ラブライブ! The youthful days 作:なふたれん。
学校を出た後俺は、絵里と一緒に近所のスーパーへ来ていた。目的は食材の買い物である。
実は、ある事情で2週間に1回ほど絢瀬家の食卓で夕飯を食べている。まあ絢瀬家と言っても、絵里の両親は仕事でほぼロシアにいるらしく、亜里沙との2人暮らしになっているところにお邪魔している。
「はぁ…少し遅くなっちゃったわ。誰かさんのせいで」
「ごめんって言ってるだろ?」
先程、俺が真姫と音楽室で一緒に演奏したり話していたせいで、仕事も終えていないのに、遅く生徒会室に帰ってきた俺に絵里は少し頬を膨らましてむくれていた。恐らく、久しぶりに会った後輩の女の子と演奏やら話やらしていたと言ってしまうとブチギレられるかもしれない、と察した俺は、何をしていたのかと聞かれると適当にはぐらかしていた。
「まあいいのよ私は。でも亜里沙は海里が来てくれる日を楽しみにしてるんだから、遅いと怒っちゃうかもしれないわよ?」
「そりゃあ大変だな。でも怒ってる亜里沙も可愛いじゃないか」
「はぁ、貴方って人は…」
絵里は俺に呆れながらも、まあ確かに亜里沙は可愛いけどね、と言う。
お前も呆れられてるぞ、俺に。
シスコンかよ。
「今日は何にする?この前はグラタンだったわね…パスタなんてどう?」
「お、いいね。カルボナーラとかにするか?」
「そうね。じゃあそれでいいわ」
メニューを簡単に決めた俺たちは、必要な具材をスマホで調べて、それらを買った後にスーパーを後にした。
クリーム系大好き人間みたいになってるけどな。
◆◇◆
「遅いっ!」
絢瀬家に着いてリビングに入ると、先に帰ってソファに座ってテレビを見ていた亜里沙に案の定言われてしまった。
ていうかそれ以上ほっぺを膨らませながら怒らないで。可愛すぎるから。
先程買った具材の入ったビニール袋を一先ずテーブルに置いて、亜里沙の頭をごめんごめん、と言いながら撫でる。とりあえず亜里沙はこうすれば落ち着くからな。
膨らんでいた亜里沙のほっぺがしぼんでいくのを確認すると、ビニール袋を再度持ち直してキッチンへ向かう。
「じゃあ早速作るか」
「あ、海里は今回はいいわよ。山田先生の仕事で疲れてるだろうから。亜里沙と一緒にテレビでも見ておいて?」
「わかった。ありがとう」
山田先生の仕事というのは、俺が始業式の日からやっているあの大量のファイルの作業である。前年の生徒会の引き継ぎ資料やら、ここ5年近くの文化祭、体育祭の資料やらが入っていて、整理したり生徒会用のPCに打ち込んだりしていたのだ。一昨日ついに終わらせることが出来た。
結局、家に持ち帰ったり朝早く来たりして3日程かかってしまったが、俺1人で終わらせることに成功し、ドヤ顔で先生に持って行ったら、社畜の鏡だなと若干引かれてしまった。
残業代出してくれんのかオラ。
確かに自分でも、1週間以上かかると思っていた仕事を3日で、しかも1人で終わらせたのはサービス残業が過ぎるかな、と思ってしまう。
絵里と希に手伝ってもらえばよかったと後悔しているが、今更遅い。
絵里の言う通り、ここ最近その仕事のせいでどっと疲れている。正直1日寝ても寝たりないくらい疲れていそうである。
キッチンから出てきた俺は、ソファーでくつろいでいる亜里沙に声をかける。
「亜里沙、横いいか?」
「あ、海里お兄ちゃん。今日は一緒に作らないの?」
「あぁ、絵里が気遣ってくれてな。疲れてるだろうからって」
「流石はお姉ちゃんだね!お嫁さんに欲しくない?」
亜里沙ちゃん、君は何が言いたいのかね。純粋無垢だからなのかたまにすごいこと言うよね。
ほら、キッチンで絵里が赤くなっちゃってるじゃん。…これは弄ってもいいのだろうか?
「確かに絵里はお嫁さんに欲しくなるな。家事も出来るし勉強も出来るし何より綺麗だしな!」と、絵里に聞こえるようにわざと大きな声で言う。
だが、亜里沙はそれを本気だと捉えたようで「海里お兄ちゃんって大胆だねっ」と頬を赤めている。いや、何で亜里沙が照れてるの?
あと絵里さん。茹で上がったタコみたいになってるけど大丈夫?
…あ、元に戻った。あの表情の変わり具合、真姫と同じくらい面白いな。
そんなことを考えていると、亜里沙がふと言った。
「そんな大胆な海里お兄ちゃんには亜里沙が膝枕してあげる!」
「「えっ」」
…この子はどういう思考回路なのだろうか?
えっと、疲れてるから癒してあげようっていう純粋な考えなのだろうが。
それにしても大胆な海里お兄ちゃんも戸惑っちゃうんだけど、その大胆さには。
「い、嫌…?」と涙目で見てくる亜里沙。
こ、こいつ…ちゃんと絵里の血を継いでいやがる…。
「嫌じゃない、けど…」
「はいっ、おいで!」
亜里沙はソファにしっかりと座り直し、自分の太ももをぱんぱんと叩いた。
…何だかいけないことしてるみたいな気分になるのは何でだろう…あの、絵里さんそんなに睨まないでください。やらないと亜里沙が泣いちゃうんです。許してください。
「ええい、ままよ!」
そして俺は亜里沙の太ももに倒れ込む。頭に女性特有の柔らかい身体の感触があり、シャンプーの匂いか、それとも洗剤の匂いなのかフローラルな香りが鼻に入り込む。
亜里沙は膝枕されている俺の頭を、その小さな手で撫でる。…こういうのも、何だか悪くない。
いや、別に下心的な意味じゃなくてね?
