今編のサブタイトルから『らうらウルフ』を消しました。
とはいってもラウラの出番を無くすわけではなく、『しゃるるタートル』は『しゃるるタートル』でシャルロット・デュノアという一人にスポットを当てるべきなのかなーとか────思ったりもしましたが、実際は同時に二人の物語を進められない作者の技量不足ですすいません。
ラウラの話は『しゃるるタートル』が終わったらちゃんとやります。
ではどうぞ
008
「
亀。
動物界脊索動物門爬虫類網カメ目の総称。
鶴は千年亀は万年と言うように長寿の生き物と知られている。霊的、呪術的神話的にもさまざまなところで「亀」という生き物は登場する。
例えば日本では四神の一つに玄武という蛇の尻尾をもつ亀がいる。
例えばとある宇宙観の一つには世界は亀の甲羅の上にあるとされる。
他にも様々なところで亀という生き物は出てくるのだ────地方には亀を御神体とする神社もある。
それ故に亀の怪異は至るところに存在する。
篭り亀も、その一つ。
篭り亀。または
その起源は江戸まで遡る。
とある村に一人の若い娘がいた。その少女は大変美しく、村の男達は揃って彼女に結婚を申し込んだがいつもその少女は薄く笑い、もっともらしい理由をつけて断るだけだった。
少女は常に微笑をたたえている。
誰もに微笑みかけ、誰もに平等に接し、そこに優劣はなく。
村の男達はどんな嫌われ者にも優しくあたるその少女をまるで女神のようだと。そう、例えた。
褒め称えあげ、称賛し────そして男は自分のものにしたいと下卑た視線を少女に浴びせ、女はその少女に嫉妬し、妬みの視線をぶつけた。
その村には亀を信仰の対象とする神社が存在していた。
村には亀に関わる伝承が二つ伝わっており、一つめが昔日照りで水が不足したときに一匹の亀が現れて、雨を降らしたという伝承。こちらはありふれているという程ではないが、だがかといって唯一というわけでもない。あるところにはあるような話だ。
そして、二つめ。
亀の最大の特徴である『甲羅』────その『盾』にまつわる話だ。
とある農民が子供の頃から飼っていた一匹の亀。戦に駆り出された天涯孤独であったその農民は亀を残しておけず、懐にいれて戦に連れていく。
そして戦の途中、隙をつかれて刀で切り裂かれそうになったとき────懐にいれていた亀が飛び出し、その身と甲羅をもって農民の身を刀から防いだ。
農民は辛くも戦を生き残り、子供の頃からの親友であった亀を失ったことに嘆き、感謝の念を込めて神社をたててその亀を神に据えたという。
つまり、身を守るという概念。
いつからか少女はその神社に入り浸り────そして神社に篭るようになった。
まるで、身を守るかのように。まるで、周りを拒絶するかのように。
彼女は人との間に壁を、甲羅を造り出し、中に篭った─────中に隠った。
なんのことはなく。彼女がただ平等に周りに微笑んでいたのは、ただ平等に周り無価値であっただけで。
冷徹に接しなかったのは自分の身を守るためで。
はなから、彼女は誰も信用せず信頼せず、ただただ孤独なだけだった。
村人が彼女を助けようと────この期に及んでまだ彼女はただただ優しいだけだと思っていた男衆が神社に乗り込んだ先で見たものは。
亀の甲羅に閉じ籠り、孤独に、一人で、すべてを抱えて死に絶えた美しき少女の姿だった──────
009
「…………その話が、どうしたの?」
「ここまで聞いてそれはないだろ────気づいているはずだ、デュノア」
お前が、この怪異に憑かれているということに。
「ぼ、僕は────!!」
「篭り亀。この怪異に憑かれる原因としては──まぁ聞いた通り。周りへの拒絶、他人への不信」
「…………」
「心当たりはあるんじゃないか?────話してはくれないか?」
そこから暫く、部屋の中は沈黙が続いた。
当然だ────なにせ、辛い過去を晒せと言っているのだから。普通ならここで言ったりはしない────だが。
「…………うん、分かった」
────この少女は、語るだろう。
010
「どこから語るべきなんだろうね………
「じゃあ、まず僕の実家のことから話そうか。
「デュノア。
「この名前に聞き覚えってあるかな?
