ラブライブ! The youthful days 作:なふたれん。
更新できなくてすいませんでした…忙しくて。
放課後はとある人と会う約束があり、生徒会にも穂乃果たちが練習場所として使うことにした屋上にも行かずに、1人で秋葉原へ赴いていた。駅のトイレで制服からスーツのようなシックな服に着替え、徒歩で10分ほど歩いたところの路地裏に、待ち合わせ場所となっているバー、『WeaSing』はある。歩行者天国で有名な中央通りとは一線を画したように大人びた雰囲気が辺りを包み込んでおり、人通りも少ない。中に入って、数段の階段を降りると、出入口の狭さとは違い、少し広めで若干暗いジャズバーの内装が目に入る。客はまだ夕方なのでいないようだった。
奥にはピアノが置かれ、その隣には小さなステージのようなものがある。
慣れたような仕草で真ん中のカウンター席に座り、見知った顔のバーテンダーに声をかける。
「お久しぶりです、裕人さん」
「去年の冬以来だな。元気にしてたか?」
「えぇ、お陰様で」
ザ・バーテンダーという雰囲気を身に纏った彼は田島裕人さん。年齢は不詳だが、小学生の頃から知り合いでとてもサックスが上手い。その腕前は、プロ顔負けのものだと言われている。今はこの『WeaSing』で、バーテンダー兼奏者をやっている。
「そういえば、真姫──西木野さんの娘さんが後輩になりましたよ」
「おぉ!真姫ちゃんか!長らく会ってないなぁ…どうだった?」
「どうだった、というと?」
「美人さんだったか?あの子は中1の時からかなり大人びてたから将来が楽しみだったんだよ」
「そりゃ、とっても美人ですよ。絵里に負けないくらい」
実は、このバーの常連に真姫の父親がいる。ある時、真姫の父親に内緒で彼女をバーに連れてきたことがあった。見るからに未成年なので、客には変な目で見られてしまったが。
そして、絵里も親友として何度か連れてきたことがあった。
「全く…羨ましいねぇ。美人さんに囲まれてさ。しかも妹さんたちまで可愛いんだろ?俺なんて夜にブッサイクなババアの話し相手だぜ?ずっとサックス吹いてた方が何千倍もマシだよ」
「ま、まあまあ。裕人さん素敵なんだから彼女くらいすぐできますって」
「うるせえな…んで?今日はマスターに楽器の指導でもしてもらうのか?」
「いえ、今日は少し話を」
「…例の件か」
「まあ、それも含めて近況とかですかね」
奢りだ、と言って裕人さんの出してくれたノンアルコールのカシスオレンジを頂く。別に慣れているのでノンアルコールでなくても良いのだが、一応未成年なのでその辺は裕人さんは遠慮してしまうらしい。…あの人はがっつり飲ませてくるんだけどな。
裕人さんと他愛もない話をして20分が経った頃、奥の事務所へ繋がる扉から目的の人物が現れた。
もう40代半ばだと言うその人は、まだ30だと言われても何ら問題のなさそうな、若さを持った男性。彼も裕人さんと同じようにサックスを吹くことを専門としているが、他の楽器にも精通しており、俺も小学生の頃から様々な楽器の吹き方やコツを教えてもらっていた。裕人さんの着ているカマーベストとは違う普通のベストを着ており、これまたバーのマスターであるという風格を漂わせている。この店は夜になると、裕人さんやこの人目当てで来る女性も少なくない。
どちらも人に優しく、時にはジョークも混じえながら話すことの出来るいい人だ。
「お疲れ様、裕人」
「えぇ、お疲れ様です。今日は夕方で終わったんですね」
「今日は音楽のワークショップだけだからそんなに遅く──おっと、話に夢中になってしまってお客様に申し訳ないな」
「別に話しててもよかったんですよ?…お久しぶりです、先生」
「そんなに畏まるなよ…久しぶりだな、海里」
その人とは、俺が小学生の頃から中学2年まで楽器を教わっていた先生──藤宮陸人さん。このジャズバーを経営しながら、サックス演奏者としても名を上げており、真姫によると、その実力から音楽界では結構な有名人らしく、最近では子供たちのためにサックスの講習会を開いたりしているらしい。
陸人さんは、俺を事務所へと続く扉の向こうにある休憩室へと連れて行き、椅子に座らせた。そして俺の向かい側の椅子に座り、ふぅ、と一息つく。
「お忙しいんですね」
「ありがたいことにな。お前も一緒に中高生向けのベース講座とか開いてみるか?」
