよろしくね。あっ、それと奪った()()()()()()()()()()()も忘れずにね」

 

「了解しました。この後、手配させます。」

 

あえて誰とは言わない。

キューブのことも何も言わない。

彼らも気にする素振りすらなし。

ホウがそのまま質問した。

 

「それで自分たちが呼ばれたのは報告をさせるためっすか?」

 

「いや、それだけじゃない。今度の仕事についての話もある。キャビネット『案件B708』」

 

アイク(清夜)は意味不明な数字列を呟いた。

すると部屋が暗くなりアイクの後ろに世界地図の映像が出た。

 

「今度、この5人で5月の頭に東EUのクロアチアに行くことにした。」

 

「へぇ〜それはまた急なこって、んで、何すんだ夜坊?」

 

「ココから増援の要請が来てね。我々の貨物の運搬が妨害されている節がある。このままだとクロアチア空軍に届ける前に港で完全に止められる」

 

三人の目がプロの目に変わる。

ホウが詳しい説明を求めた。

 

「状況は?」

 

「レッド(戦闘)に限りなく近いオレンジ(緊張度が高い)。アーキンは質問ある?」

 

「敵、人数は?」

 

「中央税関保安隊、人数は不明。他の勢力も介入してくるかもしれない。欧州はローゼンのテリトリーだからね」

 

ローゼンとは魔法工学機器メーカー『ローゼン・マギクラフト』のことだ。

DEM、マキシミリアンと並びCAD世界トップシェア。

東EUのドイツに本社を置く会社で欧州全土に影響力がある。

画面が切り替わりアイクが話を続けた。

 

「さて、細かい話に移るが今回は第一陣、第二陣に分けてクロアチア入りする。君たち三人は第一陣。」

 

「なんでだ?」

 

「私とエレンは一度、タイ王国の某所に武器取引をしに行く。」

 

「危険です。我々も護衛に」

 

アーキンが進言した。

護衛対象の安全が第一というのは当たり前の話だ。

しかしアイク(清夜)はバッサリと切り捨てる。

 

「ダメだ。実はそれに合わせて日本政府から特別大使をしてくれと言われてね。無論、監視付きで。下手にドンパチやれば日本に捕まる。」

 

「情報をリークしてやがったか。夜坊が襲われてドンパチすれば失脚、脅迫する口実ができ、襲われて死ぬのならそれでよしということか。」

 

「考えはある。すぐに追いつくさ。」

 

ピンチにも関わらずアイク(清夜)の表情は笑顔だった。

エコーはそれを見るとアイク(清夜)の頭をポンポンと叩いた。

 

「分かった。信じるぜ夜坊。早くこいよ、お嬢も待ちわびてるだろうからよ。」

 

「はいはい。それじゃ三人ともよろしくね」

 

「「「了解」」」

 

特に敬礼は必要無い。

なので三人は何もせず部屋を後にした。

 

「じゃあ、次は君の話だね。()()()()()。図書館にいた紅雪という女の正体は分かったかい?」

 

「うっ・・・その女はCIAの殺し屋です。業界としては有名人で翠と藍も知っています。それと・・・勝手に手助けしてすいませんでした。」

 

エレンは気まずそうな顔をして謝罪した。

命令違反というのは先日の持ち場を離れて図書館に来たことだ。

思った以上の反応にアイク(清夜)は吹き出しそうになった。

 

「クク・・・ごめん冗談。あの光屈折魔法は助かったよ。ありがとうエレン」

 

「は、はい!では褒美が欲し・・・」

 

「だ・け・ど連絡なしに持ち場離れるのはダメだ。あとで反省文。」

 

「んなっ!?・・・りょ、りょうかい・・・です。」

 

上げて落とすことで部下のリアクションを楽しんだアイク(清夜)

ちょっとした息抜きにいつもからかっていることだが、成果を評価しないほど鬼畜ではない。

 

「大丈夫、成果について高く評価しているさ。給料にも考慮しておくし、あとでイチゴケーキでも何でも奢るよ。今は他の報告を頼む」

 

「約束ですよ!!・・ごほん、分かりました。それではまず4月頭の侵入者についてですが結局、見つけることは出来ませんでした。」

 

「そうかい・・・やはり、それなりの組織が後ろにいるか。保険をかけておいてよかった。記憶はないだろうし、どれだけ長くても6月までは生きられない。捜査は()()の動向を監視しているチームに引き継がせてくれ。同じ長野だし」

 

「分かりました。では次、先日の古式魔法による盗聴、盗撮についてです。まずはこちらを」

 

エレンが後ろから紙の資料をアイク(清夜)に手渡す。

無論、それなりに重要な話だからだ。

 

「吉田流派の魔法を再現しようとしたものかと。おそらく・・・」

 

「九重八雲?」

 

エレンはコクリと頷いた。

 

「生存も確認されています。まさかアイクのルナ・ストライクを避けているとは思いませんでした。」

 

忍者というのはスパイの出来損ない。

それが以前までの彼女の考えだったから驚いているのだろう。

 

「達也が依頼したのかな?やっぱり古式はすごいね。九重八雲はミスリードさせて泳がせとくとして。対策という意味も込めて我々ももう少し古式の研究、開発に力を入れようか。」

 

「よろしいのですか?今はどの国もエレクトロニクスを取り入れた魔法研究、開発が主流です。それに古式の魔法発動速度は鈍重すぎます。」

 

「大丈夫、まだ主力はエレクトロニクス系だから。発動が遅いのも理解している。けど第三次大戦が終息した今、戦争の形態は2000年代初頭に戻りつつある。古式の問題解決は今後の利益になるはずさ。復讐という意味でもね。」

 

2000年代初頭(つまり私たちの現在)の戦争は非対称戦の時代と言われている。

非対称戦とは「国家VS国家」、「軍VS軍」、「戦場」という概念にとらわれず

多様かつ自在な場所、時間、相手で行われる戦闘を指す。

”テロとの戦い”、”表には出せない作戦”が代表的だがこれらの戦いに求められるのは敵に気づかれない”隠密性”と少ない手数で終わらせられる”威力”。

つまり、戦闘こそ発動が速いから現代魔法が戦争などで多用されているだけで

速度に目を瞑れば現代の戦争に適しているのは古式というわけだ。

 

「なるほど、そうすればローゼンやマキシミリアンを出し抜けますね。」

 

「あくまで目的は復讐だけどね。ま、そんなことしなくても出し抜くけど。例のデバイスと術式の調子はどうだい?」

 

「はい、早ければ5月、遅くとも6月頭には発表できるかと。アイクのアイデアで研究が爆発的に加速しましたからね。あなたの研究チームも喜んでましたよ。」

 

喜ぶかと思ったが少し拗ね気味になるアイク(清夜)

それもそのはず、ある技術がアイデアの元だからだ。

 

「トーラス・シルバーのおかげだけどね。結局、ループキャストの応用だし・・・ん?話戻すけど最後のページのこれは何?」

 

「ああ、これですか。呪符は様々な場所に貼られていましたが、実は貼られた呪符3枚の内、2枚は九重で残り、一枚が出処不明だそうです。内容としては呪いの類ではないかとのことです。」

 

アイク(清夜)は資料に貼られている呪符と睨めっこ。

全く見たこともない呪符。

特徴的なのは描かれている絵柄(?)

