ラブライブ! The youthful days 作:なふたれん。
始業式から数日経ったある日の放課後のこと──
生徒会の仕事で、音楽準備室へ向かった。
仕事内容は…音楽の先生が提出した書類に不備があったので直してもらう、というごく普通のものである。
確か急な用事がない限りはこの時間にいる、と昨日言っていたので、直すなら早い方がいいと思ったのだ。
それに、今日は音楽室の使用申請も出ていなかったはずなので、邪魔にもならないだろう。
誰もいない音楽室へ入り、そこから奥にある扉をノックして少し開ける。
「国生先生、3-Aの高坂ですが入ってもよろしいですか?」
…返事がない。いらっしゃらないのだろうか?
中へ入ってみるとそこには誰もいなかった。
急な用事ができた、ということだろう。
タイミングが悪かったな…。
と、部屋を見渡した俺は、ブラックのベースが立てかけられているのを見つけた。
あれは確か──国生先生が愛用しているベース…ちょ、ちょっとだけならいいよね?弾くまではなくとも触るくらいなら──そして欲求に負けてしまった俺はベースを肩にかけて構える。
長らく弾いていなかったな…弾いちゃおうかな、と考えていると音楽室のドアが開く音が聞こえた。
幸い準備室までのドアは閉められているため、小さな音ならば聞こえない。先生が帰ってきたと思い、ベースを元の場所に立てかけておき、何事もなかったかのようにそこに突っ立っておく。
しかし、準備室のドアは開かれない。
すると音楽室から、ピアノの椅子を引く音が聞こえてきた。
そして間もなく聞こえてくるピアノの音、そして同時に聞こえる歌声と曲には覚えがあった。
「愛してるばんざーい!ここでよかった〜♪」
──これは確か。
始業式の日に俺が無意識で歌っていたかもしれない曲だ。
3年前の…夏頃だったか。お世話になった方の娘さんと、音楽の話で意気投合して一緒に作った曲だ。
「なるほど、こういうこともあるわけね」
俺はベースを再度持ち直し、先生の机の上に置いてあったシールドを取り、準備室のドアを開けてピアノの方に身体を向けた。ピアノを弾いていた少女は、ドアの音で先生がいたと勘違いしたのか、肩をビクッとさせて恐る恐るこちらを見る。
「す、すみません先せ──え?」
「久しぶり、真姫」
ピアノを弾いていた少女──西木野真姫は突然のことに硬直している。あれ、1年生ってまだ男の俺がいること知らないのか?もしかして詳しくは言ってない、とかそんなオチなのだろうか。
俺はそのまま歩いてピアノのちょうど後ろ辺りにあるアンプとベースを繋げて音量を調整する。
先生が愛用しているのだ。チューニングくらい毎日でもしているだろうから不要だろう。
「さあ真姫、久しぶりに始めようか」
俺の言葉ではっとした真姫は、少し戸惑いながらも先程の曲を最初から弾き始める。
そして俺もベースを弾いた。
◆◇◆
「それにしても久しぶりね、海里」
俺がベースを片付けていると、真姫が話しかけてくる。
「あぁ、真姫が音ノ木坂に来るとはな。もっと進学校に行くと思ってた」
「私も、貴方がここに通っているなんて思いもしなかったわ」
そりゃそうだろうな。
男だし。
3年前の夏休み前に、車道に飛び出して車に轢かれそうになった子供を庇って、左手を骨折してしまった。そこでお世話になったのが真姫の父親が院長をしている西木野総合病院だった。俺の回復が異常に早かったというのと、俺が看護師に話していた、音楽が好きだというのを真姫に教えたらしく、それに興味を持った真姫が、ある日1人で俺の病室にやってきたのだった。
若干つり目気味ながらも整った顔立ちをしてクールな雰囲気を持つ彼女は、いかにもいいところのお嬢様だった。それは中身も然りである。
普通に喋る時はツンツンしているが、音楽の話をする時はとても楽しそうな顔をする。音楽がよほど好きなのだろうと思うのと同時に、普段の言動は素直じゃないせいなんだなとも思っていた。
「それにしても…相変わらず真姫の歌声は綺麗だな」
「ゔぇえ!?…でも私、声自体は綺麗じゃないじゃない」
「何言ってんだよ、そのハスキー具合が俺は好きなの」
「そ、そうなの…」と、真姫は褒められたことが嬉しかったのか頬を少し赤く染める。
ツンツンしている割に、褒めるとすぐに赤くなって照れるので、弄り甲斐があるものである。
「そ、そうだっ!」と急に真姫が若干ドモりながら言い出す。
「久しぶりにお話とかしたいし、その、音楽の話とか…パ、お父さんとかお母さんも会いたいって前言ってたから…き、今日うちに来ない?」
「お、西木野家か。確かに俺もちゃんと真姫と話したいし、先生たちにも久しぶりに会いたいからなぁ…でも今日は悪い。行かなきゃいけないところがあるからさ、明日とかでもいいか?」
「…わかったわ。じゃあ明日の放課後、校門前で待ってるからっ」
「あぁ!じゃあ、片付けも終わったことだし俺は生徒会室に戻るから。次からは音楽室の使用申請しろよ」
「え、えぇ…って海里、生徒会だったの?」
「まあ書記だけどな」
「そう…じゃあまた明日ね」
先生の雑用もしてるけどな、と苦笑いしながら──結構な時間が経っているのを時計で確認すると、急いで音楽室を出て生徒会室へ向かった。
あ、連絡先交換すればよかった。
真姫ちゃんかわいい
\カキクケコ!/
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