ま、前と比べたらはるかに遅いですが・・・
というわけで46話です!
新章スタートです!
日本の裏社会を舞台に様々な思惑が交差する。サーチ&デストロイ Magic&Gunバトルをお楽しみください
46話 薬
2095年 5月8日 長野県 某所
「着いたぞ深雪。」
「はい、久しぶり・・・というほどでもないかもしれませんが、こうして帰ってくると長らくいなかった感覚がしますね。」
ゴールデンウイークが明けて初めての日曜日。
達也と深雪は里帰りをしていた。
学生が休日を使って実家に帰るなんていうのは特に珍しいことではない。
ただ、この兄弟の里帰りに関しては色々と普通ではなかった。
まず場所。
ここは長野と山梨の境、その山奥にある小さな村。
が、その村に名前はなく地図にも書かれていない。
決して妖の村とか、伝説の仙人が作ったとかそういうお伽話のような理由ではない。
理由は二つ。
一つは認識阻害の魔法で村に結界を張っているから。
これでUAV(無人航空機)や人による認識を逃れている。
もう一つは村の主の縁者以外ここを知る外部の人間が殆どいないから。
政府や軍の高官も村の場所を知る者はごく僅かで、それ以外で知っていた者は全員記憶を消されている。
そう、ここは俗に言う『旧魔法技能師開発第四研究所』・・・
つまりは十師族序列第一位『四葉家』の本拠地だ。
次に里帰りの理由。
普通ならば「家族の顔を見るため」とか「荷物を取りに来た」とかだがこの兄弟は違う。
もちろん、兄弟や呼び出した本人達は「家族の顔を見る」という思いがないわけではない。
むしろ、そういうのを楽しみにしている。
しかし、あくまでついでにすぎず、ここに来た一番の理由は四葉当主からの『呼び出し』だった。
ただ家族を呼ぶような『呼び出し』ではなく、上司が部下を呼ぶような『呼び出し』だ。
ゆえに何らかの報告または仕事を与えられるための里帰りだった。
「深雪お嬢様、達也殿。本日はよくぞ、おいでくださいました。」
「お久しぶりですね深雪さん、達也君。元気でなりよりです」
「葉山さん出迎えありがとうございます。」
「穂波さんもお元気そうで何よりです。」
達也と深雪が四葉本邸の屋敷前に降りるとすでに迎えが二人来ていた。
向かって右にいる初老の執事は葉山 忠教。
本宅の執事長で先代から仕えている四葉の重鎮だ。
対して左にいる若い女性は桜井 穂波
四葉深夜の命を守るために存在するガーディアンで身の回りの世話も担当している。
深雪や達也にとって姉に近い存在だ。
「それではさっそくご案内いたします。部屋で奥様方が今か今かとお待ちしています。」
「このまま直接ですか?」
「はい、何もなければこのままご案内いたします」
「お願いします」
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2095年 5月8日 長野県 某所 四葉本邸 謁見室
四葉本邸は意外にも大きくはない。
一般家屋と比べたら大きいだろうが七草や一条と比べればかなり小さいと言えるだろう。
だから謁見室までさほど時間もかからなかった。
コンコン
「奥様、お連れしました。」
「どうぞ、お入りになって。」
謁見室のドアを葉山がノックするとすぐに返事が返って来た。
そうして葉山がドアを開けて兄弟が部屋に入るとそこには赤いドレスの女性と黒いドレスの女性が二人を待っていた。
キタ━━━(゚∀゚).━━━!!!
