次回は閑話の予定なので、アンケートの結果を閑話として書かせて頂きます。アンケートはまだやってるので、詳しくは活動報告をどうぞ。
012
第一アリーナ。
俺が織斑千冬にいたぶられ、セシリア・オルコットと戦った場所を決戦の場として選んだ。
別にそこが因縁深いとか戦うならこことかそういうわけではなく、一定の広さがある場所がここくらいしか思い付かなかっただけだ。地の利を得たいとも思ったがそこはここに来てからまだ一週間とちょいの新入生。地の利を得れるほど慣れてはいないし、それは篠ノ之のほうも同じだった。
そのアリーナの中央に立っているのは一人の少年。
いつも笑顔を振り撒いてるような爽やか系イケメンの彼は今、かなり険しい顔をしている。
幼馴染みの少女が怪異にとり憑かれ、化け物となっている。なら俺が助けてやらないと────とか思っているのだろうか。十中八九そうだろう。顔だけでなく、性格までイケメンな彼は彼女を自分の手で救ってやりたいと願う。
そんな考えは、まるで見当違いだというのに。
「よぉ、楯無。待ちくたびれたぜ。待ちくたびれすぎて危うく寝ちゃうところだった」
「こんな状況で寝れるのは馬鹿かアホかあなたくらいのものよ。忍野さんは口癖みたいに言ってるけど、いざとなったらお人好しのあの人は絶対寝ないでしょ」
「さらりと俺が馬鹿とかアホとかと同列に語られてることと、お前が忍野に尊敬を抱いていることはどうでもいいんだけどさ。結局お前は何をしに来たわけだよ?まさか手を引けとか言わないよな?」
「そうじゃない。私も手伝う。惑い狐はあなた一人でなんとかなる相手じゃないわ」
「はっ、それこそ『まさか』だ。惑い狐が狙う男の周りに女がいることが不味いことぐらい、お前も知ってるだろ」
これが織斑に教えた『嘘』。惑い狐は周りにいる男に襲いかかるなどと言ったが、そんなわけがない。
怪異は無差別殺人などしない。
怪異が人を殺すなら────それ相応の理由がある。
惑い狐は憎愛の象徴だ。
好きの反対は無関心。愛の反対は────憎しみ。
自分だけを愛して欲しいと願い、それが叶わず、男を憎み、それでも愛し、一緒になりたいと────一つになりたいと、最愛の男を喰らう。
己の中で、混じりあい────混じり愛。
憎み、妬み、恨み、怨み、そして愛し────惑わせる。
「そういう点では喰らい鬼と同系統だよな。つっても喰らい鬼は男で惑い狐は女って決まってるが。似てる性質でも女のほうが格が高いってのは昔ながらの伝統なのか、それとも今の世の中を皮肉ってるのか。まぁ前者なんだろうけど」
「話を逸らさないでくれる?透君。私も────」
「だから無理だって。尾が六本、宿主が女子高校生、怪異殺し、俺が男。これだけのハンデがあってようやく戦えるってレベルなんだからさ。ここに楯無と無理に共同戦線はってむやみに相手を刺激する必要ないんだっての」
相手を愛しすぎるあまり、その男に近づく女に惑い狐は敏感だ。それこそ、宿主の限界をぶっちぎって速攻で殺しにかかるだろう。だから童女の姿をしている余接は部屋に置いてきたし、女子生徒が入らないように──とはいっても俺達がここにいる以上他の生徒はすべて女子なのだが──簡易の結界をはっている。惑い狐は楽々突破できるレベルなので追い返すことはないし、むしろ結界を察知して来てくれるほどだろう。織斑を囮にしているしそう遠くないうちにここに来ると思う。
「でも、透君────!!」
「あーもう分かった分かった。じゃあこうしようぜ。俺が殺されたらお前が出るってことで。俺が殺されたら多分もう手がつけられない程になってるだろうし、そうなったら楯無が遠距離からのISの射撃をするか。織斑には悪いが…………うん、これが一番妥当だと────」
頬を叩かれた。それはもう見事な平手打ちだった。
勢いでよそを向いてしまった顔を楯無に向け直すと、そこには顔を怒りから真っ赤にした楯無がいた。
「…………いやいや楯無。何するんだよ」
「何するんだじゃないでしょう!私はあなたが殺されたくないから手伝うって言ってるのよ!!なのになんであなたが殺されてから動くって話になるの!?馬鹿じゃないの!?ていうかアホじゃないの!?」
「いやアホって」
「この天然たらし!!ジゴロ!!鈍感!!」
「それは意味わかんねぇな!!俺から最も縁がない言葉だよ!!」
むしろそれは織斑へ向けるべき言葉だろうが!