 

「呪い・・ね〜。これは丸が描かれているのかい?それとも円という意味かな?」

 

「ローマ字のOかもしれません。とにかく、たくさん描かれています。」

 

「もしかして・・・零・・・なのかな?」

 

「!!、至急調べさせます。」

 

「偽エリカのこともある。騙されないようにしてくれ。」

 

偽エリカに襲われて以来、零からの刺客は送られてこなかった。

だが零と思しき噂だけなら裏社会に流れている。

この呪符もその類なら魔の手はもう迫ってきているということだ。

彼らの情報が少ない以上、後手に回るのは得策ではなかった。

今度はエレンが質問する

 

「そういえば、廃工場にいた公安と情報部の人間に魔法をかけたようですが一体何を?」

 

「ああ、君は抜け出して見ていなかったのか。え〜と・・・これだよ。」

 

アイクは思い出したかのように答え、映像を再生した。

そこには悍ましい光景が写っていた。

 

「なっ・・・こんなことが・・・・」

 

一言で言うならば『地獄絵図』だった。

そもそも本当に魔法によるものなのか分からない。

魔法によるものだとしても()()()()()()()()()()()()()()()

 

「この魔法・・・他の人間にも?」

 

「一人だけ、剣術部の桐原武明にかけた。彼はね、達也が私より先に司一を捕まえた時の保険だったんだ。言ってしまえば()()()()()()。」

 

「・・・」

 

「本来なら腕を切り落とす程度の()()しかなかっただろうに。いやぁ〜刀を脳天に振り下ろそうとした時は思わず笑いそうになったよ。改良の余地はあるが結果としては満足だよ。」

 

恐怖、驚愕・・・色んな感情がエレンの中で沸いては消える。

そして最後に残ったのは歓喜だった。

 

「す、素晴らしい・・・こんなこと十師族でも・・・いや世界の誰もできない。やはりアイクは天才です!」

 

エレンは気付かぬうちに身震いしていた。

誰にも真似出来ない、あらがえない力に体が先に反応したのだろう。

それに対しアイクは笑っているが少し悲しんでるようにも見えた。

 

「・・・ありがとうエレン。それで報告は終わりなのかな?」

 

「あっ・・・いえ、報告ではありませんが」

 

少し言いづらそうな表情になったエレン。

その手には招待状のようなものが見えた。

 

「我々でいう()()からアイク宛にまたお茶会の招待状が来まして・・・」

 

「ふむ、またかい?いつも通り、季節の挨拶いれて魔法協会経由で断りの手紙を返しておいて。」

 

「了解しました。」

 

アイク(清夜)は行く気はないものの手紙の中身を見た。

 

「こんな名家の欠片もない民間企業の社長と1対1でお茶会・・・ね。唯我独尊路線の家が一体私に何の用だい?()()()()・・・」

 

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2095年 4月24日 東京 アイネブリーゼ

 

「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」

 

アイクが話し始めた頃。

雫、ほのかを含めたいつものメンバーはパーティをしていた。

その中でも特にエリカはレッツ!パーリィッ!していた。

 

「よーし!!今日は飲みまくるわよーー!!」

 

「エリカちゃん、すでに盛り上がっているわね。」

 

「おいおい、酒飲んでねーよな」

 

なんて言うが美月もレオもいつも以上に楽しんでいた。

もちろん酒なんかは入っていない。

こうやって盛り上がらなければ敗北を思い出してしまうからだろう。

逆にほのかと雫はチビチビ飲みながら深雪に尋ねた。

 

「私たちも来て良かったの深雪?」

 

「ええ、もちろん」

 

「はぅ!まぶしぃ〜」

 

「はいはい、そうだね。」

 

深雪の笑顔にほのかはクラクラしそうになるが、これは鉄板ネタ。

雫はいつも通り倒れる親友を抱きとめた。

 

「そういえば式君がいないね。どうしたの?彼、達也さんと同じくらい功労者なんでしょ?」

 

「清夜君は用事があってこれないそうよ。私たちもお礼をしたかったけど・・・」

 

「いいのよ。あんなツレない冴えない薄情男は!楽しみましょ!無礼講〜〜〜!!」

 

本当に酒飲んでいるんじゃないかと思うくらい騒ぐエリカ。

そこにマスターがオードブルを持ってきた。

 

「にぎやかだね達也くん。なにか祝い事でもあるのかい?」

 

「お疲れかいのような・・」

 

「今日は達也くんお誕生日だよ!!」

 

「「え!?」」

 

達也の言葉途中でエリカが答えた。

しかし、皆が聞いていた話では”お疲れ会”だったはず。

いや、そもそも誕生日じたい、深雪と達也以外知らなかった。

 

「なんで教えてくれないのエリカちゃん!?」

 

「ん〜?正確な日付知らなかったからさ。昨日聞いた深雪に聞いた話だと4月だし、誤差の範囲内かなと・・・」

 

人の悪い笑みを浮かべるエリカ。

やはり、こいつは小悪魔だと再認識した一同。

だがそれを上回る小悪魔が一人いた。

 

「そう、お兄様の()()()()()()()()()よく知っていたわねエリカ。」

 

「へ?達也くん、今日なの?」

 

「ああ、わざわざありがとうエリカ」

 

エリカは悔しげに深雪を見た。

どうやら騙されていたらしい。

 

「測ったわね深雪ぃぃ」

 

「あら、否定はしてなかったはずよ。」

 

深雪は美少女100%笑顔で受け流す。

この女も大概・・・というのは美少女のお約束だろう。

雫とほのかはがっくりと項垂れた

 

「しまった達也さんのプレゼント」

 

「うん・・・持ってないね」

 

「わ、私が言えた話じゃありませんが気にすることはないですよ。」

 

「そうだぜ。俺らも知らなかった訳だし。同じクラスなのに・・・」

 

気まずげな4人の前にケーキが置かれた。

ケーキに乗っている板チョコには”Happy Birthday”と書いてある。

深雪は注文した記憶がなかった。

 

「マスターこちらは?」

 

「実は貸し切りの予約の後、清夜君にケーキを頼まれたんだ。達也君の誕生日とは聞いてなかったけど。」

 

「お兄様聞いていましたか?」

 

「いや、でもこの前、世間話のなかで誕生日の話はしたな。」

 

本当に世間話程度だったがよく覚えていたと達也は思った。

マスターは落ち込んでいる4人にロウソクを渡した。

 

「そうそう。彼からの伝言でね。このケーキは清夜君と君達からのプレゼントにしといてくれって言ってたよ。あとで僕からもケーキをもう一つプレゼントするからそれも含めて君たちからのプレゼントにしよう。」

 

「「「「さすが清夜(君)!!マスターもありがとう!」」」」

 

「ふふ・・・どうやら、清夜君の方がサプライズ上手だったようねエ・リ・カ♪」

 

「うぐぐ・・・分かってるわよ。」

 

深雪の言葉にエリカはそっぽを向く。

それでも表情からして満更でもなさそうだ。

 

「それとこれは今日、彼が持ってきたものだ。多分、君宛てなんだろう。」

 

「花まで用意してくれたのか。律儀だな、あいつも。」

 

マスターから花を受け取る達也。

花びらこそ少ないが白くてきれいな花だった。

 

「わぁ〜きれい。なんていう花なんだろう?」

 

「確か、それはスノードロップて花ですよ。良かったですね達也さん。」

 

「ああ、そうだな。」

 

一番に食いついたのはやはり美月とほのかだった。

達也も花を見て微笑む。

その後、写真撮影やケーキのロウソクの火を消したりなど

皆は一昨日を忘れて思いきり楽しんだ。

深雪は願った。

 

