SAOの白い死神   作:gcc -o

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前編

 

 SAOの中で最も恐ろしいプレイヤーは誰かと問うと、ある者はPoHと答え、またある者はユキと答えた。

 中層をメインに恐怖に陥れ、数多くのプレイヤーを殺した殺人ギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』のリーダーであるPoH。

 対してユキは、元(・)攻略組のプレイヤーの、更にトップレベルという高い実力で、中層から下層は勿論、最前線の攻略組さえも殺して回った。まさに死神と言っても過言ではない存在。事実、その異常なまでの殺人行為と外見から、『白い死神』という異名で恐れられていた。

 これは、心が壊れてしまった少女のお話。

 これは、少女が妹のために殺人を犯したお話。

 これは、一人の道化のお話。

 

 

 

 雪の散りばめられた白い着物を着こなし、絹のような艶のある黒髪の持ち主『ユキ』は、攻略組のギルドの一つである風林火山に、妹『ハル』とともに所属していた。ユキは、風林火山のマスコット兼雑用係兼おかんである妹のことを心から愛していた。両親は既に他界していたことも、その想いに拍車をかける要因であったのだろう。

 ある日のこと、妹にギルドホームのことを任せたユキたちは、攻略のついでに立ち寄った森で、ある食材を手にしていた。このSAOがクリアするまでに、一度食べられるか食べられないかと言われているほどの食材であるS級食材に分類されるものだった。

 皆で驚かしてやろう、と話しながらホームへ帰宅したユキ達は、ある異変に気がついた。いつもはある「おかえり」という声が聞こえてこなかったのである。

 きっと寝ているのだろうとクライン達は言うが、ユキには何故かそうは思えないでいた。別に大した根拠があったわけでもなく、勿論のことながら証拠もない。ただあるのは、両親を亡くす前に感じたのと同じ、悪寒だけ。

 

「そういやよ、朝ここ出る前にハルちゃん、街に出かけるって言ってなかったか?」

 

 今にも震えだしそうなユキを見た、ギルドマスターであるクラインは、今朝方ハルの言っていたことをユキに教える。だが、その言葉はユキにとって、ますます不安を煽るだけに過ぎなかった。

 そんなに心配なら追跡すればいい。メンバーの一人であるシバタがそう言うと、ユキは反射的に索敵スキルの派生機能である、追跡を行う。この追跡は選んだ対象の足跡を見ることの出来るもので、これを辿れば目的の人物にたどり着ける可能性があるというものだ。

 今日に限って少し早く帰宅したことが幸いしたのか、追跡により現れた足跡はクラインの言っていたようにホームの外へと伸びているのを確認できた。それを確認したユキは、クラインの静止する声も聞かず、一目散に見えている足跡をたどり始める。

 お願い、何も起こらないでと祈るユキ。だがその祈りは届かなかったらしい。足跡は裏路地まで伸びていて、そこで争った形跡が見られたのだ。

 幸いというべきか、そこで足跡が途切れてはいなかったのだが、それ以上の不幸として、足跡は圏外にまで伸びていたのだ。ユキはますます急いだ。

 圏外を捜索しだしてまもなくすると、一人の女性の叫び声が聞こえてきた。このSAOにログインするより以前から、ずっと聞いてきた声、ハルの声。

 ユキは顔を青くし、息を切らせながらユキのことを追いかけてきたクラインもハルの声が聞こえたらしく、ユキとともに再び走りだした。

 そして直ぐにハルを探しだすことができたのだが、見つけるのがあまりにも遅すぎたらしい。ハルは、ユキの目の前でそのアバターをポリゴン片として散っていた。ハルは死んだのだ。

 ハルが居た周りには、4人のガラの悪い男性プレイヤーがおり、全員が全員、その粗末なモノを晒していたことから、ユキもクラインもここで何が行われていたのかを知ってしまった。

 

「嘘、嘘でしょ?嘘だよね……」

 

 ユキは状況を理解しても、納得することは出来なかった。ハルの死、それも穢されたうえでの死。

 まだ若かったハルは、いや、普通の女性であれば、見ず知らずの男どもに犯されるなど、とても耐え切れるものではないだろう。ユキと同じでクラインのことを好いていたハル。想い人がいたこともあり、その苦痛は想像を絶するものだったのだろう。

 どうやってハルをここへ連れてきたのかは分からないが、ハルが犯され、そして殺されたことを理解したユキは、未だに二人に気づいていない、下衆どもにそっと近づき、そして首を刎ねた。

 どうやら男たちは最前線の、それもトッププレイヤーであるユキよりずっと弱かったらしく、ユキの一撃でその生命を散らした。

 そうして初めて気づいた他の男達だが、いかんせんもう遅い。一度動き出したユキはもう止まらず、直ぐ近くの男の首を、一人目と同様に刎ね飛ばす。

 残った二人は悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、スペック差が違いすぎて、ユキから逃げるはずがない。