「失礼いたしまs・・・うぐっ!?」
「!?」
ギュゥゥゥゥゥゥ・・・
深雪の言葉途中で黒いドレスの女性が兄弟に抱きついた。
「ああ、ああ、ああ!会いたかったわ深雪さん、達也さん!!」
「お、お母様!?」
「ぐっ、母さん・・・まだ離れて一ヶ月ぐらいしか経っていないだろう。」
この人は四葉深夜。
兄弟の母にして四葉当主の姉である人物だ。
三年ほど前までは息子である達也に使用人扱いの冷たい態度だったが今ではこの親バカぶり。
でも深雪にとっては嬉しいことだった。
「されど一ヶ月よ!しかもブランシュに襲撃したと聞いた時は心配で心配で・・・ハァァァァ・・クンカクンカクンカ!スゥゥゥゥゥハァァァァァァスゥゥゥゥゥハァァァァァァ」
ギュゥゥゥゥゥゥ・・・
「お、お母様落ち着いて!」
「hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」
「顔文字なんて使われたら会話できないだろ母さん!」
「深雪さん、達也さんどうか許してあげて、姉さん本当に心配してたのよ。部隊を編成してラ○ボーのような格好をした時はどうなるかと思ったわ。」
赤いドレスの女性は深夜の暴走も止めもせず、ゆっくりと紅茶を飲み始めた。
「叔母様、こ、このような・・・格好で失礼致します。」
「同じく、申し訳ございません叔母上。出来れば叔母上の元気な姿を見たいのですが・・・」
そう、この人こそ四葉深夜の妹にして四葉家当主、そしてエレンと肩を並べる世界最強の魔法師『四葉真夜』その人だった。
「この部屋には達也さん達の今の状態を知らない使用人や分家の方はいませんから楽にしてくださって構いませんよ、親子の時間は大切なものですから。お二人とも元気で幸せそうなら私としては何よりです。」
真夜は怒りもせず笑顔で返してくれた。
それは作り物ではない甥と姪以上に息子、娘に向けるような優しい笑顔。
しかし同時にその瞳は羨ましそうに見る寂しいものに深雪は思えた。
実際に深雪の『心の色を見る目』にも真夜の心の色が見えていた。
(優しさや穏やかを示すオレンジ色と落ち着きや冷静を示す青色・・・でもこの青は多分、
今でこそ、優しい笑顔をする優しい人だが3年前までこうではなかった。
態度は優しくともどこか冷たく、その瞳は
それが3年前に深夜と分かり合うことで、人格がまるで変わったかのように優しくなったのは分かる。
けど、そこでどうして悲しくなっているのか。
深雪には未だ分からないままだった。
そうして深夜が兄弟をもみくちゃにして数分後、真夜が切り出した。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。姉さん二人を放してあげてくださいな。」
「ヾ(。`Д´。)ノ彡☆」
「いやだから顔文字で会話しようとするのやめてください姉さん」
「いやよ!もう少し、息子成分と娘成分を注入させて!」
ギュゥゥゥゥゥゥ・・・
「な、なんですか?その成分・・・」
「俺も初めて聞いたよ・・・」
「そんなの認めてたらいつまで経ったて終わらないでしょう。こっちだって余裕があるわけじゃないんですから」
「う〜分かったわよ・・・」
深夜は渋々席に着いた。
ようやく解放された兄弟は礼儀正しく席に座った。
「それで本日は『呼び出し』ということでしたが一体どのような内容で?」
「今日はお二人に仕事をお願いしたくて呼ばせていただきました。まずはこちらを見てちょうだい。」
真夜が葉山に視線を送ると葉山はリモコンでスクリーンを出し、a4サイズの封筒を達也に渡した。
ペラペラ・・・
「紙媒体ですか。3月の時といいまた厳重ですね。・・・なるほど、深雪」
「はい。・・・!?」
資料を数ページほどめくると深雪が驚いた。
深雪は半ば信じられず真夜と深夜に改めて聞く。
「これは・・・本当ですか?徹底した秘密主義の四葉から研究員が研究資料の原本を盗んで逃走したというのは」
「ええ、そこに書かれているのは全て事実です。」
「残念ながら、その研究員『楠田宏光』は未だ逃走中よ。」
「しかし叔母上、自分もいささか信じられません。研究員なら盗み出すまでならともかく四葉が、厳密に言うと黒羽が逃亡を許すとは思えません。」
達也の言うように四葉から情報を盗みだすのは容易ではない。
例え村の外に出られようとも諜報担当の黒羽家が必ず仕留める。
その黒羽家という最大の障害をどう乗り越えたのか。
答えは簡単だった。
「その答えはこれよ。」
ピッ
真夜の声でスクリーンに映像が映された。
「!?」
「これは!?」
映し出されたのは3つの研究室。
そこにはひどく衰弱した黒羽の叔父と再従兄弟の姿があった。
『く、来るなぁあぁああぁっぁぁぁぁ!!』
『やだ・・・嫌だ・・・も、うやめ・・て』
『た・・つ・・やさ・・ん・・・・・いやぁぁぁぁぁ!』
より正確には衰弱しながらも恐怖で暴走していた。
見ると体はやせ細っており、いたるところに掻きむしった跡。