(お兄様、私はお兄様がご学友に囲まれる姿を見れて嬉しいです。特に警戒しているはずの清夜君と一番仲良くなっているのは感動で涙が出そうです。だからどうか、お兄様の幸せが続きますように・・・)

 

「深雪〜写真撮るわよ〜早く早く!!」

 

「は〜い。今、行くわ」

 

深雪は笑いながら友の輪に戻っていった。

 

 

 

ついでに2095年となった今、花の贈り物はめっきりデリバリーさせるものになっていた。

もちろん、手渡しする人間もいるが少なくとも贈る花を自分で選ぶ人間はいなくなっており

大抵、花屋が料金に合わせて花を選んでいる。

 

 

だから彼らは知らない。

その花は贈ってはいけない花だと・・・

 

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2095年 5月1日 第一高校 部活棟 空き部屋

 

事件の顛末は5月に入ってから知ることになった。

 

「司一が国外に亡命ですか!?」

 

アルテミシアと清夜は克人に呼び出され詳細を知った。

結局、ブランシュ事件の後処理は全て十文字家がやってくれた。

清夜も含め達也達がやったことは最低でも過剰防衛、プラス魔法の無免許使用だが司法当局による処分はなかった。

これはもちろん十文字家の手回しによるものだ。

以前、記述したように十師族は表の権力を放棄している代わりに政治の裏ではかなりの権勢を手にいている。

つまり序列3位のそれもその事実上の当主が関わる事件に普通の警察は介入できないのだ。

もちろん、文官側である普通じゃない警察も関与しているし、武官側である軍まで動いていた。

しかし、公安と情報部共に捕獲チームが全滅。魔法官つまりは十師族も十文字家が取り逃がしてしまったためにお互い何も言えないのが現実だった。

 

「逃走方法は?空港警察や海上警察は何をしていたんですか!?」

 

「まったく耳が痛い話だ。あの後、陸では警察と陸軍と十師族の、海では海上警察と海軍と十師族の間で縄張り争いがあってな。包囲網の完成が遅れてその間に網の穴から船で国外に逃げられた。」

 

これも同じく以前、十師族と軍と政府は明確に敵対はしていないと言った。

しかし実際には明確に、表向きに敵対していないだけで裏で縄張り、利権争いによる溝は存在していた。

例えるならば明治から第二次大戦までの軍部と政府の対立に近い。

そのような状態ならば隙が出来てしまうのは必然。

そう、全ては()()()()()()()の思惑通りだった。

 

「そう・・・でしたか。」

 

「残念です。」

 

二人はがっくしと肩を落とした。

克人も気持ちとしては同じのつもりだ。

 

「まぁ、そう気を落とすな。おかげでブランシュは空中分解、少なくともテロをするような奴らは壊滅した。警視総監賞といったものは色々と事情があってできないが・・・」

 

そう言って克人は軽く咳払いしてからいつも以上に真面目な眼差しで二人を見た。

 

「十師族の十文字家代表補佐を務める魔法師として貴殿らに感謝を申し上げる。

おかげで魔法師の命を害する組織を無力化することが出来た。これは師族会議、ひいては魔法協会の総意だ。本当にありがとう。」

 

ビシッとお辞儀をきめる克人。

上から目線のような物言いは変わらないが

その姿は一族の長になるに相応しい姿だった。

 

「いえ、こちらこそご助力頂きありがとうございました。」

 

「ありがとうございました。」

 

二人もしっかり頭を下げて礼を言った。

克人は微笑みながら頷くと話を切り替えた。

 

「では本題に入ろう。」

 

「今のが本題なのでは?」

 

清夜は頭を傾げて問う。

なにせ前いたクロス・フィールド部の部室ではなく、この空き部屋、それも二人だけ呼び出されたから本題はこれしかないと思っていた。

 

「それもあるが今日呼んだのは部活連の今後の方針について話をするためだ。」

 

「方針ですか?」

 

「ああ、この前の同盟の主張を受けて我々も今まで以上に積極的に運営監視して行こうと思う。」

 

「言いたいことは分かりますけど具体的には?」

 

「ここを拠点に土日を含め毎日、部活連の誰かが二人以上いるようにしておくつもりだ。」

 

しれっと言っているがやる側の人間にしてみれば簡単な話ではない。

 

「部活連のメンバーは新人の清夜君を入れても5人。さすがにそれだけの仕事をこなすのは・・・それに個人の部活動もありますし。」

 

アルテミシアの意見はもっともだった。

しかし克人もそこまで考えていないわけじゃなかった。

 

「分かっている。だから今回、部活連メンバーを増員することになった。入ってくれ。」

 

「「「失礼します」」」

 

声が聞こえて振り返るとドアが開き、三人の男女が入ってきた。

清夜とアルテミシアがよく知る人物だ。

 

「よっ!アシュクロフトと式。世話になるぜ。よろしくな。」

 

一人は桐原武明。剣術部2年エース。

 

「今日から部活連役員になりました。よろしくねアルちゃん、式君!」

 

もう一人は剣道部2年の壬生紗耶香。

 

「どうも〜あたしも部活連役員になっちゃいました。よろしくね先輩、清夜君!」

 

そして最後は清夜のクラスメイトの千葉エリカだった。

 

「桐原君!サヤ!」

 

「先輩方!それに・・・エリカ?」

 

「何であたしの時だけトーンが下がって疑問系になるのよ」

 

ベシッ

 

「アブッ!」

 

エリカは清夜に軽くチョップした

驚く二人に克人が説明する。

 

「この三人が新メンバーだ。同盟の件もあったからな壬生には一科と二科を繋ぐ役割をしてもらうつもりだ。桐原と千葉も手伝ってくれると言ってくれた。」

 

「そうだったんですか。」

 

罪に問われていないとはいえ

元テロリストをメンバーにする大胆な起用だった。

 

「それにしても午前中に退院したのねサヤ。この後、退院祝いを持って行こうと思ってたのに。どうして教えてくれなかったの」

 

「実はね、アルちゃんに謝りたかったの。・・・本当にごめんなさい。アルちゃんが認めてくれたくれた剣をあんな使い方してしまって。私、」

 

泣きそうな紗耶香。

アルテミシアはその体をそっと抱きしめた。

 

「いいの。サヤとまたこうして仲良く喋れればそれで。」

 

「まだ、私のこと・・・友人でいてくれる?」

 

「当たり前じゃない。あなたは私の良き友人で良きライバルよ。」

 

「うぅ・・・ありがとう、ありがとう。」

 

とうとう保健室と同じ様に紗耶香は泣き始めた。

アルテミシアも嬉しいのだろう。

そんな二人の姿を微笑ましく見つめるエリカ達。

その中でただ一人、清夜だけは冷めた眼差しで見ていた。

アルテミシアを責めているわけでもない。

言えば色々と長くなる。

簡単に言えば結果至上主義者になっている今の彼は妹以外の愛や友情の類に嫌悪しているのだ。

 

「それと・・・式君もありがとね。」

 

突然、紗耶香が清夜を向いてそう言った。

 

「はい?」

 

「君の言葉で迷いが生まれて、おかげで踏み込んではいけない一歩を踏まずにすんだ。だからありがとね。」

 

「いえ、自分は・・でもよかったです。」

 

清夜はきれいな笑顔で紗耶香の更正を喜んだ。

さっきの冷めた眼差しから笑顔が出来るのはもちろん彼が武器商人だからだろう。

言っておくが今の彼には更正を祝う気持ちも喜ぶ気持ちも持ち合わせてはいない。

 

「・・・」

 

