001
「うーん、まぁこれも予定調和って奴なのかなぁ……あのアロハ師匠ならバランスって形容するのかも知れないけど、な」
とある暗い室内。そこに一人の少年がパソコンの前に座り、キーボードをかたかた操作していた。
寝癖がついた黒髪。眠そうな目。黒いジャージを身に纏った17歳くらいのその少年は世間一般で言う引きこもりの格好だった。
「ていうか織斑か。確か現世界最強も織斑だったような…………ここまでくるとまぁ運命なんて言葉を使いたくなるけどさ、そんな陳腐なものじゃないんだろうね、これはきっと」
少年は誰かに話しかけるわけでもなく、ぶつぶつと呟き続ける。その目が見つめる先はパソコンの画面。そこには『世界初のIS男性操縦者、現る!?』という見出し。そしてにこにこと笑うイケメンの写真。
「………………イケメン、消えてくれないかな」
と、怨念が混じった声で呟くと同時に、ピンポーンとインターホンがなった。
「こんにちは、怪異斬りのお兄ちゃん。僕だよ僕。突然だけど臥煙さんから伝言を預かってるからここを開けてくれない?」
…………いや聞こえない聞こえない。無表情僕ッ子の式神の声なんて聞こえない。迷惑事なんて知らない知らない。
「居るのはわかってるんだ。早く出てきたほうが身のためだよ?」
くっ!絶対に脅しなんかには屈しないさ!居留守を突き通す!
「…………そうか。なら仕方ないね────
瞬間。玄関が吹き飛んだ。
それはもう完膚なきまでに。原型をとどめず。木っ端微塵に────破壊された。
「やぁ、怪異斬りのお兄ちゃん。久しぶりだね」
「ちょっ────お前馬鹿じゃねえの!?出てこないからって扉破壊するか普通!?」
「怪異に普通を求めないで欲しいな、お兄ちゃん。というか、お姉ちゃんの式神である僕に破壊を我慢しろというほうが無理だよ」
「そこは我慢しろよ!」
「出てこないほうが悪い」
いや確かに!確かにそうなんだけどさぁ!だからってさぁ!
「そんなことはどうでもいいんだよ、お兄ちゃん。今大切なのは臥煙さんからの依頼だ」
「そんなことって!お前扉の修理代出してくれるよな!?」
「え?あぁそれなら問題ないよ」
「は?なんか返す当てでも────」
「だって、もうお兄ちゃんはここに戻ってくることはないんだから」
そして、俺の意識は暗闇に落ちた。
「…………知らない天井だ」
目を覚ましたら全く知らないところにいた。
起き上がって周りを見渡して見ると、どうやら電車の待合室のようだ。
その時、待合室の扉が開き、恐らくこんなことをした張本人が──暴力陰陽師の式神、斧乃木余接が現れた。
「やぁ、目が覚めたみたいだね。お兄ちゃん」
「いや目が覚めたっつうか…………」
すぅ、と息を吸い込み────
「ふざけんなこの童女が!その無表情が歪むくらい殺し尽くしてやろうか!」
マジでふざけんなよこの似非キメ顔が!いきなり現れて玄関吹き飛ばして意識刈り取って誘拐って!さすがあの影縫さんの相棒だよ!
「いやそんなに褒めないでくれよ、照れるじゃないか」
「一切褒めてないし照れるとかいうくらいなら頬の一つくらい染めてみろ!物語開始800文字くらいで場面転換って読者もついていけずに呆れるレベルだ!」
「いやお兄ちゃん、こういうのはスピードが重要なんだよ。ほら、ハイスピード学園ラブコメってキャッチコピー掲げてるし」
「それはISでのキャッチコピーであって決して物語シリーズのキャッチコピーじゃねえよ!」
物語シリーズはそこまでハイスピードじゃない……はずだ。
閑話休題。
「んで、余接。臥煙さんの伝言ってなんだよ?わざわざ俺みたいな下っ端に声かけるぐらいだ。かなり重要なんだろ?」
「さぁ?」
「いやさぁ?って」
「僕はお兄ちゃんを、
「ふぅん…………そういや影縫さんは?」
「お姉ちゃんは仕事中。お姉ちゃん一人で片付くレベルだから僕が伝言役として派遣されたんだよ」
なら良かった。昔修行と称したリンチでフルボッコにやられてからトラウマというか苦手なんだよなぁあの人。
「でも場所は伝えられてるだろ?どこに向かってるんだ?俺達」
ちなみに今俺達は電車に乗っている。目を覚ました後電車が来てこれに乗ると言われたので乗ったけど行き先は聞いておきたい。
「とある街──というか神社かな。そこを待ち合わせ場所に指定されたんだよ」
「神社?」
まぁ神社は臥煙さんらしいけど……一体どこの神社だ?