陸人さんが言うには、俺のベースとギターの腕前は、陸人さんよりも上達しているらしい。恐らく1年の頃から弦楽器に関してはプロ並の腕前を持つ国生先生に暇な時に教えてもらっていたので、ある程度慣れたのだろうが、それでもやっている期間がそこまでないのに上手くなっているのは才能だろうと陸人さんに褒められたのは今でも忘れられない。
「遠慮しときます。勉強のこと以外は人に伝えるのが苦手なんですよ」
「まあお前、音楽に関しては天才だもんな」
「いえ、そんな天才だなんて…そうだ、こんなことを話してる場合じゃなかった」
「何だ、早く帰らないといけない用事でもあるのか?」
「実は…」
陸人さんに穂乃果たちについては何度か話したり写真を見せたりしているので、穂乃果たちが廃校を防ぐためにまだ名前も決まっていないけれど、スクールアイドルを始めると言う話、その話し合いが家であるからできるだけ早く帰りたいという話をすると、陸人さんは興味深そうな顔をした。
「その子たちに是非とも会ってみたいね。特に海里の妹の穂乃果ちゃんに」
「まあ…妹って言っても血は繋がってませんけどね」
「海里の妹ちゃんたちが知らないくらい小さか頃から一緒にいるんだから、今更血の繋がりなんて些細な問題だろ?」
「わかってますよそんなこと…って、だからこんなことを話したいんじゃなくてですね。その…手掛かりの件で」
その話をし出すと同時に、中学2年の時に見た悪夢を思い出す。それは、この間も絵里の家で見てしまった夢と同じような夢。
俺は何としても、自分の実の母親──絢瀬いのりの自殺の原因を探し当てたい。物心つく前のまだ2歳の時に体験したことで、全く覚えておらず、中学の時にその夢を見て、今の母親に冗談混じりにそれを告げると、真剣な顔で説明されたのだった。
今更真相を知って、復讐でもするのかと言われたらそういう訳ではないし、そもそもあの夢が幼い頃の記憶だったということにも実感がない。ただ、生きているのなら実の父親について知りたいとは思い、周囲の信用できる人間にはその調査に協力してもらっている。
そして俺の目の前に座る陸人さんもその1人だ。
「まず、いのりさんのお兄さんの絢瀬正樹さんにお話を聞いてきました。何度かいのりさんからとあることを相談されていたらしく…何でも、大学在学中にいのりさんがある1人の男性と両親の反対を受けてまで付き合い始めて、大学卒業後には勘当されてしまったようなんです。当時付き合っていたその男性が、綺羅幸也さん──今人気のUTX学院のスクールアイドル『A-RISE』のリーダー、綺羅ツバサの父親です」
「…そうか。その綺羅幸也とのコンタクトは取れてるのか?」
「いえ、現在アメリカにあるIT企業に務めているみたいで。娘の綺羅ツバサは既に有名なアイドルですから一般人が近づけるような環境下にいませんし…」
綺羅ツバサの母親に関しての情報を手に入れることはできなかったが、綺羅ツバサの父親がいのりさんと接点を持っていたという事実はいい手がかりとなりそうだ。もし仮に綺羅ツバサの母親の情報を手に入れられなければ、アメリカにいる綺羅幸也に会うという選択肢もあるが、そこで会えなかった時のことを考えると金銭的な意味で引けてしまう。となると、1番可能性があるのは…綺羅ツバサに会うこと。
もし穂乃果たちが、スクールアイドルを見事成功させることができればそこ繋がりで…言い方は悪いが、利用させてもらう。
「スクールアイドル繋がりで探ってみようと思います。もし穂乃果たちが成功すれば…」
「そうだ、海里!それならいい話がある」
「え、なんですか?」
「これはあるテレビ局のプロデューサーから聞いた話で、まだ企画段階なんだが…何でも『LoveLive!』というスクールアイドルの大会のようなものが行われるらしい。恐らくA-RISEもそれに参加するだろうから、そこを狙うというのはどうだ?」
確かに今、スクールアイドルは全国各地に存在しており、最近ではスクールアイドル専門のショップも出始めるほど人気がある。それが集まって大会か…現段階じゃ厳しいかもしれないな。だが、これを使わない手はない。
その後、陸人さんと話し合い、まずは穂乃果たちのグループを完璧に仕上げることで一致した。陸人さんは俺の力を買ってくれているようで、海里がいるなら何とかなるだろうと言ってくれた。