「?」

 

その冷めた心のせいか、清夜は桐原の拗ねている姿が見えた。

エリカは清夜の視線に気づいてニヤニヤしながら耳打ちした。

 

「うふふ、実はね、さーや、恋の対象を達也君から桐原先輩に乗り換えたの。」

 

「さーや?あぁ、壬生先輩か。へぇ〜それはそれは。」

 

いや、音量的に耳打ちではなかった。

アルテミシアはエリカと同じくニヤニヤ。

桐原と紗耶香は顔を真っ赤にした。

 

「まぁ!サヤは剣道小町だけなく、恋する乙女の称号も手に入れたのね。」

 

「え、エリちゃん!」

 

「千葉!テメェ!ベラベラ喋るんじゃねぇ!」

 

「分かってる分かってる!男は顔じゃないってことだよね?」

 

明らかにバカにしていた。

克人は何も言わないが笑いを堪えているのが見えた。

 

「いい加減にしやがれ!このアマぁ!」

 

「そうだよエリカ。バカにしちゃダメだ。先輩は本気なんだから。ですよね?先輩」

 

フォローしたのは清夜だった。

ただ挙げた右手に持っている新型のボイスレコーダーは怪しさを隠せていない。

清夜はレコーダーの中身を再生させた。

 

ピッ!

 

「俺は・・・壬生・・・が・・・好きでした。・・・・・・壬生・・・が綺麗でした!」

 

ブツブツと音声が切れているが桐原の声だった。

桐原と紗耶香はさらに真っ赤になって硬直した。

 

「えっ、ちょっと待って式君!」

 

「なっ、なっ・・・それは!」

 

桐原には心当たりがあった。

これは克人にブランシュ襲撃の参加を嘆願した時の音声だ。

 

「てめぇ!俺と会頭の話を盗み聞きしやがったなーーー!!というかワザとらしく音声を切って合成するんじゃねえぇぇぇぇ!!」

 

怒りと恥ずかしさで硬直を解いた桐原は清夜に飛びかかった。

 

「エリカ、パス!」

 

「へいへい、キャーッチ!!あは先輩、熱いねー。ヒューヒュー」

 

「よこせ千葉!」

 

「はい!アシュクロフト先輩パス!」

 

桐原相手にパス合戦が始まった。

その後、意外にも克人が参加し、さらに盛り上がるがそれはまた別の話。

 

 

そうして、しばらく遊んでから清夜はこっそり部屋を出た。

飽きたからでない。

部屋の外から清夜を見つめる視線に気づいたからだ。

 

「あの、何か?」

 

「君が式清夜君だね。私は壬生勇三、紗耶香の父親だ。」

 

壬生の父親。

そう名乗った人物はスーツを着こなした壮年の男性だった。

 

「・・・初めまして。式清夜と申します。」

 

「ああ、初めまして。少し話いいかな?」

 

そう言って少し部屋から離れる。

清夜もそれについて行った。

 

「式君。君と司波君には感謝している。娘が立ち止まれたのは君達のおかげだ。」

 

「お礼を言われることはしていませんよ。自分は現実を言って傷つけただけ。立ち止まれたのは司波兄妹とエリカのおかげです。そして立ち直れたのはきっと彼氏の桐原先輩のおかげでしょう。」

 

清夜は申し訳なさそうに頭をかいた。

対して勇三は悔しげな表情になった。

 

「それを言うなら私は何もしてやれなかった。娘の悩みに気づいていたのにだ。終いにはテロリストと絡むまでになってしまった。娘は君の指摘で愚行に歯止めがかかって司波君の話で悪夢から目覚めたと言っていた。そして『その力を持って何を為すか。』その言葉に希望を見せられたと。だから言わせて欲しい。本当にありがとう。」

 

「は、はぁ。えと、どういたし・・・まして?」

 

「自信がないようだが君の本質は勇気と優しさを持った充分に強い男だ。もっと胸を張ってくれ。それじゃ失礼するよ。」

 

勇三はクスリと笑いながら立ち去る。

それは大人が次の世代にエールを送る画。

きっとこのまま終われば爽やかで気持ちいい締めだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()() ()()()() ()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()さん。」

 

 

 

 

 

 

 

しかし()()()()()()()()()()()()()がそれで終わらせるわけがなかった。

 

「・・・」

 

突如、蛇に締め付けられるような感覚が勇三を襲った。

声は先ほどと同じ声のはずなのに、先ほどまで話した謙虚な青年の面影はもうない。

 

「あなたも私の正体をご存知のはずですよね?実は私もあなたと話、というよりお願いがしたかったんです。」

 

いくら国にとって一番利益をもたらす企業といえど政府が社長の正体を知らないわけにはいかない。

しかし、それでも外部の人間でその正体を知るのは一摘みの中の一摘み。

総理大臣や政界、軍の重鎮ほどでなければ知らない。

今まで出てきた佐伯といった少将や中将、各省庁の大臣ごときでは知ることも出来ない。

その中で例外の一つとして上がるのが内閣調査室だがそれでも知るのは部長以上か何かしらで彼を追う担当の課長だけということだ。

 

「・・・あなたの存在は国防軍機密保護法より厳しい国家機密保護法で秘密にされているのでうかつに話すのは良くないと思いまして。それよりも随分と細かいところまでご存知のようですねアイザック・ウェストコット殿。」

 

もちろん、それと同じくらい知るのが難しい内閣情報調査室の構成員を清夜が知っているのはおかしいことだった。

アイクは悪びれる様子がない。

 

「Need not to know・・・もしかしたら白い兎さんが教えてくれたのかもしれませんね。」

 

「!!・・・それでお願いというのは?私が出来ることはたかがしれませんよ。」

 

勇三は表情を崩さない。

それでも内心は悔しさでいっぱいだった。

 

「そんなに難しい話ではありませんよ。ただタイでの護衛とか『くだらない遊びはやめましょう』という提案です。娘さんの愚行のことで貴方達も大変なはずだ。」

 

「なにを言いたいのか分かりませんが護衛は森崎家の会社に委託しているので私にはどうにも出来ないかと。」

 

今回、タイでの護衛は国が無償で手配してくれた。

だから断るのは筋違い、それに一構成員にすぎない勇三にどうにか出来るはずじゃない。

それを分かっているはずなのにアイクは武器商人の笑みを浮かべた。

 

「あぁ、そういうのもいりませんよ。DEMのこういう時のためにMSSに一年以上前から構成員を潜らせていたではありませんか」

 

「っ・・なるほど全てを理解していての()()ですか。しかし、それは私だけを切り捨てればいいだ・・・」

 

あくまで抵抗する勇三。

もう意固地になっているのはわかっていた。

アイクは間髪入れずに攻める。

 

「壬生勇三。幹部レンジャー課程を三席の成績でクリア。その後は大越紛争で同期の風間玄信、日野木陽介とともに佐伯広海、当時大佐の懐刀、通称『烏天狗』として活躍。結婚を機に退役。しかしすぐ後にその実績、魔法素質を買われ内情に籍を置き、今なおトップシークレットの案件に駆り出されている。そんな重宝されている貴方を国が切り捨てる?ありえませんね。」

 

「っ!」

 

勇三はに「理解している」と言っていたが想像をはるかに超えていた。

アイクは鼻で笑った。

 

「全てを理解しているとはこういうことを言うんですよ。まぁ、理解しているからこそ貧弱な私は貴方のような歴戦の猛者と戦わず、こうして()()()をしているんですが。」

 