 呆気無く三人目を殺し、四人目を殺そうとしたところで、漸く動き始めたクラインに止められた。

 

「……どいて」

 

 これ幸いと、ユキが動けない隙をついて最後の男が逃亡を図る。しかし、対人戦最強と言われているユキを止めておくことはクライント言えども難しく、簡単に抜き去ると最後の男の首を、三人と同じように刎ね飛ばした。

 その最後の一人だけはカーソルが緑であったことにより、ユキのカーソルはオレンジへと変えてしまう。

 妹を殺した相手の仇を討ったユキは、その場に泣き崩れてしまった。だがその直後、ユキは嗤い始めた。これにはそばにいたクラインも驚愕した。

 それはそうだろう、最愛の妹が死んで、笑う人間がいるなんて信じられない、信じたくもないのだから。

 

「っ!?」

 

 そしてまた次の瞬間、クラインはますます頭を混乱させることが起こった。ユキがクラインに刀を向けたのである。

 先程ユキを止める際に抜いた刀を、再び鞘に戻さなかったのは不幸中の幸いというべきだろう。咄嗟に鍔迫り合いに持ち込んだおかげで、なんとか拮抗を保っているが、それも時間の問題だろう。実を言うと、STRはクラインよりユキの方が上なのだ。

 

「大丈夫だから……」

 

 わけがわからなかった。妹が無残に殺され、自分も人を殺し、仲間に牙を向けて何が大丈夫なのだろうか。クラインは混乱のあまり思考が追いつかないでいる。

 

「ハルは、私が、守るから……お姉ちゃんが、守るから……」

 

 まるでうわ言のように紡がれるその言葉を聞いたクラインは、ユキの奇行の理由を理解してしまった。ユキの心は壊れてしまった。死んでしまったのだと。

 事実、かつて愛していたクラインでさえ、今のユキの目には、先程殺したあいつらと同じ、敵として映っていた。

 このままでは殺されてしまう。ならば殺すしかないのか。

 クラインは思案するが、良い解決方法が見当たらない。だからといってこのままの状況を維持するわけにも行かない。

 一度鍔迫り合いの状況を崩し、後ろへ距離を取るクラインだが、ユキはそれを許さなかった。

 追いすがるように、クラインが取ろうとする距離を埋めていく。VITが極端に低い分、STR、AGI、DEXが総じて高いユキ。この状況を抜けだすのは、クラインにはもはや不可能であった。

 だが時の運はクラインに味方したらしい。偶然通りかかった全身黒ずくめのプレイヤー、『黒の剣士』の異名で知られる、キリトが、なんの因果かクラインの前に現れたのだ。

 デュエルではなく、明らかに殺しにかかっているユキを見たキリトは、クラインの方へと加勢する。ビーターとも言われ恐れられているキリト。事実、彼もまた攻略組の中でも、トップクラスのプレイヤーであった。

 そんなキリトが加勢したことにより、状況は一変した。今まで圧していたはずのユキが、今度は逆に押され始めたのである。

 キリトがユキの攻撃を凌ぎ、クラインがその隙にユキを捕縛しようとする。

 もはやまともな思考の出来無いユキであったが、本能が体を動かしたのか、二人の攻撃を掻い潜り、かろうじて見つけた隙をついて、逃亡した。

 

「ユキちゃん……」

 

 今度はクラインが崩れ落ちる番だった。自分の不甲斐なさに、無力さに。

 何があったのかついてこれていないキリトは、クラインに説明を求め、そして絶句した。

 

「ちくしょう、ちくしょう……」

 

 クラインは涙をこぼし、地面に拳を叩きつける。自分の仲間を、家族を、大事な娘達を守ることが出来なかった。自責の念が彼を押しつぶそうとする。

 そんなクラインの様子を見ていたキリトは、声をかけることが出来なかった。クラインが流していたのはただの涙ではなく、血涙だったからだ。 

 本来このSAOでは感情をオーバーに表現するという性質があり、今もまたオーバーに表現されているのだろうが、その結果がこの血涙である以上、本当に、心から憤っているのがわかったからだ。

 しかしいつまでも放っておくわけにもいかない。キリトは一度圏内へ戻ると、風林火山のメンバーに今回のことを伝え、面識のあるギルドマスターには、今回のことを言葉を濁して伝え、警戒するよう注意を呼びかけた。

 

 

 

 そして次の日、攻略組の人間が4名、中層の人間が15名が、ユキによって殺されたという報せが、アインクラッド内を駆け巡った。

 

 




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