意外と絵里のときのように安心するというかなんというか…。
そんなことを考えながら俺は、疲れていたせいか眠りについてしまった。
◆◇◆
目を開いてみると、そこは少し眩しいくらいに太陽の光が差し込んでいる部屋だった。
自分はまだ幼稚園児にもなっていないような小さな子供で、傍らには母親らしき女性が見える。
自分は、机の上に乗った画用紙にクレヨンで何かの絵を描いていた。
絵を描き終えた自分は、笑顔で描き終えたことを母親に告げようとする。
すると、今まで絵に夢中だったため気づかなかったが、母親は涙を流していた。
「ママ、ろうしたの?」
まだ舌っ足らずな声で母親に問いかけると、「何でもないわ」と言って微笑みながら頭を優しく撫でられる。
自分はこの優しい感触が大好きだった。何かに包まれるような、そんな感覚に安心感を覚えていた。
だが、すぐに彼女の優しい顔は元の泣き顔へと変わる。そして何かに絶望しているような、そんな顔でもあった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」と何度も何度も嘆いている。
幼いながらもその母親に自分は恐怖を覚えた。自分の知っている優しいママじゃない…と。
そんな自分の表情を汲み取ったのか、母親は立ち上がり、俺に抱擁をする。
「ごめんね、海里。愛してるわ」
「ぼくもママだいしゅきだよっ」
母親は何故か涙が止まらない様子で、自分を離してベランダへと向かった。
そして柵へと手をかける。
「ホントに、ごめんね…」
そのまま彼女は、手に力を込めてベランダから飛び降りた──
後に残ったのは、差し込む太陽の光と真夏の蒸し暑い風だけだった。
◆◇◆
「──り!海里!」
「っ!…はぁ、はぁ…」
聞き覚えのある声に目を覚ますと透き通るような蒼眼が映った。
どうやら夢を見ていたらしい。それも昔の嫌な──自分のトラウマを。
絵里と亜里沙は心配そうにこちらを見ていた。
「海里!魘されてたわよ、大丈夫!?」
「海里お兄ちゃん…その、ごめんね」
「大丈夫だ。何で亜里沙が謝るんだよ。むしろ安心感があって嬉しかったぞ?」
「でも、すごい汗だし、海里お兄ちゃん辛そうだから…」
「亜里沙、海里も大丈夫だと言ってくれてることだし…もうご飯食べましょう?海里はお風呂でも入るかしら?」
「そうだぞ、亜里沙。あ、じゃあご飯食べ終わったら借りてもいいか?」
絵里はええ、と承諾すると、3人分のカルボナーラと簡単なサラダとスープが乗せられたダイニングテーブルに亜里沙を連れて座る。
亜里沙は不安げな様子だが、仕方なく納得したようだ。
俺も後に続いて絵里の隣の椅子に座り、その日の夕食を食べ始めた。
「その、今日は悪かった」
「いいのよ、好きでそうなった訳じゃないじゃない。それに貴方のその状態じゃ、あのことを調べてもどうしようもなさそうだしね」
あの後、絢瀬家には微妙な空気が流れていた。いつもは賑やかな食卓も、今日ばかりは空気が重かった。
絵里は事情を知っているためか、何の問題もなく日常を取り繕おうと頑張ってくれたが、亜里沙は何も知らないためどうすることも出来ず、俯いてしまっていた。
そんな中で俺がずっといれるはずもなく、風呂から上がって着替えると、すぐに帰ることにした。
いつもは亜理沙と一緒に食事の後片付けもするのだが、今日はもう構わないと亜里沙に言われてしまった。
…気にかけてしまったのだろうが、俺的にはいつも通りに接して欲しかった。まあ彼女はまだ中学生。いくら亜里沙とはいえ、色々思う節があるのだろう。
亜里沙が皿を洗っている途中で帰ることにし、軽く亜里沙に挨拶を済ませ、玄関先で今に至る。
「亜里沙にはありがとうとごめんって言っておいてくれ。俺への態度が変わっちゃったら困るからな」
「えぇ、そうね」
「でも海里…無理はしちゃダメよ」
そう言って絵里は俺を抱きしめる。
絵里のシャンプーの匂いが、亜里沙のとき同様に鼻腔に抜け、それと同時に安心感を覚える。
「もう少し、このまま抱きしめてくれないか」
「仕方ないわね、中1の時からのよしみよ?」
そう言うと、絵里は先程よりも少し強めに抱きしめてくる。それに返すように、俺も絵里を抱きしめる。
すると、それに驚いたようで一瞬絵里がびくっとしたが、すぐに落ち着き、抱きしめ返してくる。こういうことをしてくれる絵里は本当にずるい。…でもそこが素敵なところだと思う。
「よし、じゃあ俺はもう帰るから。明日、学校でな」
俺がそう言うと、絵里は名残惜しそうな顔をしながらも抱きしめるのをやめ、いつもの笑顔で俺に向き合い、「じゃあね」と言って手を振る。
それを確認すると、絢瀬家の玄関を開けて外に出た。
もう外は暗く、朝のような肌寒さを感じさせた。
俺もエリーチカに抱きしめられたい(願望)
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