蛇が締め上げながら勇三の首元まで迫ってきた。

いつ毒牙を立てらてもおかしくない。

これが貧弱な男の出来ることか。

戦ったら一族ごと葬られると勇三の勘が警告していた。

 

「ああ、もしかして心配なのは上の方ですか?安心してください。一番上の方には部下が()()()を持ってすでにお願いしに行ってます。だからこれは現場の人間に確認をとってるだけですので安心してください。」

 

(すでに抑えらていたか・・・紗耶香のことがあったとは言え、我々、内情の年単位の努力を軽々と踏み潰した。なら今回は・・・)

 

「分かり・・・ました。護衛は外しておきます。ですが特別大使の仕事の辞退と貴方の秘書以外の護衛同行は認められませんのでご了承を・・」

 

これが勇三のせめてもの抵抗だった。

 

「ええ、構いません。ご配慮に感謝いたします。」

 

「それと娘のことは・・・」

 

「バラしませんよ。当たり前じゃありませんか。壬生先輩は自分と同じ部活連の仲間なんですから。」

 

なんと白々しいことか。

一人称を”自分”に戻して『学生の式清夜の本心ですよ』とアピールしている。

もしこれで嘘ついたらメディアや軍、魔法協会にバラすと表情が語っているのにだ。

 

「ありがとう・・・ございます」

 

勇三の体を締め付ける蛇が緊張と一緒に解けていく。

いや今回の敗北を認めたことで楽になったのだろう。

だが悔しさだけは消えずに、むしろ増大していた。

アイクは恭しく、学生のように頭を下げる。

まるで勇三の神経を逆撫でするように

 

「それではこれからも仲良くやりましょう。」

 

「・・・はい」

 

「では失礼いたしました。」

 

勇三は子供相手に悔しげに睨むような真似はしない。

代わりにデバイスを取り出して電話をかけた。

 

『はい、もしもし』

 

「もしもし俺だ。」

 

『おぉー!壬生か!?久しぶりだな。紗耶香ちゃんが生まれた時以来か?』

 

相手は同期の仲間だった。

少し特殊な所属で国内にいないことが多いが頼れる友人だ。

 

「嘘つけ。三年前にも合同作戦で会っただろうが。プライベートならつい二カ月前に飲んだだろ?」

 

『がはは!そうだっけか?歳だな、きっと。』

 

「プライベートならともかく、お前が仕事の時間、場所を一秒、一ミリたりとて忘れるわけないだろう。」

 

少々、いい加減な男に感じるが仕事に関しては正確すぎる男だ。

お互い挨拶を済ませた所で勇三ではなく相手が真面目な話を切り出す。

 

『で、紗耶香ちゃんは無事だったか?』

 

「さすが早いな、()()()。」

 

『一週間もあれば情報は入るさ。こっちにも小さい支部があるが、もう大慌てだったぞ奴ら。で、どうなんだよ』

 

日野木と呼ばれる男は昔から会うたびに可愛がっていたから肉親並みに心配はしていた。

 

「あぁ、学校の仲間に救ってもらったよ。命という意味でも心という意味でも。」

 

『ほう、よかったな頼もしい若者達がいて。』

 

確かに命も心も救ってもらった。

だが勇三の声色は明るくなかった。

 

「その若者の中にアイザック・ウェストコットがいてもか?」

 

『!・・・そういえば本名である学校に通い始めたと言ってたな。』

 

「まだ10代なのにまさに魔王と言える風格の男だった。そんな彼が一人でPO8人と殺し屋から紗耶香を逃がしてくれた。」

 

POというのは略語だ。

業界ごとに色々あるだろうが彼らの中でPOは一つしかない。

 

『CIAのパラミリか!?確証はあるのか?』

 

「いや、物的証拠はない。けど殺し屋は紅雪だったらしい。」

 

『パラミリと紅雪か。一人でよく生き残れたもんだ。いや助けたことじたいに驚くべきか?それでウェストコットから見返りの要求は?』

 

「今度の護衛という名の監視を含めたくだらない遊びはやめましょう・・・だとさ。」

 

電話をしながら建物の外に出ると部活に励む生徒がたくさん見えた。

年相応の生徒、こんな学校に魔王が溶け込んでいて娘の近くにいると思うと勇三はゾッとする。

 

『下手なちょっかいを出すなということか。よかったじゃないか。操り人形にされるよりかは遥かに。もう傀儡はいるという解釈もできるが。』

 

「その通りだ。俺の所属、経歴をこと細かに暗唱されたよ。それに『Need not to know、もしかしたら白い兎が教えてくれたのかも』と言っていた。」

 

電話越しに日野木がピクリと反応したのがわかった。

彼らは仕事柄、そういうのに敏感でなければならない。

 

「Need not to know、上層部が関わっているという警察隠語だったな。」

 

「そして白兎は因幡の素兎の話から”嘘つき”、”裏切り者”を指す内情の隠語だ。つまり・・・」

 

「『内情の、それも()()()()D()E()M()()()()()がいる』」

 

二人は息ぴったりで結論をいった。

あまりにトンだ話に日野木は怒りや焦り、不安を通り越して笑いしかでない。

 

『ははは、こりゃデウス教の噂も本当かもな。もちろんフェイクという可能性もあるがな。まぁ、お前達の後ろには総理という一国の王様がいるからじっくり裏切り者を炙り出してから仕返しするしかあるまい。』

 

「いや、総理の方には手土産が行ってるそうだ。今の内閣が陰でなんて言われてるか知ってるだろう?」

 

『たく、手土産つまりは別の総理本人のネタで脅されてるのか。腰沼の腰抜け内閣の意味まんまだな。そんでいつも皺寄せは俺達だ。』

 

言ってしまえば愚痴だが勇三も同じ意見だった。

 

「本当にひどい話だよ。それで俺の本題だが日野木にお願いがある。」

 

『なるほど、内情が動けない代わりに俺達が動いてくれということか。』

 

「察しが早くて助かる。別に逮捕も護衛もしなくていい。動向だけでも把握して欲しいんだ。」

 

日野木は少し間をあけた。

友人といえど簡単に了承していいような組織、役職ではないならだ。

 

『・・・出来るか分からんがやっておこう。場所は王都だけか?』

 

「いや、悪都にも出向くらしい。だから気をつけてくれよ。」

 

『ほう、タイ王国唯一にして東南アジア同盟最大の汚点『ロアナプラ』ときたか。』

 

日野木は少し愉快そうな声を上げた。

 

「お前の方が詳しいだろう?」

 

『タイ王国ではなく新ソ連、大亜連合、イタリア、コロンビアのマフィア達が取り仕切る港湾都市だ。タイ王国が掃討しようにも新ソ連などの諸外国からの圧力がかかって何も出来ずスパイの隠れ蓑にもなっている。だからありとあらゆる国の情報が集まるカオス地帯。俺の組織もたまに使うよ。けどあそこはアイザック・ウェストコットを死ぬほど憎む女がいたよな。元シリウスがついていても護衛なしじゃ危ないだろう?』

 

「だからこそ護衛という名目だった。増長されても困るが死なれるのも困る。」

 

『恨まれていることも襲撃される可能性も彼は分かっているんだろうな。それでも断るなんて何を考えてるか分からない奴だな。』

 

確かに話だけ聞けば何も分からない。

だが誰もが先ほどのアイクを見れば分かるだろう。

 

「マキャヴェリストだよ。少し疑問もあったが直で見て確信した。」

 

『マキャヴェリズムを思想とした人間のことか?確か、目的のためには手段を行うための熟練した腕が必要という考えだったな。』

 