ろくに眠れなかったのか目の下には隈ができている。
二人は見ただけで精神干渉系魔法によるものだと分かった。
「叔父様に、文弥君、それに亜夜子ちゃん・・・」
「・・・こんなことが」
「現在、黒羽家は諜報担当として機能できない状態にあります。」
当主にその子供達がやられれば無理もない。
だが達也には研究者ごときに黒羽当主達が倒せるとは思えない。
「その『楠田宏光』にやられたのでしょうか?」
「いいえ。その前の4月6日、黒羽の精鋭28名を率いDEMの研究所に侵入した際に返り討ちを受けてこのような状態に」
「Deus Ex Machina Industry・・・
「『ここでも』?そちらで何かあったのですか深雪さん?」
別段、秘密にするつもりでもなかったが深雪はしまったと口を開けてしまう。
そのまま硬直してしまった深雪の代わりに達也が答える。
「実は学校でDEMと因縁がある少し危険な生徒と出会いまして。その報告は後でいたしますので今は続きをお願いします。」
「そう・・・それで貢さん達をこうした原因ですけど貢さん達がうけたのはタチが悪い魔法です。1時間のうち40分は恐怖でのたうち回るし、寝させようとしてもすぐに恐怖で起き上がりのたうち回る。食べたものもその時に吐いてしまうから心身共に弱っていく。恐ろしい魔法ね。」
「ほ、他の方達はどうされたのですかお母様?」
深雪の言葉に深夜は首を横に振った。
「多分、DNAの一片も残ってないでしょうね。」
「なるほど、それで黒羽がろくに機能しない時に研究資料の持ち逃げが起きてしまったと・・・」
「研究資料の原本には外部には見せられない情報もあって、場合によっては四葉の失脚もありえます。だから達也さんには資料の回収と裏切り者の始末を、深雪さんには精神構造干渉魔法を使った貢さん達の治療をお願いします。」
「ですが叔母上、深雪のはともかく資料の回収は別に自分でなくとも分家の方に任せた方がよろしいのでは?」
「それがそうも言ってられません。他の分家が貢さん達の件を知りDEMに対する報復の声をあげてしまったため、今は安心して頼ることができないのです。」
「報復!?危険です!!」
「叔母上と母さんは賛成なのですか?」
報復はすなわちDEMと四葉の戦争を意味している。
そんなことをすれば双方ともただでは済まない。
双方だけではない、それこそ東西EUの戦争より被害が広がるはずだ
「もちろん反対よ。むしろ私達はDEMと同盟を結びたいと思っています。」
「けど今は分家止めるだけで精一杯。裏切り者を追う余力も余裕もないの。だから親の恥を忍んで達也さんと深雪さんにお願いしたいんです。」
兄弟は目を合わせる。
もとより二人にお願いされて断るほど叔母不幸(?)、親不孝者ではなかった。
「わかりました。」
「確かにお引き受けいたします」
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それから少し経ち・・・
四人で軽くティータイムを楽しむと真夜が聞いてきた。
「それでは達也さん。そろそろ、そちらであったDEMの話聞かせてもらえるかしら。」
「!!・・・はい。」
気を抜いてはいないが真夜の本気の眼差しに達也は改めて身構えた。
それだけ真夜は警戒しているのか。
正直、先程よりも切羽詰まっている印象があった。
「実はクラスメイトに式清夜という男がいまして・・・」
達也は清夜のことについて語った。
人なり
アイザック・ウェストコットとの関係
事前に犯罪を予測する知略
深雪と並ぶ魔法力
そして
達也を殺すほどの武力と深雪が見た心の色を
「・・・そうでしたか。そんなことが」
「信頼できる人ですがその高過ぎる能力ゆえ私達の正体に気づいてしまうかもしれません。」
「天才とも言える知略、深雪さんに並ぶ魔法力、それに達也さんを殺せるほどの武力・・・ですか。」
深夜と真夜は半信半疑な表情をしていた。
「二人に相談せず調査してしまい申し訳ありません。」
「ですがお兄様は叔母様を気遣って相談しなかったのです」
「ええ、そのことは真夜も私も分かっているわ深雪さん。達也さんもありがとう。それで件の彼はどうする?」
「・・・そうね。こちらのほうで監視を用意しときましょう。葉山さん。」
「はい、それぐらいなら黒羽の生き残りでも充分できるでしょう。」
「では、そうしてください。」
葉山は達也と深雪に頭を下げると部屋を出て行った。
達也もそろそろと思い、深雪に目配せをし立ち上がった。
「では自分達もこのへんで・・・」
「失礼いたしますお母様、叔母様。」
「(´・ω・`)」
「いや、だから顔文字じゃ分かりませんよお母様。」
「えぇ〜もう帰っちゃうの〜?マジ萎え〜」
「若者っぽく言ってもダメだ母さん。明日は学校なんだから。週末、報告でここにくるし、深雪も放課後はこっちで治療しに来るんだからそれまで我慢だ。」
「あ、そうだ!いっそのこと私が二人の家に住みつけb・・・」
ベチンッ!
