結局一ヶ月後になってしまいました……
それではどうぞ
012
「…………………………うわやべぇ」
クラス対抗戦当日の朝。織斑と凰の対決の日に、どうやら俺はとんでもないことをしてしまったらしい。
目覚ましを見る。9時53分……あ、今54分になった。
凰の宣戦布告の翌日に張り出されていたトーナメントから、予定試合開始時刻は10時丁度。
もう一度目覚ましを見る。9時54分。
ちなみにここからダッシュで向かってもアリーナには10分ほどかかる。
結論。詰んだ。
「うわうわうわうわマジやべぇ!!絶対応援来てくれよな!って言われてた!!まぁしゃあないか、とか了承してた!」
目覚ましをかけ忘れていたらしく、そもそも寝起きの悪い俺は目覚ましがないと殆ど起きれない。
目覚ましとは人類の不倶戴天の敵ではあるのだけれど敵であるからこそ最大限に利用し尽くさないといけないわけで──────いや目覚ましについて語っている場合じゃない。
大慌てで制服に着替えつつ何処かにいるであろう余接に向かって
「おいこら式神童女!なんで起こしてくれなかったんだいや自業自得なことは解ってるんだけどそれでも起こしてくれたっていいじゃん!どこぞのファイヤーシスターズを見習え!!」
…………………………無言。
俺の八つ当たり気味となってしまった言葉に反論するでもなく、物理的に反撃するでもなく、無言。
いっそ清々しいほどに無言だった。
「………………あ?」
怪異特有の気配──────無し。
つまり今余接はこの部屋の中にいないということだ。だがそれはおかしい。俺と余接は現在ペアリンク、とまではいかないがツーマンセルとしてそれなりの繋がりを持っている。まぁこれは臥煙さん手製のものだから俺には真似できないものだ。それも今切れてしまっている。存在を感じられない。
けれど余接は俺の監視も兼ねてそばにいるのであり、勝手に何処かに行くなんてそれこそおかしい。
彼女は人ではなく、死体の人形。
人の命令を聞く道具に成り果てているのだから──────
「…………ま、それはそれで気にくわないけど」
余接と話していて、彼女がただの人形とは思えない。彼女は彼女の自我を持ち、確かにそこに生きているのだから。
「…………すまん織斑、凰。応援は行けそうにないわ」
身支度も程ほどに、俺は部屋を飛び出した。
食堂、教室、寮内。ありとあらゆるところを探し始めて二十分ほど。今は校舎の周りを探している。アリーナの方ではそろそろ織斑と凰との試合に決着がつく頃だろうか。
「………くそっ、どこにいる?」
もしかしたら、もう既にこの学園の外に──────いや。紛いなりにもここは世界の技術が集まる場所なんだ。そう簡単に出られるとは思わない。ならばまだ中にいるはず。けれど学園内にも監視カメラはあるのだ。余接がサポート無しで突破出来るとは…………
思考がぐるぐるとループしていく。どうやら俺は思いの外動揺してしまっているらしい。
臥煙さんによって反強制的に組まされたツーマンセル。それはそれなりに心地よい関係だったのかも──────
「………………」
思考が可笑しな所に着地しようとするのを何とか阻止し、校舎の角を曲がろうとする。ぎゃり、と摩擦を利用しながら急ターンし──────
黒い、歪なISと遭遇した。
「………………ッ」
咄嗟に【黒武者】を展開。後ろに思いっきり跳んで距離をとろうとするが、歪な所属不明機はブースターを点火して距離をつめてくる。
仕方がない、緊急事態だ。織斑先生もISの武装使用は黙認してくれるだろうさ────ってうおわッ!?