「あーはいはい分かったよ!んじゃあ殺されかけたら助けに入るってことでいいな!最初からいるのは相手が強化されていいことないからそれでいいな!」
「ん……む………………分かったわよ、けどいいわね?絶対に────死なないでよ」
「…………委細承知」
はてさて、んじゃま────始めますか。
013
ふらり、と少女の影がアリーナへの入り口に現れた。
その少女には耳が一対、そして尻尾が
「正気に戻ってくれ!!怪異なんかに囚われちゃだめだ!!目を覚ませ!!」
織斑が必死に説得しようとするが、少女は反応しない。いや、ふらり、ふらりと織斑に近づいていく。
「箒っ!!」
ビクン、とその少女の歩みが止まった。ゆっくりと頭を持ち上げ────
「い、ち…………か…………??」
「ほ、ほうき──」
「イ、チカァァァァァァ!!!!!!」
────織斑に向かって、襲いかかった。
その脚力は女子高校生に出せるものではなく、目にも止まらないスピードで自らの最愛の男に、想いを伝えにいく。
その凶刃が届くまで、あと数メートル。次の瞬間には、その手が織斑に襲いかかるだろう。
────だが、その手がとどくことはない。
「はっはー、世話が焼けるぜ全く。なんで俺が同級生の恋路を邪魔せにゃならんのだよ。惚れた腫れたの話は他所でやってくれ」
背後から、黒い影が接近する。
抜き放たれた神速の刃は、少女の心臓を正確に切り裂く軌道を辿る。
怪異を殺し尽くす刃は、───────────いとも容易く、避けられた。
「ま」
じか、という三文字の言葉すら、発することを許されず、足蹴にされ、ごろごろと吹き飛ばされる。
いやいや、宿主が女子高校生だからそれなりに身体能力は低いだろう、と予想してかかっていったのに────あの脚力といい、怪異殺しを避けた反射神経と状況判断能力といい、こんな女子高校生がいて堪るか──────あ。
篠ノ之箒。篠ノ之神社の神主を務める篠ノ之一族の一人娘。希代の天災、篠ノ之束の妹にして織斑一夏の幼馴染み。
そして、全国優勝をする程の、剣道有段者──────!!
全く、詰めが甘い。甘過ぎる。こんなことを見逃していたなんて、アホ過ぎるだろう。これは楯無に散々言われても反論できねぇな…………
あぁそういえば。人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んでしまえ、と言うがこの場合は狐だなぁ。はっ、皮肉がきいてる────と、追撃を辛うじて防いだ刀越しの衝撃で宙に浮かびながら、的外れなことを考える。
戦闘の邪魔になるからとアリーナの隅っこに避難するよう言っておいた織斑の驚愕の表情が視界の端に見え、カタパルトの上で待機している楯無は、今にも飛び出してきそうだ。
まぁそう心配すんなって。詰めは甘いが、まだ詰んだわけじゃないんだから────
「────限定展開」
黒武者の脚部のみを展開し、
だがそれも避けられ、刃は地面に食い込む。けれど、篠ノ之の表情に一瞬浮かんだ驚愕はまだ篠ノ之に人間としての理性が残っている証拠なのだろうか。
黒武者に搭載された第三世代兵装『空力』。
脚部に搭載されていて、足場の空気を極限まで圧縮。
地面に足をつけて戦う戦い方に慣れた俺としてはかなり嬉しい兵装だ。なんつーか何でも知ってる臥煙さんらしい。
「んーじゃ第二ラウンドといこうか」
なんて。かっこつけたところでじり貧なのは変わりない。
というか最初の一撃を避けられた時点でかなり不味いのだ。怪異殺しは一撃必殺。それ故に一撃を確実に当てなければ何も切れないなまくらだ。
「ぐっ………………!!」
鋭い爪が生えた手を、足を、なんとか捌く。
少しミスればこっちが殺される。剣道ってのは中々馬鹿に出来ないらしい。宿主の身体が出来ていないなら惑い狐も本来の性能を発揮できなかったりするのだが、その点彼女はかなりのポテンシャルを秘めてるようで。
「がっ!?」
拳と蹴りのラッシュ。捌ききることが出来ず、何発も喰らい、身体が破壊されていくのがわかる。幸い、ブーストされていても篠ノ之は人を一撃で殺すことができる威力はもってないようだが、それでもダメージは蓄積していく。このままじゃ本格的に不味いかもなぁ…………
「なぁ、篠ノ之。俺はお前の恋を応援するぜ?いや今回の場合不味いのがお前が怪異にとり憑かれてることであってさ、篠ノ之と織斑がくっつくのを否定する気なんてないんだっての。ほら、こんな化け物に身を委ねたら後悔するぞ?織斑を殺しても何の得にはならないだろ?その束縛から逃げ出せよ。惑い狐なんてもの介して告白なんて嫌だろ、自分の言葉で伝えてこそだろ。織斑は声が聞こえてないみたいだし、今なら間に合うって」
ないポキャブラリーを駆使して、なんとか説得を試みるが…………
「邪、魔だ…………」
「…………あ?」
ぽつり、と呟く篠ノ之。大きな声ではなく、まるで呪詛を唱えるかのように。
「邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!!!!!