「あ痛ッ!?」
どこから出てきたか分からないハリセンで深夜は真夜に頭を引っ叩かれた。
「姉さん、いいかげんにしなさいな。本当ごめんなさいね二人とも。」
「いえ、それでは失礼いたします。」
「お元気で、叔母様。」
「二人もね。せっかくの学生生活なんだから楽しんできなさい。」
真夜は深夜にお尻ペンペンしながら優しい笑顔で見送る。
しかし、その笑顔も悲しみと寂しさの色を帯びていた。
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2095年 5月15日 西EU リーゼルタニア ホテル
クロアチアでの戦いから10日ほどが過ぎ・・・
武器商人ココ・ヘクマティアルは一人、ホテルのベランダで黄昏ていた。
(さすがリーゼルタニア。DEM幹部特権のおかげで武器商人でもほぼ顔パスで入国出来てこの待遇とは・・・・にしても)
「まさか齢15、6の少年が国を支配する時代になってしまったか〜」
prrrrrrr
するとそこに電話がかかってきた。
発信者番号は・・・ない。
非通知の着信だ。
ピッ
『よぉ、もしもしココ?』
「ミナミか。今日はどうしたの?」
『どうしたのじゃねーよ。この間、清夜来たんだろう?上手くいったのか?』
「もう全然〜。話は聞いてくれたけど仕事終わったらすぐ帰っちゃった。」
『あちゃ〜、もう止まんないなアイツ。大丈夫なのか?』
「大丈夫なわけないでしょう。優しかったあの子が千葉エリカと出会ってからどんどん壊れていく。私は見てられないよ。」
ココはヤケクソ気味にワインを一気飲み。
プハァという掛け声は電話越しにも聞こえた。
『壊れるのは復讐心のせいじゃないの?』
「違う。復讐心だけだったら心や体に負荷はかからないさ。けど
『そりゃ、そーだけど。それだったら復讐心をなくさせればいいじゃん。』
「無理だよ。そしたら清夜は冬華ちゃんに対する罪悪感と千葉エリカに対する思いの板挟みで押しつぶされ壊れていく。どちらにせよあの女が清夜を苦しめてる。もし別の女なら最後に助けてくれるかもしれない。けど命の恩人を裏切るような女だ。必ず最後に清夜を傷つけ殺す。だから私は・・・」
『うぷぷ・・・』
ミナミの独特な笑いが耳に入る。
ちょっとイラっときたココは不機嫌そうに聞く。
「・・・何よ?」
『いやなに、ココはただのブラコンかと思っていたが、そうとう嫉妬深いブラコンだな。いや年下だからショタコンなのか?』
「ミ〜ナ〜ミ〜?」
『まあまあ、とりあえず言いたいことは分かったから。んで本題だけど汎用的飛行術式が完成したって噂は本当?』
わざとリークさせてるとはいえ、表立って情報を流してはいない。
だが彼女もDEM社員、そのぐらいの噂が入る地位にあった。
「うん、各国にはリーク情報として流れてるけど近々、発売だって。まさか清夜が完成させるとは思わなかったけど。おかげで先進国同士の戦争は停止してるらしいよ」
『そんで、どうすんの
「フフーフ、まさか。障害が生まれたけど、もちろん予定通り、あの子のためにも必要だから。」
『分かった。けど予定より時間はかかることになるよ。」
「分かってる必要な経費は言って、あと飛行術式の資料も取り寄せられると思うから欲しかったら。」
『りょーかい。まったね〜。』
ピッ
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2095年 5月15日 日本 第一高校 部活連本部
現在、世界では紛争などの戦闘行為が止まっている。
