SAOはRPGでデスゲームだからロールプレイしてもしなくてもいいんだよ 作:ヒヨコ
拙文でしかも遅筆ですので、暇つぶし感覚でご覧ください。
渾身の力を込めて振るった剣が、目の前の敵の体を薙ぎ払う。
刃は体深くまで到達し、肉のみならず骨までも切りながら、確実にその命を刈り取った。
すでにそれまでの戦闘で赤く染まっていた自分の服に、生温かい新たな赤い液体がしみ込んだ。
しかし”私”はそれを気にすることなく、いまだに多く残っている敵から視線を外さないまま後ろにいた仲間の一人と位置を交代しつつ、呪文を唱える。
敵が私たちを囲い込もうと隊の両翼を前に出した陣形でじりじりと迫ってくる。仲間がそれを阻止すべく戦っているが、圧倒的な数の差で分が悪い。長引けばその分不利になる。
この状況を覆す大規模な力が必要だ。
激しく打ち合う音と怒号が響く中、長ったらしい呪文を早口に唱えていく。上級魔法は威力は大きいが、比例して呪文が長い。
――――チャンスは一度きり。
途中で打ち切り中級魔法にされることなく、唱えられていく呪文が魔法粒子に命令を与え、魔法となるものを構成していく。
最後の呪文を唱え終えた瞬間、私の足元で淡く光っていた円形の模様が強く発光し、強烈な風が吹き荒れた。
――――というような夢をよく見る。
小学校の高学年ごろからよく見るようになっていた夢だ。
生々しい光景に怯えていたのは、遠い過去の話だ。何度も夢に見るうちに慣れてしまい、え、剣が使えるの?魔法も使えるの?私ってやっぱり特別なんだぁ、と思い込むのに時間はかからなかった。
そして中学生になり思春期を迎えることで、自分特別妄想はさらに加速した。
夢で見た内容だけでは飽き足らず、”私”の秘められた過去、美しい容姿、素晴らしい能力などといった設定を考え、悦に浸った。
その妄想を周りに吹聴することはなかった(よく判断してくれた!あのときの自分!)が、それに成りきるための行動は起こした。
まず、ヒロインは美しくなくっちゃ!ということで、美容に励んだ。
紫外線対策はもちろんのこと、肌を基礎化粧品でケア、髪のキューティクルを保つケア、爪を形よく整えその表面に専用の美容液でケア、全身もボディーオイルでケア。内側からの美容ということで食生活、生活リズムも見直した。
ドジっ子キャラでなく、戦闘で有能なキャラなので、運動も励んだ。
中学校の部活で剣道部を選択した。
現実の人前で一番成りきったのは、この時間だった。きつい体作りに歯をくいしばって耐え、夢の自分を投影するだけでなく、現実の有段者の映像を何度も見て反復練習し、その中で自分の剣術を作り出した。
試合では死合する気で臨んだ。そう、ここは戦場。この決戦が、私たちの国(学校)の行く末を決めるのだと……!
初めての大会で優勝した時、鬼のような指導をしてくれた師匠が「入部した時から気迫が違ったが、試合のお前は戦場に出た武士のようだ」と言ったが、当然である。しかし、武士ではなく剣士、もしくは騎士に訂正してほしかった。
脳筋やおバカキャラではなく、クールで頭が良く頼りになるキャラなので、勉強も励んだ。
予習復習は当たり前、分からないことは先生に聞きに行き、教科全て死角がないようにし、試験では高得点を叩き出し、常にトップになった。
やはり数字で明確に私が一番と表されるのは、自尊心をくすぐりとても気分が良い。
しかし学校で習う科目は学校にいる全員が習うものだ。普遍のもので特別じゃない。
となると、独学でキャラの設定に合う勉強をしなくてはならない。
戦いで先陣を切って戦うのもなかなかかっこいいが、布陣を敷き、指揮を執るのも良い。なんか反○のル○ーシュみたいで。
ル○ーシュはチェスの経験が布陣の手助けになったが、私もそうなるとは限らない。
なので、その時の世界情勢、権力者等の本を読みながら、戦争で実際に使われた布陣を記録を基に追い、戦略、戦術について学んだ。
専門の本は学校の教科書に比べ文字が小さく、出版された時代によっては旧漢字だったり、平仮名ではなくカタカナだったり、言い回しが堅苦しく読み取りづらかったりしたが、そんなものに私は負けないッ!
有能でも性格が悪かったら悪女で、いわゆるライバル役、踏み台である。ヒロインは闇を照らす光であり、仲間を支える砂漠のオアシスでなくてはならない。
家では家事を手伝い、学校ではクラスメイトだけでなくいろんな人の悩みを聞き助言を与え、地域では品行方正な学生としてふるまった。
こうして”私”となるための努力に努力を重ねた時は過ぎ去り、中学校三年の二学期、ネットサーフィンをする中で衝撃的なワードを見つけた。もしそのワードを見つけていなかったら、と考えるだけでも恐ろしいし、今の自分はなかったであろう。私の人生を変えたワードとは――――
――――厨二病、である。
品行方正、才色兼備、文武両道といった言葉を表すような私には、その手の話題を振られたことはなかった。
当然である。リア充にオタクな話題が禁忌であることは暗黙の了解である。厨二病もまたしかり。
知らない単語だったため意味を調べてみたら、身に覚えがある内容が続出した。
いやいやまさかと思い、厨二病チェックリストをやってみたところ、結果は重度だった。
当時は知らなかったが、いわゆるゲンドウポーズで”私”とはなんなのかを考えた。