私と一夏の、邪魔をするなっっっっ!!!!!!」
痛烈な一撃。これまでとは比べ物にならないくらいの拳が俺の腹に抉りこまれる。
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた俺が見たのは、尾が八本に増えた篠ノ之だった。
どうやら必死の説得は逆効果だったらしい。朦朧とした意識であそこまでの言葉を捻り出せたことを誉めて欲しいぐらいなんだが。
地面に落ちる前に篠ノ之に近付かれ、首を押さえられる。
「お前に何が分かる!!お前ごときに!!何が!!」
「く…………は」
ぎりぎり、ぎりぎりと首を絞められる。
ま…………ず…………本格的にやべぇ…………い、しきが…………
「
一気に、覚醒した。
今の声は、今の声は──────!!
「さ、ゆかぁ!!」
俺の幼馴染みの少女、夜竹さゆか。何で彼女がここに────いや、分かりきってるだろう。
怪異に関わった者の、第六感。怪異に憑かれ、怪異を知った彼女なら、簡単な結界なんて突破してしまう。ここまで凶悪な気配だ、嫌でも気づく────!!
「あ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
想い人の近くにいる異性。自分以外の女に対する、異常なまでの敵意────!!
八本の尾が生えた篠ノ之は、一瞬にして入り口にいる夜竹の前に現れる。そしてそのまま、その手を振り上げ─────
パァン、と。先程も聞いた音がアリーナに響いた。
俺がさっき食らった、平手打ちの音。
手を振り抜いた夜竹と、頬を叩かれた篠ノ之。
ただの女子高校生と、化け物に憑かれた女子高校生。
その光景は、必死に止めようとした俺の、ISを展開した楯無の、手を伸ばした織斑の動きすら、まるで一時停止のボタンを押したごとく、止めた。
「あ……………う?」
「ねぇ?篠ノ之さん。あなたは一体何をしているの?あなたの恋路に沢山の人を巻き込んで────透を巻き込んで、何をしているの?」
幻覚じゃなければ夜竹の背中に黒々としたオーラが渦巻いているように見えるんだが…………うん。あれは怒っている。超怒っている。一度あいつが本気で怒ったことがあったのだが、あのときは本気で死を覚悟した。
「えーとあの、夜竹さん…………?」
「透は黙ってて。私は今篠ノ之さんと話しているの。あ、でも透にも、か、な、り、怒ってるから。あとでお話はするよ」
「サ、サー!!イエッサー!!」
ふぅ…………終わった。せめて祈ろう、命があることを。
014
「篠ノ之さんの事情は大体わかってるよ。私も怪異に憑かれたことがあってね、それから怪異について色々調べてるの。あなたの惑い狐のことも知ってる。
「ねぇ篠ノ之さん。あなたは織斑君とずっと一緒にいたいんでしょ。いつからかは私は知らないけど、篠ノ之さんは織斑君のことが好きだった。
「織斑君が女の子に囲まれていることが我慢できなかったんだよね。
「織斑君に自分だけを見てもらいたかったんだよね。
「だから、あなたは怪異に願った。
「自分だけのものにしたいと、そう願った。
「あ、願ってないとか言い訳はいらないよ。そこに怪異が現れたならその怪異は現れるに相応しい願いを────理由を得たんだから。
「カウンセラーとかはさ、ここで君の気持ちはよく分かるとか言うよね。
「何も分かってないくせに、分かったとかいうんだ。
「怪異に関わった人の気持ちは、怪異に関わった人にしか分からない。
「だからこそ────私はあなたの気持ちがよく分かる。
「私も、かつてそう願ったから。
「最も篠ノ之さんは狐で、私は蜘蛛だったけど。
「けど、その本質は同じだよ。
「自分勝手な────自分本意な、願い。
「ねぇ、篠ノ之さん。
「あなたは織斑君が好きなんでしょ?