「いきなりビームとか…………防がなかったら校舎が蒸発してるっての」
敵ISが不釣り合いなまでに大きな両腕の掌から撃ち出してきたピンク色のビームを俺は何とか実体化した刀で
黒武者の装備が一つ、対エネルギー兵器用近接試作実験型ブレード【鈍】。散エネルギー特殊コーティングが施された『ビームを斬るための刀』。ぶっちゃけこれを開発した奴は頭がおかしい。
ちなみに織斑の【零落白夜】は発動することで『エネルギーを消失させる』のに対してこの【鈍】は『エネルギーを斬る』ことしか出来ない。つーか特殊コーティングをしたせいで切れ味があんまりない。まさに対エネルギー特化型。故に【鈍】。なめとんのか。
普通のブレードもあったから良かったようなものを…………これだけだったらどう戦えって言うんだよ。あくまで『斬る』だけで『跳ね返して敵を撃ち抜く』とか無理なんだって。ジ○ダイでもシ○でもないんだよね、俺。フォースも使えない。
【鈍】を実体化させた鞘に納め、抜刀の構えをとる。
切れ味はあまりよくないとは言え、神速の刃はそれだけで脅威となる。なのでこれでぶった斬れば問題ない、と思ったのだが………………
「構える隙がない…………!!」
抜刀術とは鞘に納めた刀を腰の位置に持ち、右手を柄に左手を鞘に添えて引き抜く、という一連のプロセスを要する。袈裟斬りなどのようにふりおろす、という工程だけで終わらない。つまりそれだけ抜刀術を繰り出すためには溜めが必要で、隙が出来てしまうのだ。
俺が抜刀術をもって怪異に対処する際、先手必勝で片付けるのもその理由から。先手をとり、一撃で、急所を切り裂く。そんな初手を間違えれば一気にピンチとなる戦い方をしているのだ。
敵は執拗にビームを撃ってくる。それらは避けてはならず、【鈍】で防御しながら捌かなければいけないのだ。【鈍】も折角納刀したのにまた引き抜いて防御に使っている。
そんな状況では抜刀の構えをとることができない。
まさにじり貧。このままじゃミスをした瞬間にこの均衡は崩れ、ビームの嵐を喰らうだけだ。
「くそったれ、どうしろってんだ!!そもそも俺は怪異の専門家であってこういう科学系は専門外なんだ!科学と魔術は交差しなくていいんだよ!」
口でひたすらこの状況について悪態をつきまくり、頭はどうやって打破しようかフル回転している。
黒武者の第三世代兵装?いや、【空力】で距離をとろうとしても敵もブースターで近づいて現状維持になるだけ。
ならば射撃武器か?アウトだ。威力が高すぎてもし避けられたら校舎を破壊してしまう。
なら他の兵装は?視界の端に武装リストを表示するように念じる。
『武装一覧
・対エネルギー兵器用近接試作実験型ブレード【
・近接戦闘用ブレード【
・試作型レールガン【火縄】
・妖刀【心渡】
・
ビームを片手に喰らってしまった。
「…………ッ!!」
ごっそりシールドエネルギーが持っていかれるがなんとか態勢を建て直し、【空力】とブースターを全開にして一時的に距離をとる。
つーか…………
「ふっざけんなこのアホ暴力系童女がァァッッ!!
人がどんだけ心配したと思ってんだ《くらやみ》に呑まれた可能性だって考えてたんだぞ!!んで結末は俺のISの武装として量子化してましたってかァ!?もう一回言うぞ、ふざけんな!!というか心渡も量子化してるんですが!?何時の間にしやがったんだ!!」
空気を読んでいてくれたのか顔の部分の目っぽい何かがチカチカしてる敵のISも頭を抱えてうがー!!となっている俺に攻撃してこなかった。敵に気をつかわれる俺って…………ん?なんだろうか?この違和感。あのISに対する違和感というか、既視感というか。
そう、例えるなら怪異と相対してるかのような──────?
