怪物語   作:柴犬好き

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しゃるるタートル 其の壹

001

 

 

 

 

憧れ。羨望。憧憬。

 

 

そういった存在は誰にでも存在する。

例えば織斑一夏にしてみればやはり姉の織斑千冬がその対象だろう。第一回世界大会(モンドグロッソ)にて優勝し、世界最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)の名を欲しいままにした自慢の姉。

 

だが自慢であり、憧憬の対象であると同時にあの姉に対して織斑はどこか劣等感ももっているのだろう。優秀すぎる身内というのは、それなりにくるものがあるのだ。

 

 

 

 

例えばラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女も織斑千冬を羨望し─────崇拝している。

 

 

まるで、神の如く。

 

 

実際ドン底から救ってくれた織斑千冬はラウラ・ボーデヴィッヒにしてみれば神のような存在だろう────それこそ、織斑千冬以外はとるに足らぬ存在として見ている。

 

最早それは憧れの域を越え、妄執だ。

 

 

織斑千冬の強さに惹かれ────織斑千冬の強さに憑かれている。

 

 

 

惹かれ憑かれ────追い縋る。

 

一度決めた獲物は絶対に逃がさず、追い続ける狼の様に。

 

 

 

 

例えばシャルロット・デュノア。彼────いや、彼女にしてみれば何のしがらみも持たずに学園生活を楽しむ生徒全員が羨望の対象なのかもしれない。

 

 

大企業の社長を父親に持ち、母親は社長の浮気相手。

 

その境遇は他の人間には到底理解出来るようなものではない。ましてや父親から織斑や俺のISのデータを盗んでこい──などと言われていた彼女はどうしようもなく孤独だったのだろう。

 

 

誰にも頼れず、誰も当てに出来ず。

 

自分の殻に、閉じ籠ってしまっていた。

 

 

さながら──────亀のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして憧憬や、憧れや、羨望は劣等感や、独占欲や、拒絶に繋がる。

 

 

 

織斑一夏が織斑千冬に抱く気持ちのように。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒが織斑千冬に抱く気持ちのように。

 

シャルロット・デュノアが生徒達に抱く気持ちのように。

 

 

 

憧れは──────いとも容易く、捻れ曲がる。

 

 

 

 

俺にしてみてもやはり憧れの対象とは存在するのだ────存在してしまうのだ。

 

それは臥煙伊豆湖であり、忍野メメであり、影縫余弦であり、貝木泥舟であり、手折正弦であり、斧之木余接であり、夜竹さゆかであり、織斑一夏であり、織斑千冬であり──────忍野忍であり、阿良ヶ木暦である。

 

 

 

そして俺も定説には逆らえず、それらの憧れは反転する。

 

 

 

憧れは──────妬みへと。どす黒い感情に染まっていく。

 

 

 

 

 

そうなってしまうのなら、憧れとは抱くべきでないものなのか。

 

 

だが即答しよう。答えは否である。

 

 

 

人は憧れを抱き、妬みを感じることで成長していく。人は負の感情によって成長することの方が多いのだから。

 

それは、ラウラ・ボーデヴィッヒやシャルロット・デュノアであろうと変わらない。

 

 

 

彼女らもまた、憧れ、失望し、そして成長していく、ただの女の子なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、大嶺君。大嶺君の部屋の使ってない方のベットを整えておいてくれますか?」

 

 

 

………………ふむ。つまりそれはどういうことだろう?

 

 

 

 

クラス対抗戦からしばらくたったある日のことだ。

授業が終わりさて帰ろうとしていたところに、何ともけしからん胸を揺らしながら山田摩耶先生が俺にそんなことを言ってきた。いや嘘嘘全然全く胸とか見てないからそんな睨まないでくださいよ夜竹さん…………なんで考えていること分かるん?

 

 

 

「えぇと、つまり?」

 

「あ、説明不足でしたね。明日から大嶺君の部屋に新しい子が入るので整理をしておいてください、ということです。そう言えば織斑先生が『ベットの下もだぞ』と言っていましたがどういうことでしょう?」

 

「知らなくていいです」

 

 

 

ちょっと何言ってるんですか!男子高校生が皆そういう卑猥な本を隠し持っている訳じゃないですよ!えぇいやまぁ持ってはいましたけどね?けれどそのお宝本を女子ばかりのIS学園に持ち込めるわけないじゃないですか…………というか山田先生そういうことが分からないのか。意外と箱入りだったり?

 

 

 

 

「まぁ了解しました…………ん?いや待ってください。それってもしかしてもしかしなくても女子ですよね?それって女子と同室ということですか?」

 

 

 

嫌だ…………そんなラブコメ展開は織斑に任せておけばいいんだ!