もちろん全ての戦争が終了したわけではないし、未だ戦闘が続いているところもある。
むしろ戦闘の準備は加速して行われている。
しかし、ほとんどの戦域で積極的戦闘はなく、近年の紛争最盛期と比べれば驚くほどの静かさだ。
その理由はDEMの汎用的飛行術式完成の噂だ。
眉唾ものの噂ゆえ各国家群の軍、並び政治のトップしか知らない情報なのだが、それでも各国家群のお偉方が戦闘を止めてまで様子見をするのは戦域戦術ひいては国家戦略を変えてしまうほどの代物だという証拠だろう。
そんな世界的影響を与えた噂の渦中の中心にいる人物は日曜日にも関わらず部活棟の一室で機械と格闘していた。
「さて・・・こんなものかな。修理できましたよ先輩。」
そう言った清夜の手に持っているのはライフル型のCAD。
バイアスロン部で使われていたものなのだが壊れたため修理したのだ。
「うわぁ〜ありがとう式君!本当に助かったわ。」
「灼けたパーツを変えただけですよ。」
その修理をお願いした人物は五十嵐亜実。
ショートカットが似合う女性でバイアスロン部の部長、そして部活連のメンバーだ。
苗字から察するように”数字付き”の人間だが性格、容姿ともにごくごく普通な方で清夜にとってはありがたい普通で普通すぎる普通な人だ。
「なんか今、普通と何回も言われたような・・・」
「はい?」
「あ、ううん!なんでもないの!」
「にしてもお前、ソフトとハード両方扱えるんだな。アルテミシアからMIT卒と聞いた時は信じられなかったぜ」
そう言って感心の視線を送ったのは二年の桐原。
今日は彼と外に出てるエリカと3人で部活連運営、対応の当番をしている。
ついでに言っておくと五十嵐はCADを受け取りに来ただけ
「本業の方達に比べたらまだまだですけどね。」
「それでもこれだけの種類扱えれば十分だと思うな〜。」
五十嵐の視線の先にはガラクタ・・・ではなく様々な部活から頼まれた修理した品々。
タイマーをはじめ部活用のデバイス、CADまで置いてあった。
「ははは・・・これじゃあ修理屋ですね。魔法師としては情けない話です。」
「けど、お前の株は上がって来ているぜ。この前、アルテミシアとか壬生のデバイスを調整してくれただろ?その後、アルテミシアがベタ褒めしてて噂が広がってる。調整してもらいたい奴も出て来たとか。」
「あ、じゃあ私・・・というかバイアスロン部でもお願いしようかな?専属技師として」
(あの野郎・・・必要以上に広めすぎだろ・・・)
なんてことは表向き先輩後輩ゆえ、口が滑ってでも言えない。
だが人脈を広げるきっかけをくれたこと自体には清夜は感謝していた。
「ま、まぁ専属はともかく、今度持って来てくれれば調整ぐらいはしますよ。必要な器具はここにありますし。」
部活連本部の部屋にはCADの調整機が置かれている。
元々、実験棟に置かれているのだが九校戦の練習のときぐらいしか使われなかったため部活連共同ということで克人が2台ほど持って来てくれたのだ。
他にも機械の修理器具の類があるがこれも克人が先生と交渉し、使われてないものを持って来てくれた。
顔の割にフットワークの軽い男だと思うが清夜はそこのところを感心している。
「これで式と同じようにどっかの誰かさんの評価も上がればいいんだがな。あいつは敵ばっか作りやがる。」
恐らく、達也のことを言いたいのだろう。
確かに達也に関して言えば上級生、特に一科生からの評価はよくない。
時々ではあるが未だ勧誘週間と同じ攻撃をされるらしい。
ブランシュ事件で壁は消えても一科と二科の溝が埋まるのはまだ時間がかかるようだ。