「………………チッ」
舌打ちを一つして、再び【鈍】を構える。全く、肝心なことを忘れてんじゃねぇよ俺。
アレは半分とはいえ、
「…………余接。聞こえてるかは知らんが、隙を見てお前を実体化させる──────やれ」
【空力】とブースターを再び全開に。だがさっきとは違い後ろに下がるのではなく、前へ────ISに向かって、一気に加速する。
その加速を利用し【鈍】を袈裟斬りに叩きつける。敵ISはその両腕をもって防ぎ────
「
「────【
光の粒子と共に小憎たらしい童女が現れ、一瞬で肥大化した親指を、敵にぶち当てた。
玄関くらいなら簡単に吹き飛ばせる常識外れの力は、同じく常識外れな────真逆の方向に常識外れなISを、吹き飛ばした。
装甲がバラバラと崩れ、中のコアが丸出しになる。
そして後方に吹っ飛ぶISのカメラアイが捉えたのは、黒き武者鎧を脱ぎ捨て、一振りの日本刀を鞘に納めた状態でこちらに跳んでくる少年。
「抜刀──────【心渡】」
この学園に来てから何回か使い、その度に失敗してきた技が、怪異を切り裂くことに特化した刃が、ISのコアを捉え──────そして、そのISコアは機能を停止した。
「お兄ちゃん、お疲れ様。いぇーい」
「抜刀────【心渡】ィッ!!」
「待って待って待っておくれよそれは流石にしゃれにならないから。お兄ちゃん落ち着いて」
「どんだけ心配したと思ってんだ!勝手にいなくなるんじゃねぇ!」
「…………ツンデレかな?」
「抜刀────」
「ごめん超謝るから許して」
013
後日談というか、今回のオチというか、蛇足のようなもの。
あの遭遇した黒いISは、どうやらアリーナの方にも現れていたらしい。あともう少しで決着がつく、というタイミングで黒いISがアリーナのシールドを突き破って織斑と凰との戦いに乱入。そこからは二人VS所属不明機のバトル。
織斑がその所属不明機がISの『人が乗らなければ動かない』という常識に真っ向から喧嘩を売る無人機であることを見抜き、そこから正真正銘全力手加減情け一切無しの【零落白夜】をぶちかまして倒したようだ。
なんか篠ノ之が放送室ジャックして織斑を激励しようとして色々とトラブったらしいが何とか解決できたらしい。ちなみにTo Loveるの方ではないよ?いや織斑なら命がかかった勝負中に胸部を触りそうではあるけれど。
今回も凰をお姫様抱っことかしていたらしいし。織斑ぇ…………
まぁ倒したぜーと浮かれていたところに実は機能停止していなかった無人機のレーザーを、凰を庇って受けたりもしてたからチャラにしてやんよ。
という訳で見舞いも兼ねてざまーみろと言ってやりに保健室に向かっている次第でございます。
それと。
今回あの二機目の無人機に遭遇した原因である余接が言うからには
『ちょっとISに触れてみたら呑まれた。その時に一緒に怪異殺しも吸い込まれていた』
とのこと。いや勝手に触ってんじゃねぇよ。
元々武装として登録してあり、それが余接が触ることにより機能して量子化した。心渡の方も余接がトリガーを引いたことにより同じく量子化────と言ったところか。
この黒武者の設計には臥煙さんが関わっているようだし、心渡を武装登録していたことは、それはまぁいいだろう。
けれど。余接を登録していたことは────それはつまり余接は『武器にすぎない』と言っているかのようで。
彼女はモノであり、生きていないと言っているようで。
それはきっと正しく、きっと間違っていない。
だが。
「………………釈然としない」
ちなみに俺が倒した無人機の方はコアを黒武者の武装で破壊した後、織斑先生に引き渡した。疑っているようだったが、無理やり納得してもらった。あれを持っていても何の意味もないしな。
今回から怪異殺しのブレードである【心渡】がISにも有効であることが解った。それをどう活用していくかは…………まぁ分からないけれど。
「…………んっと」
そうこう考えているうちに保健室の扉の前に着いた。さて、思いっきり笑ってやるとするか。
「よーう織斑。無様に負けたお前の姿を笑いに来てやったぜーいって………………あ」
夕暮れの残照が射し込む保健室。
薬棚のガラスが光を反射して、きらきらと綺麗に光る。
そこはどうしようもなくロマンチックで。それはどこか背徳的で。
ベットに寝る整った顔をした青年。ベットの横からあと少しで唇がくっついてしまうほどに真っ赤な顔を近づけた乙女。
つーかどう見ても凰が勇気だして寝てる織斑にキスをしようとしてるシーンでした本当にありがとうございます。
「…………あー、えー」
「…………………………」
プルプルと全身を揺らしながら、ゆらりと立ち上がる乙女。…………乙女?いや、修羅かな?
「………………なんか、すまん」
「………………ッ!!にゃぁぁぁぁァァァァ!!??」
迫りくる拳。スローモーションになる世界。そうか、これが走馬灯か…………違うか。違うな。
つーかいざこざがあった後はなんで果物ナイフで脅されたり殴られたりするんだろうなー。わっけわかんないぜ。
それなりに鍛えられた拳が顔面に入り、そして時は動き出す。
吹き飛ばされた俺は廊下の壁に激突し、ずるずるとずり落ちていく。最後に見たのは顔をリンゴの用に真っ赤に染め、猫の威嚇のようにフーフー言ってる凰の姿だった。
その、なんだ。頑張れ。
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