…………あいつ既に女子と同室でしたね。これだから腐れイケメンは。

 

 

 

「えっと…………その件なんですが」

 

 

山田先生は人目を気にするかのように周りをきょろきょろと見渡し、しゃがむようにジェスチャーをすると、俺の耳に顔を近づけてきた。

 

 

いや近い近い近い近い近いいい匂い!二の腕の辺りに名状しがたき柔らかでとっても幸せになるような感触が!

 

 

 

「実はその新しい子…………男の子なんです」

 

「…………ほぅ」

 

 

 

それはそれは。

 

ピンク色に染まっていた思考が冷静になっていく。

三人目の男子。三人目のイレギュラー。

 

 

 

「…………一波乱、ありそうだな」

 

「あ、ねぇ透。終わったならちょっと話があるからこっちに来てくれる?」

 

この後滅茶苦茶説教された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーお帰りなさーい」

 

「もう俺の部屋で寛いでいることは突っ込まないから今度入ってくる三人目の男子のことについて教えてくれ」

 

 

 

部屋に帰ればゴロゴロ人のベットの上でラノベを読んでる青髪。生徒会長がこんなんでいいのか…………

 

 

 

「三人目の男子ね…………中々知るのが速いじゃない。流石だわ。あとこの『ブレードアーツ・オンライン』って面白いわね」

 

「別に。ただ山田先生に教えてもらっただけだ。あと最近は『しかし私の青春バトルは間違っていない』とかもいいぞ」

 

「あ、でも『オタクの俺が異世界に落ちて獣耳とかエルフとか奴隷とか姫様とかその他の女の子と四六時中イチャイチャしている件について』はいまいちだったわ」

 

「あぁそれな。長文タイトルはそろそろ廃れかけているし、その作品はどっかで見たことあるイチャイチャ展開の詰め合わせだったから。でも俺はそこそこ気に入ってたけどなぁ?」

 

「イラストがやけにエロいわよね。内容はアレなのに集めているのってもしかしてそれが理由?」

 

「ラノベは一にイラスト、二にレーベル、三に四がなくて五に中身だから!イラストが良ければいいから!」

 

 

 

うん。いやそうではなくて。

 

 

 

「えーとその三人目の男の子なのだけれどね?実は男の子じゃないという可能性があったりなかったり」

 

「…………は?どゆこと?」

 

 

 

 

聞けば。曰く全世界適性検査──俺が受けた奴だ──に引っ掛かった筈なのに何故そのタイミングで発表しなかったのか。もし引っ掛かってなかったならこの期間で何故乗れるようになったのか。

 

 

曰くその仮定男子はデュノア社、フランスのIS【ラファールリヴァイブ】の生産会社の御曹司とのことだがいままでそんな存在は知られてなかったとか。

 

 

曰く最近になって社長の隠し子が会社の方に引き取られたとか。

 

 

曰くそのデュノア社の経営は最近芳しくないとか。

 

 

曰く書類にも怪しい点がいくつかあったとか。

 

 

 

そんな男子であることを疑えるような材料が揃っているらしい。

 

 

 

 

「だからIS学園の上層部は貴重な男のISのデータを盗もうと画策して男装した女の子を送り込もうとしているんじゃないかって話になったの」

 

「ふ、ぅん?中々にきな臭いな」

 

 

 

ISのデータを欲する刺客ねぇ…………その場合俺と織斑どちらが優先対象に────織斑だな間違いなく。片や無名のそこら辺にいる男子。片や世界最強の弟にしてイケメンな男子。ISの製作サイドにしたって後者の方に力をいれるだろう。故に迷わず後者をとる。

 

ま、必然的に後者よりプロテクトが薄い前者を狙うって可能性も無きにしもあらずだが。

 

 

 

「ん、了解した。警戒しておくよ」

 

「えぇ、お願いするわ────でも!!」

 

「お、おう」

 

「女の子だった場合『ばらされたくなかったらその体を差し出してもらおうかぐへへへへ』とか言って脅さないでよ!!」

 

「脅すか!!お前は俺を何だと思ってるんだよ!!」

 

「ラノベやギャルゲーを表紙買い、パッケージ買いするイラスト厨!!」

 

「くそっ!!ちょっと覚えがあって否定できない!!」

 

 

 

 

まぁ何にせよ。

 

ラノベにしろギャルゲーにしろ、イラスト買いは地雷である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと!今日は転入生が来ています!しかも二人も!」

 

 

 

ざわざわ、と教室がざわめく。元々特殊な学校故に転入生が少ないのに、クラス対抗戦の折には二組に凰が、そして今回は一組に二人も転入生が入るのだ。それだって何故三組に分散させたりしないのか?という疑問ばかりでてくる。

 

件の女子の可能性がある方は、本当に俺達のデータを狙っているのかを見極める、という目的があるのだろうけど、もう一人の方は別に三組でも構わないだろうに…………まさかまた厄介事?おい勘弁しろよ織斑ハーレムの追加要員なのかよ既に学園内だけで篠乃之とオルコットと凰とその他大勢が落ちてるんだぞ。ここに更に追加とか。