少し暗い帰り道、携帯を取り出して時間を見ると、いつものご飯の時間くらいだった。帰りつく頃には皆食べ終わってしまっているだろうし、穂乃果に今から帰るとメッセージを入れることにした。
◆◇◆
「で?」
「お断りしますって言われちゃった」
帰宅後、すぐにご飯を食べて穂乃果の部屋で話し合いに参加した。
既に放課後に真姫と話をしてきたようで、断られてしまったらしい。まあ真姫はアイドルソングとか嫌い、というか苦手だったもんな。軽いとか薄っぺらいとか言って、いつもクラシックとかジャズしか聴いてなかったし。最近は俺のオススメのJ-POPとかも聴いてるみたいだけど、その辺はまだ嫌々ながらなのだろう。
「まだ諦めるなよ?次は…海未に作詞してもらってから歌詞の紙を持って行けばいい」
「そ、その…お兄さん」
「ん?海未、どうした?」
「これ、その…」
海未はゆっくりと俺に向けて一枚の紙を取り出した。目をぎゅっと瞑って、やかんを乗せたら一瞬でお湯が沸いてしまいそうなほど真っ赤になった顔に疑問を感じながらもその紙を受け取る。開いてみると、それはB5サイズのルーズリーフだった。
一番上の余白に書かれているのは、
『START:DASH!!』
という文字。何かの題名だろうか、と視線を紙の下へ移す。
「これ…何かの歌詞…?」
「そうだよ!海未ちゃんがね!書いてくれたの!」
「そうなのか!?凄い…ていうか昼休みに歌詞書くって話になったばかりじゃないか」
「そ、そんなに褒めないでください…」
「この部屋に着いて作詞始めたら、さーっと書き出してことりたちびっくりしたんだ〜!海未ちゃんはすごいなぁ…」
そんなにインスピレーションがわいたのだろうか。確かに人間、1つひらめくとそれと関連していくつもひらめいたりするからな。
「明日の放課後、この紙を持って真姫ちゃんのところに行ってくるよ!作曲してもらうまで諦めないもんね!」
「そう、その意気だ穂乃果!打倒、真姫!」
「おー!」
「あなたたち兄妹は一体何がしたいのですか…」
いつもの如く海未が呆れたような表情をしているが、そんなことは知らん。
真姫と言えば、とてもお堅いイメージがあるが、それは表面上だけ。つまり押しに弱いのだ。表面を突き破るほどの想いをぶつければ、真姫もわかってくれるだろう。
それに関しては穂乃果なら何の問題もなくクリアできると信じている。やるったらやる、と穂乃果はよく口にするが、その本気度は未知数。
そして真姫の人間を見る目のよさも相まって、上手くいくに違いない。…あれ、何で真姫って見る目あるのに友達いな──あっ、真姫から電話だ。
『何か言った?』
「えっ、何も言ってないが…?」
『そう。…ねえ、今日の放課後のことなんだけど』
「あー…穂乃果たちがお邪魔したみたいだな」
その言葉で、俺の電話相手が真姫だとわかったのか、3人がこちらを凝視してくる。
あの、そんなに見ないで…。
『作曲してくれって頼まれたわ』
「そうらしいな」
『私、どうしたらいいと思う?』
「…それは、俺が決めることじゃない。でももし、また穂乃果たちが来てもその場で突っぱねたりしないで話を聞いてあげてくれないか?」
『ま、そうね。そうでもしないとしつこそうだし』
「相変わらず真姫は素直じゃないな」
『うるさい!おやすみ!』
「はいはい、おやすみ」
そして通話終了アイコンをタッチした。
とりあえずこれで穂乃果たちの話を聞いてくれるだろう。あとは真姫がどれだけ穂乃果の熱意と海未の詞に惹かれるかが重要になってくる。
「海未」
「はい、なんですか?」
「多少気になる点があったからな、手直ししていこう」
「はいっ!」
こうして着々とスクールアイドルとしての階段を登ろうとしているのだった。
「あのー…そういえばグループ名どうなってんの?」
「あ!そういえば今日廊下の掲示のところにグループ名募集してたら1個だけ来てたんだ!」
「何それ不安…っていうか俺知らないんだけど、募集してたとか。まあ来てたならいいか。どんな名前なんだ?」
「それはね──」
この時、俺は知る由もなかった。彼女たちがどれだけ大きな力を持ったグループになるのか。
あれ、なんか海里くん見ない間にクズ化した?(すっとぼけ)
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