「達也君はツンデレで高周波ブレード振り回すどっかの先輩と違って正直すぎるだけですよ。」
エリカが帰って来た。
彼女には新体操部女子の相談に行ってもらっていた。
「おかえり千葉さん。」
「おい千葉!いつ俺がツンデレになったてぇ!?」
「おかえりエリカ。どうだった?」
「うん、とりあえず勝手に撮影する写真部を皆で一緒にぶっ飛ばしといた。卑猥な盗撮ではないけど許可なく撮るのもダメよね〜。あ、五十嵐先輩にはお菓子のお土産〜。」
エリカは清夜の机に乗っかりお菓子を広げた。
確か写真部には男性しかいなかったはず。
新体操部女子とエリカが強かったのか、単に写真部が弱かったのか。
多分答えは後者だろう。
「ぶっ飛ばしたって・・・まぁ片がついたならそれでいいか。」
お茶を入れながらエリカを見て、ふと清夜はココの言葉を思いだした。
彼女の存在が君の心に『復讐』と『愛』という矛盾を与えている。そして、その矛盾する思いはいつか君を殺す。『愛』の相手が千葉エリカならなおのこと、確実に・・・それもそう遠くない未来。
「あ、あの清夜君?どうしたの?そ、そんなに見つめても何も出ないんだけど・・・」
エリカの声で意識が戻った清夜。
どうやら清夜は思わずエリカを見つめてしまったらしい。
「いや、別に。お茶どうぞ。」
清夜はすぐに視線を外し、お茶を出した。
エリカがなぜ赤くなっているのか彼には分からないがそこについて考えることはなくココの言葉を考えた。
(・・・考えすぎだな。そんなバカな話あるわけがない。邪魔なら殺すだけだ・・・そう、殺すだけ・・・)
「わぉ、私の大好きなミニドーナツだ。いっただきま〜す!」
「話聞けよ千葉ぁ!」
そんな桐原の叫びは聞く耳持たず。
3人はお菓子をつまみ始めた。
校則ではお菓子持ち込み禁止なのだがそれぐらいの違反行為は学生なら誰でも通る道だろう。
そうして談笑も交えて数分後、エリカが気になることを言った。
「そういえば新体操部女子から噂聞いたんだけどさ。あ、でも噂の出処はしらないんだけど」
「噂?なんのだよ?」
「まぁまぁ桐原先輩。話は最後まで聞く。それでさぁ、なんでも
「「「魔法力を高める薬?」」」
エリカ以外の3人が首をかしげた。
そんな話は国が公開している魔法研究でも聞いたことがない。
そこでエリカが詳しい話を始めようとするとある人物が姿を・・・
「そこから先は生徒会長にして十師族である私!七草真由美がおs」
ピッ!ガラッ!
現したがすぐに清夜がリモコンで扉を閉めた。
四人は何も見なかったことにし会話を再開させた。
「にしても魔法力を高めるなんてホントかな?胡散臭い」
「五十嵐先輩もそう思いますか」
ドンドンドン!
アケテ!アケテヨ!イマナラ、オネエサンのプロマイドをアゲルカラ!
ブランシュ事件を解決させたとはとても思えないほどの喧騒。
四人はアイコンタクトで会議し開けてあげることにした。
ピッ!ガラッ!
「ははは〜ん、どうやら私のプロマイドが欲しいようね清夜君!」
「どうしたんですか会長?頼まれた生徒会専用デバイスの修理なら一応できてますが(ガン無視)」
「うぐ、十師族相手にガン無視とはいい度胸ね。まぁいいわ、今回はね・・・」
「「「「今回は?」」」」
「視察という名目で遊びに来たわよ!いやぁ〜前々から来たかったのよ!お菓子もあr・・・」
ピッ!ガラッ!
清夜がリモコンで(以下省略)
四人は何も(以下省略)
「でさ〜」
ドンドンドン!
アケテヨ!アケテクダサイ!イイジャナイ!?アタシダッテ、オカシタベタイ!『達也と遊部』ジャナクテ『清夜と遊部』シタイ!
ピッ!ガラッ!
