006
「待ってください!納得いきません!」
そう言ったのはさっきの金髪縦ロール。なにやら気に入らない感じのようだが、まぁ「男が私を差し置いて代表になるなど我慢できませんわ!」とかそんなだろう。
「男が私を差し置いて代表になるなど我慢できませんわ!」
ほんとに言ったよこの縦ロール。
その後もやれ日本は後進的な国でこんなところで勉強するなど我慢ならないとか、やれ日本人は極東の猿とか、男はみんな無知で馬鹿とか言いたい放題言い、クラスの空気も大分悪くなったところで我らが織斑一夏が
「イギリスだって飯マズランキング何年連続1位だよ」と言い放ち、
「貴方私の祖国を冒涜しますの!」と縦ロール。
「先に馬鹿にしたのはそっちだろ!」と織斑。
子供の喧嘩だよなぁ…………と見守っているといきなり俺に話を振られた。
「さっきから黙って見ている貴方はどうなんですか!」
「え?俺?いや俺は…………」
「透も何か言ってやれよ!」
「そう言われても、特に何か言いたいことは…………」
本当に言いたいことはない。しいて言うならさっさとこの言い争いを終わらせてくれ。
「なんでだよ!俺達男も散々馬鹿にしたんたぜ!?」
「あ、うん。そこだな」
「…………え?」
「いやさ、言われたから言い返す、やられたらやり返すってどこの小学生?『俺もいじめられたからいじめていいよね』って話?────バカらしい。同害報復の概念は捨てちゃいかんがそれを振りかざしていい気になるのはただのガキだっての。そんなんだからいつまでたっても大人になれないんだよ。馬鹿にされたから?被害者ぶるなよ、反論して相手を馬鹿にした時点でお前も加害者だ」
「うっ…………」
「んで縦ロール。お前自分の立場分かってる?代表候補生なら言葉に責任を持てよ。言霊って日本の概念知ってるか?言葉には魂が宿り、言葉は生半可な武器より容易く人を殺す。よく考えてから発言しろよ。あと日本の男が無知なんじゃない。織斑が参考書を捨てるアホなだけだ」
「おいっ!?」
「なんだよ、事実だろ」
「いや事実だけどな!?」
いやいや柄でもなく説教してしまった。まぁ最後のアホの件は空気を和ますささやかな努力です。
しかしそんな努力は実を結ばなかったようで縦ロールはブルブルと体を震わせてキッ!とこちらを見据え、こう宣言した。
「決闘ですわ!言葉で分からないなら実力でわからせて差し上げますわ!」
「おぉいいぜ!その代わりこっちが勝ったらちゃんと謝ってもらうからな!」
「そんなことは万に一つもありえませんが…………いいでしょう。しかし私が勝ったら召し使い、いえ奴隷にして差し上げます!」
「はっ!望むところだ!それで?ハンデはどのくらいつける?」
「なんですの?早速慈悲をこうのですか?」
「いや、俺がどれくらいハンデをつければいいのかと思ってな」
瞬間クラスが笑いに包まれた。織斑はどうして笑われているのか分からずうろうろしている。
「いや織斑くん、男が女より強かったのなんて何年も前の話だよ」
「しかも初心者が代表候補生に挑むんだよ?」
「織斑君がハンデつけてもらったほうがよくない?」
クラスの女子がクスクス笑いながら織斑にそう言う。ちなみに俺は女子が正しいと思う。織斑先生と戦ってISの凄まじさはわかったからな。まぁ生身ならここにいる生徒全員拘束できる自信はあるが。
結局織斑はハンデをつけることを断り、クラス代表決定戦は一週間後に行われることが決まったのだった。
そして放課後。
あの後は篠ノ之が姉のことで一悶着あったがそれ以外目立ったことはなく、一日目の授業は終わった。昼飯時に織斑に一緒に食べないかと誘われたが、篠ノ之が怖い顔して隣にいたので丁重に断り一人で食べた。その時上級生とISの指導やらで話していたがどうやら篠ノ之が指導することで決まったらしい。開発者の妹だし色々知っとるのかなーとは思ったがそれ以上気になることもなかったので昼食は早めに切り上げ午後の予習。それでもさっぱり分からなかった。これは縦ロールに言ったことを自信もって言えなくなってきたかな…………
そうして俺は現在、宛がわれた部屋の前にいる。とは言ってもあの織斑千冬との模擬戦以来ここに住んでいるので初めての部屋にドキドキ!!というわけではない。
そう、この部屋には余接がいるのだ。普段ぬいぐるみのふりをしていて喋れない余接が。
つまりギャグパート突入である。めくるめくギャグパート。シリアス?あぁ牛乳いれて食べる奴ねとか言いたくなるほどのギャグパートである。
さぁ!学園生活で溜まったストレスを発散するぞ!今夜は語り尽くすぜ!
ガチャッ
「あ、おかえりなさ~い。ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も~わた」
パタン。
「疲れてるのかな…………」
目元を軽く揉む。裸エプロンの痴女なんて幻覚見るくらい疲れてるとは思えないんだが…………
軽く深呼吸をして再びノブに手を掛ける。
一気に引き開けるとそこには────
「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も~わ・た・し?」
「………………やっぱり痴女だぁー!!」
「誰が痴女よ!!」
痴女に部屋に引きずり込まれる。ヤバい犯される!