 

その内男も落とし始めるんじゃ…………止めよう。鳥肌がたった。

 

 

………………え?というか二人?聞いてないんですがそれは。

 

 

「えっと、それじゃあデュノアさん、ボーデヴィッヒさん、入ってきてください」

 

 

 

 

がらり、と扉が開かれ二人の人間が入って来──────そして、気圧された。

 

 

 

 

 

 

 

片方の髪は金。片方の髪は銀。

 

片方の眼は紫。片方の眼は金。

 

片方はそれなりに背が高く。片方はそれなりに背が低い。

 

片方は柔和な印象を受け。片方は鋭利な印象を受ける。

 

 

 

 

対象的なようで、どこか違う。似通っているようで、どこか違う。

 

 

けれど。その根源に巣食う妖しげな────怪しげな雰囲気を持つそれらは。

 

 

紛れもなく──────

 

 

 

 

 

 

「えぇと、シャルル・デュノアです。見ての通り男子で、ここに僕と同じ境遇の人が二人いると聞いて入学しようと」

 

「え?ちょ、ちょっと待って…………え?男子?」

 

「え?えぇはい」

 

 

クラスの女子が恐る恐るデュノアに質問し、それに笑顔で返すデュノア。纏うオーラは貴公子とでも言うべきもので何か背景キラッキラしてる。

 

 

 

「き…………」

 

 

あ、やべ。咄嗟に俺は耳を塞ぐが、織斑の方はポカンとしていた。おい馬鹿!耳を塞がないと…………ッ!!

 

 

 

 

「キャアァァァァァァァ!!!!」

 

「ああぁぁぁぁァァァァ!!??」

 

 

 

ちなみに分かるとは思うが前者はクラスの女子の歓声(音爆弾)。後者の方は耳をやられた織斑の断末魔だ。

 

 

本当に女子の肺活量ってどうなってるんだ…………

 

 

 

「男子!三人目の男子!」

 

「織斑君とも、大嶺君とも違う守ってあげたくなる系男子!」

 

「くぅ~~!!キマシタワー!!」

 

「これは薄い本のネタが増えるわね!!」

 

 

 

おい後半。やめろ。マジでやめろ。ホモなんて需要ないから!!

 

 

 

 

そんなクラスの女子が狂喜乱舞しているなか、もう一人の転校生である銀髪っ子は腕組みをしたまま目を閉じ、微動だにしない。

それを見て織斑先生は溜息を一つつき、

 

 

 

「おい馬鹿共!!静かにしろ!!…………よし。ボーデヴィッヒ、お前も自己紹介しろ」

 

「はい、教官」

 

 

 

教官?織斑先生のことだよな…………となると二人は知り合いというわけか。しかもこれは普通の知り合いというより、何というか…………歪な関係のような気がする。

 

 

 

「…………ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

「…………え?終わりですか?」

 

「………終わりだ」

 

 

 

はっはー、なんだかとっても面倒くさそうな匂いがするぜ…………と肩を落としていると、なにやらボーデヴィッヒが俺と織斑を交互に見つめてくる。

 

え?なに?俺達の顔になんかついてる?

 

 

 

「貴様が織斑一夏か?」

 

「ん?いや違うぞ。俺は『二人目』の大嶺透の方だ」

 

「…………そうか。ならそっちが織斑一夏だな」

 

「……?そうだが」

 

 

 

織斑一夏に用事か…………ふむ。また一波乱ありそうだなー。痴情のもつれとかかなー。本当に高性能全自動式フラグ建造機は違うぜ。死ねばいいのに。

 

 

 

銀髪ロリっ子────ラウラ・ボーデヴィッヒはかつかつと床を鳴らしつつ織斑の机の前に移動し────そして、織斑の頬を盛大にひっぱたいた。

 

 

 

 

 

「「「…………え?」」」

 

 

 

 

クラスのほとんどの人間は唖然とし、唯一織斑先生だけが頭に手を当てて溜息をついていたのが印象づいた。

 

 

そしてショック状態から復帰した織斑が眉間に皺をよせ、ボーデヴィッヒに向かって

 

 

 

「いきなり何するんだよ!!」

 

「…………ふん。私は絶対に認めないぞ。貴様があの人の弟などとは」

 

 

 

そう言うとボーデヴィッヒはさっさと自分だけ席について、外の景色を見出し始めた。

 

 

 

 

あとに残されたのはどうすればいいのか分からないクラスメイトとちょっと不機嫌気味な織斑。あたふたしてる山田先生、そして頭を痛そうにしている織斑先生だった。

 

 

 

 

…………え?何このカオス空間。何やっちゃってくれてるんですかボーデヴィッヒさん…………




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