「なら、自分の言葉で伝えなよ。
「まだ勇気はでないのかもしれない。
「振られたらどうしようっていう恐怖もあるかもしれない。
「けど、自分で伝えられなかったら、きっと後悔する。
「そうして────私は後悔した。
「ねぇ、篠ノ之さん。
「私も好きな人がいるんだよね。
「というかそこにボロボロになってぶっ倒れている人なんだけど。
「私もあの鈍感には手を焼いていてさ。
「どう、篠ノ之さん。
「私達で────あの馬鹿どもを私達に惚れさせてみない?」
015
後日談というか、蛇足というか、今回のオチのようなもの。
結局、夜竹の説得で惑い狐は祓われた。
彼女の言葉が篠ノ之に届いたのは、彼女自身も強くそう思っていたからかもしれないし、そうでないかもしれない。
篠ノ之自身がこれではいけないと────間違っていると思っていたからかもしれないし、そうでないかもしれない。
まぁそういう平和的解決がされたのなら、それは俺としても喜ばしいことであることに、変わりはない。
翌日、俺は授業を休んだ。
まぁ当然と言っちゃ当然だ。壮絶なバトルをくぐり抜け、全身傷だらけ。あまりに酷い傷は霊験あらたかな包帯で治したとはいえ、それでも全身に打撲だったり切り傷だったりは残っている。
様子を見に来た織斑先生には『階段から転げ落ちた』と言っておいた。怪しんでいたようだが立ち上がることもしんどいので仕方ない。
「篠ノ之さんは」
授業後、部屋に来た夜竹は林檎を切りながらそう切り出した。
「篠ノ之さんはちゃんと覚えているみたいだね、怪異のこと。私に謝って、透にもちゃんとこの後謝りに来るらしいよ」
織斑一夏との関係は目下今の関係を続けていくらしい。あの会話を聞かれていたのか不安だったらしいが、織斑はハーレム系主人公スキル「難聴」を発揮してどうやら聞かれてなかったようだ。
とはいっても気を遣っているようで、いつも以上に織斑が優しく、篠ノ之は更に深みに嵌まったらしい、と呆れるような口調で夜竹は言った。その視線がどこか俺も同じようなものだぞ、と言っているようだったのが意味が分からなかったが…………
楯無は楯無でアリーナの破壊された部分の修復をしてくれた。面倒くさい手続きなどがあったようでお礼が欲しいなーとこれ見よがしに呟いていたので何かしなければ。
結局今回は俺が何か解決した、というわけでは絶対にない。今回の立役者は間違いなく夜竹だろう。あの幼馴染みが怪異の知識を蓄えていたことは驚きだし、俺の彼女を引きずりこむようなことはしないという信念をバッキバキに折ってくれたわけだが、それも『置いていかないで』という約束に起因するものだろう────けれど彼女は専門家ではない。なまじ片足を突っ込んでいるだけに様々な危険がある。そういうことになるなら、今度こそ俺が本気で彼女を助けないと。
「ところで透」
「ん?どうした夜竹?その剥きかけのうさぎさんはかなり巧いと────いや夜竹さん、なんで林檎をおいてナイフを構え直しているのかな?」
「ねぇ、透。昨日のことについて────お話、しよっか」
今の世の中はISの影響で女尊男卑の思想が蔓延り、酷く歪んだものとなっている。
けれど女が男より様々な点で優れていることは昔からわかっていることで。
女尊男卑の思想がなくても────女は、強い生き物だ。
と、ひきつった笑みを浮かべながら、ふとそう思った。
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