「ていうか落ち着きなさい!ほら私私!」
「やめろっ!こんなかたちで初めては────って、もしかして、楯無か?」
「もしかしなくても楯無よ」
そう呆れたように言う青髪の少女。
更識楯無。
日本の対暗部暗部である政府お抱えの暗部、更識家現当主。高校三年生にしてロシアの国家代表を務める稀代の天才。そして────俺の知り合いの専門家である。
更識家は暗部に対抗するために作られた暗部。暗部とは世間の裏側で暗躍する者たちであり、世界の舞台裏に位置する怪異と関わるのは必然ともいえる。関わるのなら対抗手段を持つのは普通だろう。
何度か楯無とは一緒に仕事をこなしたことがあるが、そこら辺の専門家とは比べ物にならないくらいの実力を持つ。
半端ではない身体能力と知識を持ち、怪異特化の俺がこいつと戦ったら30秒もたたず決着がつくんじゃないだろうか。
「んで?そんなお前がなんでこんなところにいんの?」
「なんでって…………あなたが私に全然挨拶しに来ないから私の方からきてあげたのよ?」
いや挨拶って。ヤクザみたいに元締めってわけでもないだろあんた。
「まぁ元締めじゃないけどこの学園の生徒会長をしているわ」
「マジで!?」
おおう生徒会長か…………まぁ納得はできる。当主としてまとめ役の能力は磨かれているだろうしカリスマだってちゃんとある。心配なのは部下が振り回されていないことだろうか。
「まぁ挨拶させるって目的はあったけど…………でも透君、この部屋…………なんか、怪異の気配がするんだけど」
怪異に深く関わった者は怪異の気配に────存在にかなり鋭くなる。違和感というか悪寒というか形容のしようがないが、ともかく第六感のようなものが働くのだ。
この場合は恐らく余接のことだろう。
「ん、それはな────余接、出てきていいぞ」
「全く、存在を忘れられたかと思ったよ、お兄ちゃん」
唐突にベットの下から童女が出てきた。端からみるとこれかなりのホラーだよな。あと勝手に俺のゲーム機を使うな。
「………………透君」
「ん?あぁ楯無、こいつはだな────ってなんでそんな冷たい目線でこっちを見てるんですか?」
冷たいというか哀れみと軽蔑と失望が混じったような視線が────
「…………ついに、欲望が抑えきれずに可愛い女の子を誘拐してしまったわけ?」
「とんでもなく誤解だ!あとついにってなんだよ!?前々から誘拐するかもとか思ってたのかよ!」
あいつはいつかやると思ってましたって奴か!?
「冗談よ、久し振りね余接ちゃん」
「うん、久し振りだね、楯無お姉ちゃん」
んん?二人は知り合いなのか?えらく親しげだけど
「えぇまぁね。一度影縫さんと仕事をしたことがあって…………ね」
「あぁ………………」
やけに哀愁漂うその顔から察してしまった。
あの人の退治方法見ちゃったんだな…………『やりすぎることがないから不死身を専門にした』と豪語するあの人は情け容赦なしに、無慈悲に、止めることなく拳を振るい、原形がなくなるまで殴り続けるスタイルだし。
俺が楯無とやり合うとき30秒でやられるなら影縫さんとやれば5秒もかからず地面と一体化する。もしかしたら5秒なんてかからず殴られたことも知覚する前に死ぬんじゃないだろうか。
「あのときの楯無お姉ちゃんの顔は傑作だったね。もう顔を真っ青にして」
「ちなみになんの怪異を殺ったときだ?」
「喰らい鬼。完全に侵食されきってて人間の名残は形だけだったよ」
「人型の怪異をぐちゃぐちゃにしたのか…………」
ちなみに喰らい鬼とはまず宿主の精神を喰らい、次にその人の最愛の人を喰らい、最後に宿主自身を喰らうかなり凶悪な怪異である。
平安時代のマイナー怪異で恋人に振られた女が無理矢理添い遂げるため、鬼の力を手に男に襲いかかり、無理心中を果たす。『歪んだ愛』を表す怪異譚だ。けれどこの怪異の不死性は完全ではなく、自害か最愛の人に殺されればちゃんと殺すことが出来る。過ぎた『愛』は自分達以外止めれないってことだろうな。
だがまぁ同じ『鬼』でも吸血鬼とは比べるまでもない程度だが。
「あのときは本当に酷かったわ…………まだ人が死ぬことに慣れきってなくて…………ん、もうこんな時間ね。それじゃあ透君、今日はこれで失礼するわ」
「ん、じゃあまたな」
そう言って出ていこうとしたが、何かを思い出したかのように
「そういえば」
と言った。
「そういえば透君ってあのセシリア・オルコットと戦うんだっけ?」
「まぁな。しかし情報が速いな」
そりゃあ生徒会長だし。と答えになってないような答えを返され、なんだそりゃと苦笑する。
「でもISについて殆ど何も知らないでしょ?私が色々教えてあげよっか」
「む」
それは中々ありがたい。楯無は三年間ここにいるしISな知識も豊富だろう。それに実戦経験があるのもポイントが高い。
「それじゃあお願いするかな」
「うん、お願いされた」
そう微笑み、楯無は本当に出ていった。
「しかしお兄ちゃん、僕って空気になることが多いよね」
「お前ずっとゲームやってたしいいだろ」
「まぁそうだけど。あ、お兄ちゃんのセーブデータ消しちゃったけどいいよね」
「良くねぇよ全然良くねぇよ!!なにやっちゃんてんのお前!?」
めくるめくギャグパートとか言ってたがそんなことは関係ねぇ!これから先はバトルパートだ!覚悟しろよお前!
「しかし意外だね。お兄ちゃんは年上系お姉さんが好みなんだ」
「ギャルゲーのデータの怨みぃ!!」
そう言って。俺と余接は今日も楽しくじゃれあうのだった。
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