「うん、そう。
「フランスのIS開発企業だよ。
「お察しの通り、僕はそこの一人娘なんだ。
「…………娘。そう娘だよ。
「一人息子なんて存在しない。三人目の男性操縦者なんてどこにもいないんだ。
「そんなものは、会社にすがり付く哀れな人間たちが生み出した、儚く脆い妄想でしかない。
「シャルル・デュノアなんて人間は────存在しない。
「…………ねぇ。
「僕はデュノア社の一人娘と言ったけど。実際のところ、厳密に言えばちょっと違うんだ。
「正妻との間に生まれた子どもではなく。
「愛人との間の子どもなんだよ。
「あははは。
「自分で言っててなんだけど、本当にドラマみたいな話だよね。
「笑えるよ。本当に────笑うしかない。
「…………例えばさ、今現国の授業で『三月記』をやってるよね。
「理解できないものを押し付けられ、理解できないまま生きて死んでいくのが、我々生き物のさだめだ。
「あの話じゃ、主人公は虎になってしまったけど。
「僕の場合は亀になるんだろう。
「甲羅の中に閉じ籠った亀に。
「透の話通りならね。
「えぇと、話がそれちゃった。
「なんだっけ?どこまで話したっけ。
「そう、僕が愛人の子だって話だ。
「本当に驚いたよ────お母さんが死んじゃって、悲しみに一人暮れていた少女の家に黒服の集団が現れたんだから。
「貴女はデュノア社長の娘なのです────とか言われて。のこのこと付いていったんだよ、僕は。
「一度も顔を見せなかった────お母さんの死に際にも来なかった父親の顔を拝んで一発叩いてやろうって考えもあったし────自分の父親がどんな人間なのか、純粋な興味もあった。
「お父さんの屋敷に連れていかれて────僕はぶん殴られた。
「ぶん殴るつもりが────逆にぶん殴られた。
「もっとも、殴ってきたのはお父さんじゃなくて、正妻の方だったんだけど。
「『この泥棒猫の娘が』────だってさ。
「そこで初めて会ったお父さんは────ただ見ているだけだった。
「哀しげな顔をして────顔を俯かせながら。
「実際浮気をしていたわけだし、正妻さんには申し訳ないと思っていたのかな。
「僕は、あの人がどう思っていたのかわかるはずもないけど。
「そのあと、正妻さんが出ていったあと。
「お父さんは、僕に近寄ってきて、こう言った。
「『本当に、すまない』
「………………何なんだって思っちゃうよ。
「お母さんが死んで訳もわからないまま大企業の娘、なんて言われて。屋敷に連れていかれたと思えば女の人には叩かれて。そのあげくに、初めて会ったお父さんには『本当にすまない』なんて言われて。
「訳が────わからない。
「放置した挙げ句に一言謝られただけ。
「本当に────意味が分からない。
「そのあと、僕はISの訓練をしていたんだけど。一度もあの人に会っていない。
「周りは皆他人。
「信じられる人なんて誰もいない。
「ここは敵の本拠地だ。
「ううん、この世界は僕を孤独にした。僕の周りは敵しかいない。
「僕の居場所はあのお母さんと過ごした家だけ。
「信じない、信じない、信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない。
「もう─────誰も信用なんかできない。
「………………。
「…………あははは。
「話を戻すとね。
「今デュノア社は倒産の危機に陥ってる。
「そもそも、【ラファール・リヴァイブ】は量産型第二世代機最後発の機体。第三世代のISを開発するには他の企業や国に比べて圧倒的にデータが足りなかったんだよ。
「デュノア社は『イグニッション・プラン』──EUの第三世代IS開発プロジェクトから外され、政府からは最終通告を出されて期限を過ぎれば補助金を打ち切ると脅されている。
「まさに崖っぷち。
「それで、貴重な────最先端技術が盛り込まれている男のISデータを手に入れるために、存在が世間に知られていない僕を男に仕立てあげ、この学園に入学させた。
「これが事の顛末。
「もう笑うしかないよ────本当にドラマみたいだ。
「ねぇ────透。
「笑ってよ。こんな僕を。
「なんでそんな無表情なのかな。
「もし同情でもしているなら────やめて欲しいな。
「安い同情ほど────辛いものはないよ。
「……………………。
「さて。
「これで僕の話はおしまい。
「じゃあ次は。
「透の番だよ。
「透は────どんな話をしてくれるのかな。
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「1つ提案がある。シャルロット・デュノア。俺と四六時中一緒にいることにしよう」