マキャヴェリストというのは日本が作った造語で英語ではそう言わない。

さらにその日本でもすでに死語となっているため知るものは少ない。

 

「優等生だな。しかしそれはマキャヴェリの本来の思想だ。この場合は君主論の言葉を()()した人間のことだ。」

 

『どういうことだ?』

 

「今では誤解する人は殆どいないがひと昔前は『目的のためなら手段を選ばない』と誤解されていて批判されていた。彼はまさしくその誤解の思想を究極の形で体現させた人間だ。」

 

『ほう、まだ何かある言い方だな。』

 

勇三が誰かを饒舌に評価することは日野木の経験上ない。

少しずつだったが日野木は彼に興味が湧いていた。

 

「『目的のためなら手段を選ばない』それは当たり前としてだ。究極の形というのはな『どちらかを選ぶなら愛されるよりも恐れられよ』このマキャヴェリの言葉を恐ろしいことに彼は()()()()()()()()()()ことだ。」

 

「・・・確かにな。『畏怖』と『愛、欲』、この”矛盾”する二つの目で彼は見られている。世界中の国が喉から手が出るほど彼を欲しがっている分、同じくらい彼を恐れているの現実だ。かく言うお前も警戒しながらも彼の力を欲しているしな。」

 

「あぁ、否定はしないよ。とにかく、そんな人間が世界相手に武器を売るんだ。なにか大それたことをしようとしてるんじゃないか。私はそう思ってならない。日野木、巻き込まれるなよ。お前達のルートだっていずれ彼らと・・」

 

そんなこと日野木には分かっていた。

”武器がもたらす力”については彼自身、()()()()()()しているからだ

 

『分かってるよ。気をつけるさ。もしもの時はお前や風間、最悪の場合には佐伯少将に泣きつくさ。』

 

「日野木・・まさかお前の所も・・」

 

『悪いが時間だ。また電話してこい。じゃあな』

 

ピッ!プープー

 

返事する前に一方的に電話を切られた。

怒ったわけではなく、盗聴を危惧したのだろう。

いささか隠し事をしているように感じたが

でも盗聴されてもおかしくないくらい話しすぎた。

勇三自身も饒舌だったことに驚いている。

気付くともう外に停めた車に着いていた。

勇三はドアノブに手をかけ止まる。

 

「まさかウェストコットは戦争による世界の破滅・・・なんて子供みたいなことは考えてないよな」

 

上司や同僚に言えばバカにされるのがオチ。

しかし、自分自身はその仮説を否定できなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月1日 第一高校 部活棟 屋上

 

ブランシュを中心に国防軍情報部、警視庁公安部、十師族、CIAと様々な組織が絡んだ今回の事件。

しかし、今挙げた組織の中に勝者は誰一人もいない。

そもそもどこの組織が勝者なのか、影すらも掴めていないのが本当の現状だった。

 

「ゲヘャへへひひひ・・・いひひひ、アヘハァハハハ!」

 

その勝者、つまりは達也達を妨害し、司一を国外に逃がした男『()()()』は一人屋上で狂っていた。

笑ってはいるが口元は細い三日月のように両端があり得ないぐらい吊りあがり、目は絶頂を迎えたかのように快楽に溺れている。

それは笑顔とは言えない、だから狂っているのだ。

 

「どうだ冬華?軍も政府も大亜連合もUSNAも十師族すらも出し抜いてやったよ。つまり世界が邪魔しようと俺を止めることは不可能!だから・・・もう少し、もう少しだけ待ってくれ・・・お兄ちゃんがお前の無念を」

 

笑ったり、涙を流したりと狂いは止まらない。

そして泣き止んだかと思えば再び笑い出しした。

誰もいない屋上で男は誰かと話しているかのように語りだす。

 

「そうそう、司一から情報を引き出した結果、標的も絞り込めたんだ。なんでも顧傑という奴が糞親父と遺跡、武器関連で繋がっていたとか。その男はかなりの歳らしいから違うけどその関係者を探れば見つかると思う。軍人探しと並行で探させてる。本当にあと少しなんだ。」

 

繰り返しだが屋上には彼を除いて誰一人いない。

だが彼には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えていた。

彼の目が次第に虚ろになっていく。

 

 

 

 

 

D&%bo○!s □x  M&c%ina System セーフモードで起動

 

 

現状確認

現在の戦闘力、魔法力を計測開始・・・完了

2090年 8月11日時点で予測されていた限界を179%上回る。

先々月より0.24%上昇。

過去最低の成長率を確認

 

 

成長率低下の原因の分析開始・・・error

低下の原因は認められない。

 

 

以上のことから

自己強kyokykykyk#'%#!$|kdmsgi狂化プログラムに基づき

さらなる進化を促し、原因の解明にあたる

 

 

 

 

 

「その後、司一はどうしたって?あぁ、あれなら虐めた後、ブランシュ本部にスパイとして送り返したよ。ははは、大丈夫。電気命令で裏切ろうとしたら心臓が止まるようにしたから。実際、一度逃げ出そうとして心臓が一回止まっちゃたし。きっと死に物狂いで情報を集めてくれるよ。裏切らなくても使えなくなったら殺して全ての臓器を恵まれない病気持ちの子供に提供するけどね。素敵だろう?」

 

うん、素敵!ゴミも再利用って言うもんね。この調子で殺そう。私を殺した男も善人を蝕むゴミも全て!

 

「冬華は嬉しい?」

 

うん!恨みも晴らしてくれるし、お兄ちゃんのかっこいい姿が見れて冬華とっても嬉しい!でもねでもね。謀殺、圧殺、刺殺、銃殺、絞殺、撲殺、焼殺、毒殺、なにで殺してもお兄ちゃんはかっこいいよ。だから強くなって!もっともっと!色んな殺し方を覚えるの!

 

「もっと・・・もっと」

 

冬華ね、()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お兄ちゃんには強くなって欲しい。そして、もしその力で復讐してくれたなら()()()()()()・・・

 

 

 

「清夜君みーっけ!」

 

 

error!error!error!

システムに異常!

異常原因のkkjgia@gjib;wbnb$5#%&%&|"!%$G・・・

 

プツン!!

 

 

「!!」

 

不意に後ろから声をかけられ彼は目を覚した。

 

「エリカ・・・か」

 

「なーにしてるの?いつの間にかいなくなるからびっくりしたよ。」

 

「ごめん、なんとなく風に吹かれたくなってね。」

 

エリカは手すりに手をかけた。

風は気持ちいいくらいに吹いていた。

 

「うーんっ!いい風ねー。でも清夜君が風に吹かれるのはちょっと似合わないかも。」

 

「ひどいな、これでも吹かれたい年頃なんだよ。でどうしたの?連れ戻しに来ただけじゃなさそうだけど。」

 

「うん。清夜君に聞きたいことがあってさ。」

 

「またかい?何度も言うけど君とは・・・」

 

「ううん、そういうのじゃないの・・・」

 

急に神妙な顔つきになるエリカ。

心臓を鷲掴みにされてるような感覚が清夜を襲った。

 

「清夜君って()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え、あっ・・・そ、そんなことは・・・」

 

笑顔が出来ない。

普段の清夜なら武器商人の笑顔で軽く流して終わりなのに。

舌も思うように回らなかった。

 

「でも図書館でのアレ、逃げ回ったって言ってたわりには清夜君疲弊してなかったし、むしろ窓から逃げてった敵のほうが疲弊していた。本当は抵抗出来てたんじゃない?あんなのに攻撃出来るなんてすごいことだよ。どうしてそういうのを隠したがるの?」