「はぁはぁ・・・もう清夜君、お姉さんの扱いが”よんこま編”並みに雑すぎない?」
「”よんこま編”とやらは知りませんが達也に会長が面倒臭いモードになったらこうしろと教わりました。それで用件はなんでしょう?以前の『学ランセーラ服で甘酸っぱい青春!』のような企画でしたらお断りしますが。」
「充分”よんこま編”知ってるじゃない・・・。気を取り直して今回の企画はコレよ!」
ジャラララララ〜と言いながらフリップに書き始める真由美。
すでに話が違う気がするし、嫌な予感しかしなかった。
「バンッ!大正ロマン・・・」
ピッ!ガラッ!
清夜が(以下省略)
そのまま、すぐさま内線で生徒会室につなげた。
「もしもし市原先輩ですか?・・・はい、会長がサボって遊びに来てます。・・・はい、ケツバットで構いませんので・・・ええ、釘バットなら部屋にありますので」
ドンドンドン!
キャァーーーーー!ゴメンナサイ!ジョークデス!リンチャンのバットヤダ!モウ、マジメニハナスカラ!アケテクダサイ!
「お、おい・・・どうする式!?七草先輩が生徒会長とは思えない幼児っぷりだぞ!!(ジョセフ・ジョースター風)」
「と、とりあえず真由美を入れてあげましょう。」
「そうね、このままじゃこのSS、シリアスではなく鬼つまらないギャグSSになってしまうわ。」
「・・・分かりました。とりあえず、いつでも追い出せるように移動系のランチャーを展開してから開けましょう。」
清夜は仕方なく真由美を招き入れた。
ちょっと涙目だったので4人はお菓子で餌付けして慰める。
「すみませんでした会長。ほら、お菓子ですよ。」
「うん・・・まぐまぐ・・・」
子リスのようにパイの実を頬張る真由美。
そこに呆れ顔の摩利が入ってきた
「なに後輩に餌付けされてるんだ真由美。話に来たんだろ?」
「渡辺先輩。どうも」
「どうも」
「いらっしゃい渡辺さん」
「む・・・」
摩利の姿を見るなり不機嫌になったエリカ。
清夜も前から思っていたが二人は何らかの確執があるようだ。
「やぁ皆、どうやらこの馬鹿が世話になったようだね。」
「世話じゃないわよ!いじめられてたのよ!」
「わかったわかった。それで今日は風紀委員と生徒会として話に来たんだが十文字かアルテミシアはいるかい?」
「いえ今日は十文字先輩、緊急の私用があると言って来てません。」
「アシュクロフトなら今日は剣術部に出てますぜ。」
本当なら今日、清夜は非番だったのだが十文字に頼まれ今日の運営の代表を務めていた。
清夜としては師族会議の類だと思っていたが真由美の反応を見る限り思い過ごしのようだ。
摩利と真由美は少しウ〜ンと考え、用件を話すことにした。
「それじゃあ仕方ないな。十文字とアルテミシアには後日、話そう。」
「実はね、今日話に来たのはさっき千葉さんが喋ってた薬の話なの。」
「魔法力が高くなるという薬ですね?」
清夜の問いに二人は首を縦に振って答えた。
危ない話と察したエリカはそっと扉を閉じる。
「そもそも公開されている魔法研究資料では見たことありません。十師族のどこかで研究されている新薬とかではないんですか?」
「いえ、父にも頼んで調べてもらったけど百家本流を含め、どの一族もそんな研究はしてないらしいわ。」
日本魔法界では一番顔が広い七草家が言うのだからそうなのだろう。
無論、他家または七草家自体が秘匿、隠蔽しているという可能性は否めないが・・・
「いつぐらいからそんな話が?」
「ちょうどブランシュ事件が解決したあたりじゃないかしら、そのあたりから魔法科高校系列の裏で流されているらしいわ。」
「系列ってことは・・・他の分校にも薬が出回ってるの?」
「噂自体は全分校に伝わっている。で、つい昨日、静岡にある第四高校の生徒が意識不明で倒れているのが発見されたんだ。それも
「なっ・・・昨日1日で」
「17人も!?」
桐原と五十嵐の反応も無理はないだろう。
でも偶然でないというのは数からして明らかだった。
ただそれがどう関係しているのか分からない。
エリカは摩利ではなく真由美に続きを促す。
「それだけじゃないですよね七草先輩?」
「ええ、意識不明の生徒はすぐに病院で意識を取り戻したのだけど・・・実は全員が
清夜がピクリと反応した。
