東方遠来客〜大怪獣ラッシュ世界から傭兵が現れた〜 作:紅 星鎖
「今日は閃火さん遅いな」
「そうだな。あの人、遅れたことないから珍しいな」
「ま、あのキッツイ訓練の時間が減るならありがたいけどな!」
「はっはっは、そーだな。
ま、その分前より成長がわかるから楽しくもある」
「あぁ、それ俺も」
いつもの訓練場にて。
兵士たちがなかなか来ない閃火に対して愚痴やらなにやらを言っている。
依姫は彼らから少し離れたところで剣を振るっていた。
(閃火さん、どうしたんだろう。
もしかして昨日のこと怒ってるのかな?)
だとしたら悪いことをしてしまったな、と思いながら顔を曇らせる。
「あ、あれは」
向こうの方から現れた人影を見て誰かが言う。
依姫がふとそちらを見る。
こんな時間に来るのは閃火くらいのものだ。
そんなことを思いながら口を開いた。
「もう、閃火さん遅いですよ。
もう皆さん集まって……⁉︎」
だが、そこにいたのは……
「こんにちは、魑魅魍魎も恥じらう乙女です♪」
「「「誰だぁぁぁぁぁぁぁ‼︎⁉︎」」」
長い黒髪の美少女だった。
ーーーねぇ、今どんな気持ち?
「………閃火の妹の
今日は兄に代わって私が皆さんの訓練を見ようと思います♪」
「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎⁉︎」」」
さて、千夏もとい閃火がこんなことになっているのにはワケがある。
それは20分前のことーー。
「絶対やだよ! コート返せよ!」
「仕方ないわねぇ」
永琳はどこからか小瓶を取り出すとその中から赤い薬を更に取り出した。
「おい、なんだその薬は」
無言で口の中に突っ込もうとする永琳と止める千夏。
「大丈夫よ。効果は一瞬(で出るわ)よ」
「いやいやいやいや嘘つけ‼︎」
首を振って逃げようとする千夏だが、永琳の膂力にはやはり敵わない。
「んぐっ⁉︎」
「よし……!」
千夏が薬を飲み込んだ瞬間ガクッと糸が切れた人形のようになる。
永琳はその状態の千夏を椅子に座らせると何事か耳元で囁く。
すると千夏がカッと目を見開き起き上がる。
「了解しました、永琳さんっ☆
私、頑張りますね♪」
「よし、行きなさい」
そうして千夏を見送った永琳。
その後ろ手にはさっきの小瓶。
ラベルには不気味な《演技強制剤》の文字があった。
「い、イモウト? アハハ、面白い冗談ッすね〜」
「そ、その通りです!
閃火さんに妹なんていません…!
貴方、何者ですか⁉︎」
兵士たちや依姫が混乱する中、千夏がうふふと笑って兵士たちに言う。
「え〜、冗談じゃないです、ホントのことですよぅ☆
私は閃火お兄ちゃんの妹です♪」
にこやかに歌うように。
千夏はその場を翻弄する。
「じゃあまず、グラウンドを10周ね♪
頑張った人にはご褒美あるかもだよっ☆」
オオォォォ!と男共から歓声が上がる。
依姫はやれやれと首を振った。
ここの兵士はいささか単純すぎるきらいがある。
「千夏さん……でしたか?
閃火さんはどうして来られないのです?」
「大人の事情だよっ☆
分かったら走って、走って♪」
どうでもいいけどこの人さっきから語尾がおかしい。
腑に落ちないが千夏に背を押されて渋々走り出す依姫。
「さて、じゃあ私も軽く身体ほぐしてますかねっ☆」
千夏は鉄入りの重い木刀を
数分後、一番に走り終えて依姫が千夏に声をかける。
「千夏さん。終わりました」
「お、速いね。流石はよりひめちゃん♪
じゃあ他の人たちが終わるまで模擬戦でもしてよっか☆」
スッと正眼の構えを取る千夏。
その構えは閃火と瓜二つで、隙がない。
「……ホントによく似てますね。
だからこそ疑問です。
貴方は一体誰ですか……?」
疑問に思いながらも木刀を構える依姫。
「だ・か・ら、さっきから言ってるじゃないですかっ☆
私は星守 千夏。閃火お兄ちゃんの妹だって♪」
「嘘です。だって私は事前に閃火さんのことを調べさせてもらった。
この星に来たのは異世界人は閃火さん、一人だけ。
貴方がいるはずがないんです!」
依姫は決定的な証拠を突き付けた。
「資料が間違っていたとは思わないの?」
「思いません。だってあの資料は閃火さんと暮らしている××様が自ら作ったものですから」
「なるほどっ☆
そりゃ、信憑性が高いかっ☆」
こりゃーいっぱい食わされちゃったZE☆ とか言いながら頭をこつりと叩く千夏。
そんなアホそうな動きを見ても警戒を解かない依姫。
「そうだよ。私は星守 閃火の妹じゃない。
でも私が誰かなんてどうでもいい。
今は戦おう、よりひめちゃん。
私に勝てたら私の正体教えてあ・げ・るっ☆」
高速の一閃が依姫に襲いかかる。
間一髪のところで躱す依姫だったが、その初速に愕然とした。
(今、まるっきり動いた気配を感じ取れなかった…⁉︎)
「ほら、次。行くよっ☆」
斬り、突き、払いと連続で繰り出される攻撃をギリギリのところで凌ぐ依姫。
だが、
「ふっ!」
「えっ⁉︎」
(回し蹴り⁉︎)
払いの勢いのまま回転。回し蹴りを放ってきた千夏。
依姫はとっさに後ろに飛んで威力を殺したがまさか体術まで織り込んでくるとは想像もつかなかった。
「剣術だけ、なんて言ってないよ♪
戦闘では常にどんな攻撃が飛んでくるか分からない。
ちょっとやそっとで驚いてたら死あるのみだからねっ☆」
依姫の動揺を見抜いた千夏が諭すように言う。
経験の差から長期戦が不利だと悟った依姫は空いた距離を一気に詰め、ラッシュを開始した。
「っ! そこだァ‼︎」
「おっと♪」
ラッシュの最中の一瞬の隙。依姫は迷わず突こうとする。
だが、フェイク。
それこそ千夏の狙いである。
強烈な切り上げが強かに依姫の手元を叩き、木刀を落とさせる。
「うん、おしかったねっ☆
私の作った隙に迷わず飛び乗るその気概。悪くはないけどまだ経験が足りないね♪」
「くっ……」
赤くなった手を押さえ、千夏を睨む依姫。
千夏はそんな依姫の姿を見てもなお笑顔を崩さない。
「そろそら皆も戻って来たし、ここいらで一旦お終いねっ☆」
息を切らした兵士たちが戻ってきた。
いつもより疲労度が高いのは全力疾走した者が多かったからだろう。
「ご、ご褒美…を…」
「え? なんのことー?
千夏わかんなーい♪」
「千夏さん、やっぱり貴方は信用出来ません…」