 

たいした観察力だった。

達也でも見抜けなかった部分を見抜くのは並大抵ではない。

彼女が武の道に生きるものだからなのか、それとも別の要因があるのか。

現段階では分からないし、清夜もそこまでの思考をする余裕がなかった。

 

「ち、違うんだ!俺は・・・」

 

「あっ!責めてるわけじゃないの!図書館に廃工場と2度も命を助けてもらったんだもん。その前にも森崎の件で助けてもらったし私としては入学してから一連のことは全て感謝しかないから。ただ何でかな?って程度なんだ。」

 

エリカは本当に責めてるわけじゃなかった。

清夜もそのことに気づいてる。

けど苦しくて、喋れない。

 

「ご、ごめん・・・でも俺は出来損ないの化・・で・・・そういうのじゃ・・・」

 

「だから誤魔化さなくても謝らなくてもいいんだって。けど・・・いつか本気の清夜君を見せてね。あたしも清夜君が頼るくらいに強くなるからさ。な、なんてね。あは、あはは・・・」

 

話を聞いてるくせに話を聞こうとしないエリカ。

そして清夜の中で今のエリカと2年前のエリカの姿が重なった。

忘れもしない、彼女の拒絶姿。

ありもしない幻聴が彼女の声となって聞こえる。

 

ほ、ほら!(い、いや!)早く戻ろう清夜君!(寄らないで化け物!)

 

「ぁ・・・ぅあ・・あ・・・ぉ、俺・・・は」

 

清夜・・・君?どうしたの?(なん・・・で?生きてるの?)

 

ここでやっと清夜の異変に気付いたエリカ。

近づいて手を取ろうとするが彼女が近づくほど清夜の中で2年前のエリカが鮮明に思い浮かぶ。

 

「ち、ちが・・・ちが・・・ぁ・・あ・・」

 

顔がすごく真っ青だよ!?(何が違うっていうのよ!?)清夜君!?清夜君!?(貴方は!!化け物!!)

 

「ぃ・・・きぃ・・・てぇ・・て」

 

本当にどうしたの清夜君!?(貴方がいるから苦しむの!!)とりあえず保健室にいこう!(貴方のせいで私が傷つくの!)ほら、肩貸して!(死ね、早く死ね!)

 

「・・・ごめ・・・ん・・・」

 

バタッ

 

清夜の意識はここで途切れた。

 

 

復讐心は自身の生を望み

良心は自身の死を望む。

 

 

良心がなくなれば復讐心からくる進化に体が追いつけなくなり身を滅ぼす。

復讐心がなくなれば良心に従い自ら身を滅ぼす。

 

 

良心があるからこそ、追いつけない進化に歯止めをかけ

復讐心があるからこそ自殺に歯止めをかけている。

 

 

生かさず殺さず。

 

 

相反する、”矛盾”する心が彼に

際限無い進化を与え

際限無く苦しめる。

 

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2095年 5月1日 石川 第三高校 シャワー室

 

シャー

 

「・・・♪」

 

石川県金沢市の外れにある第三高校。

この学校は尚武の校風を掲げていて戦闘系の魔法実技、つまりは実戦を重視している。

そのためか生徒は血の気がある者ばかりで放課後も魔法戦闘の訓練にあてるものも多い。

このシャワーを浴びている生徒もその一人。

訓練のペイントで汚れたその姿と赤髪はまさしく彼の通り名を表していた。

そこに一人の小柄な生徒が制服姿で現れた。

 

「ねぇ、将輝。このニュースは見た?」

 

手にはタブレット型のデバイス。

その画面に写るのはブランシュ事件のニュースだった。

 

「ジョージか。ほぉ、第一高校にテロリストが侵入か。」

 

「事件自体はもう解決したみたいだけどね。」

 

「負傷者もいるようだが?」

 

「あれ?ライバルの心配?」

 

シャワーを終えた生徒は目立つ赤髪をタオルで拭いて出てきた。

その足でそのまま更衣室に向かい着替え始めた。

 

「いや、負傷したのはむしろテロリストの方だろう。十師族の血を引くのが二人。他にも実力ある生徒が多いからな。過剰防衛で九校戦に出れなくなったらつまらないだろう?」

 

「ははっ、将輝らしいね。でもどんなに彼らが強くても将輝に、”クリムゾン・プリンス”に敵はいないよ。」

 

「ああ、そうだな。」

 

否定しないのは裏付けされた強さがあるのか、はたまた自信過剰の間抜けか。

それは九校戦で明らかになる。

 

「あ、そうだ将輝。会長が探してたよ?」

 

「会長って佐伯基香先輩?」

 

ガラッ

 

そう言って更衣室のドアを開けると女子生徒が一人。

人懐こそうな、けど同時に異様な色気が漂う女性。

案の定、会長だった。

 

「やっぱりここにいた。一条君!演習室は使ったら掃除って散々教えたよね?」

 

「あ〜いえ、その洗い終わったらやるつもりで・・・」

 

「掃除が先よ。」

 

「まぁまぁ先輩。後で僕も掃除しますから。そういえば明日でしたよね国内留学?学校はどこですか?」

 

ジョージと呼ばれる生徒が話題をそらしてフォローした。

こういう時は本当助かると将輝は思っていた

 

「西東京総合学園よ。でも留学じゃなくて少しの間、あっちの生徒として通って校風、制度を学んでくるだけ。文化交流みたいなものかな。」

 

「九校戦には間に合いますよね?」

 

「ええ、今年で最後だから優勝のためにも一色さん達を含め君たちには期待しているわ。それじゃあね。学校の方もよろしく」

 

「「お疲れ様でした。」」

 

二人はお辞儀して彼女を見送った。

 

「ジョージ、少し赤くないか?」

 

「き、気のせいだよ。にしても本当に先輩は血の気の多い三校の会長とは思えないよね。」

 

彼女が去る最中もたくさんの生徒に話しかけられている。

その姿はまるで普通科の高校に通う普通の女子高生。

しかし、前述の通りここは尚武の校風を掲げている学校だ。

そこに武闘派ではない生徒がいるのは違和感でしかなかった。

 

「だがあれが三高の2、3年で唯一、一高の三巨頭に匹敵する魔法師だ。」

 

「模擬戦も一色さんを倒しちゃうし、技術だけなら将輝をも上回る。それでいて”数字付き”じゃないんだから不思議だよね。」

 

「ああ、不思議な人だ。」

 

そんな視線は気にもせず彼女は校舎に向かう。

 

ヴヴヴ・・・ピッ

 

「もしもし、あ、()()()()()体は大丈夫なの!?うん・・・うん・・・分かってる()()()()()()()()()、うん!()()()()()()()()()()。それじゃ無理しないでね」

 

これもこの学校には不釣り合いな、ごくごく普通な日常の風景・・・

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2095年 5月1日 ????