「一部分とはいえ全員が記憶喪失?それは外傷性の記憶喪失で?」
「現段階ではなんとも言えないらしい。殴られたような外傷は見当たらなかったそうだが魔法で直接脳にダメージを与えられた可能性もあるからね。」
桐原も二人に問う。
「サイオン枯渇っていうのは?」
「そっちも原因不明だ。枯渇するまでサイオンを使ったというのが一番妥当だけどサイオンレーダーには引っかかってない。魔法をかけられた線もあるがこれも同様、サイオンレーダーに記録はなかった。」
話を聞く限り、清夜でも検討すらつかない不可解な現象だった。
可能性があるとすれば『系統外魔法』ぐらいしかないだろう。
だが真由美と摩利には別の可能性を考えているようだ。
「なるほど、二人は薬の副作用だと考えているんですね。」
「さすがね清夜君。その通りよ。『魔法力が高くなる薬』の正体は新種の脳ドーピング薬による一時的な脳のキャパシティ上昇だと私は考えています。外傷のない記憶喪失とサイオンの枯渇は脳ドーピングによる脳の負担が耐えられなかったこと、またそれによるサイオンコントロールが維持できなくなったものと考えれば筋も通ります。」
確かに原因の筋は通ってる。
けど、それは薬以外でも可能性はある。
だから、それが『魔法力が高くなる薬』と繋がっているというにはまだ弱かった。
「ですけど予測にすぎませんよね?その流されている薬の実物すら出てきてないわけですし、それで薬と事件が繋がってると判断するには弱すぎると思います。」
「ええ、学校側も同じ理由で事件と薬の関係は認めず、薬の話はただのデマとして処理するようです。でも本当だとしたら裏で流されている以上、まともな薬であるはずがない。ブランシュ事件のこともあったし危い芽があるなら早めに摘んでおきたいの。」
真由美の言葉途中で清夜は違和感を感じた。
(ん?良識のある校長が薬の話をデマとして終わらせる?どうして?)
「そこで私はブランシュ事件と同じく生徒会、風紀員、部活連による合同調査を考えています。手を貸してもらえないかしら?」
「『薬を売っている組織を壊滅』なんてことは言わない。ただ第一高校での実態を調べるだけでいいんだ。参加の強制もしないから安心したまえ。代わりに今日話したことについて他言無用のお願いはするがね。」
対処なんて言っているが簡単な話ではない。
そもそも存在するかも分からないし、エガリテのようにメンバーを示すリストバンドをしているわけでもない。
エガリテの抗議活動のように表向きに行われているわけでもなく、全ては裏で秘密裏に行われているのだ。
そんな姿形も分からないものを子供だけでどうこうできるわけないのだが真由美達の目は本気だった。
「・・・俺はやります。」
最初に決意を示したのは桐原だった。
「俺は以前、目の前で起こっている事に見向きもせずブランシュ事件を迎えてしまいました。もうこれ以上、この学校で悲劇が起こるのを見逃せません!」
「私もやるよ。これでも五十嵐家の人間だしね。」
「あたしも参加する。おもしろそうじゃない」
エリカも五十嵐も覚悟を決めてくれた。
この場で意思を表明してないのはただ一人・・・
「清夜君はどうかな?」
真由美の声とともに視線が清夜に集まる。
清夜の経験則で言うならばこれは期待の目。
人脈を構築できるほどの信頼を得られて喜ぶべきか、それとも厄介ごとに巻き込まれるほどの信頼を得て嘆くべきか・・・
「自分は・・・」
考えるのは十文字にブランシュ事件を頼まれた時と同じ。
自分の計画、会社などにもたらせれる損得。
己の心情、学校の平和などは二の次だ。
それを合理的に考えた結果は・・・
「現段階では決められません。」
「「「「「・・・・へ?」」」」」
回答保留だった。
ギャグをやり始めたと思ったら急にシリアスに戻ったり・・・
一体、俺は何をしたいんだ!(作者は疲れで頭が混乱しています)
とりあえず24話の伏線は回収できたと・・・
次回予告!
清夜はエリカに回答保留の理由を問い詰められていると、近くで戦闘している生徒を見つける。気になった清夜は見に行ってみるとそこには転入生の姿があった。
次回もお楽しみに!
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