と、そこで電車が止まり、ドアが開く。余接がすっと出ていってしまったので慌ててついていく。駅名を見てみるとそこは何度も降りたことがある駅名だった。
いやというかまさか待ち合わせの場所って────!?
「待ち合わせ場所は北白蛇神社。かつて鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが降臨した街の神社さ」
002
北白蛇神社。そこにまつわるエピソードは専門家にとってはかなり興味深く、そしてかなり恐ろしいものばかりだろう。
なにせ伝説の吸血鬼が来たせいで『よくないもの』の吹き溜まりになったり女子中学生がスク水姿になったり賽銭箱に女子中学生が詰め込まれたり女子中学生の神が降臨したりと盛りだくさんなのだ────俺もこれらの話は聞いたものなのだけど。
それでも際立っているのが吸血鬼の襲来。というか一連の事件はほとんどこの吸血鬼のせいだと言える。金髪金眼の吸血鬼が降臨したせいでこの街は一度かなり霊的に乱れて怪異が溢れる無法地帯となった。専門家の元締めがわざわざ動いたのだからその規模が分かるだろう。
だが現在この諸問題は解決され、今この神社には新たな神がいたりするのだが────
「おや、浮舟さんじゃないですか」
「いや真宵ちゃん、人の名前を源氏物語の巻名の一つみたいに言うな。俺の名前は大嶺だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ…………」
「かみまみた」
「わざとじゃない!?」
「かに食った?」
「そんなに裕福じゃないよ!」
真宵ちゃんととある人がやっている掛け合いがなぜか俺ともやるようになってしまった。何故だ。
この少女は八九寺真宵。元迷い牛という怪異でそこからなんやかんやあって今では立派な神の一柱だ。
「しかし久しぶりですねぇ大嶺さん。今日はどうしたんです?斧乃木さんも一緒に」
「うん、久しぶりだね、蝸牛のお姉ちゃん──いや、今は神のお姉ちゃんかな?」
「うーん蝸牛でも神でも私は私ですからね。どっちでもいいですよ」
少女と童女の会話を聞きながら眼福だなぁとか思っていると何故か真宵ちゃんにじとっとした目線を向けられた。
「何故でしょう、今の大嶺さんからはあの背がちっこい人と同じ雰囲気を感じます」
「さぁ?気のせいじゃないのか?あとちっこいとかいってあげるなよ」
「大学卒業しても背が伸びなかったらしいですね。あの人」
いない人の身長で語る少女と少年。ありそうでなさそうだ。
「鬼いちゃんのことはどうでもいいんだよ、それより臥煙さんはいる?」
さらりと酷いことを言いつつ、本題に入ろうとする余接。そうそう臥煙さんはどこにいるんだ?あの人が俺達より遅いとは考えられないけど。
「あぁ、あの人なら────」
「私ならここにいるよ?みねみね」
「っ!?」
真後ろ。いましがた俺と余接が登ってきた階段から、突然その人は現れた。いや、恐らく普通に登ってきたのだろうけど俺にとってはいきなり現れたように感じてしまう。
はぐれものを除いた専門家の元締め。ありとあらゆる怪異のエキスパートの中心。何でも知っている、知らないものはないと公言するおねぇさん。
「やぁ────久しぶりだね、みねみね」
臥煙伊豆湖が、そこにいた。