 

ある少女は制服を見ながら浮かれていた。

 

「兄様、兄様!とうとう私達のラブコメスクールライフが始まりますよ!」

 

「見て見て、トランプタワ〜」

 

「いやいや!?当然のようにスルーしないでくださいよ!」

 

「はぁ、そもそも俺とお前は兄妹だ。そんな展開ありません。」

 

対して兄様と呼ばれる少年は冷静にツッコミをいれた。

少年の隣には届けられた制服が置かれているが開封すらされてない。

 

「む〜!愛に兄妹もクソもヘッタクレもありません!兄様はもう少し妹を大事にしたほうがいいと思います!零りますよ?」

 

風船のように頬を膨らませる少女。

この光景も少年にとっては見慣れたものだ。

 

「こらこら、女の子がクソとか言わない。」

 

言うと風船はさらに膨らんだ。

少年はその姿にクスリと笑い、彼女の肩を抱いて甘い声で囁いた。

 

「それにな、俺はちゃんと妹を大事にしてるだろう?」

 

「!!、ふ、ふにゃ〜・・・こ、これはこのままベッドにダイブでアンアンいって結婚ルート・・・」

 

彼女はのとろけた表情で妄想の世界へダイブした。

冗談のつもりだったが、このまま放置すれば三時間は帰ってこない。

 

「いや、それはない」

 

そうはさせまいと少年は真顔で少女にデコピン。

 

ビシッ!

 

「はぅあっ!?兄様〜なんですか?」

 

「呑気に学生ライフを妄想するの結構だが現実になるか分かんないぞ。これ見ろ」

 

少年にデバイスを手渡され、画面を見る。

内容は第三高校の彼らが見ていたのと同じだった。

 

「えーとなになに・・・第一高校にテロリスト侵入ですか!?物騒ですね。」

 

「お前が思ってるより危険な学校ということだ。ましてや俺達「()」が入れば俺達を狙ってもっと危険になるかもしれない。」

 

「・・・分かりました。でもでも兄様ならどんな輩が来てもぶっ倒せますよ!私も兄様を支えますから!」

 

彼女の笑顔に少年も笑顔で返す。

 

「本当にありがとな。俺、()()()()()()()()()()()()最低な兄なのに・・・」

 

しかし、それは罪悪感に満ちたものだった。

そう、この少年は妹に関することを殆ど覚えてない。

もっと言うと一年以上前の記憶はなかった。

 

「構いません。兄様が兄様であることに変わりはありませんから。それにですねこれまでのことを覚えてないなら、これから思い出を作ればいいんです。だから任務の片手間でもいいの一緒に楽しみましょう兄様。」

 

少女は優しく兄の手を握った。

記憶はほとんどないのにその手は母のように暖かくて、とても心安らぐものだった。

少年も優しく握り返した。

 

「ああ、そうだな。それじゃあ始めようか、まやか。俺達の0から始める学校生活を」

 

「はい、0で始めて0で終わらせましょう(れい)兄様!」

 

兄妹は手を繋ぎ直す。

これから作る思い出に、出会う仲間に胸をときめかせながら。

 

生きた妹に縛られる兄、死んだ妹に縛られる兄、そしてこれから妹におこる悲劇を知らない兄。

同じ兄妹でも形は人様々。

しかし、その違いがそれぞれの兄妹の結末を大きく変えることになる。

 

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2095年 5月1日 ????

 

そこは昔から名家の人間が住むような屋敷だった。

しかし、ここにいた一族はすでに表社会から消されていた。

そんな屋敷の一室でとある少女は二つの遺影を前に語りかけた。

 

「パパ、ママ。とうとう私、一族の当主になるの。正式な襲名とか名字を戻したりするのはもう少し後になるけど。他の一族も表舞台に戻るらしいからそれに合わせる形でね。褒めてくれるかな?」

 

誰も答えない。

それでも彼女は話を続ける。

 

「たぶん零くんも表舞台に出てくると思う。といっても今の私を見たら嫌いになるだけかもしれないけど・・・。正直、零くんのことも零家の悲願も半分諦めてる。でもね!私は絶対に、絶対に二人の仇を取るからね!十師族を・・・そしてパパとママ、一族の皆を殺した実行犯を・・・」

 

彼女の目つきは今にも血涙が出てきそうに鋭く、憎悪に満ち溢れていた。

彼女は懐から写真取り出し見つめ、握り潰す。

 

「必ず殺してやる・・・()()()()()()()()()()()()()!」

 

このうら若き少女の心を占めるのは年相応の恋心でも友情でもない。

家族を殺された憎悪と怒り。

皮肉にも彼と同じだった。

 

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2095年 5月1日 ????

 

ある女性は清夜が待ち遠しくてたまらない。

それが例え、一触即発ですぐにも戦場になりそうなこの場所でも。

 

「フフーフ・・・おいで、清夜。君を理解してあげられるのはこの私だけだ。」

 

彼女は武器商人。

彼女は世界平和のために今日も武器を売る。

 

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2095年 5月1日 ????

 

とある村、いや施設の関係上表向きには存在しない村。

その、とある施設で黒いドレスの女性と赤いドレスの女性は患者の様子を見ていた。

 

「貢さん達の容体はどう?」

 

「全く駄目、魔法の内容としては夕歌さんの「マンドレイク」に近いけど、これはその100倍タチが悪い。どんどん衰弱していってるわ。同じ精神構造干渉魔法で治療するのが一番いいのだろうけど干渉力が強すぎる。昔ならともかく今の私にはどうにも。他の分家はどうだった?」

 

「こっちもあまりいいとは言えないわ。『すぐにもDEMに報復するべき』という声がほとんど。それにこの機に乗じて研究資料を持ち出して逃げる愚か者も出てきたわ。」

 

「不味いわね、こういう時に動くのが貢さん達のはずなのにこの容体じゃ・・」

 

「・・・()()()()()()()()()を呼びましょう。二人に治療と追跡をさせるわ。」

 

赤いドレスの女性は目を閉じてから決断した。

出来れば関わらせたくはなかった。

だが今は彼ら兄妹の力が必要だ。

 

「・・・そうね。全部を解決するにはそれが最善。私が連絡を入れるわ。」

 

黒いドレスの女性にとっても断腸の思いだった。

肉親なら尚更。

 

「ごめんなさい姉さん。」

 

「いいの、大事な妹のお願いだもの。それよりも彼の方はどうなの?」

 

赤いドレスの女性は首を横に振った。

 

「全然駄目・・・姉さん、やっぱり私にはそういう資格が・・・」

 

彼に対する罪悪感、そして”愛情”で涙が溢れそうになる。

黒いドレスの女性はその涙を拭い、妹の発言を止める。

 

「そこから先は言っては駄目。まだ諦めるにら早いわ。だから・・・ね?」

 

妹はコクリと頷いた。

 

罪悪感からくる『会ってはならない』という思い。

愛情からくる『会いたい』という思い。

ここにもまた”矛盾”が生まれた。




入学編はここまで!(パフパフ!)
酷い結末でしょう?たぶん他のssにはないスッキリしない結末だったと思います。申し訳ない。
でも代わりに伏線は大量に残しました。
あと壬生勇三さんとかどんだけ饒舌なんだよwって書いてて思いました。
あとあと40話で総合評価400は行きたかたっけど難しかったですね・・・

というわけで次章は九校戦編・・・ではありません!
九校戦編は二つの章をそれぞれ5話くらいやってからになります!
時期でいうと5月から7月くらいまでの話ですね。
次章はヨルムンガンドメインの+魔法科+オリジナルの『マジック&ガンメタル・キャリコロード』編
そのまた次はデストロ246メインの+魔法科+Lost Zeroの『四葉の魔薬<麻薬>』編を予定しています!

できれば俺へのメッセージでもいいんで総合通しての感想をいただけるとありがたいです。

「これはダメじゃない?」、「これだと運営に取り締まられるんじゃない?」という場合には是非、メッセージなり感想なりで報告をお願いします。感想、誤字脱字、評価、アドバイスもジャンジャンお待ちしております。
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